旅立つもの
どれくらい離れただろうか。
気配は感じない。
逃げ切れたとみるべきか。
少なくとも、すぐには追ってこれないだろう。
出来れば今のうちにこの森を抜けてしまいたい。
だが、出口がわからないのも事実。
さてどうするべきか。
あれこれ考えつつ歩き続けていると、前の方が明るいことに気づく。
森が開けているのか、はたまた出口か。
少なくとも、月明かりが入り込む隙間はあるようだ。
そこへ行ってみると…少し開けているだけだった。
周りを見渡しても木々が乱立するばかり。
(まだ出口では無いか。思ったより広いのかもな、この森は)
また歩き出そうとした時、何となく上を見上げる。
するとどうしたことか、建物のようなものが見える。
あれは塔だろうか?
ふむ、誰かいるかもしれない。あそこへ行ってみよう。
さっき塔が見えた方向へしばらく歩くと、視界が開ける。
空は少し白み始めており、そこに何があるかがはっきりと見える。
綺麗に区切られた敷地に植物が生えている。
畑だ。
また、整備されている訳では無いが、一本道が見える。
その先に、さっき見えた塔がいくつもある。
あれはまるで城だ。
ただ、あの城には何処と無く見覚えがある。
なんだろう?思い出せそうで、思い出せない。
そのまま、記憶を辿るように城へ向かって自然と歩き出していた。
周りを見てみると、動物などの姿は見えない。
建物は同じようなものが城に向かってズラリと並んでいる。
大きくは無さそうだが、町のようだ。
まだ朝早いからなのか、人の姿は全く見えない。
気配はあるのだけどなぁ。
結局誰にも会うことのないまま城門のところまで来てしまった。
どうしようか。
門を押してみるといとも簡単に開く。
この中なら誰かいるだろうし、会いに行ってみよう。
ココがどこなのかもわからないしな。
とりあえずお邪魔しまーす。
と心の中でつぶやきつつ門をくぐる。
城の中も異常なほど、静寂に覆われている。
不寝番などがいても不思議でない、というかふつういるもんじゃないのか?
掃除も行き届いているようだし、王なりなんなりやんごとなき身分の人間がいそうなもんだが。
そうなると警備はあって然るべき。
突然襲いかかられてもいいように警戒はしつつ歩みを進め、階段を登っていく。
やがて、大きな扉の前に出る。
何となく、見覚えがある。
俺はここまで来たことがあるのか?
それとも似た場所か?
・・・思い出せない。
しばらく、そのまま頭を覆う。
考えていても仕方ないか、入ってみれば思い出すかもしれない。
扉に手をかけると何の重みもなく、開いていく。
普通に部屋に入ることができた。
部屋は大きく開けており、まっすぐに伸びた赤い絨毯の先には大きな椅子が一つ鎮座している。
玉座の間とかいうのがこんな感じだったか?
記憶にある場所とは少し違いそうだが。
椅子まで近づいてみる。
これは何の鉱石だろう?
この椅子全体が一つの鉱石でできているようだ。
座ると痛そう。
椅子を触ったり観察をしていると突然、嫌な予感がしてその場から離れる。
瞬間、魔力の塊が椅子に着弾する。
「あら、今のを避けるのね」
声のした方を見ると、黒いローブに身を包んだ人物が立っていた。
「こんなところにアンデットが入ってくるなんて」
そういいながら、再び魔力弾を放ってくる。
それを前転して避け、立ち上がる。
その目の前に魔力の塊。
バシンッ!
「!?魔力弾を弾いた!?」
「・・・何とか間に合ったか」
ギリギリ直撃する前に剣で弾けた。
しかし、どうするか。
剣を正面に構えて、黒ローブを見据える。
「その剣・・・どうしてスケルトンごときがその剣を持っているの!?」
?この剣のことを知っている?
