21.プロジェクションマッピングー!
「わかったわ。ハルには頑張って勉強してもらって、立派な魔術師になってもらわないとね。それまで魔術師団長のお世話になります」
ハルとラッセルの二人に向かって、そう言った。ハルも腹を決めたらしく、意志の強い眼差しでラッセルに「サーラの面倒、よろしくお願いします」と挨拶する。
「承知しました。ならばここに長逗留は必要なかろう。戻るぞ」
ハルに返事を返したあと、私たちーーおもに私ーーに向かって帰宅を促した。
「またここに来れるかしら?」
ハルに向かってそう言うと「移動の魔術覚えたら連れて来てあげるよ」と優しく答えてくれた。
その言葉に頷いて、急いでラッセルの側に寄って、移動の魔術の範囲内に納まる。
左手に杖を持ち、右手を軽く拡げてから小さく呪文らしきものを呟くと、その場がブワンと光り、視界がグニャリと歪む。
ハッと気がついたら、男子寮から少し離れた木陰に到着していた。
「ここならば、不審に思われずに部屋へ戻れるでしょう。それでは私はここで。魔術の修練、ご精進なさいませ」
ラッセルはハルにそう伝えて、軽くお辞儀をした。ハルは私に爽やかな笑顔を見せてから、ラッセルに向き直り「ありがとうございます」と挨拶をして、そのまま寮に入っていった。
最後に声をかけるべきか、と悩んだが、離れ難くなりそうなので、それはやめた。
ハルも同じようだったのだろう、お互い無言のままで離れるのが一番、とでも言うように、私に背を向けた。
「さて、お前だが……荷物はないな?」
「そうね、私に必要なかったから。何せ今までネコだったし。まあ、これからスキンケアグッズくらい必要なるかしらね」
「とりあえず移動する」
先ほどと同じように腕を広げ、また魔術で移動する。あっという間に、この間きたばかりの魔術師団にあるラッセルの部屋に到着した。
「ふう、やっと到着かぁ。これからよろしくお願いしますね? まあ、お互い干渉せずってのが一番な気がするけどね」
「干渉するも何も。お前はこれだ」
ふわんと光が舞い、私に絡みついたと思ったら、あらあらビックリ、またネコに戻ってしまった。
「ちょおっとぉーっ、何すんのよ。せっかくハルに戻してもらったのに」
「ここで生活する分にはその格好の方が何かと都合がよい。やむを得ない場合以外は、それでいろ」
あーあ、せっかく人間の姿になれたんだから、この国のお化粧やら、服装などのおしゃれを楽しみたかったのにぃ。
改善要求をラッセルに訴えたら、一言「面倒だから」と言われてしまった。
……確かに共同生活ってのは気を遣うし面倒だよ? でもねぇ、いかにも迷惑ですって本音を丸出しにしなくてもいいでしょうに。表面上は友好関係を築く努力をするとかさ、あるでしょう。ほんっと愛想がない男だよ。それでいて街の女性たちから人気者だなんて、詐欺以外の何者でもないわよねっ!
ぷりぷりと怒って窓から出かけようとしたら、呼び止められた。
「どこへ行く?」
「この敷地の中を散歩してくるわ。自分の住むエリアくらい把握しておきたいから」
「そうか……ならば、付けておけ」
杖をひと振りした後に、私の首元には赤い首輪と例の鳴らない鈴がついていた。
げっ……なんかコイツの所有物っぽく見えなくない? 縛られてるみたくってあんまり好きじゃないなぁ。
無言のまま、あまりよく見えない胸元をジッと眺めていたら、ラッセルが私に説明してくれた。
「それをつけていれば野良との区別もつく。団員に追い出されることもないであろう」
「あら、そういう考えもあったわね、ありがとう。そこは素直にお礼を言うわ」
「あとひとつ。修練の邪魔になるような場所には絶対に行くな、わかったか?」
「わかったわよ。集中が切れるとヤバいんでしょ。サランディアさんの家で充分思い知ったし。危ないってわかってるところにわざわざ首を突っ込んだりしないわよ。任せて」
気を取り直してちょっとご機嫌になった私は、部屋から木に飛び移り散策に出かけた。
魔術師団はかなり広い敷地の中にさまざまな建物が点在する様相だった。
外部との出入り口があるのが居住区で、それ以外は、魔術師の修練のための建物が大半のようだ。まだまだ先にも敷地がありそうだが、端っこまで散策したら一日では戻ってこれなさそうに思えたので、近場のみに絞っての偵察に決定した。
普段はどんな風に修練してるのか、私の中で好奇心が膨らんでくる。邪魔にならなければ見学しても大丈夫だよね。
どっかに開いた扉か窓とかは……と、発見。
なんか建物自体が歪んでズタボロなんだけど。中から光がポワンポワンでてるから、中に人がいるってことだよね。あれに決めた。
おっ邪魔しまーす。迷惑ならないんで見学させてねー。
心の中でそう呟いて、壊れた壁の隙間から中に侵入した。
バーンッ、とかドゴーンッていう音の応酬と、それに呼応するかのような光の乱舞。
黄色や青の火花がぶつかり合い、向かい合ってるのは一対一。つまりひとりずつで戦っている魔術対決が繰り広げられているようだ。
片やグレーのフード付きコートをなびかせて、体勢を崩さないように詠唱してる魔導師。フードをかなり深く被っているので、表情に余裕があるかないかは判断できない。
もう片方の人は明らかに疲れ切っていて、紺色のコートなんかもボロボロになってる。こちらはフードがないので、頭に埃や瓦礫を被って半分白くなっている。
グレーのコートの方がどうみても力量が上で、紺色さんが挑戦者っぽい。
紺色さんが深呼吸を何回か繰り返し、息を整えてから左手の杖に右手を添えて、詠唱を始めたようだ。紺色さんの全身が光り始め、それを受けるグレーさんは、目の前に障壁の魔術を展開して輝かせてる。
おお、なんか綺麗な光の模様だし。
流行りのプロジェクションマッピングが映し出されているみたいな感じ。
それが今、私の前で繰り広げられているわけだ。
「すっごーい……」
思わずボソッと声が出てしまった。
ハッと紺色さんの顔が一瞬こちら側を向いたきがした。
と、彼の体勢がちょっとグラつき、その拍子に攻撃用の光がいろんな壁やら地面に散乱して辺りをボコボコにしていく。
その中の一本の光が、私に向かって真っ直ぐに飛んできた。これって直撃したら死ぬ感じだよね。
しまった……この建物自体が私の死亡フラグだったんかい……
「ひぃ……あ、たるか、も……」
ヤバい、これってさっき注意されてた、邪魔になるような場所だったってことかな。
端っこだし、ちょっとした隙間なら大丈夫だと思ってたのに……
注意されたことでアッサリ死んじゃうなんて、間抜けって言われても否定できないわぁ。
ごめん、お母さん。
私こっちの世界に来てから、死ぬ危険が多かったけど、今回こそヤバいかも。
……後悔先に立たず、だよねえ。




