表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/126

71.ローブの男!

 サモナール男爵令嬢の事件からだいぶ日にちも経ったけれど、未だに犯人は特定されていないみたい。

 一応、王宮内での魔術も使用が解禁されたので、生活に不便さはあまり感じられなくなり、普段通りの毎日が戻ってきたようだ。


 生活魔法も最低限度まで使用が限られていたので、身だしなみの用意にやたらと時間がかかり、ひと通りの身支度をこなすと既にお昼を回ってしまうほどの不便さだった。

 そんな時期をなんとかやり過越し、許可がおりたエリアで移動魔法まで使えるようになった時には、ハムスターちゃんとルディと私、三人でガッチリと握手を交わして喜びを味わった。


 その普段通りの日課を過ごすある日、ラッセルから面会の申しいれが届いた。

 ここに来てから、一度も接点を持とうとしなかった彼が、わざわざ公式の面会を申し出るなんて。


 嬉しい反面、他人行儀な態度を取らなければならないもどかしさにちょっとドギマギしながら臨んだ。


 面会にはラッセルの他にもう一人、ロイズ隊長が同席のようだった。王宮の筆頭護衛官も一緒にいる話しとなると、かなり物々しい内容ではないかと、イヤでも想像してしまう。


「リンスター子爵令嬢におきましては、ご機嫌麗しゅう……」


 あー、はいはい。二人からの儀礼的な挨拶をダラダラと聴き流し、ようやく本題に入ることができた。


 ふうっとラッセルが息を吐き出すと「ここからは内輪の話で」といって声のトーンも一段階低くなる。


「先日のサモナール男爵令嬢の事件で、ご令嬢と一緒に殺された魔術師がどこの手の者か判明した」

「ああ、あの赤銅色のローブの男よね?」


 ラッセルはコクリと頷いたあと、ロイズ隊長の方に視線を投げかけた。詳細はロイズ隊長からの報告になるらしい。


「まずはこれを」


 そう言って取り出したのは、試験管のような細長いビンだった。

 何だろ、ビンの中に何か入ってる?

 もう少しハッキリと確認したくなって、身を乗り出してじっくりと観察することにした。


「あれ? これって……」


 中でコツン、コツンと音を出しているのは、赤黒い色をした蜂だった。


 そう、私が実際に襲われた時にみた蜂と一緒だ。ただし、私はコレの巨大化版に遭遇したわけだが。


「ローブの男の懐に隠されていました。彼は『蟲使い』です」

「蟲使い……」


 おうむ返しに私が呟くと、ロイズ隊長は無言で頷き、再び口を開いた。


「蟲使いはこういったモノを操って戦闘などをする者です。先日あなたが遭遇したムシは、なんらかの魔術で巨大化させたモノでしょう。しかしこれの使い手となると、今のところこの国では確認されておりません」

「確認されていないって……てことは外国の魔術師?」

「はい、赤銅色のローブや蟲使いなど、私やユーグレイ公、現在の師団長も知りません」


 何で外国の魔術師が私を狙うの? 私は少し前にこの国に来たばかりなのに。外国なんてほとんど接点がない人たちに狙われる覚えなんかないよ。

 困惑気味にしていたら、ラッセルから補足の内容を説明される。


「君の場合、カシアス殿下に近しい存在として認識されたのだろう。揺さぶりをかけるなら直接殿下を狙わずサイドから攻めるのも攻撃的にありだ。さらに」


 ここでひと息いれて一旦目を閉じてからまた話し始める。


「魔術師団では私の庇護下にあったことも影響していると思う。正面きって私に挑む魔術師はこの国にはいないからな」


 側で聞いていたロイズ隊長と、私の後ろにいたレイニーさんがニヤリと笑う。


 確かにこの国には、最強の魔術師を自負しているラッセルに対して立ち向かう度胸のある命知らずな魔術師なんて、ほぼいないだろうね。その最強魔術師に守られて過ごしていたんだもの、国一番の安全を買っていたに等しいんだろな。


