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53.ここがいいっ!

「この国は王と王族を中心に動いている。あの方たちは周囲からいろいろな意見や圧力を受けることもあるだろう。それらを踏まえて決断を下すのが王であり王族だ。その王族を支えるのが我々になる。我々は王族のためにあるべきだ」


 ラッセルの言ってることはわかる。お勉強の時に何度も教えられたし、この国と私が育ってきた日本とは考え方が違うってのも理解できる。


「殿下が君に支えて欲しいと望むなら、それを叶えてあげるのが君の役割だとは思わないか?」


 グッと詰まって、何も言えなくなってしまった。

 ハルが困っているのを助けたいとは思う。でも、そのままお嫁さんになってしまうってのは何かが違ってる感じがするんだもの。


「私……私……」


 周りで話が勝手に進んでいく中で、自分だけが、自分の気持ちだけが置いてきぼりになっていく……


「サーラ、望まれる幸せや、受け入れる幸せもあるのではないかな?」


 レイニーさんがラッセルの言葉を後押しするように、諭すような優しい声をかけてくれる。


「ごめんなさい、婚約のこと、じっくり考えてみます。今はネコに、ネコになりたいよ」


 ラッセルにお願いすると、一瞬目を細め、一つ頷くとすぐにネコにしてくれた。その場で体ごと持ち上げられてベッド脇のカゴに連れていかれそうになったのだが、今はこの状態、ラッセルに抱えられている状態がとても心地よかったので、さらにお願いをした。


「お願い、一緒にいさせて。このまま抱えてて……」


 とそこまで言いかけて、ハッと我に返った。

 私ってば、さっきの動揺はどこいっちゃったのよっ。

 あんだけ恥ずかしい思いをして、自らまた恥ずかし行為をおねだりとか。


「どうした、眠るのではないのか? ならばここで良いか」


 私のお願いを聞いたラッセルが、歩きかけたのをやめてソファに座り直し、その懐に収めてくれようとした。ヤバい、顔見るとまた動揺しそう……


「あは、は、やっぱルディ。そう、ルディに抱っこしてもらいたいなぁ、なーんて。あはは」


 なるべく目を合わせないようにして、もそもそと動きルディのところに逃げ込んだ。ルディの脇からこっそり盗み見ると、ラッセルは私がすり抜けていったのが理解できない、といった表情で自分の両手をジッと眺めているようだった。


