18.グッジョブ!
次の日、ハルに魔術師団であった出来事を詳しく説明した。
襲われたことを話した時は、眉をひそめて心配されたが、アイツに助けられてこうして無事にいることから、しぶしぶながらも安心してもらった。
さすがに、最後コークスさんからお願いされたことは話せなかったが、だいたいは伝えたはずだ。
「俺も昔、ラッセル様に会ったことあるけど、優しくてよく笑う方だよ? 『氷の魔術師』なんてどこからついたアダ名なのか不思議なくらい」
「え? ハル、昔のアイツに会ったって?」
ハルはしまった、という顔をして、口元を手で覆い隠し、私から視線を外した。
なぜそんな仕草をしたのかが不思議で、さらにハルへ質問をしてみた。
「なんで? 個人的に会えるとかって……前からの知り合いなの?」
「あ……いや……」
俯いて黙り込んでしまったハルから、これ以上は聞くな、という拒絶の空気を感じ、私も追求するのをやめてしまった。
気まずい雰囲気を変えようと、カフェにお茶でも飲みに行こうと誘ってみた。
たぶんハルは、アイツとなんらかの事情で繋がっているのだろう。ただ、本人が話そうとしないものを無理やり聞き出すことはしたくない。
自然にまかせて、時期がきたら話してくれるだろう、と希望的観測をして考えることをやめた。
「やーっと会えましたわね、ハルムート・エクセルっ……様」
カフェに着いたら、前に絡んできた女子が再び登場した。
濃紺色の髪のキラキラ女子を先頭に、綿菓子ヘアの侍女風の子、赤毛のキラキラ女子ニ号ちゃんの三人がしっかり並んで立ちはだかる。
一番インパクトの強い、真ん中のキラキラ女子が、ズビシッと人差し指をハルに突きつけて話しかけてきた。
侍女風の女の子が、その子の手をやんわりと両手で包んで下げさせ、呼び捨てにした名前も軽い咳払いでたしなめ、『様』を付けさせたようだった。
「えーっと……誰?」
「私? この有名な私を知らないと? いいでしょう、教えて差し上げましょう」
キラキラ女子はコホンと咳払いして肩幅に脚を開いて立ち位置を確認し、深呼吸を二、三回繰り返した。
「私の名前は、アフローディア・ロックウェルですわっ! ロックウェル伯爵家の一人娘、アフローディアとは私のことですっ!」
へえ、血筋は立派なところのお嬢さんなのね。私には関係ないけどさ。
ハルの肩に登り「知ってる?」と尋ねると「家の名前だけ」と小さく返事が返ってくる。
「入学当初の魔術披露やら、先日の試験では一歩遅れをとりましたが、次の試験では負けませんからねっ。私が首席入学者なのです。トップは譲りませんわよっ!」
肩を上下させてゼーハー言いながら、ハルにガッツリと宣言した彼女は、常に三人組らしく「行きますわよ」と二人に声をかけて去っていく。
キラキラ女子、ことアフロちゃんが歩き始めるのを確認すると、侍女風の女の子がこちらにススっと駆け寄り、軽く挨拶をしてくれた。
「私、ロックウェル家付き侍女のミリィと申します。アフローディア様のご無礼お詫び申し上げます。悪い方ではないのですが……行き過ぎる点が多く、ご迷惑をおかけするかもしれません。なにとぞ、ご理解くださいませ」
綿菓子頭ことミリィちゃんが、一旦頭を下げて姿勢を正した直後、パチンと目が合った。
瞬間、ゾワリとしたが、向こうがニコッと笑ってくれたので、ふっと力が抜けた。
「可愛いネコちゃんですね、触っても?」
ハルに許可を得て、私を軽く撫でてくれる。優しい指使いに、ゴロゴロと喉を鳴らしてしまった……うへ、私ってば完全にネコじゃん。
「あら、可愛い首輪。小さなベルがお洒落さんね」
首輪付近を触らせていた時、静電気が発生したのか、チクッと感じた。
向こうも同じだったらしく、バッと離れ「今驚かせて申し訳ありません」と謝罪してくれる。
