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32.何で覚えてないのっ!

 先生の移動魔術であっという間に学校に到着する。入り口には校長とかのお偉いさん数人が出迎えてくれた。


 魔術師団ってエリートなんだってことを思い出すような対応に、ルディの袖を引いて小声で話しかける。


「ねぇ、無茶苦茶お客様対応じゃない?」

「そりゃそうさ。国の機関の視察って名目なんだからな。表面上は有望な魔術師候補の調査ってことにしてるし」


 なるほど、バーっと行って直接対決ってワケじゃないのね。なんか拍子抜けしちゃった。


 三年の教室から順番に見ていって、最後にハルの教室を覗いた。

 あれ? なんか前と違う?


「あ……あの子がいない」


 小さく呟いた私の言葉に先生とルディが反応する。


「なんだって? どういうことだよっ!」

「詳しく教えてもらえますか?」


 二人を見ながら私は説明した。

 そう、私が見た魔女は、あのアフロちゃんと一緒にいた中の一人だった。


 先生は教師と打ち合わせを始め、授業は自習になり、アフロちゃんを呼び出した。彼女からいつも一緒にいる女の子について、話を聞くためだ。


「お久しぶりでございます、ロックウェル伯爵令嬢。本日も麗しいですな。こちらでのご活躍ぶり、一魔術師たる私にまで届いております」

「ご機嫌よう、副魔術師団長殿。私はロックウェル伯爵家の者として、恥ずかしくない成績を残すことが使命と思っておりますもの。卒業まで首席でおりますわ」


 親しげな挨拶を済ませ、にこやかな笑顔をお互いに見せているようだ。アフロちゃんの視線が先生からルディに移ると、表情が一遍した。


「まあっ、ルーお兄様ではありませんかっ。やはり私に逢いに来てくださったのですね。私毎日、月に祈りましたのよ。お兄様が私を迎えに来てくださるようにって」

「や、やあ、ディア。別に逢いに来た訳じゃないし……おお、お、俺は彼女の護衛として来ただけだから」


 私の後ろに隠れるようにして、顔だけチラッと覗かせながら、ルディはアフロちゃんに挨拶してる。

 何? 知り合い? それにしちゃあ、ずいぶんとアフロちゃんの方が積極的じゃないかしらん。


「んまぁっ、私という婚約者がいるのに、他の女の側にいるなんてっ。あなたっ、ルーお兄様の何ですのっ!」

「ディ、ディア……お仕事だからね。あと婚約なんてした覚えもないから……」


 前のめりにルディに話しかけるアフロちゃんに対し、引きつり気味に私に隠れてボソボソ話す彼。二人の対照的な態度に笑いがこみ上げてくる。


「そんなぁ、私、ルーお兄様のお嫁さんになるためなら、伯爵家など明日にでも捨てる覚悟でおりますのに。もしや、その女がお兄様を惑わせてますのねっ」


 キッと私を睨んで詰め寄ろうとしたアフロちゃんに、先生が釘を刺して本題へと戻す。


「ロックウェル嬢、後日、ヒューズからお茶へのお誘いを差し上げますので、詳しい話はその場でお願いしますね。さて、あなた様のご学友について、少しお話を伺いたいのですが」


 場の空気が引き締まり、真剣な話だと察すると、さすがに姿勢を正して態度を変化させる。ふむ、学年首位の成績をキープする、と宣言してるだけあって、アフロちゃんは空気が読める子らしい。ただのおバカちゃんではなかったのね、と思わず頭を撫でたくなった。


『サーラから説明を』と前置きされ、私がアフロちゃんに質問する形になった。


「アフロ……ディア様、こんにちは。あなたがいつも同行されているお二方についてお尋ねしたいのです。いつも一緒にいるミリィさんはあなた様付きの侍女ですよね。もう一人の方のお名前と、その方とはどのような関係かを教えてもらえますか?」


 私の質問を聞いていたアフロちゃんが、途中で怪訝な顔をしはじめる。


「あの、ミリィは侍女ですからいつも一緒におりますわ。ただ、あなたのおっしゃっている『もう一人の女の子』という意味が理解できません。私たちは、常に二人でしか行動しませんもの」

