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90.助かった!

 レイニーさんとルディを守るように、二人の前に立って両手を広げて敵を待ち構える。


 来るなら来なさい。私の首があればこの二人は助かる。ならば迷うことは無い。誰かのために命を投げ出すなんてカッコイイ最後、やってみたかったもの。


 テレビで見たヒーロー物の主役に私はなるっ!


 なーんてね。私だって死にたくない……出来るだけ助かる方法、作戦『言いくるめる』でなんとか乗り切ってみよう。


 いよいよ壁の向こうに人影が見えた。

 自分で考えられる限りの恐い顔で壁を睨みつける。さあ、戦闘開始。


 不意に顔を出したのは、見覚えのある服の集団だった。

 ん? なんで?

 不思議に感じたのも当然。現れたのは大勢の魔術師団員だったからだ。


 王宮から指示を受けたという魔術師団員の皆さんだったようで、瀕死のレイニーさんに対してすぐさま応急処置が行われた。

 治癒術師が数人がかりで治療をしているのを見かけ、命の危険は回避されたんだろうと想像できる。これでレイニーさんは大丈夫。安心して胸を撫で下ろした。


 ふと奥の方を見ると、ビックリする人物がそこにいた。

 なんと、コークス先生、あ、違った。今はコークス師団長か、が団員に指示を出していた。その後ろには、街の警備を担当してくれているミラーズ隊長さんもいる。思わず駆け出してコークス先生に声をかけた。


「先生? なんでこんなところに? 魔術師団の方は平気なんですか?」


 焦って駆けつけた私に対してニコリと笑いかけて、頭をポンポンと撫でてくれた。


「お久しぶりです、サーラ。あなたにお怪我がなくて本当によかった。実は王宮から緊急連絡が届いたのです。ここら辺でサーラが危険に晒されていると」

「へ? 私が危険な目に遭ってるなんて、なんでわかったんだろ……」


 下を向いて考えながら呟くと、コークス先生から詳しく説明があった。


「カシアス殿下から私に直接連絡があったのですよ。サーラに渡していたペンダントの護符が弾けた、と。場所はザックリとしか特定できなかったようでしたが、とにかく救助を頼むと言われました」

「そっか、あのペンダントの光がハルに伝わる合図だったのかしら。でも本当に助かりました。レイニーさんが危ないのに、連絡手段が何もなかったので」


 このタイミングで救助に来てくれたことに、心から感謝を込めてお礼を言った。


「あなたが八卦一族から狙われているのは私も知っておりました。レイニーとヒューズが揃っていれば、外部の襲撃にも対応できると考えておりましたが……甘かったですね。これからはもう少し強化する方向で考えておきましょう」


 眉間に皺を寄せて喋る様子に、普段のコークス先生にはない厳しい雰囲気を感じ、改めて敵の強さを思い知らされた。


「私に身を守る術を教えてください。私が自分で自分を守る自信がないから、今回も二人に余計な負担がいったと思うんです。せめて剣の扱い方くらい知っておけば、急襲を受けたとしても、多少の時間稼ぎはできますよね?」

「それはそうなんですが……あの方がどう思われるか。あの方はあなたを一秒たりとも危険に晒すことを許さないのですから」

「ラッセルは私が説得します。だからお願いします。魔術師団に行けないなら、王宮で、ルディに鍛えてもらえればいいんです。毎日少しずつ。先生、お願いします」


 私の必死のお願いに、渋い顔をしながら考えこんでいる。やがてふうっと大きなため息をつくと、苦笑いをしながら私の肩をポンと叩く。


「しょうがないですね。サーラは自分の決めたことは最後までやり遂げる方ですから。私が止めてもコッソリどこかでやるのでしょう? だったら私がユーグレイ公に進言致します。今日はおとなしくしていなさい。明日の夕方からルディに教わること」

