またたび神社
初の結果発表から数日が経過。沈んだ気持ちも無事戻ったのでチャレンジ再開。神社にいても参拝者が来ないので茶々丸に頼んで二度目の出張活動を行っている。場所は一回目と同じ水戸駅前、ただ今回は南口ではなく北口に来ている。
茶々丸は俺を駅前に運んだ後、「じゃあ頑張れよ」と言って何処かへ行ってしまった。夕方頃には迎えに来ると言っていたが、恐らくまた孫の様子でも見に行ったのだろう。
行き交う人々を眺め続ける。相変わらず0点が多い。備考欄に、「会社の金を横領した」などととんでもない悪行が記されたサラリーマンもいる。流石にこの辺の連中は危ない橋どころか、そもそも橋すらかかっていないようなものなので、ポイントを与えてはいけないのは分かる。とはいえ、神様スコープから得る情報ばかり重視するのも良くないと思う。
人を見る目を養い、茶々丸のいう直感、こいつならば大丈夫だろうという感覚を大事にする。今日の目的はポイントを与えることではなく、とにかく多くの人を見ることだ。
昼過ぎまで北口で人々を観察。正直ポイントを与えても良いかなと思えた人は何人かいたが、今日の目的は違うので自制した。午後は少し環境を変えようと反対側の南口へと移動、人の数は若干こちらの方が多いように思う。
駅前の環境とは不釣り合いな光景が目に飛び込んできた。浜辺等にあるようなパラソルにリクライニングチェア、その下にはレジャーシートが敷いてある。いつだか見たことのある光景だ。茶々丸が戻ってきたのだろうと思い、回り込んで顔を確認する。
「ん? 何だ犬っころのところにいる見習いか。今週もまた外回りとは、弱小神社は大変だニャ」
茶々丸ではなく以前同じ場所であった猫の神様だった。名前は確か・・・・・・菊千代
「竹千代だニャ」
竹千代はサングラスをかけ麦わら帽子を被り、片手にはやはり南国のフルーツジュースを持っている。恐らくこいつは茶々丸系の神様なのだろう。弱小神社等と馬鹿にしているが、自分のところはどうなのだろう。
「うちは弱小ではない。まぁ中堅神社だニャ。参拝者が来ないからとわざわざ出張しなければならないような所とは違うのだ。ここにだって、オイラは毎週どころか毎日来てるんだぞ」
確かに今の竹千代の様子からはポイントを与える為に人々を観察しているような雰囲気は一切感じない。出張と銘打ってただ単に遊んでいるだけなのだろう、気楽なものだ。
「今日は犬っころはいないのか。お前一人で人間観察とは御苦労なことだニャ。んで、今日はここまでで何人にやったんだ?」
今日の目的はポイントを与えることではないことを説明。すると竹千代は、「そんなことで人を見る目を養おうなんて無理な話だニャ」と笑い出した。
「ただ人間を眺めるだけでいいなら誰も苦労はしないニャ。実際に行動を起こして結果を得る。結果はどうあれ、成長するにはこの一連のプロセスを踏まなければならないんだニャ」
先日行動の結果失敗し、僅かではあるが神様見習いとして成長をすることができたと思っていただけに、竹千代の言葉は身に染みた。そうはいっても、むやみやたらにポイントを与えれば良いってもんでもないのは確かだ。うちのような弱小神社であれば尚更。
「仕方ない、見習い小僧の為にひと肌脱いでやるか。うちの神社に来い。うちの神社の参拝客を見て、お前がポイントを与えるかどうかの指示を出す。そんでオイラがその指示に従ってそいつにポイントを与える。どうだ、これならノーリスクだろう」
信じられないようなありがたい提案だが、俺にそこまでする理由がどこにあるのだろう。出会って二日目、まともに会話をしたのは今回が初めてだというのに。茶々丸と同じ系統の神なので、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。
「オイラを信用できず裏があるのではと思ってしまう時点で、やはり今のお前に人間を見る目はないニャ、大人しくついて来い、すぐそこニャ」
人間ではなく猫、もとい神であろうと突っ込む間もなく、竹千代はそそくさと歩き出してしまった。
