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和風ファンタジー&現代恋愛

星降る夜に、願い放ちて

『仙道企画その2』参加作品です。音楽からお話を生み出すご企画。

詳しくは「あらすじ」にて。

 着信音が鳴り響く。

 バイト先からだ。今日はシフト、入ってなかったはずだけど。


 疑問に思いつつ電話を取ると、慌てた声が告げてくる。

 

「大変だ、大量に星が降ってるぞ」


 連絡に驚き、急いでベランダに出て、空を見上げた。



 うっわぁ……!!



 夜空いっぱいに、次々と星が降り注いでいる。



「今夜はまた、ずいぶんと大盤振る舞いな……」


 思わず、通話相手に確認する。


「こんなに大量に降ると、"願いの回収(・・・・・・)"、間に合わなくないか?」

「だろ? だもんで全員に号令がかかった。おまえ、B地区カバーな」

「ええっ、そんな急に?」


 座卓テーブルのカップ麺を振り返る。夕食にしようと、さっきお湯を注いだとこなのに。


「予定にないことされちゃ、困るよぉ――……」

「その文句は、神様に言ってくれ」


 雇い先のトップ相手に、バイトの身で言えるわけないだろ。


「一体、何があったわけ?」


 緊急出動の、理由くらいは知っておきたい。


「神様の(すえ)のお嬢様、地上に(とつ)いでたろ? ついにご出産だって。孫見たさに、空窓(・・)(ひら)いた」


 くっ。それでか! 赤ちゃん誕生は、めでたいけど!


「じゃあ、頼んだぞ! こっちは今から、七夕短冊班にも声かけるから!」


 "じゃないと間に合わない"。


 悲鳴気味な電話向こうの声を無視し、ぐったりと肩を落としながら、通話ボタンを切った。




 ――流れ星は、天の神様が地上をのぞいた時に、こぼれおちる光だと言われている。神様が扉を開いている時だから、願いの声が届き、叶うのだと。――




 でもね、考えてみて? どんだけ地上と天上世界が離れてると思ってんの?


 その距離を補い、願いを届けるための従事者が、いるわけですよ。


 遠い昔、神様が覗いた時、地上で嘆く人々をみて、思われたらしい。「彼らの願いを拾いたい」と。


 そんな神様のご意向に沿うため、天界は要員を雇うことにした。


 流れ星にかけられた"願い"は、()()()()()が回収して、神様に届ける。

 僕らが職務を果たせば。散らばる願いは、空まで届く。


 さらばラーメン! 戻ってきたら、食ってやるからな。

 たとえのびきって、変わり果てた姿になっていようとも。


 僕は涙を飲みながら、肉の身体を、脱ぎ捨てた。





☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆





 星が天空を横切り。人の目には見えない、微かな光が縦横無尽に空を舞う。

 いくつも。いくつも。いつ果てることなく。





☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆


☆.。.:*・゜☆




 っはぁぁ、疲れた。ホント疲れた。


 突然呼び出されて、空を()(めぐ)る事2時間。

 取りこぼすことなく、担当地区の"願い"は回収しきれた、と思う。人員出てたし、ピークは終わった。後は、今日の当番で(さば)ける。


 昨今、空を見上げる人間は減っている。

 平時はこんなことないから、会社に内緒で掛け持った秘密のバイトなのに。無茶ぶりされると、明日の仕事に(さわ)っちゃうよ。


 さっきまで(かか)わっていた、数々の願いを思い出す。

 他愛ないものから、複雑もの。微笑(ほほえ)ましいものから、深刻なものまで。

 今回は、たくさんあったなぁ。


 ふぅ。


 無数の願いに、()てられた気がする。


 僕は、無力だよな。

 神様みたいに、人の願いを叶えてあげる、力がない。


 僕の()()()()は、()()()()()()()()()()()()()()()()というけど。

 世代を重ねるうちに、その力は薄まって、僕の代ではすっかり失われてる。


 皆が(いだ)く気持ち、(あふ)れる想い、僕にはどうすることも出来ない。


 ただ、神様に届けるだけ、だ。結果を見届けることもなく。


 ふやけきって、冷めたラーメンが、激しくマズい。

 何となく(かな)しく感じるのは、ラーメンのせいだ、きっと。

 



 ――ピンポーン――




(え、玄関チャイム? こんな時間に?)


 時計を確かめるも、間違いなく深夜だ。


 続いて、鍵穴をガチャガチャと回す音が聞こえた。


(まさか?)


