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41.恥ずかしいからっ!

「ハルったら一体どこにいるのかしら……」


 フロア中央の近くに出向いてキョロキョロと見回すと、少し外れた窓際のあたり、人だかりの中にその姿を見つけた。


あー……こりゃダメだな。 

声をかけようと側に近づいてみたけれど、若いお嬢さんのパワーにはさすがに勝てず、取り巻きの中に入ることすら出来ないでいる。おそるべし、お嬢様。


「ふう、このパワーが私にもあれば、彼氏いない歴イコール年齢なんてことにはならなかったよね。羨ましいわぁ」


 ため息混じりに呟いていたら、渦中にいるハル、ではなく隣で群がるお嬢さんたちを上手に捌いているフィルと目があった。私とわかるとちょっと目を見張った様子だったが、ハルにそっと耳打ちして私の存在を教えてくれたようだ。


 それに反応した彼は、こちらに目を向けてはくれるのだが、上手いこと合間を縫って私の側に寄ってくるなんて芸当はまだできないようだ。


 タジタジになりながらも一生懸命応対している姿を見て頑張ってるなぁって感心しているあたり、もはや保護者の感覚かいな。

 救いを求めるような目で見られても、私もこのお嬢さんたちをかいくぐってハルの元に辿りつく自信もないし……お互いに情けない苦笑いをしながら無言で見つめ合うしかなかった。


 と、中心の方から、歓声とため息が入り混じるようなざわめきが起き、私の近くに陣取った方々もそちらの方へと視線を動かす。釣られて私も、そしてお嬢さん軍団も意識がそちらに向けた。


 視線の先には、ロイズ、レイニーの隊長ペアが優雅なダンスを披露していた。

 二人とも大柄な上に引き締まったボディの持ち主なので、見応えも十分だ。音楽に合わせたその動きも、ポイントポイントでピタッと決まるので、まるでお手本のような素晴らしいダンス。


「すっごい素敵だわぁ。でもなんとなく闘志が垣間見えるのは……気のせいよね」


 一見優雅に見えるダンスだが、ところどころでアレンジが加えられて、お互いがそれについてこれるか、と挑発しているみたいなんだけど。たぶんあの二人のことだ。レイニーさんがけしかけて、それをロイズ隊長が上手いこと(さば)いてるってところかな。

 ロイズ隊長って、優男(やさおとこ)風でレイニーさんの尻に敷かれてるかと思ってたけど、意外に抜け目ないのよねえ。押さえるところはしっかりと押さえて決して主導権を握らせない感じ。

 ラッセルやコークス先生も一筋縄じゃいかない人だけど、この人も同じ匂いがする。敵には回したくない相手だが、味方についてくれれば頼もしい存在って感じ。


 毎回のように喧嘩をけしかけているレイニーさんも、本気でロイズ隊長を嫌っているワケでもなさそうだし。そう考えると、喧嘩をダシにしてロイズ隊長に絡んでるってことかしらん?

 今だってなんだかんだで楽しそうだし。


 ん? なんだ、レイニーさんってばロイズ隊長が好きなんかいな。納得できる答えに辿りついた満足感で、ニヤニヤと顔の表情がつい緩んでしまう。

 本っ当に全く気付きませんでしたよ、一本とられちゃいましたわい。改めて見ると、そんな分かりづらいアプローチをしているレイニーさんが可愛くみえてしょうがない。

 今度顔合わせた時にでも聞いてみようっと。


「俺もあのくらいしっかりと踊れたらよかったんだけど。ガッカリさせちゃったかな?」


 聞き慣れた、小さな声を隣で感じ、ハルが来てくれたのがわかった。

 どうやら、お嬢さん軍団が隊長ペアのダンスに心奪われてる隙に、間をすり抜けてたどり着いたらしい。先程の彼女らの奮闘ぶりとハルの対応を思い出して、クスッと笑いが込み上げてくる。


「あ、やっぱり? 結構頑張ったんだけどなぁ。今ひとつ決まってなかったしね。もう少し練習が必要だよね、うん」

「ううん、違うの。ハルもずいぶん成長したな、と思ってね」

「何、それ? 俺サーラと居る時ってそんなに子供だった?」


 ちょっと拗ねたような物言いに、またまた笑いが込み上げる。周りに迷惑にならないよう、なるべく小声で会話するように気をつけてハルの耳元で囁いた。


「いやいや。だってさ、入学したてのハルってば、アフロちゃんたち女子に話しかけられたら無言で逃げてたじゃない。今じゃしっかり会話が成立るんだもの。これを成長と呼ばずして何と言うのさ」


 私に指摘されて恥ずかしいのか、軽く頬を染めて弁解がましく呟く。


「そりゃ俺だっていつまでも女性の前で固まってらんないからね。サーラの期待にも応えたかったし」


 ん? 私の期待? そんなことしたかしら?

