93.反撃よっ!
あけましておめでとうございます。
連載再開です。今年もよろしくお願いします。
「いい度胸だ。しかし我らのケンが、貴様を排除するべきと判断している以上、貴様は死なねばならん」
「あのさぁ、ケンって会ったこともないのに、何で私が殺されなきゃいけないの? 納得いかないわ」
確かサソリ使いのシンも言っていたよね。族長のケンが私を嫌っているって。なぜ?
「ケンは世界の管理者、調整者とも言う。ケンが貴様を邪魔者だと認識したのならば、貴様は世界から消えなければならない。我らはそれに従うまで」
「ただ邪魔だからって……なぜ邪魔なのか教えてよ」
「それはケンに聞くが良い。ただし会えたらの話だがな」
そう言うと、ソンは右手を振り下ろし、自分の前に控えていたトカゲを私に向かわせた。
勝機のない闘いに、ほぼ絶望しかないのを感じ、全身に震えが走る。
襲ってくるーー覚悟を決めて体を固くして身構えた。
「サーラ、後ろへ飛んで!」
ハルの声が響くと同時に光の矢がまるで壁になるように私の前に降ってきた。
「んぎゃっ!」
ヤバいっ。クルリと向きを変え、屁っ放り腰の状態で四つん這いになりながら、ネコのように飛び出した。
慌てて飛び退いて事なきを得たが、危うく私に突き刺さるところだった。
目の前に広がる光の壁を確認しながら、助かった、と息を吐き出す。そしてすぐさま抗議のために後ろを振り返った。
「こらぁ、危ないじゃないの。味方に半殺しにされるなんてシャレにならんわ」
「悪ぃ、強化はしたけど微調整はまだまだなんだ。でも助かったろ?」
私の隣に駆け寄ってきたハルが、へへんと得意気に笑いかける。そのまま腕を引いて自分の後ろに庇うようにして、トカゲから守ってくれる。腕を引くハルの手が微かに震えているのは、これが実戦だということを痛感しているからだろう。
光の矢で作った壁が消えるまでの間に、体制を整えて防御の陣を展開して守りに入った。
「ヒューズが来るまではカバーできると思う。今ミリィが呼んでいるから。もしも陣が破られそうになったら、そんときゃ一目散に逃げろ、わかったな?」
ハルは油断なく前方を見据えて、チラリと私を確認しながら小声で話す。私は黙って頷くと、ソンへと視線を移した。
「ほう、攻撃を防御に活用するとは、なかなか面白い。しかし長くは持たない」
壁で足止めされていたトカゲがまた動き始める。私たちの周りに張り巡らせていた陣を取り囲むと、次の指示待ちのためか、ピタリと止まる。
黒っぽいからだをヌメヌメと光らせながら、赤黒い舌をチロリとだす様子は、気持ち悪さが一層増して全身に鳥肌がでてくる。
アレに触られたら毒に侵されるーー先ほどのミリィちゃんのドレスのように、自分の肌がドス黒く変色する様を想像して血の気が引いた。
ドォーンッ
一瞬耳が聞こえなくなるような大きな音が耳元で弾ける。
「ひゃっ!」
ビックリして耳を押さえて目を閉じる。土ぼこりが収まったことを薄目で確認してからゆっくりと顔を上げた。爆発の標的となったトカゲが三匹ほど死んだようだ。
何が起きたのかまだよく理解できずに戸惑いの表情を浮かべていると、教会の方から駆けつけたルディとミリィちゃんがそこにいた。
「よう、サーラ。怪我ないよな? 殿下も気をつけてくれよ。何があったら俺のクビどころじゃ済まないから」
「ああ、ヒューズから直接訓練受けたんだ。今の俺、結構イケてると思うよ?」
今の轟音は、ルディが陣の前に待機していたトカゲめがけて火の塊を投げつけた時に発生した音らしい。
ルディの加勢に安堵感を抱き、ガチガチの笑顔で答えるハル。私も彼が駆けつけてきてくれたことに安心し、笑顔で応えた。
一緒に駆けつけたミリィちゃんに、改めて防御陣を強化してもらい、これからどう闘うかを四人で打ち合わせることにした。
