ピエノンテ星系の戦い 02
この世界の大規模な艦隊戦は、陣形を組んで面射撃をおこない相手に突撃の機会を与えないようにしながら、互いのシールドを削り合う。
そうなると当然シールドで消耗したエネルギーを交代で補給するので、戦いは長引くことになり物資と人員の疲労が尽きるまでの長期戦となる。
そこで、相手のシールドを更に削るために、船速の早い駆逐艦の部隊を天頂か天底方向、端の艦隊ならその横の空いた空間から、敵艦隊の上下面や側面に向かわせ奇襲攻撃をさせる。
だが、大抵の場合は敵も迎撃で駆逐艦部隊を出してくるので、道中での駆逐艦同士での戦闘になり、やがてエネルギーやミサイルが尽きて、目的を果たせずに帰ってくることが多い。
しかし、敵の注意力を割く有効な手ではあるので、ある程度の駆逐艦の犠牲を覚悟で行われる。
「閣下、敵の駆逐艦部隊が天頂方向より接近して来ます」
側に居た参謀のアナクレト・シャルトー大佐が、ルイに敵の駆逐艦がこちらに向かって来ることを報告してきた。
「こちらも、駆逐艦部隊による迎撃を」
「はっ!」
ルイの分艦隊所属の駆逐艦部隊は、彼の命令を受けると敵駆逐艦部隊の迎撃に向かい撃退する。
だが、ドナウリア艦隊約5800隻に数で負けているフラン艦隊4500隻は、ロイク艦隊より500隻の援軍を得て5000隻で対抗するが、それでも少しずつ押され後退していた。
勢いに乗ったドナウリア艦隊は、フラン艦隊に猛攻撃を加え、彼女が率いる右翼艦隊を徐々に後退させていく。
「この勢いに乗って一気に敵艦隊を揉み潰せ!」
艦隊司令官アーベントロート中将は、勢いに乗る自艦隊に檄を飛ばすと、更に攻勢を強めさせ目の前の敵艦隊に激しい攻撃で圧力を加えさせた。
数で劣るガリアルム右翼艦隊は、その圧力を支えきれずに徐々に後退を始める。
「敵艦隊は少しずつ後退している。このまま距離を詰めて、敵艦隊を逃がすな! サルデニア艦隊にも我らに続いて、敵を押すように伝えろ!」
勢いに乗ったドナウリア艦隊とサルデニア艦隊は、アーベントロートの思惑通りガリアルム艦隊の右翼と左翼を押し込んでいく。
ガリアルム艦隊が後退をはじめて十五分、それまで黙って戦況を映し出したモニターを見ていたヨハンセンは、シャーリィこと白ロリ様に指示を出す。
「ここでいいだろう。シャーリィ様、例の陣形の指示を」
「ようやくわたくしの出番ですわね? 少しお待ちくださいませ…」
指示を受けたシャーリィは、すぐさま部隊ごとに光通信で艦隊運動の指示を出していく。
彼女の指示通りヨハンセン艦隊は、部隊ごとに戦術機動をおこない迅速かつスムーズに陣形の変更を完了させた。
ヨハンセンは3000隻を、500隻×6部隊の横隊に分けて、そのうち4部隊を縦に並べて横隊陣形として、残り2部隊を補給させており、敵も味方も同じような陣形である。
その四列横隊陣形から全6部隊を使った六列横隊陣形にして、上の二部隊と下の二部隊を前に突出させ敵艦隊を上下から半包囲する変形型鶴翼の陣となった。
「各艦、予定通りに目標の敵部隊に正確に効率よく攻撃を開始せよ」
ヨハンセンが艦隊に攻撃命令を出すと、上の三部隊が敵の四列横隊の一番上の部隊に上面と正面から集中攻撃を浴びせ、下の三部隊は敵の一番下の部隊に下部と正面の二方向からの集中攻撃を開始する。
前進していた敵艦隊は、ヨハンセン艦隊の迅速な陣形変更に対応できずに、上下正面からの包囲攻撃を受けると、集中攻撃を受けた上下の二部隊は二方面からシールドに負荷を掛けられシールドエネルギーを二倍の速度で減らしてシールドを失い、ビームによって船体を破壊され一隻また一隻と爆発して撃沈していく。
包囲から逃れるには、包囲陣形の薄い中央を突破するか、後退して包囲から脱出するかのどちらかであるが、ヨハンセン艦隊の後ろには無傷のロイク艦隊1000隻がいる以上、サルデニア艦隊には後退しか選択肢はない。
ヨハンセンは包囲を続けたまま追撃をおこない、更にサルデニア艦隊の上下部隊を撃沈させると、補給の問題から陣形を元の四列横隊陣形に戻して追撃を続ける。
「やっと、終わりましたわね…。少し休憩させていただきますわ」
元の陣形に戻ったことにより、変形型鶴翼の陣の維持の指示を出していた白ロリ様は、役目から開放され大きなため息をつくと、艦橋に持ち込んだお洒落な白い椅子に座り休憩を始めた。
サルデニア艦隊は約1800隻まで撃ち減らせており、包囲されたとは言えそこまで減らされた事には他にも理由があり、それは一番上と下の部隊には前述の奇襲攻撃の為に打たれ弱い駆逐艦が多く配備されているのと、艦隊が運用している艦の殆どが旧式であったからである。
サルデニアの権力者は自分達の利権や財産を増やすために、色々な予算を削り最後に 目をつけたのが国防を担う軍事費であった。
もちろん、軍部からは反対の声が上がったが、どうせ小国の軍事費では大国には対抗できない、何かあればドナウリアを頼ればいいと反論し、それと共に軍部を運営する高官達にも削った予算による天下りで甘い汁を吸わせる約束をして予算削除を認めさせたのだ。
こうして、一度削られた軍事費はどんどん削られ、とうとう最低限になってしまい、新型艦も作れずに本日に至る事になる。
彼らがこのような愚かな事を平気で決定できるのも、ドナウリアに守られているという事もあるが、何より自分達が戦場に出る事がないためであり、その愚かな決定の犠牲になるのは、いつの世もその彼らに命令される下の者達であった。
サルデニア艦隊からドナウリア艦隊に、援軍を要請する通信が送られてくるが、アーベントロート中将はこのように返事するように命令する。
「我が艦隊に余剰戦力などない。我が艦隊が敵本隊を討ち破って、直ぐに援軍に向かうからそれまで現有戦力で持ちこたえよと!」
ゲラルト・アーベントロート中将は、ロマリア侵攻で予備艦隊として後方待機を命じられていた。それは、功績を立てる機会を与えられないばかりか、軍上層部から前線では使えないと暗に言われているのと同じであると彼は思っていた。
それにより、この援軍の任を受けた彼は、武勲を得る場所と自分の力を示す場所が与えられたと考え、その功名を焦る気持ちが攻勢一辺倒の指揮をさせているのである。




