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22.誰が魔物やねんっ!

 光が目の前に迫ってきた瞬間、ギュッと目をつぶって死ぬ覚悟を決めた。


 その瞬間、頭の中に響く小さな音に意識が向く。


「……チリン……」


 こんな切羽詰まった状態なのに、なんか安心できる音かも、とか考えるあたり、既にトランス状態じゃん、とか思ってしまう。

 死ぬ寸前に安心なんて笑っちゃう。


 ホント可笑しくて自分の頭を疑った。そのせいか、硬く強張らせていた体が弛緩して、完全にリラックスした状態になった。

 こうなったら、この運命に自分を委ねてみよう、と腹の底に力を込める。


 ところが、つぶったままのまぶたの裏に映り込む光がほんのり赤くなっている、と思うだけで、一向に痛みを感じない。

 おそらく私に当たるであろう、光の矢の熱さや痛みは全くもって感じられなかったのだ。


 ゆっくりと片目だけ開けて確認すると、丸い輪っかの中に複雑な模様が描かれた感じのプロジェクションマッピングが至近距離にあった。

 それがポワンと光り、収まると同時に、私に向かってきていた光の矢は消えていた。


「た……助かったぁ。こ、こ今度こそヤバいっておもっ……」


 腰を抜かして呟くと、なぜか隣に立っていたラッセルが、呆れた声を出しながら私を抱きおこしてくれた。


「だ、か、ら、お前に忠告しておいただろうに。護りを与えてから壊すまで、こんな最速な女は見たことがないぞ。ほんっ当に呆れるばかりだ」


 へ? 護りって何だろ?

