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結果発表

 駅前まで出張し、初めて神様ポイントを与えてから約二週間が経過した。参拝者はというと、この間の野球少年以降は誰一人来ていない。神見習いとなってから今日までで与えた総ポイント数は15、与えた人数は3人と何とも微妙な数字である。未だ結果は出ていない。茶々丸曰く、審査には時間がかかるのだという。

 

 朝食を食べたらいつも必ず出かける二人だが、今日は珍しく神社の中にいる。狛さんは寝そべってテレビを、茶々丸は通販カタログをめくっている。


 「うーん、これはなかなか良い商品だな」と唸る茶々丸。次の瞬間には、「ワンクル」と唱えて雑誌で見ていた商品を目の前に召喚し、自分で試した後良い物は残し、悪かった物は戻すという作業を繰り返している。


 唐突に部屋の真ん中に大きな段ボールが姿を現した。何を召喚したのかと開いているページを見てみると、「楽々電動自転車」とあった。瞬間移動ができるのに、こんなもの何に使うというのだろうか。


「最近運動不足だからな、やはり人間は体を動かさなければ駄目だ」


 お前は見た目犬だし中身は神だろとツッコミを入れるも、既に茶々丸は外で自転車に跨っていた。狛

さんはそれを見て、「後で俺にも乗らせてくれよ」と笑っている。茶々丸と違って四足歩行の彼では、恐らく足が届かないだろう。


「六郎、凄いぞこれ! 殆どペダルを踏んでないのにスイスイ進んでいく、科学の進歩は凄いな」


 どうやら手元に残すことが決定したらしい。U字ロックを召喚し、拝殿の外にある細い柱と一緒に自転車を固定した。こんな人気のない神社、盗む奴など何処にいるというのだろう。

 

 暫くは何もない時間が経過した。俺は拝殿前の階段に座りひたすら参拝者を待っていたが、誰も来る気配がない。あれから約二週間経つし、また茶々丸に頼んで出張にでも行こうかと考え始めた時、空から大きな鳥がこちらに向かって飛んできたのが見えた。


「おぉ、鶴紫(つるむらさき)じゃねーか、久しぶりだな」


 テレビに飽き参道付近で日向ごっこをしていたコマさんが体を起こしながら言った。鶴紫、読んで字の如くとはこのことだろう、本当に紫色の鶴なのである。通常白いはずの部分が紫で、後は普通の鶴と同じ色をしている。


「鶴紫が来たということは、結果が出たということだぞ六郎。この間与えたポイントの結果が」


 拝殿から茶々丸が出てきた。聞けばこの鶴は御上(おかみ)からの遣いであり、各地の神々に対してポイント運用の結果を伝える役目を担っていえるのだという。


「先週の結果だよぉ」と言って鶴紫は咥えていた封書を茶々丸に渡した。


「御苦労さん。ほれ、これ御土産。京都の八つ橋だ」


「おぉ、流石茶々丸、気が利くねぇ」


「気を付けて帰れよ、上の連中によろしく」


 あの封書の中に先週のポイント運用の結果が記載された紙が入っているのだろう。期待と不安が丁度半々といった感じだ。最悪の場合いきなりマイナスなんてこともありえる。


「早速開いて見よーぜ」


 興味深々の狛さん、茶々丸共々無意識の内だろうが尻尾を振っている。気楽なものである。


「うーむ、どれどれ」


 封書の中には三つ折りにされた用紙が入っていた。茶々丸はそれを取り出して広げ、狛さんと共に記載されている文章に目を通している。時間にして1分程度だろうが、待っている身としては5分にも10分にも感じた。黙って見てないで、早くこっちにも結果を教えてほしい。


「ふむ・・・では結果発表と行くか。最初にポイントを与えたあの親子。まずは子供の方だが、お前が与えたポイントのお陰であの後欲しがっていたおもちゃを買ってもらうという幸福を得たらしい。それがよほど嬉しかったのか、以降母親の言うことを守ることが増え、お手伝いもするようになったとのことだ。つまり、あの子は神様ポイントによって良い方向に進んでいるということで、10ポイントがうちの神社に与えられた。差し引き5ポイントプラスだ」