「こんばんは……。あ――っ、(カイ)くん、またそんなの食べてる――! 夜中にインスタントとか、良くないよ?」

「……咲希(サキ)ちゃん? えっ、今日は()れないんじゃなかった?」


 合鍵を渡してる彼女が、突然やってきたことに目を丸くしてると。


「残業で遅くなったけど。会いたくなって、来ちゃった。外から窓の明かりが見えたから、起きてるかな~~って。迷惑だった?」

「とんでもない。すごい嬉しい」


 僕の返事に、咲希ちゃんは(はじ)ける笑顔でテーブル()かいにちょこんと座る。

 か、可愛いっ。

 サプラーイズ、だ。メールも()しに。


 咀嚼(そしゃく)したラーメンを胃に送る僕の前で、手に持つ袋から次々と並べられるのは。


「深夜のコンビニ・スイーツは、太るんじゃない?」 


 ラーメンのこと、言えないよ。

 ツッコむと、軽いパンチが容赦なく顔に届く。猫パンチっぽい動きだけど、爪の出てない猫パンチなんて、痛くない。


「今日は頑張ったから、自分へのご褒美。一緒に食べよ? ね。さっき見た? すっごい数の、流れ星だったの」


 知ってる。それでひと働き、して来たからね。

 

「何か願い事した?」


 今ならまだ、神様行きの"願い便"に、咲希ちゃんの願いもぶっ込める。


「ふふっ。私の学生時代の先生がね? 流れ星に咄嗟(とっさ)に3回唱えられるほど、常に心に思ってる事なら、それは自分で叶えられるよ、って言ってた」


「すごいこと言う先生だね?」


 一理(いちり)ある。人の力では及ばない願いも、世の中には多々あるけど。咲希ちゃんの願いは?


「流れ星見た時、(カイ)くんと一緒に見たいなぁ――って思って、すぐに会いたくなったの。そして出来たら、毎日一緒にいれたらいいな、って心に浮かんだんだけど、この願いって叶うと思う?」


 ………………。それって。


「それは……。僕が叶えてあげられる願い事、かな」


 神様に頼まなくても、僕が。


 息を()めて(たず)ね返すと、咲希ちゃんは(ほが)らかに微笑(わら)った。


「むしろ、(カイ)くんじゃないと、叶えられないと思うけど?」


 いつの間にか、咲希ちゃんの息遣いが、体温が、すぐ目の前に迫っていて。小さなテーブルは邪魔者のごとく、横にずらされてた。ラーメンはこぼれず、スイーツも倒れずに。


 咲希ちゃん、器用だな……。


 横目でテーブルを見つつ、柔らかな咲希ちゃんの腕に、手を添えた。



 あ……、ラーメン味で、ごめん。



 ◇




 僕の遠いご先祖は、ランプの魔神だった。


 数多くの願い事を叶えに叶えて、ランプから解放された後、人間(ヒト)と結ばれた。

 子孫(しそん)である僕には、少し不思議な力がある。だから、天界から声がかかって、バイトまで請け負ってる。

 だけど、たくさんの人の願いを叶える力までは、持ってない。


 でも。

 大好きな人の"願い"を叶えることができるなら。

 充分だよね。


 そして、それが自分の"願い"と同じなら。

 最高だよね。



 さっきまでの心の(モヤ)が、優しく(ほど)ける。

 星降る夜は、願いが叶う、素敵な夜だ。

お読みいただき、ありがとうございました(^^)/

魔法のランプの舞台は中国なので、有りでしょう(笑)。フルタイム勤務のお勤めの傍ら、天界のバイトをしている介くんです。申告してないので、バイト代はお金じゃないんだと思います。


作品の発想元となった曲をはじめて聴いた時、夜空いっぱいの流星群が見えました。次に、軽快な曲調なので、携帯の着信音にしたいなって思い、そのふたつを組み込んで、今回のお話を作ってみました。投稿ジャンルはどこだろう?


仙道様の企画概要はコチラ ↓↓↓

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2082320/blogkey/2864230/

お星様の下に、企画概要&音源ページと作品一覧へリンクしているバナーを貼っています。

挿絵(By みてみん)


更に今年8月、『仙道企画その1』にも参加しています。

『時と砂が、夢見る先に』https://ncode.syosetu.com/n9659hc/

良かったらあわせてお楽しみください。


個人的に新作の宣伝『挨拶がわりに星押して、救われた彼の話。』https://ncode.syosetu.com/n5290hf/ もぜひ!

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仙道企画その2
― 新着の感想 ―
わあっ! 好き(´- `*) 不思議で、楽しくて、ロマンティック♡ 彼のご先祖様にも興奮しました。 そしてカップラーメン味の…… このイケメンくんなら、にんにくだろうが背脂だろうが問題なしです( ・…
[良い点] 仙道アリマサ様の企画その2から拝読させていただきました。 曲にとても合った優しい、ほっこりした作品でした。 読ませていただき、ありがとうございました。
[良い点] ☆.。.:*・゜☆ を使ってるのがいいですね! 私には思いつきません! お話もファンタジーなのに現実的で世知辛くて、なのにリア充が! くっ! ハッピーになりやがれ! [一言] 仙道さん企画…
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