「女子はここで待機。俺は親玉に切り込んでいく。殿下はここからトカゲに火を放て。できるな?」
ルディは簡単に割り振りしてから、ハルに確認した。前回サソリ使いシンと対決した時は光の矢を使うだけだったから、火の攻撃を実戦で使うのは初めてのはず。
「ああ、防御の陣に守られているから、しっかりと術式も組める。慌てなくて済むから大丈夫だ。全部潰したらヒューズの方へ向かえばいいんだな?」
「いや、殿下に危ない橋は渡らせない。俺一人で片付けてくるさ」
ルディはハルの返答を軽く受け流すと、安心させるように彼の肩をポンと叩く。
「ルディ、無理しないで。ハルのサポートがあれば楽なんでしょ? だったら……」
「ダメだ! これは遊びじゃないんだ。失敗すれば死ぬ。これ以上誰かが危険な目に遭うのを見たくない。これは俺のワガママだってわかってる。だけどな、三人とも安全でいて欲しいんだよ」
カマキリ使いカンとの闘いでレイニーさんを瀕死の状態にしてしまった経験からか、ルディはあえて自分だけで闘おうとしているようだ。
多少意固地になっているのはわかるが、私たちが傷つかないように、と願う気持ちを思うと、言い返すこともできない。
「わかったよ。ヒューズの作戦だからな、ヒューズに従う。ただし危険だと感じたらすぐ撤退しろ。これは王子としての命令だ。いいな?」
ハルもまたルディが心配なんだろう。ルディの立場を尊重しつつ身の安全を計るようにと注意を促す。
「ああ、わかった。俺も無理しないさ」
いつものふざけた態度や言動の二人からは、想像もつかないひと味違った雰囲気に、頼もしさを覚えた。ピリピリとした緊張感の中、私は二人の腕をガシッと掴んで声をだした。
「二人とも、頼りにしてるよ? あんなヤツ、ぶちのめして来て。無事に帰ってきたら、祝福のキスしてあげるからさ」
ウインクしながら可愛いらしく決めてみたのだが、二人同時に微妙に嫌そうな顔をされた。
「サーラ、俺、お前よかディア、アフローディアのキスの方が嬉しいから……気持ちだけ受け取っておくわ」
んまぁっ! 人が励ましの意味で送り出そうとしてるのに。ルディってば、あえてアフロちゃんの名前出すわけね? ぷうっと膨れていると、ハルも無言でコクコクと首を何度も縦に振っている。
ハルもハルだ。ついこの前まで、私に好き好き言ってたクセに。なんなの、この変わり身の速さっ!
「ハルまでそんな態度なワケね」
「いやぁ、女の子はみんな可愛いけどさ。俺は彼女の可愛いらしさってか、動作一つ一つを見てて嬉しい、というか可愛いっていうか……」
しどろもどろになりながらミリィちゃんを見て、一旦俯いてからもう一度彼女をジッと見つめてる。そしておもむろに彼女の肩を抱えると、目尻に軽くキスをした。
「キャッ……」
ビックリするミリィちゃんだったが、満更嫌そうでもない表情。むしろ微笑んでハルを見つめ返す彼女に、二人で築いたであろう固い絆を感じ、ほっこりとした気分になる。
「んもおっ、知らんがな。二人を勇気付けようとしたのにっ。私の可愛らしさを返せっ」
「ははは、でもサンキューな。おかげでリラックスできたよ。ガチガチでビビってても、いいことなんて一つもないからさ。頑張ってくるぜ」
ルディがそう言って、軽くウインクしながらサムズアップを決める。
ハルの攻撃術式が完成し、防御陣の前に火炎放射が何発か展開されると、ルディがソンの前に飛び出していくのが見えた。隣のミリィちゃんも、気合いを入れて、防御陣を一層強固なものにするべく、緻密な術式を組んで全体に張り巡らせている。
私は両手を握りしめて、三人の頑張りを見守るしかない。私がしゃしゃり出ても足手まといになることは、誰の目にも明らかだった。ここはあえて小さくなってひたすら祈るしかない。
みんな無事で帰ろう。ここは教会の敷地内だ。神様はきっと願いを聞いてくれるはず!




