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49.お出かけ!

 空間移動の魔術で、立派な建物の前に到着した。

 門番が警護している門を何個かくぐって、ようやく目的の建物の中に入った。

 ずいぶんとものものしい警備態勢だこと……


 ラッセルの懐に入りながら感心してあたりを見回した。


「ねえ、ここどこ?」

「いづれわかる」


 短い答えを聞きながら通された部屋は、調度品のセンスもかなり良さげなものが取り揃えられたオシャレな部屋だった。そこでネコから人間に戻され身なりまで整えられると、官吏のような人がやってきて、別の部屋へ移動するように促された。


 ラッセルと先生の後ろについて、キョロキョロ様子を窺いながら歩いていると、ひときわ豪華な扉に通された。


 目の前には人の良さげなおじ様が、デーンと椅子に座ってる。なんとなく想像した感じ、相当エラい人だよな、とは思えるワケよ。


 私らが近づくと同時に向こうも立ち上がり、中間あたりで立ち話しか? と思ってたら、こちら側の二人は跪き頭を下げて挨拶をしている。釣られて私も床に直接正座した。


 跪くって習慣がないからしゃがむ、というより正座かな、と思って。ヒールが邪魔するけれど、大した窮屈さはないからね。

 でも、なんで座ってんのか理解できないのでボーっとおじ様を眺めるだけになる。


「……羅、沙羅。ご挨拶を、この国の王だ」


 小声でラッセルから指摘され、ハッと気付いて慌てて頭を下げる。


「はじめまして……って、何? ええ?」


 途中から言われた内容が理解でき、軽く下げていた頭をガバッと起こして、素っ頓狂な声をあげた。

 ラッセルは眉間のシワを軽くもんで渋い顔をするし、コークス先生は笑いを抑えるのに必死で肩を震わせながら真っ赤になっている。


 おじ様、もとい王様と自分と側の二人を順番に指差して、それを何度か繰り返してると「指を指すんじゃない」と杖でおでこをゴツンと叩かれる。


「みぃー……」


 叩かれた場所を両手で押さえ、言葉にならない声で抗議する。

 びっくりしただけなんだから、そこまで痛くしなくてもいいじゃない……声にだしたらまたケンカになりそうだったので、ここは大人な私がグッと我慢してあげた。


「ああ、気にせずとも。可愛いレディだな、ジークハルト、君のパートナーか?」

「私は彼女の後見をしているに過ぎません。むしろカシアス様の大事な方になられるかと」

「ほお、カシアス、のか」


 王様はしっかりと私のに立ち、じっくり見定めるように見つめてくる。目力の強さに少したじろいだが、ここで目を逸らすのは、なんだか負けた気分になるので、遠慮なく見返してやる。


 睨み合いではないが、しばらく無言の対面が続いたあと、突然王様がプッと吹き出して、腹を抱えて笑い始めた。


「ここまで私を不躾に見つめ返してくる者は、君とレティシアくらいなものだよ。気に入った。これからは君一人でも出入り自由にして良いぞ。ええと、名前は何と言ったかな?」

