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17.お断りよっ!

 私の耳がおかしくなったんだろうか。

 コイツ、今私に向かって変なこと言ったぞ。

 モノ? どういうことだ?


 頭の中の処理が追いつかず、固まっていると、痺れを切らしたようにもう一度ヤツは同じようなことを言った。


「聞こえなかったか? 月宮沙羅、お前は私の側にいろ。お前が何ひとつ不自由のない生活を保障しよう。どうだ?」

「どうだって言われてもねぇ、そもそも、私がここに来たのも、最強と言われている魔術師団長に会いに来ただけだし。そんでもって、日本に返してもらう大魔法を考えてもらえるようにお願いしにきただけだもの。別に、アンタに会いに来たワケでも、アンタのモノになりに来たワケでもないのよね」


 両手を広げて手のひらを上に向け、残念でしたのポーズをビシッと決めて、断りの返事をした。

 私がまさかのお断りをすると思っていなかったのか、ヤツは軽く目を見張ったまましばらく固まっている。


 ふふん、これだから俺サマ系男子って苦手なのよねぇ。自分が拒否されるなんて思ってもみないっていう、自惚れ?


 昔、クラスで人気男子とか言われてた男子もそうだったわ。

 クラスの中でも可愛いと評判の女子が、自分に気があるかもって噂を聞きつけてさ、告りにいったらアッサリ振られてるカンチガイ君。


 今の君はあの時のカンチガイ君と一緒なのだよ。プライドばっかり高くて、自分が拒否されることをまるで考えてないもの。

 さあ、拒否される気分を味わうがいいわっ。


 特別な勝負をしてるわけでもないのだが、何となくコイツの鼻を明かしてやった感を感じて、かなりいい気分になった。


 そこまでをジッと見ていた黒づくめは、不意に口元を緩め、肩を小さく震わせながら笑いはじめた。

 そう、とても楽しそうに笑っているのだ。


 私がガンとして断ったことがそんなに面白かったか? 笑いの要素はこの一連の流れの中にあったか?

 お断りポーズのまま、キョトンとした顔をして笑っているヤツを見続けた。

 ようやく笑いが収まってきたのか、コホンと軽い咳払いのあと、おもむろに口を開いた。


「ああ、すまん。私と何度も顔を合わせているので、てっきり気づいているものだと思っていたのでな。私の名前はラッセル。この団をまとめている者だ」


 ほう、ようやく名乗ったか。顔と名前がすぐに結びつく、とか言うのは有名人と相場が決まっているモンだよ。

 コイツ本気で自惚れ野郎だわ……と、どっかで聞いたな、ラッセル。ラッセル……


 街で聞いたおばちゃんの声が蘇る。


『最強は師団長のラッセル様だろねぇ。ジーク・ラッセル様、別名『氷の魔術師』と呼ばれているお方さ』


「ラッセル……最強……アンタが……」

「市井の人々には顔を知られているものだと思い込んでいた。私も考えが甘かったのだな、反省しよう。お前の行動は本当に私にとって新鮮だ。やはり私の側にいろ」


 最強の魔術師に会えば、話しはトントン拍子に進むと思ってたんだけど……

 コイツが最強ってことは頭になかったわ。

 んー、最強の魔術師に頭下げてお願いする計画……ムリ。コイツに頭下げたくないモン。


 だって俺サマだし、私のことバカにするし、最終的に異物扱いだからねっ。

 でもコイツに頼まなきゃ日本に帰る手段は無くなるってことだ。

 さあどうする、月宮沙羅。ここが正念場だ。


「夜だけ人に戻るのではなく、常に人型を取りたいであろう。常時、人になるならば寮に戻るのは厳しいぞ。何せ男子寮だからな、女人禁制になっているはずだ。私の側で生活するのが理想だろう」


