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52.何でよ!

「先ほどの師団長の話は理解できたかな?」


 レイニーさんは、一つ一つ丁寧に説明をすることで、私自身の立場や身の振り方を教えてくれるようだった。


「えっと、第一王子がご病気だからハルが王宮に戻るんだっけ? で、ラッセルがその補佐になるってことだったよね」

「概要はそうだが、内情はもっと複雑なのだ。これについては……と、この部屋で説明するのはマズいか。そうだな……二人とも待っていなさい」


 そう言い残して、私とルディを置いてレイニーさんはどこかへ行ってしまった。


 あらら、と二人で彼女を見送っていると、いつの間にか私に挨拶してくる人たちに周りを囲まれていた。皆、私の境遇を理解できている人たちらしく、口々に励ましの言葉をもらう。

 それにしちゃ、ずいぶんとキラキラな顔して挨拶くるんだよなぁ。私、アイドルでも有名人でもないんだけど。


 必殺営業スマイルで次々に応対して、合間をみてルディにこっそり話しかけた。


「ねえ、この人たち、私のことをずいぶん美化してるみたいなんだけど。私ってどんな風に言われてんの?」

「ああ……魔力衝突によって帰るところを失った可哀想な少女なんだとさ。魔力のない世界からやってきているが、唯一、自在に姿を変えられる魔術を使える特殊な人間だとも」


 半分は合ってるけど。しっかし可哀想ってなんだよ、アタシャ家なき子かいな。しかも変身はラッセルにお願いしたらできるってだけで、私が特殊魔術を使えるってことじゃないんだけどなぁ……


「何か微妙に違って伝わってるっぽいよ? 後でみんなに正しいこと教えてあげてね。でも何でこんな風に崇拝するっぽい目で見られてんのかしら?」


 途端にルディはへへん、と自慢気に胸を反らしながら話してくれた。


「この間のパーティーの一件だよ。サーラがカラダ張ってカシアス殿下を見事にお守りしただろ? 魔術も使わずに。あれがみんなに評価されてるんだよ。俺もサーラをエスコートしていった者として鼻が高いよ」

「はぁ、そうなの……」


 あん時は大失敗だったじゃないか。

 毒盛られたのも気づかなかったし、ハルは首絞められて窒息直前までいっちゃうし。

 あの場で止められたのもラッセルのファインプレーだし、私は毒飲んでその場に釘付けにされただけだから。いいとこなんて一つもないよ。


 ルディってば、毒盛られた失敗をあんだけコッテリ絞られたのに、もう忘れてるってか? ホントへこたれない男……てか、単細胞なだけか、おい。


「サーラ、俺、お前に謝らないといけないと思ってたんだ」


 ん? と首を捻ってルディの方に向けると、鼻の頭を照れくさそうにして掻きながら話を続けた。


「一番最初にサーラに会った日さぁ、思いっきりレディじゃねえとか否定しまくって悪かったよ。今のサーラはどっから見ても、いいとこのお嬢様だ。きっとカシアス殿下のために頑張ったんだよな。すごいと思うぜ」

「え、そ、そうかな。ありがと。ルディに認めてもらえるくらいにはなったんだね。頑張った甲斐があったよ」

 

 口では素直にお礼を言ったのだが、そのキラッキラな笑顔をこちらに向けるのはヤメテクレ。

 しかも超恥ずかしいことに、私がいかに努力してきたかを一つ一つ引き合いに出しては、みんなの前で褒めちぎってくれる。ああ、ルディを先頭に、みんなのお尻に見えない尻尾がついている……その尻尾がパタパタと……


