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39.やったるぜぃ!

『必ずあなたが犯人だって証拠を掴んであげるからねっ』

 

 そう宣言してから十日ばかり経った。


 こちらの世界の不思議に巻き込まれてしまった衝撃的な現状なんか吹っ飛んだ気分になっている。今はもう、なぜとかどうして、などという疑問は考えないことにしている。考えても答えがでない疑問について考えるのは止め、目の前の問題を解決することに全力を尽くすことにした。


 ここで生きることが私に与えられた使命と考えるならば、それを受け入れることが次に進む第一歩なんだろう。

 その先にどんな人生が広がるのか、自分の目でみるのも面白い。


 帰れないなら楽しもう。

 頭を切り替えれば新しい世界が広がっている。これからは自分の感じたままに行動してみるのもいいだろう。新しい世界と新しい自分、どんなことが始まるのだろうか。


 今回与えられた役柄は『貴族の娘』

 ありったけの知識と情報を詰め込んでその役を演じつつ、ハルを魔女の手から守る、ということだ。


 そして今日が作戦決行の日、つまりロックウェル伯爵邸でダンスパーティーが開かれる日だ。


 朝、ニコニコ顔のコークス先生に叩き起こされ、あれよあれよと言う間にダンスレッスン場へ連れてこられた。普段はまだ眠っている時間なのでいつの間にネコモードが解除になったのかさえ覚えていない。


 やっとのことで頭を回転させると、なんだかピリピリした空気がレッスン場に漂っている。

 おやや? と首を傾げていると、お手伝いさんらしき人たち数人に一斉に囲まれて、頭の先から脚の先まで念入りに磨きをかけら始めた。


 そしてそのままバフンとドレスを被されるや、今度はサイズの微調整が始まった。その間にも腕や顔に訳のわからんクリームやら色んなものをつけられて、神経の半分がすり減る頃に、ようやく夜会の支度が終わった。


 今日のドレスは黄色のメインカラーに薄くて白いレースを被せた、ふんわりとしたイメージのものだった。黄色なんて洋服、事務の仕事してた頃には考えもしなかった色合いだ。普段の私はベージュやグレーなど、目立たない色の洋服しか着たことがなかったからね。


 改めて鏡で見てみると、なかなか可愛く仕上がっている。髪の毛はクルクルと緩やかに纏められ、ぽってりとした唇と甘めのお化粧を施してもらって、自分が自分じゃないように感じる。


 お手伝いさんたちが小物を片付けていると、先生がひょっこり顔を出して、私の出来栄えを確認しにきたという。


「サーラ、今日のあなたはとても美しい。どこから見ても貴族のお嬢様ですよ。さすが長の見立てですね、あなたの名前の通り『月』をイメージしたドレスがピッタリです」


 リップサービスだとわかっていても、そこは女の子だもん、褒められると嬉しいワケよ。

 ただ哀しいかな、男性に褒められる経験がほぼゼロに近い私には、その言葉がこそばゆくてお礼よりも照れの方が先行する。


 ボッと火照った顔を元に戻そうと、手でパタパタと顔に風を送りながら、逆にあたふたしてしまう。


「ああ、あ、ありが……とましゅ、でないくて」


 あ、噛んだ……慌てて訂正しようとしたが、それもテンパってグズグズな言葉遣いだし。

 あー穴があったら入りたい……


 先生がクスクス笑いながら今日の段取りをもう一度教えてくれた。


 伯爵邸に着くまではルディのエスコートで行くことになる。パーティーの始まりは、伯爵の簡単な挨拶からで、ファーストダンスは伯爵令嬢のアフロちゃんと、ハルが踊るんだとか。


 ハルは成績優秀者であると同時に、暗黙ながら王族であることが一部の方たちに知られているので、令嬢の相手を務めるには彼だろう、ということになったらしい。


 アフロちゃん的にはルディと踊りたかったらしいが、学校内の交流会という建て前でのパーティーなので、ハルを相手にするのを渋々ながら承諾したという。先生が余談として教えてくれた。


 伯爵邸に向かう途中でルディにそのことを話したら、ファーストダンスを一緒にできない愚痴をアフロちゃんから散々聞かされたといってぐったりしていた。二番目以降のダンスからは散々連れ回されるんだろうなと、苦笑を浮かべたルディの方もしっかりと愚痴をこぼしている。

