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宮司斉藤

 恒例となっている狛さんの見回り。朝食後に出かけていつも昼過ぎまで帰ってこない。どのくらい歩いているのだろうといつも疑問だったので、今日は一緒にお供させてもらうことにした。

 

 森を抜け道路沿いに進み市街地へと出る。最初の内は良かった。いつもと違う風景を満喫できたからだ。速足で進み続ける狛さん、犬守(いぬもり)神社からはどんどん遠ざかっていく。本当にどこまで歩くのだろうという疑問は次第に、まだ歩くのかという問いかけに変わり、最終的には、もう帰らせてくれという切望へと変わった。


 8時に始まったこの見回り、現時刻は午後の2時。もう6時間も歩きっぱなしである。神見習いなので腹を減らすことはないが、歩けば相応に足腰が痛くなるのは人間と同じようで、いたる所が悲鳴をあげている。普段茶々丸の瞬間移動や電動自転車、セグウェイにばかり乗って楽をしているが故、極度の運動不足に陥っていたのだろう。遂には頭もボーっとしてきた。


 神社に戻って来れたのは心身共に限界を迎えた頃だった。「御苦労さん」と狛さんは涼し気な顔でこちらを見る。全く疲れていない様子である。もう二度と一緒に行っても良いかなどとは言うまい。


 境内の奥の方から話し声がした。参拝者かなと思ったが、どうやら違うらしい。話し声は拝殿の中から聞こえてくる。「珍しいな、斉藤ブロックの神々が集まってんのか」と狛さんが言った。


 拝殿内の六畳間に、茶々丸を含めた5人の神々が、丸い卓袱台(ちゃぶだい)を囲うようにして座っている。その中の一人は以前駅前で会った光頭(こうず)神社のスキンヘッド神こと、山田氏だ。


 狛さんによると斉藤ブロックというのは、例の斉藤という名の神職(しんしょく)が宮司を務めている5つの神社の総称らしい。何か問題や重大な報告がある時、こうやってそれぞれの神が一堂に会し話し合いをするのだという。


「茶々丸はあの中じゃまだ若い方なんだが、人望が厚いんでこのブロックのリーダーをやってんだ。だから話し合いをする時はいつもうちの神社でやってる。ちなみに一番の若造は光頭神社の山田な、あいつは神になってからまだ10年にも満たない」


 犬守神社の神見習いとして一応挨拶くらいはしておいた方がいいだろうと考え、拝殿の中へと入る。すると5人の内の1人の神がこちらを見て、「あ、お前この間嫌がらせをしにきた奴だろ」と言った。するともう一人の神も、「うちにも来たぞ、変顔して逃げてった奴だ」と指をさしている。


 残念ながら心当たりがある。この間茶々丸にやらされた罰ゲームのことだろう。あの時行かされた3つの神社は同じブロックの神社だったということか。


「六郎よ、お前よそで何してるんだ? 恥ずかしいだろ」と茶々丸。やらせたのはお前だろう。


「まぁまぁ、今はその件は置いといて。話を進めましょう」


 山田氏が話の軌道を修正してくれて助かった。不本意な形とはいえ、どうやら挨拶は数日前に済んでいるようなので早い所退散しようかと思ったが、「お前も後ろで聞いてろ」と茶々丸に言われたので、仕方なく部屋の隅に座布団を敷き座った。


「前から酷い酷いと思っていたが、流石にもう我慢ならん」

「全く宮司としてまるでなってない」

「今までだって何回タライを落としてやろうかと思ったか」

「まぁまぁみなさん、斉藤さんだって頑張ってるんですし、もう少し猶予を与えてみても良いではないですか」


 3人の神は怒りながら同じ主張をし、それを山田氏が諫める構図だ。途中から参加したが、各々の主張を聞くうちに、事のあらましが見えてきた。どうやら3人の神々は斉藤というぐうたら宮司のだらけっぷりに業を煮やしているらしく、何か対策を打たねばならないと考えているらしい。