「はいっ」


 最後の方は勉強を教わってた頃の先生の口調になっている。懐かしくてつい笑顔で返事をした。


 先生と雑談しながら、今後の私を取り巻く状況について話し合っていたら、簡単な治療を終えたルディがこちらにやってきた。


「ルディ、あなたは頑張りました。サーラの命を守れたのは、あなたのおかげです。ありがとう」


 先生がルディの活躍を褒め讃える。が、素直に喜べていないことは一目瞭然だ。


「今回はたまたま守れたってだけです。しかも姐さんをあんな風に怪我させちゃって。俺がもう少し魔術を使いこなせていれば、もっと優位に闘えたはずなんです。すみませんでした」

「レイニーの攻撃は『光』一択ですからね。今回の敵は光耐性があったと聞いています。この場合はしょうがないでしょう。今後の課題として、魔術師団員は複数の属性魔術を展開できるようにしなければいけませんね。私も勉強になりました」


 耐性とか相性とか……魔術ってのも結構難しいモンなんだね。私には力そのものがないから、あんまり詳しく教えてもらわなかったけど、今回の件を経験した手前、どういう仕組みになっているのか気になっている。先生に尋ねてみたら、嬉しそうな顔をしてひとつ頷くと、丁寧に教えてくれた。


 魔術を展開するための術式というのは、基本の形は大体一緒なのだそうだ。違うのは、その術式にどの魔法を掛け合わせて魔術を発動させるかなのだそうだ。


 例えば、生活魔法でもある火、水、風。これらの魔法を術式に張り巡らせて大幅に増幅させ、その威力を押し出せば、攻撃の魔術となる。張り巡らせ方が均一で緻密になればなるほど増幅力や威力も強大になり、より強力な魔術を展開できるらしい。


「あれ? でもレイニーさんは光の属性魔術を使ってましたよね。そういえばハルとかも光の矢みたいので攻撃してたけど……」

「ああ、それはですね。その前に少し失礼します」


 一度私から離れ、魔術師団員の方がたにさまざまな指示をし終わってから再び詳しくお話ししてくれた。


 光の魔法は主に防御のために用いられる魔法で、防御の術式にやはり均一に魔力を張り巡らせて使うのだそうだ。光の魔法は比較的扱いやすく、防御の術式を攻撃の術式に転用して使うことも可能だということだ。


「どちらかというと、火、水、風の属性よりも扱いやすいので、初心者や女性に好まれるのが光の属性魔術なんですよ」


 なるほど。レイニーさんは魔術師団にいた頃は女性の部隊を率いていた。お仕事も、攻撃に関した魔術はあまり必要としなかったに違いない。むしろ、情報戦や接近戦ではかなりの力量があったはず。


 今回は大量の蟲が相手だったために、レイニーさん本来の力が出し切れていなかったのかもしれない。

 そう考えると、火の魔術で闘ったルディは魔術師団の中ではかなり凄腕だったんだな、と改めて感心してしまった。


「ルディ、アンタって凄腕の魔術師だったんだね。先生の説明を受けて初めてアンタの凄さを感じたわ」


 戦闘の疲れのせいか、私が先生とやりとりを繰り返している間、うとうとと軽く居眠りをしていたルディだったが、急に話しを振られて慌てて目を覚ましたようだった。


「んあ? お、おうよ。俺は凄いんだ。だからもっと強くなれる……」


 言ったそばからまた眠気に襲われたらしい。そのまま突っ伏して、今度は本格的に眠りについてしまった。

 コークス先生をはじめ、大勢の味方が駆けつけてくれたことが、ルディを安心させたようだ。


 私は先生と顔を見合わせてクスリと笑うと、再びルディを見つめた。


「今回の闘いは、ルディをひと回り成長させたと思います。自分の力量を知り、それに満足しないで前進することができる者こそが強い人間になれるのです」


 先生の言葉は私の胸にも強く響いた。

 私も明日から少しずつ、自分にできる何かを見つけよう。身を守る剣術もさることながら、誰かのためになること、誰かが喜んでくれる何かを見つけられれば、それは私の成長につながるかもしれない。


 退屈な日々を怠惰に過ごすだけだった考え方に、漠然とだが目標ができた気がする。これからの毎日を迎えることが楽しく思えて、自然と笑みが溢れた。

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