「沙羅です、月宮沙羅。サーラとも呼ばれています」

「そうか、サーラか。また遊びに来なさい」


 ニコニコと歓迎する言葉をくれた王様を、近寄りがたい雰囲気を出しているのかと想像してたが、結構気さくな方で、とても親しみやすい人物だった。


 出入りの許可ももらえたことだし、今度探検しに来ようかな。王宮の中なら危険なこともないだろうし、ラッセルだって安心できるはず。一度部屋に戻ってから交渉しようっと。


「ところで王太子殿下の容態はいかほどに?」


 ラッセルが私を紹介した時とは明らかに違う声色で、王様に問いかける。


「それがなぁ……カシアスが王宮(ここ)を出た時期にだいぶ良くなったと思ったのだが……徐々に悪化していってな。最近では離宮から出ようともせん。困ったものだ」

「左様でございますか。医者の見立てでは何と?」

「何も。心の問題とだけ。あの子が望むままのことをさせ、見守るしかないそうだ」


 先ほどの穏やかな雰囲気が一変して、王様もやや緊張した声でやりとりをしてる。若干落胆した声と表情なのは、王太子の容態があまり良くないからなのだろう。


「そこでジークハルト、折り入って君に相談なんだが?」

「なんなりと」


 即答するラッセルに歩みより、王様自ら床に跪いて彼の手をとって話した。


「君には酷な場所かもしれんが、今一度王宮(ここ)に戻ってきてはくれないか。無論多くは望まない、カシアスの補佐という役目ならばどうだ? 私はそれで構わないから」

「あ……ですが私は……」


 そう言ったっきり、ラッセルは黙り込んでしまった。

 ちらっと様子を窺うと、キツく眉根を寄せて、何か葛藤しているような感じだ。彼のこんな苦悶の表情はあまり見たことがなかったので、びっくりしてコークス先生の方を見た。先生なら王様の提案に対して、ラッセルにいいアドバイスをくれると信じたからだ。


 ところが、先生もラッセルと同じような表情で固まっている。

 まるで解けない問題を前にした生徒のような二人に、なんとかしてあげたいと私が脇から口を挟んでみた。


「あの……王様? 今すぐにお返事をもらわないといけないお話なんでしょうか? お二人も考えをまとめないとお返事出来なさそうですし、明日以降に出直してお返事するのでどうでしょう?」


 私の提案に、王様はハッとした表情になり、すぐに謝りの言葉を言ってくれた。


「すまんすまん、つい急ぎ過ぎた。そうだな、即答はできんだろう。ワシも余裕がなかったかのぅ」


 照れ笑いをしながらラッセルの元を離れ、私の手を引いて一緒に立ち上がった。そのまま隣の応接間に通されて、お茶とお菓子を勧められた。


 魔術師団の中だと大抵の場合お茶しか出なかったのよ、久しぶりのお菓子にほっぺを押さえて幸せな声を出してしまった。

 やっぱりいくつになっても女子の心を掴むのは甘いものだわ。


 その日の訪問はこれでお開きとなった。私の機嫌がいい以外、二人ともどんよりと難しい顔をして、部屋へ到着するや、すぐに会議を開いて話し合いになるような会話をしていた。


 また一人か……でも今日は少しだけお出かけできたし、美味しいものも食べられたし、良しとするかな。


 夜もかなり遅くなった時間にラッセルが戻ってきたようだった。かなり憔悴しきった様子で、ソファにドサリと体を投げ出すと、天井をジッと見つめて考えごとをしている。


 こんな時ってどうしてあげればいいんだろう……


 こんなシチュエーション、私がやってた乙女ゲームの中でも出会わなかったし、リア生活でも経験ないもの。

 もともと当たり障りない人生だったし、そこまで深い人間関係にあった友達もいない。


 とりあえず何か声をかけて、彼の気分が晴れるような話しとかで気分転換させてあげるのが一番かな。


 前の生活で日課になっていたお笑いDVDの中から、選りすぐりのネタをピックアップしてからラッセルに近づいた。


 ん? ずいぶんとお酒臭い……

 この人滅多にお酒の匂いなんてさせないと思ってたんだけど……って、一回も嗅いだことないかも。

 普段なら、飲んでも軽くか、魔術で臭いや酔いをなかったことにしてるのかも。ルディとかも言ってたもん。次の日の訓練に差し支えるから、あんまり飲まないか、飲んだ後はアルコール成分を分解する魔術を使うって聞いたし。


 ラッセルほどの人がこんな状態になることにびっくりだ。今日、王様から言われたことがそこまで影響するとか、私的には思えなかったんだけどな。ハルの補佐ってそんなに嫌な役目なのかしら? 考えたら気になってしょうがなくなったので、思い切ってきいて声をかけてみた。


「ねえ? 何がアンタを悩ませてるの?」


 私の声にビクンと反応し、ノロノロとした動作で顔を戻し、焦点の合わない目でこちらを見る。


「母上……まだ私を許してくれないのですか……私は……私……」


 おんやぁ? 話しが噛み合ってない。相当酔いが回ってるよね。ダメだこりゃ、さっさと寝てもらって明日の朝、スッキリしてからだな。

 とりあえずは、この酩酊状態のコイツを動かすか。


 あの手この手でラッセルをなんとか立ち上がらせ、ようやくベッドまで連れていったら、私までお酒の臭いにやられたようで、ヤツが横になったのを確認したと同時に眠りに落ちたらしかった。


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