「やはりここは物理的介入によるペナルティしかないでしょう」


 物理的介入によるペナルティ。やや物騒な表現だが、頭の上からタライを落とす程度のものらしい。しかし仮にそれをやったところで、果たして本人の行動が改善されるのだろうか。


「最近はお祓いや祈祷すら適当になってきてるんだ。祝詞(のりと)なんて間に食べ物の名前を交ぜたりするんだぞ? キャベツとか白菜とか。相手が分からないからって遊んでるんだ」


 祝詞(のりと)というのは神職が神に祈る時に述べる言葉のことだ。間にキャベツなんて言ったら、何も分からない人でも流石におかしいぞと気付きそうな気もするが。


 その後も各神々から斉藤宮司の自堕落エピソードは続いた。相変わらず山田氏はそれを、「まぁまぁ」と諫め、茶々丸はというと腕組みをし目を瞑り、「うーん」と唸っている。俺の目からみるとただ寝ているだけのようにしか見えないが、一応話は聞いているようだ。


「茶々丸、どうする? 最終的な判断はリーダーであるお前に一任する」


 4人がジッと茶々丸の方を見る。一瞬時が止まった。茶々丸は腕組みを外し、ゆっくりと目を開け立ち上がり、「お腹減った」と答えた。時計をみると、もう午後の6時を回っていた。




 4人の神が帰り、今は3人で夕食を食べている。今日の献立は肉じゃがだ。


「んで、結局どうすんだリーダーさん」


「悩ましい所だな。確かに最近の斉藤のダラけっぷりは酷い。月に一度の境内の掃除だって、もう2ヶ月もすっぽかしてる。何かしらの対策を講じなくてはならないのは事実だが、物理介入はちょっとなぁ。先代のオヤジさんが立派な人だっただけに」


 意外にも茶々丸は穏健派らしく、直接的な介入には消極的だった。俺としては正直どちらでも良かった。斉藤という宮司をまだ一度も見たことはないし、ちょっとくらいふざけた奴の方が人間味があって良いのではとも思っているからだ。




 翌日、噂の宮司斉藤が姿を見せた。茶々丸と狛さんは不在だ。斉藤は参道前の階段に腰掛けると、タバコを一本ふかしスマホ片手にゲームを始めた。タバコを吸い終えるとスマホをポケットにしまい、大きく伸びをする。掃除でも始めるのかと思いきや、拝殿の中に入って横になってしまった。


 約1時間後、スマホのアラームと共に目覚めた斉藤はまたもやタバコをふかし、やはりゲームを始めた。こいつは一体何をしにここへ来たのだろうと呆れていると、持参したリュックサックの中から怪しげなDVDを複数枚取り出して部屋の隅に置き、そのまま神社を後にした。まさかとは思うが、ここに来た目的はこれだったのだろうか。


 斉藤が去って少ししてから茶々丸が戻ってきた。例によってセグウェイに乗っている。


「何? 斉藤の奴が来ただと? 2ヶ月ぶりか、流石のあいつもサボりすぎたと思ったんだろう、掃除でもしてったのか?」


 俺は見たままのことを茶々丸に伝えた。掃除どころかタバコを2本吸ってスマホのゲームをし、拝殿内で1時間昼寝をしたこと。そして最後に、謎のDVDを置いて帰ったことを。


「謎のDVD? 何だそれは、見せろ」


 俺はDVDのある場所を指さす。茶々丸はそこへ向かって歩き、DVDを手に取った。僅かに両肩が小刻みに揺れている。俺はそのDVDが何なのかまだ見ていない。ただ、どのような物か大方の予想はついている。恐らく卑猥な物だろう。要するにこの人気のない神社は、管理する宮司にめでたくエロDVDの隠し場所に選ばれたのである。


「ぬおおおおおおおお」


 茶々丸が雄叫びをあげた。彼が尋常でないくらいに激怒しているのは背中越しにも分かる。比喩ではなく体の周りを赤い炎がまとい、頭上に般若の顔が出現しているからだ。


「おのれ斉藤・・・・・・やはり少々懲らしめてやらねばなるまい」


 聞いたこともないような低い声で、茶々丸は言った。

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