ライン方面戦 01
宇宙暦1799年6月21日―
マレンの戦いはガリアルムの勝利に終わり、北ロマリアでは一旦の停戦条約が結ばれたが、それはあくまで北ロマリアでのことだけであり、他の戦場では戦いは続いていた。
現に北ロマリアのエミニア=ロマーニ星系とウェネテ星系の境界部で、ロマリア艦隊とゲルマニア諸国連合艦隊は睨み合いを続けている。
――とはいえ、戦況は膠着状態となっていた。
その理由は、両軍が対峙している星系境界は航行不能中域が広がっており、航行可能宙域は大軍を展開するには狭い。
そのため、ゲルマニア諸国連合艦隊は狭い航行可能宙域を少数の艦隊で抜けねばならず、抜けた場所で包囲され大損害を被るのは子供でも解る。
それならば、別の航路から迂回進軍すれば良いとなるのだが、ゲルマニア諸国連合艦隊はその名のとおりに、連合艦隊であるため各国の艦隊にはそれぞれ指揮する司令官がいた。
そして、各国の司令官は同格と考えているので、他国の司令官の下風に立つわけにはいかず、誰か一人が全体の行動を決めて命令することが出来ないし、行っても国家の面子によって他国の司令官は従わない。
そうなると行動方針を決める会議となるが、迂回案と強行突撃案とで、議論が繰り広げられるが言うまでもなく意見が纏まらず時間だけが過ぎていた。
どの案にも問題があり、突撃案は一番の損害を受ける先鋒をどの国が担うのかとなり、迂回案は補給路が伸びる問題が出てくる。
それに、ゲルマニア諸国連合はドナウリアの強大な軍事的圧力を受けて従っているだけで、心から臣従しているわけではない。
前回の戦いで、ガリアルムが大方の予想を覆して勝利した事により、諸国連合の中には今回の戦役においても、もしかしたらという考えが芽吹いていた。
もし、今回もガリアルムが勝てば、ドナウリアに従って犠牲を払って戦っても何の意味もなく、むしろガリアルムやその同盟国との間に禍根を残してしまう。
諸国連合はガリアルム同盟軍とドナウリア同盟軍を天秤に掛けて、どちら側に付けば国の安泰を図れるかと思案しており、その事が作戦行動の決まらない一番の原因となっている。
(これは、無駄な戦いをしなくて、済むかもしれないな)
その諸国連合艦隊の消極的雰囲気は、対峙しているロマリア艦隊司令官ガルビアーティ大将も感じ取っており、このように推察していた。
一方、同じ頃ヨハンセンが任されているライン方面では、戦いが迫っていたがその経緯を説明するために時をパリス進発から、6日後の宇宙暦1799年4月28日に遡る事になる。
宇宙暦1799年4月28日―
ユーリ・ヨハンセン中将率いる艦隊5000隻とロイク・アングレーム中将率いる3000隻の艦隊は、ヨハンセンを総司令官として目的地である東の国境付近にあるバ=ラン星系惑星ストラーブール宙域に向けて、順調に航行を続けていた。
同日―
中継地点であるマトラ星系の惑星ランヌで、艦隊は補給をおこなう。
このランヌには、代々ガリアルム王の戴冠式が行われているノートルダム大聖堂が所在しており、フランが王位を継承する際の戴冠式もここで行われる予定である。
ヨハンセンは補給が済むまでの休憩時間に旗艦『パンゴワン』で、シャーリィのいれた紅茶を飲んでいた。
因みに<仏語:パンゴワン(pingouin)>とは、<ペンギン>厳密に言えば<オオウミガラス>であり、これは彼のペンギン好きが高じて名付けられており、その名の通り艦は白と黒で塗装されている。
彼は本来の<ペンギンの仏語:マンショ>と名付けるつもりであったが、フランとクレールから
「軍艦のしかも旗艦の名に、あの寸胴な姿をした可愛いペンギンの名を付けるのはダメだ」
となり、
「せめて、もう少し”シュッ”とした体型のオオウミガラスにしろ」
と、なったのであった。
ヨハンセン、シャーリィ、クリスが、恒例となった午後のお茶を楽しんでいると、そこに本国から暗号通信が送られて来て、彼はその文に目を通すと副官のクリスティナ・フローリ(クリス)大尉に指示を出す。
「大尉。至急アングレーム中将とバスティーヌ少将に、この艦に来るように連絡をしてくれ」
「わかりました」
ウィリアム・バスティーヌ(ウィル)少将は、ヨハンセン艦隊の副司令官であり、分艦隊の司令官も兼任している。
若いが優秀な艦隊司令官であり、特に機動戦に優れた指揮が得意でヨハンセンのもと、包囲時の回り込みや敵の誘引役を担当していた。
しかし、戦略的視野には欠けるが、冷静沈着な人物であり、経験と歳を重ねればこの国を支える優れた司令官になると将来を嘱望されている人材であった。
彼はアンドレ・バスティーヌ大将の孫であるが、もちろん自身の才能で出世している。
そして、もう一人の呼び出しを受けた司令官はというと……
「くっそ! やっぱ胸糞だな、NTRは! 見るんじゃなかった!! こんなモノで喜ぶ奴の気がしれないな!」
自室で一人NTRエロ動画を見て、一人で脳を破壊されかけ、一人で怒っていた。
「やっぱ、純愛モノに限るわ!」
ロイクはそう言って、純愛モノを見ようとすると部屋に備え付きの通信端末に、参謀のモーリス・ゲンズブール准将から通信が入り、彼は慌てて私物のPCのモニターの電源を切った後に、通信に出ると真面目な顔と最高にいい声でこう返事をする。
「准将、どうした? 俺は今『戦争論』と『勝利の科学』を読んでいて、忙しいのだが…」
ロイクは、さっきまでエロ動画を見ていた後ろめたさのせいか、思わず嘘をついて見栄を張ってしまう。
「閣下、休憩のところ申し訳ありません。総司令官閣下より、本国から送られてきた通信について話し合いたいので、至急旗艦まで来て欲しいと通信が入りました」
「そうか… これより向かうと伝えてくれ」
彼が格好をつけてそう返事をしたその時、先程モニターの電源を切っただけのPCから、エロ動画の音声が流れ出す。
だが、そこは<名将>のロイク、すぐさま反応してゲンズブールとの通信を切る。
エロ動画をこっそり見ていた子供が、家族の突然の部屋への乱入に驚いて、慌てて動画を止めずにモニターを消すという初歩的なミスを犯している彼は、<迷将>の方があっているかもしれないが…
もちろん、旗艦パンゴワンへ向かう連絡艇の中で、ロイクは音声をゲンズブールにバッチリ聞かれていたため、待機中にエロ動画を見ていたことを説教されるのであった。




