補給遮断作戦 04
ロイク艦隊の奇襲によって、護送船団壊滅の報告を受けたドナウリア本国では、皇帝フリッツ2世とその側近達によって、補給が滞った事によるロマリア侵攻部隊の撤退か次の補給を行うかで議論が繰り広げられていた。
ここにきて、楽観的推測をおこなってきた側近たちにも、ようやく危機感を感じはじめ、慎重論が出はじめる。
「補給をするにしても、護衛船団を襲った敵艦隊は1000隻以上で、ステルス性能が高く二万キロまでレーダーに映らないそうではないか…」
「では、撤退させるか?」
「ロマリアが講和を飲まない以上、補給を送らないのであれば、撤退させるしかない…」
ロマリアは、ガリアルム艦隊が北ロマリアに進軍して来て、ドナウリアの補給を圧迫させ始めた以上、講話を飲むわけがなくむしろ士気が上がってきている。
「では、休戦協定はどうだ? ロマリアと休戦している間に、ガリアルムを叩けばいい。そして、その後にロマリアを倒す。逆でも構わないが」
ガリアルム、ロマリア両国が、この自軍の有利な機会にドナウリアの戦力をできるだけ減らさねば、後日に逆襲を受けるのが見えているのに受けるはずがない。
ボローナに駐留する艦隊で、補給船団の護衛をさせるという案も出されたが、その護衛艦隊をガリアルム艦隊が襲うのは明白で、例え輸送船団を逃せてもステルス艦隊が襲って撃破されるのは容易に推察できた。
本来なら侵攻部隊の補給が尽きる前に、ボローナ若しくはマントバまで撤退させ、再編するのが得策である。だが、撤退してきた侵攻部隊は補給を受ける前に、物資切れの所を最悪ガリアルム艦隊と追撃してきたロマリア艦隊の挟撃を受けることになるだろう。
議論は堂々巡りを繰り返して、結局この結論に至る。
それは、北ロマリアに進軍してきているガリアルム艦隊を、撃破することであった。
そうすれば、補給路は確保されガリアルムを頼りにしているロマリア艦隊の士気も低下して、ロマリアを占拠できる。
本国から、ボローナ駐留艦隊司令官アルタウス中将に、改めて与えられた任務は『ガリアルム艦隊を、命に変えて必ず撃破せよ』であった。
その任を受けたアルタウスは、自室で一人目を瞑ると深く溜め息を付く。
「本国の連中共め…、無茶を言ってくれる…。この戦力で、どこまでやれるか…」
彼の自信がないのも無理はなかった。
ドナウリア帝国が保有する艦隊数は三万隻を優に超える。
だが、幾ら彼の国が大国とはいえ、この艦隊数を保有できているのにはある絡繰りがあった。
それは、簡単な理由で本来なら退役させる老朽艦を、使い続けているからであり、古いものでは30年以上の艦もあり、全体の半分近くが艦齢20年以上の艦である。
ロマリア侵攻部隊の戦果が芳しくないのも、その三分の一が老朽艦だからであった。
元々後方部隊であったアーベントロート艦隊もその半分が老朽艦であり、予備艦隊であったアルタウス艦隊に至っては、艦隊を構成するその殆どが老朽艦である。
そこで彼は、ガリアルム艦隊がこの宙域に到達する前に、存在していた小惑星帯から手頃な小惑星をいくつか運んできて、それに前線で大破した艦から取り外したビーム砲とエネルギー貯蔵タンク、ソーラーパネルを取り付け、即席の浮遊砲台として艦隊が布陣する近くに配置した。
だが、彼のその準備をあざ笑うかのような行動を、ガリアルム艦隊は取り始める。
ガリアルム艦隊の索敵をしていた偵察艦が、惑星ボローナより南方5万キロの宙域を南下するガリアルム艦隊を発見したのである。
実はガリアルム艦隊は、惑星ボローナの手前10万キロの辺りから南下して、トスターナ星系を目指していた。
「これは一体…」
アルタウスがその動きの真意を推考していると、参謀のベッカー准将が自分の推察を司令官に述べる。
「小官が推察するに、敵の狙いは恐らく物資が乏しくなったロマリア侵攻部隊を、ロマリア艦隊と挟み撃ちにすることかと思われます」
「だが、そうだとして、奴らは補給をどうするつもりだ? 後方には我らが居て、補給を遮断するのだぞ?」
「おそらく彼らは、補給をロマリアから受けるつもりなのでしょう。それに最悪同盟国であるロマリア領まで逃げ込めばいいのです」
「なるほど…。貴官の推察は、筋は通っているな」
そして、ベッカー参謀の推察は半分ではあるが的を射ていた。
フランの残り半分の目的は、もちろん彼らの艦隊の誘引であり、それに乗ってこない時は侵攻部隊の後方から攻撃を仕掛けるというものであった。
アルタウスは参謀の意見に納得するが、そうすると今度は別の問題が浮上する。
追うか、ここで待機するかである。
「問題は追うかどうかだ…。この浮遊砲台の援護無しで、勝てるのか…」
「閣下。無理に追いついて、戦う必要はないと思われます」
「それは、どういう意味だ?」
「敵艦隊に気付かれないように後方から追跡して、奴らが侵攻部隊を攻撃しそうになったら、我らが更にその後方から攻撃をして、侵攻部隊と逆に奴らを挟み撃ちにすればいいのです」
「なるほど、それなら我が艦隊でも、互角以上に奴らと戦えるな。参謀の策で行こう」
そう決断したアルタウスではあるが、同時にそう上手くはいかないであろうとも考える。
だが、本国からガリアルム艦隊殲滅の命令が出ている以上、追わざるを得ない。
なら、今思いつく成功率の高い策に乗って、積極的になれない自らに決断を促したのであった。