 その割にあまり嫌そうな顔をしていないのは、案外アフロちゃんのこと気に入っているんだろうと窺えるようだった。

 ちなみに私もハルから事前に連絡をもらっていて、二曲目以降のダンスを一緒に、と誘われている。


 最初のダンス以降は相手を選ばない、フリーのダンスパーティーということにしてあるので、私は次からのダンスの相手と護衛を務めるべく、ハルの側に行く予定だ。


 容疑者のミリィちゃんは伯爵邸の使用人ではあるが、同級生同士のパーティーということで、一日お休みをいただいているという。

 彼女がパーティー会場にいるなら私たちも警戒しやすいだろう。ハルに近づいて、その場で襲うなら現行犯逮捕。そうでなくても、怪しい動きをしたら確保できるように体制は整っているらしい。


 魔術師団からも何人か派遣されていて、随所に護衛として待機してるということだ。私やハルが危ない目に合わないように、すぐ近くにいるらしいので安心するように、ということだった。


 さあ、直接対決といきましょうかっ!

 そろそろ伯爵邸が見えてきた。自分の心の中で、今日が正念場だと気合いを入れる。


「いざ、鎌倉!」


 右手の握りこぶしを天に突き上げて大声を出してもう一度気合いを入れた。


「は? お前、何やってんだ? 急に大声出したと思ったら……そりゃ女のする格好じゃねぇぞ?」


 ルディに言われてハッと周りを見ると、正装をした男性や女性が、奇妙なものを見るような目を一斉に私に向けていた。


 あ、忘れてた。私もドレスだった。

 ドレスを着た若い女性が仁王立ちして拳を突き出すなんて……パーティーが始まってもいないうちから悪目立ちし過ぎだわ。


 コホンと小さな咳払いをして最高の笑顔でルディの脇に隠れた。


「ちょ、ちょっとさぁ。サーラ、隠れんじゃねぇよ、俺が馬鹿やったみたいじゃないか。また隊長や団長からお仕置きされ兼ねない。お前が前に出ろ」


 そう言ってルディは私を前面に押し出して斜め後ろをチャッカリとキープして歩こうとする。

 またも変な目の対象が私になったのを感じ、抗議のために首を捻ってルディに怒鳴ろうとした時だった。


「レディ、可愛い顔が台無しになりますよ。あなたは貴族のお嬢様でしょ? 優雅に、優雅に」


 あん? とその言葉の主に視線を合わせると、正装したロイズ隊長とレイニーさんだった。


「うっわ、お、お疲れ様です隊長。今日も格好よく決まってます。姐さんも今日はまた一段と色っぽいですね」


 ルディが二人に向かって直立不動の姿勢をとって挨拶する。


 確かに今日のロイズ隊長は周りを圧倒する格好良さだ。加えてレイニーさん。大胆なカットのワインレッドのドレスを艶やかに着こなして、女性の魅力を最大限に引き出しているような感じの姿だ。

 周りの人たちも、この二人が通るとため息が漏れて、しばし動きが止まるようだった。理想のカップルとはきっと彼女たちのことを言うのだろう。性格はこの際目を瞑っとくとして。


「今日は君たちの保護者という名目でお邪魔することにしたんだよ。まあ、一般の人たちの目をカシアス殿下から逸らす役割を担っているのもあるのだが」


 なるほど納得だ。二人がいなければ、注目はアフロちゃんとハルに集中するだろうし、ミリィちゃんが狙いづらくなるだろう。


 何せ王子様かもしれない男の子が側にいて、成績優秀者とくれば、婚約者候補としてアピールする同級生やその保護者が群がるのは必至だ。

 本来なら願ったり叶ったりなのだが、今回ばかりは隙をつくって相手を誘い込まなければ意味がない。


 二人が中央フロアでダンスなんかしちゃった時には、充分一般客を惹きつけられるだろうし、ハルへの関心も薄れるだろう。

 そしてその時がミリィちゃんとの勝負の時かもしれない。


「な、なんか急に緊張してきた……ルディ、私がヘマしないようにギリギリまで側にいてね」

「お、おい。変に緊張すんなよ、俺にまで移るじゃねぇか。俺だって初めてのダンスパーティーなんだし……失敗したくねぇからな」


 ルディと二人、ビクビクしながら話してるとレイニーさんがクスクス笑いながら元気づけてくれた。


「王宮のパーティーでもないから安心しな。今日練習しときゃ度胸もつくって。失敗しないように、じゃなく楽しまなきゃ。間違ったら笑っときゃいいんだよ」


 それを聞いて二人でコクンと頷いてから一礼し「行こう」とルディが私の手を取ってくれた。


 この階段を登りきった先から、私は貴族の娘としてデビューする。後戻りできないこの役を演じながらハルを守る。


 時と舞台は整った。

 さあ、ダンスパーティーの始まりだ。


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