 ホントのところ、ハルのために頑張ったんではない。ラッセルに唆されて、売り言葉に買い言葉的意地でここまでやってきたに過ぎないのだ。

 結果オーライって言えばそうなんだけど、ルディの悪意のない爽やかな笑顔には顔向けできないよ……


 トホホな気分でやり過ごしていたら、さっきどこかへ消えてしまったレイニーさんがやってきた。

 救いの神だ……ホッとしてレイニーさんを迎える。これ以上ルディにツッコまれないように、敢えてそっちを見ないようにして彼女の話に集中することにした。


「師団長の許可をいただいてきたから別室に移動しよう」


 そう言って私を送りがてら、三人でラッセルの部屋へと戻ってきた。


「さて、まずはどこから話をしようか」


 どこからと言われても、皆目検討もつかないので、無言のまま首を横に振ってレイニーさんが喋るのを待つことにした。

 それをみた彼女が小さく頷いて話を始めた。


 それによると、第一王子の病気というは、肉体的なものではなく精神的ダメージによるところが大きいとされている、というのだ。


 ハルが事故にあった頃から少しずつ何かに怯えるようになってきて、一年も経つと自室にこもるようになってしまったらしい。事故をきっかけに、自分へかかる周りからのプレッシャーに耐えられなかったのではないだろうか、というのが一部の人たちの見解だそうだ。


 確かに、重要案件が何件も重なって、決断を迫られたりすると、それをプレッシャーに感じるのは仕方ないことかも知れない。


 でも今のところ王様だって現役だし、第一王子を補佐してくれる人なんて何人もいると思うんだよね。そこまでナーバスになるなんて、何か他に原因があるとしか思えないんだけど……なーんて心配したって、私には関係ない話だよね。スルーしとこ。

 気を取り直してレイニーさんの話に耳を傾けた。


 第一王子の病状は、ハルが意識を取り戻してから加速的にひどくなっていき、今では離宮に引きこもってしまい、一切の公務を放棄しているのだという。


 さすがに王様も、この第一王子に国の未来を託すのは難しいと判断し、第三王子のハルに公務復帰を促すことにした、というのが現状らしい。


 このままハルの公務が軌道にのって、国の運営が上手く回るようであれば、第一王子を廃嫡してハルに国を継がせる計画まで持ち上がってる、という噂もでてるのだそうだ。


「ハルってばすごいじゃない。もしかしたら王様になるってことだよねぇ。あの子も出世したモンだ」


 うんうんとアゴに手を当て目をつぶって頷いていると、ルディがツッコミが入った。


「お前なぁ、よく考えてみろよ。カシアス殿下が唯一気に入ってる女の子はお前だ。殿下がお前をパートナーに望めば、文句なしにお前がこの国の王妃になるってことだってあり得るって話しだぞ?」

「はあ? 私が? いやいや、そりゃ無理だって。だってハルのお嫁さん? 向こうは弟クンみたいなモンだし、恋愛対象なんてならないわよぉ。私もエセお嬢様だしさ、釣り合わないって」


 井戸端会議してるおばちゃんみたいな仕草で、ルディのセリフを否定したら、横からレイニーさんが口を挟んできた。


「いや、王族の命令は絶対だ。サーラが否定しても殿下が望めば君が殿下の婚約者となる」


 なんと……思わず絶句してしまった。


 私の気持ちは無視なんかいな。借金やら何やらのカタに無理矢理嫁がされるっぽいこの流れ……戦国時代かっ!


 ふざけるなっ! 私にだって意志はある。

 私は私の気持ちが納得しなければ、ハルのお嫁さんになる気なんてないわよ。それに周りがお膳立てしたレールにそのまま乗るなんて気に入らないし、私のプライドが許さない。


 口をへの字に曲げて、今思っている不満を顔全体に貼り付けてレイニーさんに訴えた。


「いくら王族だって、相手の意思を無視した行動をとり続けてたら、しっぺ返しを喰らうものよ。私は自分が納得できなければ、そのお話を受けることはできません!」


 レイニーさんはルディと顔を見合わせて、軽くため息をつくと、口を開けて何かを言おうとしたのだが、その口を一旦閉じて、少し間を置いてから説得するかのようにもう一度口を開く。


「サーラ、それは……」

「沙羅、それは君のわがままというものだ」


 レイニーさんの言葉を引き継ぐかのように、ラッセルが部屋に入ってきて、ソファに腰を下ろしながら話し始めた。

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