 いや、だってさぁ、こっちだって困るんだ。

 私ってば、こんなにチョロい女だったのかねぇ。自分で自分がわからないよ。


 ヤツにしてみれば、単なるリップサービスかなんかだったと思うよ。たったそれだけで意識しちゃうとか……今どきの小学生でも有り得ない展開だよね。


 隣に居たいとは思うよ。懐に抱えてもらいたいとも思うし、ずっとこの声を聞いていたいとも思う。声のトーンが程よい安心感を誘うからかなぁ、心地いいのよね。

 でもさ、既に男性として認識してしまった人への照れが先行しちゃうから……


 自分の顔が赤くなるのを感じた。とりあえずネコだから、三人には私の表情は知られてないと思うのだが。

 照れ隠しのためにそわそわと動き回って、ルディの周りをぐるぐると歩いた。こうすれば少し落ち着くかと思ったからだ。


 視線を感じて振り返ると、何故かラッセルが半目で私を睨んでいる。ビクッと体を固くしてルディにくっつくように隠れると、もっと刺さるような視線と威圧を感じる。


 こ、殺されそうや……視線だけで死ぬってこと有りなのかな。怯えて震えると、頭の上からレイニーさんの笑い声が降ってきた。


「師団長、いや元師団長ですかね。あまりサーラに厳しい目を向けられませんように。ほれ、このように怯えてるではありませんか」


 レイニーさんはものすごく楽しそうな、まるでどこかに隠れていた宝箱を見つけた子供みたいな表情でラッセルに話している。


「私がそのような目つきをしたというのか? 普段と変わらん。多少苛立ってはいるがな」

「ふふふ。その苛立ちこそが今のあなた様を物語っていますのよ? ようやく人間らしくなられましたねぇ」

「レイニー、何を言っている? 私が人間なのは当たり前だろう。理解できないぞ?」


 ラッセルが怪訝そうな視線をレイニーさんに向けて、戸惑いを見せながら話す。

 それを受け、ちょっとだけ意地悪そうにレイニーさんが口を開く。


「なぜ苛立つのか、ご自分がどうしたいのか、ようくお考え下さい。ただ……お気づきになられたその時は……それはそれで厄介なことになるやも知れませんねぇ」


 後半部分になるにつれ、独り言のように小さな声になっていたので、ラッセルには伝わったのかどうか。

 レイニーさんの穏やかな様子とは裏腹に、私はかつてないほどのピンチを感じていた。


「沙羅、ヒューズに迷惑がかかる。早くこちらへ来なさい」

「い、いやですぅ。ルディがいい、ここでいいですからぁ」


 私が喋るたびにラッセルの表情がどんどん険しくなってくるようで、それが余計に恐怖に感じる。最初のうちは恥ずかしさからだったが、そこまで強要されると、意地でも動きたくない。


「これ、聞き分けのない子供ではないのだから。ヒューズ、沙羅をこちらに」

「ひっ、あ、はい、はい。ぜひどうぞ」


 私に向けられていた視線の強さのまま、ルディに顔を向けたようで、彼はおっかなびっくりの状態で、すぐさま私を差し出す風に構えた。


「あでっ、や、やめっ。サーラ、痛えっつーの、離れろっ」

「やだっ、ルディがいいモンっ!」


 必死で爪を食い込ませルディの体にしがみついた。


「チッ」


 たぶん舌打ちした音なんだと思う。その瞬間、私を力任せに引っ剥がそうとしたルディが脱力した。


 おや、と思い、私も力を緩めて上を見上げると、口をあんぐりと開け、目をこれ以上ないくらい見開いたルディがいた。隣のレイニーさんまでびっくり目をしながら口を半開きにしている。


 二人の視線の先には、眉間にシワを寄せた、これ以上ない程に不機嫌なラッセルがいた。その存在たるや、まるで魔王のごとく……


 これ以上ここに居てはいけない、私よりもルディが危ない。直感が私に戻れと訴えてくる。


「も、戻り、まーす」


 引きつった笑顔を貼り付けて、ラッセルの隣へストンと腰を下ろす。


 首根っこを摘まれて、散々な嫌味をあびるんだろうな、と覚悟を決めて身を固くしていると、意外にも、ヤツの手はゆっくりと頭から尻尾までを丁寧に撫でてくる。その目はさっきとは打って変わって、こちらがびっくりするほど優しくなっている。

 まるで壊れ物を扱うかのように、そっと添えられた手の感触は、今まで一緒に生活してきた中でも感じたことのない不思議な感覚だった。


「あ、ふ……ん」


 あまりの気持ち良さに大きく伸びをしてからその場で丸くなり、もっと撫でてと催促するように体をラッセルに寄せる。


 あれだけ射殺されそうな視線を受けたことすら遠い昔のことのように思われ、目を閉じて彼の指先の動きを全身で感じた。


「師団長……やり過ぎです」


 突然、凍ったような冷たい声が上から降ってきた。


「彼女はもうじきカシアス様のお側に控える者です。あまり感情移入なされませんように」


 レイニーさんの忠告ともとれる発言に、私を撫でていたラッセルの手がピタリと止まる。


 気持ちのいい時間が唐突に止まったのを不思議に思い、『もっと撫でて』とおねだりをするように目を開けてラッセルを見上げた。


 目が合った瞬間、フッと顔ごと背けるような態度を取られたことに、訳がわからず小首を傾げる。


 彼は素早く立ち上がって、私を撫でていた手を胸元でキツく握りしめ、部屋の扉へと向かった。


「わかった。少し頭を冷やさねばならんようだ……出かける」


 そう言い放つと同時に部屋を出ていき、残された私たちは呆然と見送るしかなかった。


「ええ、なんで行っちゃうのぉ。もっと相手して欲しいのにぃ」


 恨みがましい声でつぶやくと、その言葉に反応したルディが、いかにも残念そうに私に向かって言った。


「お前、無自覚かよ……そこまでされといて……このバカ」



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