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23.冗談キツいって!

「はん、お前なあ、自分のことを素敵女子とか言ってる時点で、本物のレディなワケねーだろーが。冗談キツいぜ」

「言ったわねっ。むっきぃーっ! 腹立つ、腹立つ、腹立つーっ!」


 コン太と二人で、顔を突き合わせていがみ合っていたら、笑いを噛み殺したコークスさんが間に入ってきた。


「まあまあ二人とも、落ち着いて。ルディ、サーラは本当に素敵なレディですよ。謝っときなさい。サーラ、この子が生意気で申し訳ありません」

「納得できないままの謝罪なんて要らないわ。コークスさん、私を元に戻してもらえる? ラッセルに戻してもらえば、その場で証明できたんだけど、さっさと居なくなっちゃうし」

「お前、ネコのクセに師団長を呼び捨てにするんじゃねえっ、失礼だろーがっ」

「どっちが失礼よっ。アンタが私を敬えば全て解決することだよっ!」


 またまた譲らない言い争いに、呆れたコークスさんが私たちにガツンと拳を落とした。


「いったーーい!」「いってーーっ!」


 期せずして二人同時に頭を抱えたので、争うのをやめざるを得なかった。


「当たり前です。痛くしたんですから。ルディはもう訓練終了です。自室に戻りなさい。サーラもレディなら引く時は引くことが大人の対応でしょう、頭を冷やして」


 しぶしぶお開きになったのだが、私もコン太も不納得なことに変わりはない。

 こうなったら、非の打ち所がない女性として、コン太の前に立ちはだかってやるわっ!


 新たな目標ができたことにひとり満足して小さく頷いた。そうと決まれば、勉強するわよっ。この世の常識? ドンと来いってんだ!


 コークスさんの移動魔術で、あっという間にラッセルの部屋の前に到着した。

 抱っこしていた私を懐から下ろしながら、話しかけてくれた。


「サーラ、あなたと出会ってから(おさ)の表情や行動が、より人間らしさを増してきました。少しずつですが、四年前の長に戻られている気がして。本当に嬉しいです」

「確かに一番最初に会った時は、底冷えするくらい薄気味悪かったわ、あの人。今はそれほどでもないわね、とおぉぉっても意地悪だけどっ」


 クスクスと笑いながら、その場にしゃがんで私を撫でて話してくれた。


「あなたと居ると、まるでここに来たばかりのサランディアと居るような錯覚をしてしまいます。あの頃は楽しかった……おっと、あまり無駄話をすると、長に叱られてしまいますからね。私はこれで失礼します」


 そう言って、コークスさんは私を部屋の中へ押し込んでからいなくなった。


 サランディアさんに似てるって、どんな意味なんだろ。私、あんなに思慮深くもないし落ち着いてもいないと思うんだけどね。

 あ、でも、魔術師副団長を務めるくらいに優秀な人だったはず。てことは、切れ者っぽい評価かしらね。

 ふふふ、コークスさんってば、褒め方をオブラートに包み過ぎだってば。ストレートに頭良さそう、とかインテリですね、とか、直接褒めてくれてもいいのに。


 超ご機嫌になって、鼻歌を歌いながら部屋の中を跳ねるように回っていたら、ようやくラッセルが戻ってきた。


「なんだ、ずいぶんと機嫌が良いな。それであれば学習も(はかど)りそうだ」

「おう、この世界について、勉強するわよっ」

「それもそうだが、マナーや社交知識も同時に覚えてもらうからな」

「ん? なんで? 読み書きだけじゃないの?」


 私が全身からハテナマークを出していると、呆れた感じでこう言われた。


「お前はカシアス様の卒業後、お側で暮らすのであろう。最低限のマナーと作法を身につけておかなければ、周囲にも認めてもらえないぞ。今から死ぬ気で詰め込んでも、間に合うかどうか」

