偉大なる父の昔話
ひっっっっさしぶりの更新です。
本当にすいません。
俺の名前は伊藤健二と言う名だった。転生するまでは……。
事故により早くにこの世を去ったと思えば、みなさんお馴染の光景であろう異世界の住民として生まれ変わっていた。
「またかよ」と思う人がたくさんいるだろうけど、俺からすれば「まじかよ」なんだよなぁ。
この世界ではライトという名で転生していた。
家庭は5人家族、父と母、兄と姉。そして俺の5人だ。
家は農家で穀物を中心に育てていて、商人に穀物を売って生活をしている。
転生者になって、凄い力を貰って活き活きとした異世界生活……なんて都合のいいことは本当はないということが身をもって味わった。
幼稚園くらいの年から家の手伝い。朝早く、夜も早い。
ご飯は質素。衛生面は最悪。
日本という国がどれだけ恵まれているかを海外に行って体感するのではなく、まさか異世界で体感するとはな……。笑えない。
この世界には魔法がある。役職やスキルといった概念も存在する。
「ここナラカじゃそんなのないよ。遠い所だとあるらしいけれどね」
なん……だと。救いの手はバッサリとバスターソードで両断されてしまった。
俺の住んでいるヴィヴァエル国の住民は皆基礎体力が高く、神様の加護を受ける必要がなくても生きていける、だそうだ。畜生め。
そうは言われてショックを受けたが、観察してみるとここにも役職やスキルは存在する。と言っても、それは口に出すレベルの物ではない。ただ単に「~が出来る」、「~が器用」というもの。しかし、それは立派なスキルであった。
つまり、「役職やスキルがない」のではなく、あるのだがその概念がここの住民に浸透していないだけということ。
剣の扱いが上手な人は”騎士”の役職を持っており、スキル【剣術の才】の様な剣技が異様に優れていたりする。が、それを知らないというだけの話だ。
しかし、知っていると知らないとでは大きく意味合いが違ってくる。優れた役職やスキルがあるのにも関わらず、全く活かせれない仕事に就いている者がいたら、宝の持ち腐れと言うものだ。
異国では、何かしらの方法で役職やスキルを知ることが出来、それに合わせて生活をしているのだろう。
俺は一体、何の役職が向いていて、どんなスキルを持っているのだろう。と考えるが、それを知るのは難しいだろう。
だってそうだろうさ。転生前だって、自分に合った仕事に就いて、自分にはこんなスキルがあります!なんて言える人がどれくらいいる?ほとんどが「転職してぇー」じゃないか。
そう考えると一層不安というか、虚しくなってくる。このまま一生農家として生きるのか。
俺は家族の眼を盗んで魔力を練り、身体から出てきた魔力の塊を手でこねて団子状にする。
魔力は生物から出てくる自然エネルギーの俗称だ。体を動かす力を魔力に変換することで使用が可能になる。
前世の記憶……ほとんどゲームだけど、そういったイメージで使えているのだろうと勝手に解釈している。
体力・気力・魔力とパラメータがあり、魔力をつかうと気力が減り、気力が減ると体力が減る……こんなところだろうな。良く出来たゲームバランスだこと。現実だけどな……。
「ちょっとライト!何それ!?」
姉のメイルは高い声で聞いてくる。よく吠える犬のようだ。
「なにって……魔力を練ってるだけだよ」
「……え?あんた魔力を出せるの?」
信じられない様子で俺の顔を見てくる。
いやいや、お姉ちゃんも魔力使ってるやん。
「お姉ちゃんも使ってるでしょ?何を大きな……」
「使えないよ!あんた、凄い力を持ってるんじゃないの!?」
あー、なるほどね。完全に理解した。
これはあれだ。魔力の存在を知らないまま生活をしているんだ。
現に仕事をしている時に穀物に魔力を注いでいるじゃないか。
「あれは魔力じゃなくて愛情!美味しくなってもらうようにね」
「それが魔力なんだよ、きっと」
その後、家族会議となったがやはり魔力を使っている意識はなく、無意識化で使用しているのだ。無知とは恐ろしい。
その場は「俺の勘違いだった」ということで治まったが、俺は自分の考えを否定していない。
「ここの国の奴等は器用貧乏なんだな。もしかしたら……」
俺は庭に出て、指先に意識を集中させる。水鉄砲のように、指先から水が出るようにイメージする。
『バシュン!!』
イメージ通りに魔力を水のように発射出来た……!
