大同盟の足音 03
ルイはクチバシを閉じることによって、子供達に見せてはいけない怖いヤンデレ目を隠すことに成功するが、その代わりに更に恐ろしい問題を生じさせてしまう。
「オイ… なんのマネだ(怒)(怒)(怒)」
クチバシを閉じられたフランが発したその声は、明らかに怒りと不愉快さと少し(希望的)の殺意が込められていた。
フランからすれば、クチバシを閉じて顔を隠されるという事は、ルイからオマエの顔なんて見たくないと言われたのも同じで、当然彼女からしたら許されない行為である。
そのために、フランプーレちゃんはマスコットにあるまじき禍々しいオーラを纏っている、少なくともルイにはそう見えた。
このようなオーラを纏ったマスコットを、これ以上子供達に見せるわけには行かない。そこでルイはクチバシを塞いだままフランプーレちゃんを舞台の袖まで、押して行くことにする。
「こっ、こら~。押すんじゃない~!」
チート的頭脳を有するフランとはいえ、女の子であるため男のルイに押されれば、抵抗も虚しくフランプーレちゃんはどんどん後方へ押されてしまう。
ルイは子供達に見られないように、舞台に併設されている人気のない倉庫まで、フランを押してくると、そこで彼女を押していた手とクチバシを閉じていた手を離そうと思ったが、クチバシの中が怖すぎて、なかなか手を離すことが出来ない。
だが、ルイの心配とは裏腹にフランプーレちゃんは、モジモジしながらこんな事を言い出す。
「おい、ルイ~。オマエ、こんな人気のない所まで私を連れてきて、一体何をするつもりなんだ~」
(えっ? 子供達から、恐ろしいマスコットを遠ざけただけですが…)
ルイは心の中でそう思ったが、戦場で生死の境を何度もくぐり抜けてきた提督としての勘が、それは言うなと警告してきたので黙っていることにした。
フランプーレちゃんが、これからこの人気のない倉庫で起きる事を期待して、脳内お花畑で恥ずかしそうにモジモジしていると、彼女のスカートのポケットに入れている携帯端末に着信が入る。
プーレちゃんの中は、携帯端末に出ることができるぐらいの空間的余裕があり、ポケットから携帯を取り出すと画面にはクレールの番号が表示されていた。
(クレールか…。これから良いところなのに、あいかわらず空気を読まない奴だ)
「もしもし、私だ。何の用だ?」
「諜報部のフジュロル准将が、例の件で至急報告したいことがあるという事なので、今すぐ殿下の執務室にお帰りください」
「今良い所だから、後にしろ」
「どうせロドリーグ中将といい感じになっていると思っているのは、アナタの恋愛お花畑脳が勘違いさせているだけですから、安心して戻ってきてください」
「なにを~!! そんな事あるか! 私は現に人気のない倉庫に――」
フランがそこまで反論すると、そこでクレールからの通信は切られる。
「クレールめ~」
フランは言いたい事を言って、更に通信を一方的に切ったクレールに怒りを持つが、すぐに冷静さを取り戻し大きくため息をついてから、その鋭敏な頭脳で報告を受けに戻ることを選択した。
「仕方がない…」
フランはプーレちゃんの背中のチャックを中から開けて外に出ると、側にいるルイに一緒に来るように伝え自分の執務室に向かう。
執務室の前では、クレールとフジュロル准将が待っており、フランが来た事に気付くと敬礼し、フランとルイは答礼するとそのままフランを先頭に彼女の執務室に入室する。
フランが席に座るとフジュロル准将は、さっそく報告を開始した。
「各国に潜入させている者の報告によりますと、ドナウリアとプルトゥガル王国の同盟が締結されたとのことです」
続いて、クレールの状況報告がなされる。
「これにて、【ドナウリア帝国】を中心とした大同盟の参加は【オソロシーヤ帝国】、【オットマン帝国】、【プルトゥガル王国】、【ゲルマニアの各国】となります。対して我が方は【エゲレスティア連合王国】と【ロマリア王国】と同盟を結んでいますが、ロマリアは未だ戦後復興中であり、戦力として期待できないでしょう」
「頼れるのは、叔母上のエゲレスティアだけか…」
クレールの報告を受けたフランは、部屋の照明を見ながらそう呟く。
国力の規模で言えば、【ドナウリア帝国】、【オソロシーヤ帝国】、【オットマン帝国】は所謂列強と呼ばれる大国であり、【ガリアルム王国】【エゲレスティア連合王国】だけでは分が悪い。
「ドナウリアに捕虜返還の際に紛れ込ませた諜報員の報告によると、同盟締結によりドナウリアが戦争に向けて動き出し始めたとのことです」
「そうか、遂に始まるか…」
フランはそう呟くと、すぐにその鋭敏な頭脳を働かせ取り敢えず思いついた策を、3人に話すことにした。
「戦いが始まる前に、同盟を切り崩しに掛かるか。手始めはオットマンだな。彼の国はドナウリアに不安を煽られただけで、潜在的な敵は国境を接するドナウリアやオソロ―シヤであろう。そこを上手く攻めれば、同盟から外れると私は考えるが、貴官達はどう思う?」
「私もそう推察します」
クレールが自分の意見を述べると、フジュロル准将も次のような肯定する意見を述べる。
「部下からの情報によると、殿下の推察通りオットマンの国民からは、遠方の我が国を相手にするよりも、その二国に備えるべきだという意見が出ているようです。よって、殿下の思惑通りに進むと思います」
「そうなると、オソロシーヤもオットマンと同じではないですか?」
ルイの言う通り、オソロシーヤもガリアルムから遥か東の遠方にあり、更にオットマンと国境を隣接させていた。
「いえ、オソロシーヤとドナウリアは婚姻関係で結ばれており、両国の関係はオットマンとの関係よりも強固です」
ルイの疑問にクレールがそう説明すると、続けてフランが険しい表情でこう述べてくる。
「一戦して勝利し、更にそれなりの損害を与えねば同盟からは離脱しないだろうな」
そう言った後、フランは肩に当たる銀色の髪をかきあげると、三人にこう申し付けた。
「まあ、この事はまた近日中に、会議を開くとしよう。さしあたって、フジュロル准将は引き続き各国の情報収集を、クレールは戦いに備えて物資の手配をしてくれ。本日は以上だ」
「はっ!」
三人はフランに敬礼すると部屋を後にするが、ルイだけは呼び止められる。
「何か御用でも?」
ルイが呼び止められた理由を尋ねると、フランは肩に当たる銀色の髪を指でくるくるといじり、体をモジモジさせながら、恥ずかしそうな感じでこのようなことを言ってきた。
「ところで… だな…。先程の… 倉庫での… 続きなのだが…」
フランはそこまで言うと、恥ずかしさで紅潮して熱を帯びた顔を、洋扇で扇いで冷やしながらチラチラとルイを見ている。
「倉庫での続き…? ああ、アレはキグルミに入るフラン様の姿を見られては、色々とまずいと思ったので、誰にも見られない人気の無い倉庫に連れて行っただけです。それでは、失礼します」
ルイはそれ以上の追求を逃れるために、自分の意見を早口で言って素早く敬礼すると、脱兎の如く執務室から出て行った。