「そこまで必要かなぁ? 確かにこの世界の常識とかは覚えなきゃ暮らせないとは思うわよ? でも、そんなに詰め込み勉強なんかしなくても……」


 言いかけた私に対して、多少イライラしながら、お説教モードに入ってくる。


「何を悠長なことを。お前はカシアス様が王族だとわかっているのか? 学校を卒業されると同時に王宮に戻られる、ということだ。つまり、王族と生活するためにふさわしい礼儀作法を身につけなければ、あの方の側にいることもできない、ということだ」


 んーと……ラッセルのこの言い方って、私がこの世界に長期滞在することが前提っぽいんだけど。

 私の予定では、在学中に移動魔術を修得してもらって、ハルが魔術師になったアカツキには、日本に返してもらうって感じなんだよねえ。


 ラッセルと私に考えの微妙なズレがあるみたいだから、ここは早々に正しておかなければ。


「気を遣ってくれてるところ悪いんだけれど、私、ハルが日本へ返してくれる魔術を見つけてくれるまでは同居するつもりだけど、それ以上に長居する気はないわ」


 ラッセルは無言のまま、私をマジマジとみてから、残念そうに話し始める。


「異世界に戻る魔術について、私もこれまでの文献を探してみたが、それらしいことが書かれているものがない。前例がない、ということは、お前が日本に帰れる手段は今のところ無い、ということだ」

 

 はい? 帰れない? いやいや、それはないでしょう。だってこっちに来れたんだもの、帰り道だってあるはずでしょうよ。


「アンタがその魔術を探せないだけであって、ハルなら探せるってことだってあるでしょ……」


 ラッセルは何とも表現できないような表情で、答えをくれる。


「カシアス様のお手を煩わすこともない、と思って、私の方で引き継ぐ承諾を得た。配下の魔術師を何人か専属で調査させているが、未だに報告があがってきていない。魔術師団で無理なものは、この国では無理だ、ということだ」

「……何よっ、その笑えない冗談は! 私が何でこんな目に合わなきゃいけないの……私、普通の人だよ。特別とか選ばれたとか無いから。だから普通の生活に戻してよ……」


 最初はラッセルの胸元によじ登って、火がついたみたく怒っていたのだが、喋っているうちにだんだん足に力が入らなくなり、その場に立っていることすらできなくなってきた。


 ズルズルと滑り落ちそうになっているところを腕で支えられ、その腕の中で小さく丸まって震える。


 少ししてから、ふわん、と体が光に包まれ、人間の姿にもどされる。急に大きくなったものだから、腕の中に抱きしめられてる状態のまま、二人で倒れるようにソファへ座った。


「今はこの術式でお前を人に戻すだけで精一杯なのだ。サランディアの魔術式だったのと、私の魔力がかなり練り込まれていたので、解除の方法も早々にわかったのだが……」


 一旦言葉を切ってから、私の頭に手を乗せて、ゆっくりと、しかしながらはっきりとした声で教えてくれた。


「あの時の、四年前の魔力衝突で生じた歪みが原因だろうと予測はつくのだが、あれは偶然の産物で、二度と再現することができないものなのだ」

「二度と……でき、ない……」


 呆然として、口から勝手に言葉が漏れる。ラッセルは私の目を見ながら、無言で静かに頷く。

 自然に流れる涙は溢れると、もう止めることはできなかった。ハラハラと落ちる涙を自分の手のひらで受け、それを見つめて尚『帰れない』という現実を受け入れることができない。


 現実逃避、と言われればそれまでなのだが、しんみりした空気になるよりマシ、と思い、無理して明るい声をだしてみた。


「ははは。ごめんねー、私みたいなお荷物預けられちゃ、いい迷惑だよねー。早くひとりで生活できるくらいまでの知識やら常識を身につけて、なるべく早く出て行くから……それまでは……それ、まで……ふぇ、えぇぇ」


 言ってるうちに、自分の状況がやっと理解できた。こうなったら、自分で自分の感情が抑えられなくなって、泣き声が口をついて漏れ出てくる。


 私は小さな子供や赤ん坊のように、ひたすら声をあげて泣き続けた。


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