 魔術師団を離れ、王宮に移動してきた今なら、敵も仕掛けるチャンスがあると踏んだのかしら。もしそうなら、今後は私も少し警戒をしといた方がいいかもなぁ。


「つまり、この国の魔術師だとビビっちゃうから、外国の魔術師にお願いしちゃったってこと?」

「そうですね。他国には他国の加護を利用した魔術がありますから。我々もまだ研究し尽くしていない部分も多い……特にアーリンは」


 私の疑問に対してロイズ隊長が答えてくれたが、最後は呟くような小さな声で話を締めた。


 アーリン……確か砂漠の民の国だったよね。わざわざここで名前が出てくるってことは。

 私は頭に浮かんだ疑問を素直に口にした。


「赤銅色のローブって、アーリン国の人が着る物なの?」

「そうだな。正しくはその中の一部の部族だ。先日ロイズが確認してきた」


 ラッセルの答えにおや、と引っかかりを感じた。

 一部の部族? 国の魔術師団はだいたい同じ色で、とかじゃないのかな?


「ローブやマントはだいたいその国の加護を象徴した色を纏います。例えばこのルシーンでは『月』に関連する紺や黄ですかね。我々魔術師団の場合、月が一番力を発揮する夜の色『紺』を選んでおります」


 後ろで控えていたレイニーさんが、座っている私の側にきて、少し前かがみになりながら説明してくれる。ちなみに、彼女は他の国のローブの色までありがたくも丁寧に教えてくれた。


 どうしよ。即席のお勉強会がはじまっちゃった。とりあえずは私も頭に入れておかないとマズい知識ではなかろうかと思ったので、前の二人には一旦待ってもらって、しっかりと話を聞いて頭に叩き込む。


 その説明によると、森と獣の国『ドーン』では緑やこげ茶、水の国『エンリィ』は水色か青、太陽の国『ラムダス』では朱赤や白が主流らしい。


 そして今問題になっている砂漠の国のアーリンは、少し趣が違っていた。


 アーリンは国家というよりも部族の集合体で結成されているらしい。大きく分けて七つの部族があり、その中にいくつもの小さな部族がひしめいているとのことだ。

 運営も国としての統治するのではなく、大部族の七人の族長たちの話し合いで成り立っているらしい。


 特に何を信仰するわけでもなく、特定の加護を受けた土地でもない。それぞれ独自の魔術もあったり、ローブも着たり着なかったり。


「へえぇ、ならさぁ、アーリンって『自由の国』じゃなかった『自由な地域』ってところかしら?」

「いいえ、むしろ危険と隣り合わせです。七大部族やその傘下であれば交渉ごとはできますが……大部族の傘下に入っていない部族や集団も多く、無法者や他国から逃げてきた犯罪者なども存在します。我が国の国境が荒らされないでいるのは、内乱が激しいためであって、いつあの集団がこちら側に牙を向けても不思議ではないのです」


 私の疑問にレイニーさんが軽く首を横に振って、あまり芳しくない答えをくれた。


 ひええ……内乱とかって、テレビでやってたアフリカのどっかの地域とかに似たヤツかなぁ。治安国家で生まれ育った私には遠い話だと思ってたけど、今はほんの少し先に、人ごとだと思っていた危険があるのだ。

 信じられない現実に、ゴクリと生唾を飲み込むと、応じてノドが鳴る。


「私も実際に魔術師にあったわけではないのですが、少人数で形成される集団の中に、赤銅色のローブを身に纏う集団がいるとのことでした。 人数は十人に満たない程度らしいのですが、独自の魔術で自在に操る蟲を飼っているという噂です」


 レイニーさんに代わって、ロイズ隊長が厳しい顔で説明を続ける。


 この人のこんなに難しい表情は初めてかも。いつも飄々としてレイニーさんが噛みつくのを涼しい顔でいなしているイメージだったし。


 そんな彼に、いつもと違う表情をさせるってことは、それだけ危険な相手と対峙していたってことなんだ。


 でも待てよ? 私を襲ったらしき人物は死んだわけだ。なら私は既に安全圏にいるってことじゃないの?


 少し期待しながらラッセルの顔を見てみると、こちらもまた難しい表情で黙り込んでいる。ジッと見つめて彼の口が開くのを待った。


「おそらく敵はその集団全員だと思う。しかも内部に敵の内通者がいる可能性が高い。これで終わったわけではないだろう。君も少しでも異変を感じたらすぐに伝えなさい」


 ええっ、これだけじゃないだって? 冗談でしょっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