「お前何者だ?なぜこの剣のことを知っている?」
「…ッ!」
黒ローブの人物は、声からすると女性らしい。
「もしかして、いやでも、そんなこと?」
「この剣のこと、どこまで知ってる?」
「・・・いえ、私が知っているのとは少し違う様ね」
「というと?」
「私が見たことある剣は、金色だったわ」
「金色?」
この剣はどこからどう見ても銀色だ。
剣の色が変わるなんてことは、俺の記憶にはない。
ということは、これと似た金色の剣がどこかにあるということか。
それを見つければ、何かわかるかもな。
「その剣はどこで見た。どこにある」
「それは・・・」
すこしの間をおいてから話し出す。
「その剣は、ある人間の男が持っていたわ。男は旅をしていたから今どこにいるかは・・・わからない」
「・・・そうか」
もしそれが本当ならば、どこに行くべきか見当もつかないな。
「けど、男はサイデゴ王国の出身よ。そこに行けば・・・」
「会える。もしくは足取りがつかめるかもしれない、か」
他に何も手掛かりはないし、そこへ行ってみるしかないか。
剣を収め、女に背を向け歩き出す。
「・・・行くつもりなの?」
「ああ、この剣について分かれば俺の事も分かるかもしれないしな」
「ちょっと待ってなさい」
そう言って女は奥の部屋に戻っていく。
暫くそのまま待っていると、何かを持って出てくる。
「これを着ていきなさい」
「これは?」
「身を隠すための服と仮面よ。人間たちの町に行くのにそのままで入れるわけがないでしょ?」
「それもそうか。有難う」
「別に礼を言われるようなものでもないわよ」
「けど、どうしてここまでしてくれるんだ?」
「な、何でもいいでしょ」
そういうと彼女はそっぽを向いてしまった。
「と、とにかく。それ、着てみなさいよ」
「お、おう」
半ば彼女にせかされる形で服に袖を通していく。
まずは白銀の鎧だ。
ごてごてとした装飾はなく、非常にシンプルだ。
顔以外は全身を覆うそれは、存外動きやすい。
身体に吸い付くようだ。
ガシャガシャと音もしないし、本当に鎧なのか?
だが、これなら人間に見えないこともないだろう。
次に、フード付きのマントだ。
こちらは鎧とは違い、闇に溶け込むような黒いものとなっている。
これを羽織ると、鎧のほとんどが隠れてしまうほど大きい。
フードを被れば、ほとんど骨の体は見えないだろう。
最後に残っているのは仮面だな。
真っ白の中に目のように赤い線が2本入っている。
頬のあたりからは、橙色の線が3本上に向かうようにひかれている。
つけてみると、特に視界を邪魔することもなくずれてくることもない。
まるで何もつけていないようだ。
「うん、似合うじゃない」
全てを身につけた時点で彼女がそう言う。
そう、なのか?
「着心地はどう?」
「とてもいい。今までとそう変わらないな」
「でしょ?なんたって私お手製の魔具ですからね」
「魔具?そんなものが作れるのか」
「当たり前でしょ?私を誰だと思ってるのよ」
「そういえば、名前を聞いてないな」
「・・・言ってないわね」
「フッ、バカじゃないのかw」
「な!?バカ!?私がバカですって!?」
なぜだろう、なんだか懐かしい感じがする。
思わず笑みがこぼれる。
「まぁいいわ。私のことはリディアと呼びなさい」
「ん。わかった。因みに、これらを魔具って言ったが何の効果がついてるんだ?」
「サイズ調整と認識阻害よ。これらを身に着けていればそうそう人間以外とは認識されないわ」
「認識阻害?」
「そうよ。・・・あんた自分がどういう存在かわかってる?」
「俺が・・・?ああ!そういえば俺はスケルトンだったな」
「ちょっと、その辺はしっかりしないと大変なことになるわよ」
「すまん、気を付けるよ」
「はぁ、まったく」
呆れながらも、彼女の口元には笑みが浮かんでいる。
ウッ頭がっ
思わず頭を押さえる。
「ちょっと、大丈夫?」
「あ、ああ」
頭痛はすぐに収まったが、なんだったんだろう。
考えてもしょうがないか。
そろそろ行こう。
「すまない、リディア。いろいろと世話になっってしまったな」
「いいのよ。サイデゴ王国は此処からずっと東に行ったところよ」
「そうか、有難う」
踵を返し歩き出す。
目指すは、ここから東にあるサイデゴ王国だ。
いつかここには、恩返しに帰らなくてはな。
城から出ると、もう日が完全に顔を出している。
少し先には、動くものの気配がある。
確か、あっちには畑があったな。
ということは住民が起きだしているのか。
見知らぬものがいつの間にか村にいたら、厄介なことになりかねないか。
さっさと森へ入ろう。
何とか見つからずに森へ入れたな。
東は太陽が昇ってきてた方だったな。
日が出ても薄暗い森の中を、マントで鎧を隠し、フードで仮面を隠しながら進み始める。
こんな中で白く光るものを身に着けていたら、格好の的だしな。




