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25.それは年齢詐欺だろ!

 この国の文字はひらがなを少しアレンジしたような造りになっているようだった。発音も基本の母音があり、子音と母音の組み合わせになっており、私なりに、かなり覚えやすい。


 そういえば、昨日のレストランや学校のカフェもそうだったけど、妙に日本っぽいんだよね。味も海外旅行した時のような、食べ慣れないものを予想していたが、ずいぶんと日本に近い味付けになっていたりもする。


 ファンタジーのお約束、と纏めればそれまでなのだが、周りの環境がわざわざ私に合わせてくれてるような、そんな錯覚を覚えたりもする。まあ、暮らす分には馴染みやすい環境に感謝して、妙な引っかかりは敢えて無視することにした。


「なかなか結構。読み書きに関しては覚えがいいな、優秀な生徒で助かる」

「この沙羅様にかかれば、勉強なんてすぐにこなせるわ。なんでも持って来なさいな」


 ちょっと鼻高に自慢してみせた。なんてったって、形の区別さえつけられれば、ひらがなに当てはめて読み書きができるもの、楽勝だわ。


 腰に手を当て胸を張って、私は出来る子アピールをしてみた。

 それをみたラッセルは、少し安心したように次の課題を持ってきた。


「これであれば、社交の場でのお披露目も、そう遠くない時期にできそうだな。次はダンスだ。合間で貴族銘鑑を頭に叩き込んでいく」


 はい? ダンス? 貴族銘鑑?

 御セレブー様な響きが混じってるんですけど……

 キョトンとした顔で固まっていたら、ため息まじりに説教された。


「カシアス様が望まれれば、第三王子妃として王宮で生活することも考えられる。そのための教養は完璧に身につけておかなければならない。君を後見する私の面子もあるしな」


 すっかり忘れてたけど、ハルってば王子様とか言ってた気がする。妃ってお嫁さんだよね……は? 結婚? いやいや、ハルは十八、私二十四。無理無理、年の差ありすぎだから!


「あのー、私の年齢わかってます? しかもハルって弟的存在だったし、恋人とか旦那様とかに今更考えろって言われても……困る」

「何をためらう。王族に迎えいれてもらえる、ということは名誉でもあるのだ。普通は喜ぶものだ」


 理解できないような表情で話しながら、それに、と言って言葉を繋げる。


「君に拒否権はない。王族と王の望みは絶対だ。見た目だけだと二十歳、いや十六、七歳でも通じる、そこは任せろ、調整する」


 任せろって何をやねん。年齢誤魔化して公式の場にでたら犯罪だろうに。


「君を知る者はほとんどいない。君が言わなければそれまでの物事も多い。年齢もその一つ。出自や経歴も私が後見していれば、詮索する者もほぼいないはずだ」


 自信たっぷりに言い切ってる姿をみてると、反論する気も失せてきて、ボソッと呟いた。


「三十オーバーのアンタにゃ分からないわよ。このくらいの年頃の一年、二年は海よりも深ーい深ーい隔たりがあるのよっ。まして六歳差よ? バレた後に周りのオンナにババア呼ばわりされる覚悟なんて、まだないわ」


 私はお手上げのポーズをして、さらに伝えた。


「それに、王族とか貴族に対抗するくらいの技量を身につけても、所詮私よ? ボロが出れば笑われると思わないの? アンタも恥をかくわよ」


 ラッセルは意外そうな顔をして私に問いかける。


「おや? 珍しく弱気だな。このくらいの障害、君なら乗り越えられると思っていたが。挑戦もしないで諦めるとは……私が後見する人物はそんなヤワな女性だったか……ふむ、期待はずれか」


 アゴに手を当て、私を蔑んだような目つきでみる。ムカつく言い方に腹が立たないワケがない。

 キッと睨んで言い返す。


「そこまで言うなら、受けて立つわっ。この沙羅様を見くびるんじゃないっての。こちとら人生崖っぷちなんだ、やってやれないことはないっ。周りが私に一目置くくらいまでになってやるわよ」


 求めている返答がきた、というような顔でニヤリと笑い一言。


「優秀な生徒だ」


 立ち上がるラッセルを見ながら、次に教わるダンスの練習について説明を受けた。

 先生はコークスさんに交代する、ということと、もう一人、私の相手として一緒に勉強する仲間がいる、ということだった。


「ルーデウス・ヒューズ、第四部隊所属の者だ。来年には隊長に推薦することも考えている」

「そんな重要ポジションの人が今更お勉強? 必要あるの?」

「彼は昨年、学校を卒業したばかりだからな。社交関係の勉強はこれからだからちょうど良い。面識もあるし、やり易いだろう」


 面識あるって? 私、ここに来て日が浅いんですけど。お食事とか身支度整えてる時に会ってる人かしら。それとも道案内? いづれにせよ、将来の隊長さんにお世話してもらってたなんて、失礼なことしちゃってたわね。後で丁重に謝っておこう。


 そんな心配と配慮をしていたら、意外だ、と言いたそうに教えてもらった。


「コークスとの模擬戦闘に乱入した時に会っただろう? 彼だ。まだ若いがコークスが一番に期待している人物だ」

「げえっ、なんでよりによってアイツが相手なのよ」

「今後ルーデウスには、貴族や王族の護衛を任せるようになる。そのための教養と知識を習得させる。期せずして君と同じタイミングで始めることになるな。お互いに良き生徒となれると思うぞ」


 コン太が未来の隊長だって? しかも去年卒業したばっかりの期待の新人ちゃんって……


 この国の魔術師ってそんなにヘナチョコしかいないのか。あの、脳みそ足りないクンを隊長に据えるなんて終わってんじゃないんかい?

 素直な疑問を口にしたら、意外な答えが返ってきた。


「彼は在学中、常に成績上位者だぞ。魔力制御も長けている。防御の魔術はコークスといい勝負だろうな」


 へえ、この人が褒めるってことは、コン太ってホントにすごい魔術師なんだ。魔術師ってみんな性格に難がある人ばっかり。


 呆れとため息を交えながら、知らないうちにラッセルに愚痴ってた。


「ホント魔術師って性格悪い人しかいないわよね。コークスさんくらいよ、優しい人なんて。彼がダンスの先生でよかったわ」


 それを聞いたラッセルは、さも可笑しげに顔を歪ませて私に言った。


「一言言っておく。コークスがこの師団の中で一番性格悪いぞ。利用価値の有無を瞬時に判断して、必要ないと判ればその後はひどいものだ。私も彼は敵にしたくないと思っているからな」


 どんだけコークスさんのこと怖がってる素振りしてても騙されないわ。私がダンスレッスンをサボらないように前置きしてるだけだろうけど、平気だもん。


「コークスさんが? まっさかぁ。私を怖がらせようとしたってそうはいかないからね。多少のお茶目は目こぼししてくれるっぽいじゃん。練習相手がコン太で残念だけど、コークスさんの先生ってことで、プラマイゼロだわ。練習楽しみー」


 ニコニコしてる私がそんなに可笑しかったのか、喉の奥でククッと笑いを押し殺して「期待している」と言われた。


 それから、今思いついたように追加で聞かされた言葉に今日一番の衝撃が走った。


「君にひとつ訂正しておきたいことがある。君は私のことを『三十オーバー』と言ったが、正確には私は現在二十三歳だ」


 はい? ラッセルが? 二十三?


 少しの沈黙の後、思いっきり指差して絶叫してしまった。


「アンタ年下かよっ。こんの、見た目ジジイがあっ! 少しは私を敬えーーっ!」

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