第57話 悪いことが続くと、気持ちが沈む。
「陸くん手どうしたの!?」
「……ちょっと車に撥ねられてね」
「え、一大事じゃん!」
学校の廊下を歩いていると鈴に見つかり、話しかけられた。
鈴の視線の先にあるのは俺の右手。
そこには包帯が巻かれていた。
昨日車に撥ねられた後、運転手の人が学校などに連絡をしてくれて、すぐに最近行った病院へと行くことができた。
診断結果は右手小指の骨折と、右手首の捻挫。
とっさに右手をついたから、他の部分は大きな怪我がなかったけど、右手はけっこうな怪我をしてしまった。
お医者さんからは、完治するのは冬休み前ぐらいだろうと言われた。
しかも、右手は利き手だ。 食事するにも、文字を書くにも神経を使う。
左手でなにかするにしても時間はかかるし、キレイにすることができない。
まだ左手をメインにするようになってから半日ぐらいしか経っていないけど、すでにストレスを感じていた。
「陸くん。 本当に大丈夫なの……?」
鈴は心配そうに俺のことを見る。
俺は鈴に心配をかけまいと思い、笑ったけど、上手く笑えている自信はなかった。
「大丈夫大丈夫。 ちょっと体が思うように動かせないけど、しっかり睡眠やご飯も食べることができるし、問題ないよ」
嘘だ。
寝ようとすると、『なんでこんな大事な時期に怪我をしたんだ?』、『どうしてあの時、車がしっかりいなくなるまで待たなかったんだ?』とかが頭に浮かび、眠れない。
ご飯だって米粒も満足に取れないし、お腹は空いているけど、喉にはあまり通らなかった。
むしろ問題しかない。
でも、好きな人に弱っている姿を見られるのは嫌だったから、見栄を張るしかなかった。
「陸くん。 私にできることは少ないかもしれないけど、なにかあったら頼ってね?」
「うん。 そうさせてもらうよ」
俺がそう言うと、学校にチャイムが鳴り響く。
もう授業が始まる時間だ。
「あ、やば! ごめん! もう行くね!」
鈴は音楽の教科書とリコーダーを持って、大忙しで音楽室へと向かって行った。
そんな鈴とは対照的に、俺はゆっくりと教室に向かうのだった。
「どうせ、いまから走っても間に合わないだろうな」
今までの俺だったら、少しでも遅刻しないようにするために走っていただろう。
でも、今の俺はそんなことをする活力は出なかった。
「…………なんだか、砂時計の砂が少しずつ落ちるように、俺の気持ちも沈んできてるな……」
俺の呟きは誰にも聞こえない。
ふと、俺は何気なく外を見た。
空はどんどん暗くなってきていて、まるで俺の今の心情を現わしているみたいだ。
「期末テストも近づいてきているし、憂鬱だ……」
俺はそんなことをボソッっと呟いてから、こっそり教室の後ろのドアから中に入るのだった。