「……いけるかもしれない」
そう言った後、いつものように魔力を手に集めて、その塊を手で弄っていく。
「――出来た。水鉄砲だ」
それは前世で何度も見た拳銃の形をした透明なモノ、鉄砲だ。
俺は魔力で作った鉄砲に、先程のように魔力を水に変換して――入れる。そして、発射――。
『ダーーン!!』
凄まじい威力を炸裂した魔法鉄砲を見つめて、「いけるいけるぞ……」と呟く。
「……俺の役職は”製造”だろうな。スキルは【育成強化
】といったところかな……、いや、これからは”創造主”と言おう。どうせ正式な役職名は分からないのだから……」
一筋の光を見出し、俺は声を殺して笑った――。
***
それから40年の月日が流れた――。
俺は成長と共に魔法学校に進学した。
そこで魔法を学び、やれることが大幅に増えていった。
その後の人生は、人の為に万事を尽くした。
魔法を理解し、能力を上手く使い世の役に立つ道具を発明していった。裕福度が関係ないように、誰でも使えるものを作るように。
騎士団の専属監督に就任して、兵士のスキルを見極め、適材適所に配置させる。今までバラバラだった戦力が綺麗に整い、無駄な人員を使うことなく優秀な騎士団に育て上げた。
いつもまにか、最高位の爵位の1つ、【賢人】の称号を授かる。
こうなっていくと、「転生者お得意のチート技でしょ?」と思うだろうが勘違いしないでもらい。俺は、自分の私利私欲の為に力を使っていないし、お得意の有り得ない魔力量とかそんなものもない。
自分に適任な役職とスキルを早めに発見して、それを長い時間をかけて円熟させたのだ。現に人生の大半が過ぎていた。
「――賢人!何故ご用意したお部屋を使わずに、そんな質素な部屋で寝泊まりしていられるのです?」
国の召使にそう言われた。俺はいつものように「ここで十分」と伝える。
そんなテレビで見るような大豪邸を用意されても困る。
俺は2LDKサイズの部屋を見渡して「十分過ぎるくらいだ」と再確認する。
俺のやってきたことは偉大だが、やれたのは転生者……本来知ることのない知識を持っているゆえの力。俺の実力ではない。
それに、俺にそんな資格はない――。
理由は1つ。親よりも先に死んだからだ。
異世界系の小説やアニメはよく見ていたが、誰もそこには触れていない。「前世の記憶があるだけであって、悪いことはしていないしどうしようもない」とは俺には思えなかった。
たとえ別人であろうと、知識を使って生活している時点でそれは反則だ。
その力をわがまま顔で乱用し、大切な人を守るためと偽善ぶった考えで動いている奴が許せなかった。
だから、俺は力を使う代わりに、多くの人の手助けを人生をかけて使うと決めた。それが親不行をした子供の出来る最大限の行為であると信念にしてきた……。
そうするはずだった――、他の転生者と会うまでは……。
***
ある日、冒険者ご一行がこの街にやって来た。
ナラカから遠く離れた土地、マスランからやって来たと言う。どこかにある秘宝を見つける為に冒険をしているのだとか、楽しそうなことで。
その道中で休憩と情報収集の為に此処に訪れた際、俺――つまりは【賢人】の爵位を持つ俺に話をしてきたのだ……。
「私はグリス・アッシラムイと言います。後ろにいるのは私の仲間です。お会いできて光栄です、【創造主】ライト様」
「頭を上げて下さい。お若いのに礼儀が出来ていて素晴らしいですな」
俺は白髪になった髪を掻きわけてそう言う。年を取ったな、眼の前の若者たちがまぶしく見える。
「……ん?あたりを見渡してどうしたのかな?君たちが住んでいるところと何か違いでもあったのかね」
「あっ!いえ……【創造主】の役職を持っている方にしては随分と簡素な住宅だと思ってしまいまして……」
勇者は申し訳なさそうにそう告げる。
「あっはっは、そう見えるか。私は周りが思っている程の力を持っているつもりはなくてね。このような簡素な家を気に入っているのだよ」