「え? だって……赤毛のショートヘアの子がもう一人いたでしょ?」


 そんなことはない、という私の問い詰める姿勢に、アフロちゃんは一層眉をひそめ、一歩引いたように後ずさり、それでも気丈に答える。


「赤毛の子なんて知りませんわ。どなたかとお間違えでしょう。ミリィにも聞いてみれば良いですわ。私たちは常に二人でしたもの」


 納得できない私は、次にミリィちゃんを呼び出してもらって、同じ問いを投げかけた。


「私は常に、アフローディア様に同行させていただいておりますが、赤毛の女の子が側に居たことなど一度もありませんわ。別のお方の付き人ではないでしょうか?」


 ミリィちゃんまで赤毛の子は知らないという。

 おかしい、別々に呼び出したので、口裏を合わせることもなかったはず。


 ならば、ハルとフィルにも尋ねてみよう。あの二人もアフロちゃんと同行する赤毛の魔女を見ているはずだもの。


「サーラ、元気にしてる? 俺、魔力制御の勉強頑張ってるから。もうすぐ移動魔法もこなせると思うんだ。その時は一緒に出かけようね」

「うん、頑張って。あとさ、ハルに確認したいことがあるんだけど……」


 お互いのご機嫌伺いもそこそこに、私はハルに質問をしてみた。


 しかし、不思議なことに、ハルまでもが自分が会ったのはアフロちゃんとミリィちゃんの二人だけだと言うのだ。


「ホントだよ。最近はフィルが一緒にいてくれれば、あの子たちと少しだけ話もできるようになったんだ。何度も顔を合わせてるから二人ってのは変わらないよ。君も前に何度か会ってるよね? サーラ、しばらく離れちゃって忘れちゃった?」


 あり得ない……


 フィルはどう? と思いつき、辺りを見回すとコークス先生と話をしているようだった。先生と視線が合ったのだが、無言で首を横に振るところを察するに、彼も赤毛の子は見ていない、ということらしい。


 ちょ、ちょっと待ってよ。

 何で誰も覚えてないの? あの目つきが少しキツい印象の赤毛の子だよ。

 ハルの腕を揺さぶり、思い出してくれるように縋るが、首を横に振って知らない、と言われるだけだ。


 むしろ、私だけしか見てないことに、逆にみんなが疑いはじめ、本当に私が見ていたのか、白昼夢を見て勘違いしているのではないか、と疑われる始末。


「う、そ……何でみんな覚えてないのよ……何回か顔合わせてるし、声だって……」


 ハッと気がついた。

 考えてみれば、彼女の声など一言も聞いていないのだ。自己紹介された訳でもない、ただアフロちゃんの側にいただけだった。


「私が見た方が幻? いやいや、だって教室を覗いた時は、私に向けて嗤い顔を晒したじゃないか。私は見てるんだ……だけど」


 何で私以外の人に記憶が残らないのだろう?

 記憶が操作されてる? まさか……


「先生、ひとつ確認したいんですけれど。呪術の中に『記憶を操る術』というものってありますか?」


 慌てて問いかけたので、少しバランスを崩して、先生の胸になだれ込むようにしながら話をする。


「私は呪術に対して詳しくないので、正確にはお答えできません。長なら何かご存知でしょう。ここでの聴取はこれまでです、戻って対策を練りましょう」


 ハルや他のみんなへの挨拶もそこそこに、師団まで急いで戻ってきた。


 今回の訪問はツッコミどころ満載だったはずなのに、そんなことさえ後回しにしてしまうくらい焦っていた。


 赤毛の子がいない、ということがどのような意味を表すのか。


 私だけに記憶操作が効かなかった、ということで魔女が手を引いたなら良し。

 あのアメーバクモを潰されたことによって撤退したなら尚良し。


 ただ、あの人間ではないようなモノが学校の、しかも魔術師養成のクラスに潜入していたことに、嫌な予感しか浮かばなかった。


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