ライン方面戦 04
宇宙暦1799年5月24日―
惑星バルトドルフに到着したプリャエフ艦隊は、同宙域にある隕石を利用して作られた防衛基地を開放する。
しかし、防衛基地は攻撃能力と通信能力、索敵能力、そして宇宙船を奪われてはいるが、そこに配置されていた人員は、特に拘束されている訳ではなく基地内で自由に過ごしていた。
ただし、全ての基地の入口には外から小型の爆発物が仕掛けられており、脱出できないようにしている。
そのため、プリャエフ艦隊に基地内部の様子を伝えることが出来ず、解放されるまで連絡を取ることが出来なかった。
そのため基地内の様子がわからない艦隊は、陸戦隊に慎重な基地攻略を命じたので、基地解放に時間を掛けることになってしまう。
更に解放した基地の兵士から、食料と水を奪われて丸1日食べていないので、自分達を惑星バルトドルフに移送するか、救援が来るまでの間の食料を分けて欲しいとの要望がきた。
その報告を受けたプリャエフ大将は、補給艦から食料を与えるように命じるとこの状況を訝しがる。
(どういうことだ… 行軍中で捕虜をとる余裕がないから、捕虜を置いていったというのは解るが… だが、何かがおかしい…)
彼が敵の意図を推考しているとオペレーターから報告が入った。
「艦隊天底に配置していた偵察艦の反応がロストしました!」
「なにー!? 天底方向にシールドを張れ!!」
プリャエフ大将の指示で艦の天底方向にエネルギーシールドが張られた瞬間、その天底方向から衝撃が伝わってくる。
それは、ロイク艦隊が放ったビーム砲撃がシールドに命中した衝撃であり、シールドの間に合わなかった艦、間に合ったがビームの集中攻撃でシールドを一気に消耗して、無防備になった艦が次々と爆散していく。
ロイク艦隊から撃たれたビームは光熱の槍となって、次々とプリャエフ艦隊の艦を刺し貫きその餌食としていった。
「そうか、我々の天底に回り込むための時間稼ぎか!」
基地の人員をそのままにして置いたのは、プリャエフの推察通りであるが、補給物資を消費させる目的もある。
「長居は無用だ、離脱する」
天底方向から、艦に溜まっていたENをビーム砲で撃ち尽くすとロイクは艦隊に撤退命令を下して、プリャエフ艦隊が反撃体勢を整える前に、次の惑星ベシンゲン方面に進路をとって撤退を開始した。
ロイク艦隊3000隻によるヒットエンドラン戦法は、プリャエフ艦隊に500隻程の損害を与えたが10000隻のプリャエフ艦隊からすれば、大した損失とは言えない。
だが、このまま逃せばオソロシーヤ帝国の威信に傷を付ける事になり、何よりも自分の軍人としての名誉が失墜してしまうかもしれないだろう。
敵が高速艦隊であっても、こちらも足の早い巡航艦や駆逐艦だけで追撃させれば、追いつける可能性は高く、その二艦種だけでも数の上ではこちらのほうが多くを有している。
幸いここからベシンゲンまでは、暫く広大な航路が続き追いつければ、数で上回る追撃艦隊の方が有利であった。
プリャエフ大将は、足の早い巡航艦や駆逐艦部隊を引き抜いて、5000隻の追撃部隊とすると高機動部隊を指揮するレズェエフ少将を指揮として追撃を命じる。
「レズェエフ、解っていると思うが、敵の目的は狭小な航路に部隊を誘引して、その出口で包囲するものである可能性は高い。狭小な航路まで追いつけなければ、追撃を断念しろ」
慌てて追撃を開始したレズェエフ准将に、プリャエフ大将は通信で敵の誘引策の可能性について注意を促す。
そして、レズェエフ准将は上官のその懸念を追撃1時間で、自身も感じるようになる。
何故なら、レズェエフの追撃部隊とロイク艦隊との距離が、少しずつ縮んできているからだ。
正直レズェエフ准将は、急いで準備をしたとはいえ出遅れて30万キロ程開いたため、同じく高速艦隊のロイク艦隊には追いつけないと踏んでいた。
だが、追撃を続けていると両艦隊の距離は少しずつ詰まってきて、今では25万キロまで迫っており距離は今も縮んでいる。
それはまるで“このまま追いかけてくれば、追いつける”と思わせるような現象であり、その目的は誘引であると思わせた。
「ステプキン、どう思う?」
これが罠か迷ったレズェエフ准将は、副官のステプキン大佐に意見を求めると彼はこのような進言する。
「総司令官の仰っていた誘引策の可能性はありますが、狭小な航路まではまだ1日あります。そこまでは、見通しの効く空間が続くので、周囲に警戒しながら追撃を続けてはいかがでしょうか?」
ステプキン大佐の提言どおり、この辺りは広大な空間が広がっているため、伏兵が潜んでいても警戒していれば発見できるはずである。
「貴官の言うとおりだな。周囲に警戒しながら、狭小航路手前まで追撃を続けるか」
レズェエフ准将はステプキン大佐の意見を採用して、追撃を継続することを決断をおこなう。
宇宙暦1799年5月25日―
日付をまたぎ、およそ1日近く逃げ続けているロイク艦隊の艦橋でロイクは、ゲンズブール准将から敵追撃の報告を受けていた。
「敵追撃艦隊は予定通り、24万キロ後方にて、我が艦隊を追跡してきております」
そして、報告を聞いたロイクは、真面目な顔と声でこのような指示を出す。
「ヨハンセン艦隊に通信。『カワイイペンギンの雛が、シャチに追われて大変!』と」
「閣下…。司令部を批判する気はありませんが… 総司令官が決めたこの暗号文はいかがなものでしょうか…?」
真面目な軍人であるゲンズブール准将は、ヨハンセンが考えた暗号文に疑問を持ちロイクに同意を求める。
「いいんじゃないか。万が一敵に傍受されても、”ペンギンの雛が危ない!”って、思うだろう」
だが、彼からはこのような呑気な答えが返ってくるが、当然ゲンズブールは心の中でこう思ってしまう。
(そんなことあるわけないだろう!)
そうこうしている内に、ヨハンセン艦隊より返信が返って来て、オペレーターがその暗号文を読み上げる。
「閣下、総司令部より返信。『コウテイペンギンとオウサマペンギンが既に助けに向かっている 氷山登レ ペン・ペン・ペン』だそうです」
その返信を聞いたゲンズブールは、頭がクラクラしてくる気がした。
「予定通りだな。准将、作戦予定宙域までは、あとどれくらいだ?」
「はっ、あと10万キロといったところです」
「よし、全艦に作戦の第三段階目の準備をするように伝えろ」
ロイクはゲンズブールを通じて、艦隊に戦闘準備を命じる。
ベシンゲンの戦いが始まろうとしていた。