「で、でも置いてあるものは何か優れた発明品なのですよね?」
フォローをするように後ろにいる美女が質問をしてくる。よく見ると美人ばっかりだな、このパーティーは。
「たいしたものはないさ。此処に住んでいる住民と同じものを使っているよ」
俺の部屋にあるのは、魔力を与えることで冷凍保存が出来る箱と、魔力で動く床を掃除してくれるぬいぐるみのパンダの形をした木製の置き物――有体に言って冷蔵庫とル〇バだ。他にも様々な魔力を使うことで使用可能な道具が置かれている。
「素晴らしい心の持ち主ですね。流石は【創造主】にして【賢人】の爵位を与えられたお方です」
「ありがとう。褒められてもお礼をするものがないね……そうだ、その箱に良く冷えた飲み物が入っている。好きな物を飲んでくれ」
俺が冷蔵庫に意識を向けると、冷蔵庫は勝手に開かれて冷気が漏れ出す。その中には、麦酒や葡萄酒、果実のジュースが入っている。
勇者の仲間の美女たちが冷蔵庫に集まり、楽しそうに騒いでいる。嬉しいものだな、こういった光景は。
「おい、早く締めろよ。冷蔵庫の冷気が逃げてしまう」
……え?いま、なんといった?冷蔵庫といったのか――?俺は1度も冷蔵庫とは言っていないのに……。
「……冷蔵庫……?冷蔵庫という名前なのです?」
勇者の仲間が俺と同じ反応をする。
勇者は慌てた様子で「いやっ!そんな名前なのかなーと思ってな」と顔を引きつらせる。
「……それは冷箱と呼ばれるものだよ」
俺は心臓の音が聞こえるほど動揺しているが、おくびにも出さないように笑顔を向ける。
「そ、そうだ!冷箱だ。間違えたよ」
「時々、変なこというよねグリスって。私と初めて会った時も「歯磨き粉を知らない?」とかいってたもんね」
「――――!!」
俺は絶句する。
この世界には歯磨き粉はない。その代わりに清潔草と呼ばれる花を口に入れることで、歯磨き粉の代わりを果たしてくれる。俺も初めは驚いたものだ。いいや、それよりもいまので確信した……!こいつは転生者だ――!
「グリスくんと言ったかな?……少し向うで話をしないかな?」
「はい?え、ええ……」
***
俺はグリスを書斎室に招く。
グリスの仲間たちは先程の居間で、酒を飲みながら騒いでいる。
「……君と同じ様にあの冷箱を冷蔵庫と名乗る者が此処にきたことがある……」
「ほ、本当ですか!?」
「……ああ」
嘘に決まってるだろうが。
「その者は『ニホン』という聞きなれない異国の記憶を持っているそうでね、私に色々と教えてくれたよ。……彼は言っていた「自分は転生してきた」と。――君もそうなのかな?」
グリスは眼を見開いた後、ゆっくりと頭を落とし――頷いた。
「……ここでのお話は他言無用でお願いできますか?」
「勿論だ。その者にもそう言われた。だからその者の名前は言わなかったのだ。私は【賢人】と呼ばれているが、初めて聞く単語ばかりだったのでね。これからの研究の為に是非聞かせて貰いたいな。……転生というやつを――」
グリスは俺の眼を見つめて、覚悟を決めたのか、口をゆっくりと開く。
勿論、言わないとも。全部聞き終わるまではな……。
***
推理漫画の犯人よろしく、グリスはペラペラと話してくれた。
自分は転生者で、生前の知識で魔力を小さい時から鍛えたお蔭で敵なしの力を身に着けたのだとか。
役職は平凡な【剣士】だが、魔力によって【魔法剣士】と呼ばれる力を得た……だと。
仲間にも慕われて、女4人をパーティーに入れてイチャイチャする始末……。
危険はあったが仲間のお蔭て生き延びてこれた。何度死ぬ思いをしたか分からない。
仲間たちの夢を叶える為にも、仲間を守り秘宝を見つけると力いっぱいに力説してきた、……もういい。
その時、俺の怒りは臨界点を超えた……!
俺はゆっくりと手に最近作成した武器――『タナトス』と呼ばれる大鎌を振り上げて叫ぶ――!
「元童貞のくせに調子に乗ってるんじゃねぇーーー!!」
***
「えっ!そこ――――!?」
私は思わず大声でツッコんでしまっていた。