「おぉ、幸先良いじゃねーか六郎」


 心の中でガッツポーズをした。やはりあの判断は間違ってはいなかったのだ。


「続いて母親の方だが、あの母親は神様ポイントによってかねてより応募していた懸賞で一万円分の商品券が当たるという幸福を得たらしい。その商品券で財布を買い、御主人に日頃の感謝の気持ちを込めてプレゼントしたとのことだ。これまたポイント付与によって幸福が連鎖していくという良い例だな。同じく10ポイントがうちの神社に与えられ、差し引きプラス5ポイントだ」


 計10ポイントのプラス運用。結果を聞くまではどうなることかとヒヤヒヤしていたが、蓋を開けてみれば連続のプラス収支。初めてにしては上々、この分なら神への道も近いのではと思った。


「問題は次だ。ここに参拝してきたという野球少年だが、ちょいとポイントを与えすぎたな。与えれたポイントによって晴れて野球部のレギュラーになり、試合で大活躍。私立高校のスカウトが声をかけてきたとかで天狗の如く鼻が伸びてしまったらしい。以降レギュラー落ちした同学年の友人に対し見下すような言動や振る舞いが増え、今ではやや孤立気味らしい。それでも野球の方は絶好調なので、自身を顧みることなく、どんどん彼の周りからは仲間が離れていってるという」


 なんてことだろう。野球部のレギュラーになりたい、そんな願い事をわざわざこんな人里離れた神社に来てまでするあんな純朴そうな若者が、まさか願いが叶ったからといってそんなことになってしまうとは。結局のところは彼の人間性に問題があってのことなのだが、それを見抜けず身の丈に合わないポイントを与えてしまった俺にも責任はある。


「上の判断としては、まぁ初回ということなので追加のポイントマイナスは勘弁してくれるとのことだ。ただし与えた10ポイントは返ってこないので、それはマイナスになる」


 あの親子で得たプラス10ポイントが一瞬で消えてしまった。記念すべき初仕事の結果はプラスマイナス0という結果に終わった。ある意味マイナスにならずに済んで助かったのかもしれない。一瞬でも神への道も近いなどと思った自分の軽率さが嫌になった。


 時刻は午後6時。完全に日が落ち外は暗闇に満ちている。そんな中俺は拝殿前の階段に腰を下ろしボーっと鳥居を眺めていた。もちろん参拝者を待っているわけではない。柄にもなく落ち込んでいるのだ。

 

 初めから上手くいくわけがない、そんなことは分かっているつもりだったが、いざ失敗するとやはり気分は滅入る。ポイント運用が上手くいかなかったこと自体はどうでもいい、それよりも、一人の少年を不幸にしてしまったことが非常に悔やまれる。


「いつまでこんな所にいるつもりだ、仮にも人生70年生きた人間があのくらいのことでくよくよするな」


 まさか慰めにでも来たのだろうか。拝殿から出てきた茶々丸は俺の横にゆっくりと腰を下ろし語り始めた。


「野球少年を不幸にしてしまった等と考えているのならただの思い上がりもいいところだ。たかだか10ポイント程度の幸福を得たくらいで人間そうは変わらん。少年は変わったんじゃない、元々そういう人間だったってだけだ。もちろん、まだ精神的にも肉体的にも未熟な中学生、これからどうとでも改善のチャンスはあるがな」


 世界広しといえど、犬に言葉で慰められた人間は俺一人だろう。初めて茶々丸が師匠らしく見えた。


「要は現時点でそんな人間だった奴に10ポイントもあげるなということだ。どーせあれだろ、坊主頭の野球少年ってだけで選んだんだろ? 野球やってる奴にだってとんでもない人間はいるんだ、もっとよく人間性を見ろ! だいたい、中学高校大学生の、しかも男にポイントを与えるなんてのは、我々神々界隈ではポイントをドブに捨てるようなもんだって言われるくらい危ない橋なんだ。70年も生きてたんだからそのくらい分かれ!」


 そんなセオリーがあるのなら、最初の段階で教えておいてほしいものである。


「何でも人に教えてもらえば良いってもんじゃない。大事なのは自分で気付くことだからな。まぁ今回のは良い勉強になっただろう。正直、初回でプラマイ0なら良い方だ。何も落ち込む必要などない」


 茶々丸は立ち上がり、俺の左肩にポンっと手を置き、「だから早くご飯作って、お腹空いちゃったのボク」と言って拝殿の中へと戻っていった。なるほど慰めた理由はこれか。分かりやすい飴と鞭だったが、今の俺にはありがたかった。

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