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集団参拝

 相変わらず参拝者の少ない犬守(いぬもり)神社。あの野球少年以降今日現在までなんと一ヶ月以上も参拝者が来ていない。そんな状況なので、必然的に毎週出張に行かなければならない。この神社に来てこれまでポイントを与えた人数は7人、計30ポイント。ここまでの収支は-5となっている。


 月が替わったということで、御上(おかみ)から定期の50ポイントが配られた。俺が使えるのは先月分の残りと合わせて70ポイント。とはいえ、こうも参拝者が少ないとどうしようもない。1回の出張で使えるポイントは10と決まっているし、出張自体も週に1回しかできない。1ヶ月を4週とすると40ポイントしか消費できないのだ。


 まずはこの人里離れた神社の知名度を上げなければならない。何か手はないかと考え、森の入り口近くに看板でも設置してみてはどうかと以前茶々丸に提案したが、「そんな俗っぽい事しなくていい」と即座に却下された。


 神社は参拝客が多ければ良いってもんじゃないというのが茶々丸の持論だ。確かにその通りだとは思うが、ポイントを与えなければならない立場として現状はあまりにも酷いのではないかと思う。せめて1日に1人くらいは来てほしいものだ。


 時刻は午後2時。今日は珍しく出かけない茶々丸。「1局どうだ」と誘われたので、拝殿内で将棋を指している。神とはいえ見た目が犬なので、何となく負けたくはなかったが、流石年の功。思いの外強くあっという間に玉を取られてしまった。


「弱いなぁ六郎、山田といい勝負だぞ」


 あまりの実力差に面白味を感じなかったのか、「これならもう少し良い勝負ができるだろう」と今度はオセロを召喚した。「オセロは水戸発祥のゲームらしいぞ。負けた方は罰ゲームな」と言って石を並べ始めた。


 数分が経過し敗色濃厚となった頃、森の一本道から狛さんが慌てた様子でこちらに向かって走ってきた。


「た、大変だぞお前ら! 呑気にオセロなんてやってる場合じゃない!」


「どうしたそんなに慌てて? お前が取り乱すなんて珍しいじゃないか」


「取り乱すに決まってんだろ、団体さんだ団体さん! 団体の参拝客が来るぞ!」


 聞けば10人近い団体客が犬守神社へと続く森の一本道の入り口に入ってきたのだという。1ヶ月以上も参拝客が来なかったというのに、いきなり10人以上とは、狛さんが慌てるのも無理はない。


「確かにオセロどころではないな、一大事だ。おい六郎、これに着替えろ」


 茶々丸はスーツを召喚し着替え始めた。御丁寧に狛さんの為に四足歩行用のものまで出している。何故わざわざこんなものに着替える必要があるのだろうか。


「うちに団体客が来るなんてここ30年は無かったことなんだぞ? こんな一大イベント、いつもと同じ格好でいられるはずがないだろ」


 だからといって何でスーツなんだかと思いながらも、言われるがままに着替える。神社の境内にスーツ姿の犬2匹とおっさんが1人、異様な光景である。茶々丸と狛さんはテントを張り、中にテーブルを設置。その上にペットボトルやおにぎりを並べ始めた。


「何のおもてなしもせず帰すわけにもいかないだろ、最低限このくらいは用意しておかねば」


 そもそも俺達の姿や召喚した物は人間には見えないだろうに。参拝客の少なさに、普段あまり関心を示さない茶々丸も、やはり本音では増えてほしいと思っているのだろう、空回りしている。


「き、来たぞ」


 鳥居の方に目をやる。中学生とみられる学ラン姿の集団がこちらに向かって歩いてきた。人数は12人。確かにこれは立派な団体さんである。しかし、何故若者の集団がこんな人里離れた神社まで来たのだろうか。


「うわ、本当にあったよこんな森の中に。何て読むんだこれ? いぬまもり神社か?」


「だから言ったろここだって。関根先輩はここにお参りしてからというもの、レギュラーに選ばれるは県の選抜に選ばれるはで良いこと尽くめなんだ。噂ではこの神社には野球の神様がいるって話らしい」


