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37.衝撃の事実!

「サランディアさんが追放者にならなければいけなかった事情って何なんですか? 彼女をそこまで(おとし)める必要があるなんて、王族ってそんなに傲慢なんですか?」


 怒りのあまり強い口調で責めるように声を荒げた。だって、あまりにサランディアさんが虐げられてる気がしたんだもの。

 それに対し、先生はやや困ったような表情をして、ラッセルをチラリと見てから、ひとつため息をついて口を開こうとした。


「それについては私から説明をしよう」


 今度はラッセルがコークス先生の後を引き継いだ形となって、サランディアさんの話をしてくれた。


「長……」

「私から話すべきだ。彼女をあの立場に追いやった関係者としてな」


 コークス先生はなんとも言えない表情をしながらラッセルを見つめている。対してラッセルは、軽く目をつぶって少ししたかと思うと、やがて意を決したように毅然とした表情で口を開いた。


「四年前、第三王子であるカシアス様が落馬の事故に遭われ、昏睡状態になってしまわれたのだ。全てはそこから始まっている」

「え? ハルが関係してるの?」


 彼は無言で小さく頷くと、少し俯きがちに座り直し、説明してくれた。


「当時、ラムダス皇国の第一皇女からカシアス様に婿入りの話があり、婚約披露まで整えてあとは挙式のみ、というところだった」


 少し目を細めて、昔を思い出すように片手をアゴに添えながら説明を続ける。


「皇女に釣り合う年頃の王子も他国には少なく、カシアス様は婚約者候補の中でもかなり優秀な方だったため、白羽の矢が立った」


 落馬した日はラムダス皇国に出立する数日前に起きたことなのだそうだ。


 婿入りした後だと、こちらの国に戻ってくることもほぼないだろうということで、数人の伴を引きつれて最後の遠乗りに出かけたらしい。

 ひと通り楽しんだ後に引き返そうとした時だったそうだ。何かに驚いた馬が制御不能に陥り、手綱から手を放したハルは落馬、落ちた体勢が良くなかったらしい、頭を強く打ってそのまま意識不明になってしまった、というのがこの時の状況だったという。


 一報が入った時はみな動揺し、ラムダス皇国にどう伝えるべきか、相手国がどういった態度を示してくるか、王宮では不休の対策会議が開かれた。


 こちらからは正直に、第三王子が事故で昏睡になり婚姻は難しいと申し出たそうだ。


 しかし相手国は納得せず、最後の最後に第三王子の婿入りを渋って約束を反故にしようと企んでいる、と捉えたらしい。自国が侮られた、婚約披露までした皇女を放り出した、として国をあげて攻め込む様相になったらしい。

 損害賠償として国の一部を明け渡し、ラムダス側の領地にするやら、ルシーンをラムダスの管理下に置くことなどもささやかれ始め、事態はルシーン側にとって、かなり厳しい方向へと進みかけようとしていた。


 ラムダス側もこれを機会とばかりに、ルシーンの弱味を握るべく政治利用に動きだしたわけだ。


 国力、軍事力など、圧倒的に劣る当国には打つ手も少なく、相手国の要求を呑むしかないと考える者も多かった。


 そこで立ち上がったのが第二王子であるブランドールである。


 自身がラムダスに赴き、第一皇女の婿に入る、というのだ。

 たしかに、第三王子の代わりとして第二王子が婿に入るのは悪くない話だ。ラムダスの面子(めんつ)も保たれるし、第三王子よりも魔力、政治力がある人間がラムダスの手の内に入るのならば、この提案を受け入れる方が得策になるはずだからだ。


 ただ一人、この提案に納得できないでいる人間が、ラムダス第一皇女のアイリーン・マーゴットだった。


 当時十歳の彼女に対し、本来の婿となる予定の第三王子でさえ五つ歳上の十五歳、ましてその兄となると自分との差は十歳の開きがある。しかも相手方には婚約までしている女性がいながら、それを捨てて婿入りするという。そのような相手では形ばかりの白い結婚になるに決まっているではないか、と。