 心当たりがなくて首を捻ってると、耳元で「外に出ようか」と手を差し出される。言われるがままに連れ出された先は、ライトアップされた見事な中庭だった。


 会場の熱気に当てられた人たちの休憩場所に、と準備されていたのか、静かに会話を楽しみたい人たちがちらほらと、ベンチに座ったり散策したりしている。


「ふう、ようやく息抜きができる。ここならゆっくり話しができるって。アフローディア様から前もって教えてもらってたから」


 そう言いながら、ハルは眩しそうに目を細めて、私を眺めている。繋いだ手と反対側の手もとられたので、正面からマジマジと見られている状況に、居心地が悪くなって俯向きがちにもぞもぞと体を揺すった。照れからなのか、全身が火照って汗が滲み出てくる。


「あ、あんま見ないでくれる? 恥ずかしいから」

「何で? 人間でいるサーラと長い時間過ごせるんだもの、もう少し見させてよ。可愛いし、似合ってるよ、そのドレス」


 男性に褒められることが少ない私のことだ。ドキドキを何とか誤魔化したくて、握られた両手を放し、ドレスを軽くつまんでクルリと一回転してお辞儀をしてみせた。

 それに呼応して、ハルも気取った雰囲気で「お嬢様、お手を」と言いながらダンスに誘ってくれた。ツンと澄ましてその手を取ると、ちょうど会場からゆったりとしたワルツの調べが流れてくる。

 クスクスと笑いながら、その流れにのるように踊りはじめ、積もる話に花を咲かせた。学校のこと、フィルたち友達のこと、女子に襲われそうになった話しまで飛び出した。踊りながら、ベンチに座りながら、散策しながら、と楽しい時間はどんどん過ぎていく。


「ラッセル様から時々サーラの様子を窺ってたんだ。サーラはマナーや勉強、ダンスまで必死になって練習してるからってね。いづれ俺が迎えに来る時には完璧な女性に仕上げますって。だから俺も負けてらんないと思ってさ。サーラを守れるくらいしっかりした男になるんだ」


 意気込みのせいか意志の強さの表れなのか、重ねている手をギュッと力強く握られ、びっくりして顔をしかめる。


「あ、ご、ごめん、痛かったよね。自分のことしか考えてなくって……力入っちゃった。やっぱりまだまだ兄上やラッセル様のような女性に対する気遣いなんてできないや」


 しょんぼりとした言い方に、慌ててとりなすように元気づけた。そんなに刺さる態度だと思ってなかったので、握られた手を逆に握り返して弁解しまくった。


「誰かと比べたって意味ないよ、ハルはハルなんだから。ハルらしく誠実に相手に向き合ってくれれば、もうそれは立派な大人ってことなんじゃないのかな? 私はそう思ってるし、そういう行動ができる人って好きだな。うん、惚れちゃうかも」


 私の言った言葉を受けて、ハルはまたマジマジと私を見つめ返してきた。あまりに真剣に見てくるモンだから、ちょっとおよび腰になってくる。


「……どうしよう、サーラ。今、無性に君にキスしたいんだけど……ダメ?」


 えーっ! そんなこと言われたことないしーっ!

 こんな時ってどう対応するのが正解?

 口を半開きにしたり閉じたりと、緊張のあまりゴクリとノドが鳴る。


 ハルがジリリッと半歩前に足を動かすと、私は条件反射でか、半歩足を後ろに下げてその距離を保とうとする。恋愛レベルが超低空飛行の私の頭はすでにパニック状態。


 思い出せ、私。こんなシチュエーションの時、乙女ゲームだったら何を選択した?

 ぐるぐると昔の記憶を辿ろうとするが、上気したハルを目の前に、考えが錯綜してドキドキが止まらない。


 自分の心臓が胸から飛び出してノドやら頭に動いてきてるみたいだ。

 ガンガン、ガンガン……まるで鉄を叩いているような響きが頭いっぱいになり、視界が暗くなってきてふらりと足元が不安定になる。


 同時に会場でもザワザワとした声や悲鳴のようなものまで聞こえてきた。

 こちらの中庭でも倒れる人が続出しているようで、みな胸や頭を押さえて苦しそうに膝をついてるのを視界の端に捉えた。


 微かに目を開けると、焦ったハルの顔が見える。

 何か必死に喋っているが、ボーっとしてうまく聞き取れない。これ以上心配させたくなかったので、鉛のような腕をゆっくりと持ち上げてハルの頬に触れ、そのまま気を失った。


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