5分程度歩いたところに竹千代の神社はあった。またたび神社という名称らしく、面積は車一台分程度しかない為非常に狭い。その狭い中に、小さい鳥居と小さい賽銭箱、小さい拝殿が縦に並んでいる。駅前、しかも通り沿いにあるので、たまたま歩いていた人が手を合わせることもあるらしく、参拝者は多い。
名前の通り猫好きに人気の神社なようで、神社の敷地中には参拝客が持ち込んだとされる猫のグッズが所狭しと並べられている。短い参道以外は足の踏み場もないといった状況だ。竹千代が連日駅前に出かけている理由が分かった気がする。要は自分の神社内にいるところがないのだ。
またたび神社のポイント運用状況はすこぶる順調らしく、毎月プラス収支だという。先月御上に表彰された程だというからうちとは雲泥の差だ。ポイントには余裕があるので、今回俺の為に力を貸してやることにしたということらしい。
「まぁポイントは余りまくってるからな。いくらでも使ってもらって構わんのだが、まぁそうだな、今日は試しに50ポイントくらい使ってみたらどうだ? 」
月にうちの神社に与えられるポイントを今日一日で使って良いとは・・・・・・実際竹千代は太っているが、性格の方も太っ腹である。とはいえ、本当に甘えてしまって良いのだろうか。そもそも神見習いの俺が、現役の、それも別の神社の神に指示を出してポイントを与えるなどという行為が許されるのだろうか。
「まぁ大丈夫なんじゃニャいの」
竹千代は鼻をほじっている。どうやらそこに対してはあまり心配はしていない様子だ。茶々丸はどう思うだろう。竹千代とは古い仲らしいが、流石に怒られるのではないだろうか。
「黙っていれば問題ないニャ。そもそもうちの神社のポイントなんだから、あいつにどうこう言われる筋合いはないニャ」
熟慮の末、お言葉に甘えることにした。やはり実際にポイントを与えてみなければ、見えない景色はある。こう言っては何だが失敗したところでうちの神社に被害はない。竹千代もポイントには余裕があるから思いっきりいけと言ってくれている。
通り沿いにあるだけあって、30分に1人程度の割合で参拝者が来る。1週間に1人程度の頻度のうちとはえらい違いだ。男女比でいうと圧倒的に女性が多く、願いの内容は自身が飼っている猫の健康を願うものが多い。参拝者の質が良いなと感じた。ここのポイント運用状況がプラスで推移しているのも頷ける。
点数が高く備考欄にも特別問題がなく、願い事の内容も良い。そんな所謂安パイではなく、とりあえず最初はあえてそうでない人にポイントを与えてみることにした。
「ん、こいつでいいのか? 何だか微妙そうな奴だニャ~、やっぱりお前センスないニャ」
俺の真意など知らない竹千代は呆れながら、「ニャンクル」と唱える。手の平に青い球が出現した。何となく茶々丸や俺のワンクルに似ている。「オイラが先、あいつがパクったんだニャ」と竹千代は口をへの字に曲げている。
その後は直感だけを頼りに参拝者にポイントを与え続け、6時を回っ頃にようやく50ポイントを遣い終えた。俺も疲れたが、竹千代も疲れたようで、今はマッサージチェアに座っている。
「いやー疲れたニャ。しかし本当に50ポイント使い切るとは、お前には遠慮ってもんがニャいのか? 結果は来週くらいには届くだろうから、そしたら犬っころにバレないように犬守神社に持ってってやるニャ。早く駅に戻らないと怪しまれるぞ」
今日一日は本当に竹千代に世話になった。普通では考えられないようなありがたすぎる申し出、俺は深く頭を下げ心の底からお礼を言ってその場を辞去した。駅の北口に戻ると、例の電動自転車に乗った茶々丸が嬉しそうにペダルを漕いでいた。
「何だどこ行ってたんだ? 待ちくたびれたんで自転車で運動してたんだ。しかし本当にすごいなこの自転車は」
御機嫌麗しいようで、俺がどこへ行っていたかを追求するつもりはないらしい。何か言われたら素直に報告するつもりだったが、藪をつついて蛇を出す必要もないので、今日は黙っておくことにした。