 そして彼女がブランドールに突きつけた要求は、婚約者と別れたというならばその証をみせろ、というものだった。


 彼女にしてみれば、自分との表面上の結婚の裏で、この婚約者を妾として囲うことに我慢ならなかったのだろう。無論彼女の妄想に過ぎなかったのだが、何としても自分の婿入りで事を穏便に済ませたかったブランドールとしては、この要求を呑まなければならなかった。


 結果、サランディアは全ての魔術式を封印、魔術師団から追放され、自慢の美貌も年齢とともに奪われる、という女性には屈辱的な運命を受け入れた形となったのだ。


 話しのあらましを聞いた私は、口元を両手で押さえてガクガクと震えた。そして震える口からゆっくりとあの時見た光景を話した。


「あ……知ってる……サランディアさんがアンタの感情を身体から全部吹き飛ばしたって。そんな魔法を使ってた。アンタはサランディアさんに年齢を加速させて衰えさせるって、そんな魔法だった」

「なぜ知っている? あれは私とサランディア以外立ち入れない強力な結界が施されていたはずだ」


 ラッセルが話す言葉に反応して、ほかの二人がギョッとしたように私を見つめる。


「観てたのよ。アンタが何度かサランディアさんの魔力を月に飛ばして……」


 あの日テレビで観たことがそのまま説明されている……ということから導き出される答えは一つしかない。


「なんてことよ……私、テレビの中の世界にいるんだ……」


 ありえない、本当に信じられない。しかし現に今私が存在しているのはあのファンタジーの世界だ。


 よくよく思い出してみれば、あの日お風呂に入るために一度はテレビを消したはずだった。なのにお風呂上がりにはテレビがついていて、ラッセルとサランディアさんの対決の場が映されていたのだ。


 妙に惹かれる内容だと思っていたが、あの時から既に私がこの世界に来ることをセッティングされていたかのような、何らかの意図を感じる。


 そして私の名前『()()()


 ()の加護を受ける国ルシーンで起きた魔力対決。魔術師()()ンディアの魔力が、()に向かって放出されたことが私の転移に関わっていることは確かだ。そういえばラッセルも言っていたではないか。魔力の歪みが原因で私が転移したと。


 言葉の符合がカチリと合わさったようで、得体の知れない、ゾクっとした感覚が体を通り抜ける。


 私がこちらの世界に来て、程なくして彼女が亡くなっていることにもなんとなく合点がいく。まるで自分の代わりに何かをしてくれと言わんばかりの、そのタイミング。

 それが何を意味しているのかは未だ理解できないが、いづれ彼女がやり遂げられなかったことを肩代わりしてあげる時がくるのかもしれない。


 彼女のためにも頑張ってあげようと思う一方で、この世界に利用されたかも、という考えも頭をよぎってくる。


 彼女の魔力に選ばれた名誉、と受け取るべきか、平凡な事務屋人生を無理やり捻じ曲げられた、と捉えるべきなのか?


 今まではっきりと認識できていなかった自分の不安定な立場を改めて思い知らされたようで、自分の中にあるさまざまな感情がせめぎ合って、暴れ出したいような、叫び出したいような、やりきれない思いで胸が一杯になる。


「お願い、今はネコにして。今日はもう何も考えたくない」


 すがるようにラッセルの腕に捕まり、そうお願いして俯いた。


 少し間があってから「ふむ」と小さく答えると、彼は私にふわりと魔法をかけた。

 いつものカゴに入ろうとしたところをヒョイと掬い上げられ、ラッセルの懐にポスンと収まる。


「今少しの間はここにいろ」


 ぶっきらぼうな物言いの中に、僅かばかりの気遣いを感じクスッと笑いが口をついて出た。


 それを見て安心したのか、私の頭をひと撫でしてから、先程の話を続けるようだった。



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