 ヤツは相変わらず自信たっぷりで、口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見つめ返す。


 唇を湿らせて、言葉を絞りだそうとするのだが、なかなかそれができないでいる。

 せめてネコじゃない生活がしたい、そう考えるのは、人間として当たり前の考えだと本能が思ってる。


『お断り』この言葉が言えたなら、どれだけ爽快な気分なんだろう。コイツは私が断れないと知って、こんな提案をしているんだ。


 最初に言っていたではないか。

 私が屈辱に顔を歪ませて頭を下げる姿が見たい、と。

 ホント嫌な性格してるんだから。

 思い出したらなんか余計に頭下げたくなくなった。


「やっぱ、日本に返してもらうのは止める。有り難い申し出だけど遠慮しとく。だって、アンタと一緒の生活なんて考えられないわ。素直にお願いすることが、こんなに腹立たしいと思ったことはないよ。もうネコでいいからハルのとこ帰る」


 今まで自信に溢れていた力強い眼差しが、一瞬フッと力をなくしたように感じた。

 え? もう一度確かめようとしたら、視線を外され、さらに目を瞑ってしまったので、そこからの表情は窺うことができなくなってしまった。


「ハルムート・エクセル……お前を離さない男か、これも巡り合わせなのか。本当にお前は面白い。向こうに居づらくなったら私がお前を引き取ろう、待っているぞ」


 再び目を開けた時は、また自信に溢れたような眼差しだった。


 気のせいだったみたい。俺サマなコイツが揺らぐなんて有り得ない。


「んじゃあ、もう帰るわ。お騒がせしました、機会があればまたお会いしましょう」


 スタスタと扉を開けて廊下に出た。

 あーあ、意地張らないで頷けばよかったのかなぁ、と考えながら少し歩いたところで、ピタッと止まった。


「カッコつけて出て来ちゃったけど……出口ってどこよ?」


 あー、私ってアホだー。

 せめて出口まで送ってもらってからカッコつけるんだったー……

 どうするよ、アイツの部屋に戻ってお願いするべきか。いや、あんな啖呵切ったんだもの、今さらすみませんでしたって言ったら絶対に下僕扱いされるに決まってる。


 こうなりゃ意地でも自力で出口見つけちゃる。


 フン、と鼻息荒く顔を上げると、目の前に灰色フードの男が膝をついて私に頭を下げていた。

 この人、さっきもそうだったけど神出鬼没。


「えっと……コークスさん、でしたよね。私に何か?」

「はい、まずは元師団員の不敬にお詫びを。そして、(おさ)からあなた様を丁重にお送りしろとの命を申し遣っております」

「お詫びなんて、私も考えなしでこちらに突撃したようなモンでしたから。私の方こそお騒がせしました」


 ペコリと頭を下げてコークスさんに謝った。

 立ち上がってもらうようにお願いして、出口まで案内してもらうことにした。


 アイツ……師団長と違ってコークスさんはずいぶんと気さくな人で、話をしていても自然に笑顔になれるような雰囲気を出している。

 ただの世間話なのに、もっと話をしたくなるような、そんな感じの人だった。


「コークスさんが師団長だったら良かったのに。そんなにあの人って強いの?」

「ええ、お強いですよ、師団長は。いろいろなものを捨ててきた結果の果てに得た強さだ、と言っておられました。私にはそのような度胸もありませんし、覚悟もありません。本当にすごい方です」


 ふーん、あの人も結構な犠牲を払ってるんだね。あの自信満々な顔からは想像もつかないけど。


「本当のあの方はとてもお優しい方なのですよ。そして……とても寂しい想いを抱えている。あなた様も理解(わか)ると思いますよ、いづれ」


 コークスさんは私の頭に手を当て、優しくポンポンと撫でてくれた。


「あなたは、あの方の内側に入られた三人目のお方だ。だから理解(わか)り合えると思うのです。私にはできなかった、あの方の心を解放してください、お願いします」


 私の両手をギュッと握り、縋るような目で私に話しかけるコークスさん。その迫力に、たまらずコクコクと無言で頷き返す。


 それを確認して安心してくれたのか、ニコッと笑って小さく「ありがとう」と礼を言われた。


 別れ際、ネコの姿に戻してもらい、一目散に寮へと駆け込みハルのベッドに潜り込んだ。寮の入り口まで送ると言われたのだが、少し走りたい気分だったので遠慮した。


ハルの「おかえり」という言葉に、やはり帰る場所はここなのかもな、と頭の隅で考えつつゆったりと目を閉じた。


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