その後、軽くフィルと会話してから足早に戻っていく彼女を三人で見送った。
彼女の役回りも大変そうだなぁ、確かにアフロちゃんの相手はそんじょそこらの人じゃできないよ。アフロちゃんってば、いい侍女さんが側にいてよかったよね。まあ、愛すべきおバカちゃんってことでみんなから可愛がられるキャラだろうし、これからの活躍に期待したいところだ。
「そう言えばハル、今回は固まらなかったね?」
「ああ、そうみたい。アフローディアさんだっけ? あの子の勢いに圧倒されてたし、直接話すこともなかったからね」
前回は声を掛けられただけでガチガチだったのに、ちょっとは女の子が側にいても大丈夫になったかしら? まあ、困ったらさっきみたくフィルが間に入ってくれるしね。
あのアフロちゃんなら、ハルも女の子をあまり意識しないで話せるようになるかもしれない。彼女には悪いが、ハルのためのいい練習台として、顔を合わせてもらうようにしてみようかな。
早速フィルにも相談してみよう。
『爽やかハル君計画』の今後の展開に、ひとり満足して頷いていた。
私の『日本へ帰る計画』の方は、残念ながら棚上げ状態なんだが、魔術師のアイツのチカラに頼らずとも、他にも手段があるかもしれないと考えている。
今、その方法が見つからないのは、時期がきてないからなんだろう。私はそう信じたい。
この世界で、自分ができることを納得するまで頑張ってみるのも面白い、と思い始めていた。
魔術師団に出かけた日からしばらく経ったある日、ふとサランディアさんの家が気になり、ハルに声をかけてみた。
「ハルー、サランディアさんの家ってどうなってるかなぁ。私、あの家もらってるんだけど、あれから全然見に行ってないじゃん? なんか気になる」
「そうだね、サーラがサーラの家もらったんだよねぇ……って紛らわしいな」
目元を掻きながら話すハルに、思わずクスリと笑ってしまった。
「申請すれば、休日は遠出できるから、今度の週末にでも行ってみる? サーラの脚じゃあ遠すぎて無理だからね。馬車やら宿やら、手配しておくよ」
「うん、ありがとね、助かる」
こんな話題をハルに振っておいて、すべて彼任せになってしまうことに、自分が情けなくなってしまった。
向こうでは、インターネットやナビシステム、移動機関を何不自由なく使っていたのが、こちらでは大半のことを人力もしくは魔力で行う。
いかに自分が科学のチカラに頼っていたか、楽な生活を送っていたのか、を身に染みて感じる毎日。そして、私ひとりだとこの世界では何一つ満足に作業することがままならないことを痛感した。
ハルの休みに合わせたお出かけの当日。
ため息まじりで馬車に揺られる。
長い……居眠りして目覚めても、まだ揺られる馬車に乗り、つくづくそう感じた。
王都まで来た何日かの道のりを、今日から同じ日数をかけて逆戻りして、以前住んでいたキーラの街に到着。
それからまた半日かけてサランディアさんの家がある、あの場所に移動するのだ。
「やっと着いたー! ホント移動って時間かかるねぇ」
「ごめん……俺まだ魔力の制御が完全じゃないから、空間魔法は無理なんだ。もう少し勉強が進めば、楽に移動できると思うんだけど……」
「ハルって魔力強いの?」
「うん、だからサーラに制御教わって勉強しようと思ったんだ。それだったら学校行かなくてもよかったしね。何せこの年齢だし……」
なるほど。これはハルに頑張って勉強してもらって、ハルに日本へ送ってもらうっていう計画もあり得るってことかもしれない。
うん、ここは是非とも素敵な魔術師になってもらわねば。
あの傲慢で鼻持ちならない魔術師団長に頭を下げる他にも希望がでてきたことに、思わずハルに向かってサムズアップポーズを決め込んで、こう言った。
「グッジョブ!」