 首を捻って考えていたら、首元に違和感があった。ん? と目線を下に下げると、赤い輪が消えていた。


「首輪がないーっ」


 やれやれ、と深いため息をつきながら、体についた汚れや埃を、軽く撫で付けて取り払ってくれている。

 なんだかお世話されてるみたいで、ちょっと恐縮してしまう。


「当たり前だ。それがお前を護ったのだからな。私に感謝しろ、これで何度命を救った?」


 そこに、先ほどまで戦っていた二人が、私の側に駆けつけてきた。


「大丈夫ですか? お怪我はっ」

「すみません、僕が詠唱中に制御を間違えてとんだ失敗を……てネコかいっ」


 私に話しかけていた二人のうちひとり、灰色さんは私がネコなのにやたらと丁寧に応対してくれた。

 紺色さんは、私が人ではなかったことに対し、ぶつぶつと「人騒がせな」とちょっと投げやりな態度で接してきた。


 そんなやりとりをしながら、二人で私の隣のラッセルを見るとギョッとしたように固まった。


(おさ)……」

「し、師団長っ! 申し訳ありませんっ。お怪我なされてませんかっ」

「ああ、二人ともすまん。()()が悪さをして邪魔をした」


 首根っこを掴まれ、宙ぶらりんのまま二人に相対することになった私は、またまたモノ扱いするラッセルに腹を立てて、不満を口にした。


「ちょおっとおーっ、急に扱い悪くなったわー、大事にしなさいよねっ。そんで、悪さって何よおっ。私は見学しに来ただけなんだからあっ」

「げっ……ネコが喋ってる……使い魔か……」


 紺色が私を見て、若干引き気味に呟く。

 灰色さんは紺色の腕をトンと叩き「安心しろ」と声をかけていた。


「月宮沙羅様、お久しぶりです。私が防御に向かうべきでした。反応が遅れてお護りできず、申し訳ございませんでした」


 ん? 私を知ってる? よく見たら、コークスさんではないか。あっちゃあ、失敗。もっと早くに気づいて声をかけるべきだった。


「すみませんコークスさん、光がとっても綺麗だったんでつい。まさかこんなに危険なことになるなんて思ってなかったんです」

「お前は……ここの入り口に、立ち入り禁止区域だ、と表示されていただろうが」


 ラッセルがイラッとしながら私に話す。

 そんなの知らないからここに居るんじゃん、ラッセルのバカ。


「だって、正面から入んなかったし、看板あったって、この国の言葉知らないもんっ」


 プリプリ怒って、でもちょっとバツが悪いように小さく自分を弁解してみた。

 しまった、という表情をして右手で顔面を覆うラッセル。


「言語の違いか……会話ができるので考えが及ばなかった。カシアス様のところでお前、一体何をしていたのだ? 言語の擦り合わせを考えなかったのか?」

「だーってえっ、この世界に長居すると思わなかったし、魔術師探しは話聞くだけだったもんっ」

「なるほど、お前の場合はそこからか」


 アゴに軽く手を当て、少し考えている様子だったが、


「コークス、()()を後から私の部屋に連れて来てくれ。私は先に行く」


 杖を構え直したラッセルと一瞬目が合った。構えた杖を元に戻し、尚も私を見続ける。


 ジッと私を見つめる視線に負けそうになり、つい、たじろいだ声をだしてしまった。


「な、なによっ、まだ私に言いたいことあんの?」

「いや、やはりネコの方が無難だな、と思ってな。これを付けていろ。今度こそ壊すなよ」


 そう言って、また赤い首輪が私の首に復活した。

 おお、さすが魔術。何回だって同じものが作れるんだぁ。


「これ以上迷惑かけるな」と言い残してあっという間に隣からラッセルが居なくなり、残された私は、改めて二人に謝ろうか、と向き直った。


「……副師団長、今いたのは本当に師団長でしたよね? 誰かの変装ではないですよね?」


 紺色さんはコークスさんに、必死な表情で確認を求めている。コークスさんはコークスさんで、笑いが止まらないのを無理やり抑えるようにして応対をする。


「そうだな。だいぶ崩れてきているが。私としては、昔に戻ったようで、とても面白いがな」

「ほんっと。マジ驚きですわ。団長ってこう、なんつーか、ムッとして喋らないイメージだったんで」

「ハハハ、ルディもそう思うか。月宮沙羅様のおかげで、表情と感情に起伏が生じはじめてきてるのだ。本人も戸惑っておられると思うよ」


 はい? 私ってラッセルに対してやらかしてるんかい?


「さあ、月宮沙羅様、ご一緒しましょう」

「沙羅が名前。サーラでいいわよ、ハルにもそう呼ばれてたし。そんで様付けもいらない」

「そうでしたか。それではサーラ、ご案内しますよ」


 私とコークスさんのやり取りを見ていた紺色は、ちょっと不満そうに間に入って口をはさんできた。


「副師団長ぉー、なんで喋るネコなんかに、そんな丁寧な物腰なんスか? そんなにコイツってば上級の魔物っスか?」


 は? ラッセルに異物扱いされた時もムッとしたけど、コイツも私をムッとさせるヤツだな。魔物だと? ふざけんなっ!


「おい、紺色コン太。私はたまたまネコになってるだけで、本来は大人の素敵女子じゃ。女性には優しく接するべきだろうが。敬え、このアホたれがっ!」


 コイツはかなり若い顔つきしてるから、私より絶対年下だと思う。年下にバカにされるなんて許せないわっ。


 仮に百歩譲ってコイツがすんごい人物とかだったとしたら、敬称つけて呼んでやるけどね。この若さでそんな偉業を成し遂げてるなんて、あり得ないもの。


「いいか、コン太。私がお姉さんに戻ったアカツキには、お前を呼びつけて足蹴にしてやるからなっ」


 気がついたら、全身の毛を逆立て頭を低くして、かなり攻撃的な威嚇の体勢をとっていた。


 ああ、日に日にネコ化してる自分が怖い……


 愕然として体から力が抜けていく。その格好が、パソコンやスマホでよく使っていた、マルと棒で組み合わせてできるガックリポーズだと思いあたり、更に落ち込んでしまった。

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