「俺達にうってつけの神社ってわけだ」


 学ラン団体の会話だ。なるほど合点がいった。この連中はどうやら以前ここに来たあの野球少年の後輩なのだろう。彼のその後の飛躍を見て、自分達も御利益にあやかろうと考えたのだ。


 茶々丸の方に目をやる。スーツは脱ぎ捨てられており、先程まで出ていたテントやテーブル、ペットボトル類は消え、マッサージチェアに座って鼻をほじっている。先程までのウキウキ具合が嘘のように冷めきっている。


「フン、どーせそんなことだろうと思ったがな。よりにもよって中坊12人とは、しかもこの間の坊主の後輩だと? 話にならん。だいたい誰が野球の神様だ。おい六郎、今度は囲碁でもやるか?」


 せっかくの団体客も相手が中学生男子と分かった瞬間この変わりようである。まぁその気持ちも分からなくはないが、今のうちの台所事情を考えると選り好みしている場合でもないのではないだろうか。


「止めとけ六郎。前に茶々丸も言ってただろ? 未成年男子は危ない橋だ、ポイントなんて与えようもんならとんでもないしっぺ返しに合うぞ」


 中坊軍団は縦6列、横2列に並び順番に参拝を行っている。願いの内容は予想に反し野球関連ではなく、「彼女ができますように」等といったものが殆どだった。神様界隈でこの年代の男子が敬遠される理由がなんとなく分かる気がした。


「全くどいつもこいつも自分自分自分。1人くらい他者のことを願える奴はいないのか、嘆かわしい」


 茶太郎は耳に赤ペンを嵌め競馬新聞を広げている。そういえば今日は大きなレースがあると言っていた。嘆かわしいという点ではこの神様も負けてはいない。


 程なくして全員が参拝を終えた。各々が満足そうな顔をしている。このまま何もせず返すのは簡単だが、せっかく来た団体客。何とか今後に生かすことはできないだろうかと一考していると、頭の中に閃くものがあった。


「行け、行け、差せ、差せ!」


「こりゃダメだな、茶々丸の買った馬伸びねーよこれ」


 既にお目当てのレースは佳境らしく、テレビを観ながら茶々丸と狛さんは盛り上がっている。中坊集団のことなどもう忘れてしまっているのだろう。


 ワンクルと唱え両手の平に計12個の球を出す。危ない橋なのは分かっているが、ここは渡ってみようと思った。


「かーっ、何やってんだか。狛よ、結局7番は何着だ?」


「6着くらいじゃねーの? しかし相変わらず当たんねーなぁ・・・・・・って六郎お前何やってんだ?」


 2人が気付いた時には、既に中坊軍団にポイントを与えた後だった。


「ま、まさかあの連中にポイントをやったのか? しかも5ポイントずつ、計70ポイントだと? 何を考えとるんじゃお前は! 中坊男子はダメだとあれほど言っただろ! 人の話聞いてたのか」


 茶々丸の激怒はもっともである。ほぼマイナス確実のポイント付与、俺が逆の立場でも怒っていただろう。しかし、今回のこれは考えがあってのことだ。もちろん上手くいく保障はないが、賭けてみる価値はある。少なくとも、茶々丸達が賭けていた競馬のレースよりは。


「考え? 本当だろうな? やけくそでやってたんじゃないのか? 」


「まぁいいじゃねーか、六郎はこれでも策士かもしれねーしよ」


「あんなに将棋の弱い策士がいるか」


 中坊軍団の姿は既にない。10ポイントではなく5ポイントなので、関根という名の先輩程の幸福は得られないだろうが、それでも参拝の価値を感じる程度の幸福は得られるだろう。どのような結果が出るか楽しみである。


「それはそうと、さっきのオセロの件を忘れてないだろうな」


 オセロの件とは何だろう。四つ角全て取られたことは覚えているが


「途中で終わったとはいえ、あれはどう考えたってお前の負けだからな。約束通り罰ゲームといこうではないか。さて何が良いか・・・・・・」


 この後俺は見ず知らずの神社へ行き、そこの神々に変顔を見せて何も言わずに立ち去るという意味不明な罰を受けさせられたのだった。完全に競馬で負けた腹いせであることは、最早言うまでもないだろう。

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