2度目の結果発表
「しかし便利な乗り物だなこれは」
茶々丸は昨日召喚したばかりのセグウェイに乗って神社内を動き回っている。あれだけ気に入っていた電動自転車にはもう飽きたらしい。運動不足解消とやらはどこへいったのだろうか。
竹千代の神社でポイント付与を行ってから二週間近くが経過していた。参拝者はというと、あの野球少年を最後にパタリと止まっている。神社としては危機的状況といえるが、相変わらずここの主は呑気なものである。
「実に快適だ。うーん、もっと広い所で動かしてみたいな。六郎、ちょっと出てくるから留守番を頼んだぞ」
俺がここに来てからというもの、丸一日神社に留まっていたためしのないこの犬は、どうやら今日もお出かけらしい。留守番にはもう慣れっこだ。
掃除を終えたので、茶々丸に出してもらったペンキを使って鳥居の色を塗り直そうとしていると、小さなモーター音が聞こえてきた。珍しく早めに帰ってきたのかと思って確認すると、セグウェイはセグウェイだが上に乗っていたのは茶々丸ではなく竹千代だった。
「犬っころ二人は留守とみた。この間の結果が出たから持ってきてやったニャ」
そろそろ出る頃だろうなとは思っていた。この間とは違い、今回は比較的冷静だ。結果はだいたい予想ができている。
「それにしてもいつ来ても人里離れた神社だニャここは。最後に参拝客が来たのはいつだ?」
もう二週間以上も前だと伝えると、予想を遥かに超える返答だったらしく竹千代は目が点になっていた。30分に1人の割合で参拝客が来る神社の主からしたら、信じられないのだろう。
竹千代は肩にかけたポシェットから一枚の紙を取り出した。ポイント運用の結果が記載された用紙である。昨日の夜鶴紫がまたたび神社に持ってきたらしく、まだ竹千代も中を確認していないという。
「あまり良い予感はしニャいが発表するぞ。あの日ポイントを与えた人数は10人、5ポイントずつで計50ポイント。誰にやったかなんていちいち覚えてないだろうから、結果だけを上から読み上げる」
一応覚えてはいるが、欲しい情報は結果だけなのでそれだけで十分だった。今回に関しては、与えたポイントによってどのような幸福が訪れ、その幸福の結果どのような変化をもたらしたかはどうでも良かったのだ。
「えーっと、マイナス10、マイナス5、マイナス15、マイナス20、マイナス10、マイナス15、マイナス・・・・・・」
段々と竹千代の表情が曇っていく。気にせず使えとは言っていたが、流石にここまで酷い結果は予想していなかったらしく、段々と声のトーンも下がってきた。
「プラス10、マイナス5、マイナス10・・・・・・合計マ、マイナス85」
魂が抜けたように竹千代は白目を剥いてその場に倒れた。俺は地面に落ちた用紙を拾い上げ確認する。我ながら酷い結果である。しかし、これは予想の範囲内というか、むしろ狙い通りだった。
善い人間を見分けるのは非常に難しい。だから今回は、そうでないと思う真逆の人間にばかりポイントを与え続けた。善い人間を見分けるよりは、そうでない人間を見分ける方が若干ではあるが難易度は低いのではと思ったからだ。結果は10人中9人で無事マイナス評価を得ることができた。成果としては上々だ。
善い人間を見分けるには、悪い人間を見分ければいい。この結果は今後のチャレンジに向けて大きな自信となるに違いない。確かな手応えを感じ、右手で小さくガッツポーズをした。
「何ガッツポーズなんてしてやがる! うちの神社は参拝者の質が高くて、仲間内からはポイント荒稼ぎ神社だなんて言われてるんだぞ? にもかかわらずマイナス85だなんて信じられん。オイラだって未だかつてこんな低いポイント出したことないぞ! やはりお前にはセンスがない、チャレンジ失敗はもう既定路線だ、このマヌケ!」
怒った竹千代は乗ってきたセグウェイのことも忘れてそのまま歩いて帰ってしまった。優しくしてもらったのに、恩を仇で返すようなことになってしまったことは申し訳なく思う。後で事情を説明して謝ろうと思った。
「ダハハハハ、何だかデブ猫の奴が顔真っ赤にして歩いてたぞ、何かあったのか? 」
見回りに出ていた狛さんが戻ってきた。俺がこれまでのいきさつを説明すると、「ダーッハッハッハ、そんでマイナス覚悟で人選してポイントあげまくったってのか、お前いい根性してんな」と腹を抱えて笑い出した。
ポイントのことなど気にしなくて良いと言われたとはいえ、やはりやりすぎだったのだろうか。後でと言わず、今すぐ謝りに行った方がいいかもしれないと思った。
「いやいや、必要ねーよ。そもそもあいつが言い出したことなんだからよ。ひと肌脱ぐって言ったんだろ? そのくらいの覚悟がなけりゃ自分のとこのポイントなんて他人に任せねーって。それにあそこは貯金が多いから、マイナス85なんて屁でもねぇって」
そうはいっても謝罪は必要だろう。後でまたたび神社へ行く必要がある。そういえば今回の件、茶々丸に説明したら何というだろう。勝手に他の神とつるんでポイント運用を行ったこと、それが狙いだったとはいえ、大きなマイナス運用をしてしまったこと、どちらも雷が落ちても不思議ではない。
「あいつのあずかり知らぬことだったら、さぞ怒られただろうな。でも安心しな、今回の件を仕掛けたのは他の誰でもないあいつなんだからな」
どういうことだろう。茶々丸は全て承知の上だったということだろうか。では何故俺に何も言ってこなかったのだろう。
「初めてのポイント運用で失敗して落ち込んでるお前を見て、あいつはポイントが潤沢な竹千代ん所まで行って頼んだんだよ、力になってやってほしいってな。竹千代もそれを受け入れて今回こういうことになったってわけだ。でもまぁ最後怒ってたのはマジなやつだろうな、まさかマイナス85なんて数字を出されるとは思ってもみなかったんだろうよ」
まさかそんな事実があったとは。茶々丸なりに俺の事を心配してくれていたらしい。
「まぁそれでも最後の最後まで茶々丸に頼まれたって言わなかった竹千代は大したもんだと思うぜ。茶々丸だって俺が竹千代に頼んだなんて口が裂けても言うつもりないだろうから、この件は黙ってて良いと思うぜ。まぁ俺が野暮で全部言っちまったけどな」
弟子を思い気遣う神と、それに協力する友人、そしてその事実を野暮だと言いながらも明かす相棒。俺は周りに恵まれていると思った。
「犬の心、犬の心、犬のこっこーろー♪」
茶々丸が帰ってきたのはそれから暫く経ってからだった。相変わらずセグウェイに乗っている。そういえば、竹千代が忘れていったセグウェイがそのままになっていた。俺と竹千代の繋がりに気付かないフリをしている茶々丸としては、あまり突っ込みたくないものだったのだろう。目線の端に捉えたのか、気付いた瞬間小さな声でワンクルと唱え、転がっていたセグウェイを消した。
「留守中変わりはなかったか?」
ないと答える。今までこんなこと聞いた試しがないだろうに、そのわざとらしさに吹き出しそうになる。茶々丸はそうかと頷き、今日の夜はカレーが食べたいなと言った。仰せのままに、今日はとびっくり美味いのを作ってやろうと思った。




