15.今度こそ絶対的ピンチなの!
「……ということで、二人には、私がどうやったら魔術師団に潜入できるかを考えて欲しいワケなの」
昨日街で得た情報をハルとフィルに伝えて、協力してもらえるように作戦会議を開いた。
「潜入って……だいたい魔術師でもないのに団の中に入るなんて、想像もできないよ」
ハルは途方に暮れたように呟く。
そういえば、コークスって人が副団長だったのを思い出し、フィルに尋ねることにした。
「今の副団長さん、コークス様って人らしいのよ。フィルもコークスさんじゃない? 知り合いだったら紹介とかしてもらえないかと思ったんだけど」
「あー、よく聞かれるんだ、それ。残念ながら、あんまり知らないんだよね。僕も紹介して欲しいくらいだし」
なーんだ、残念。ちょっとしたアドバンテージだと思ったんだけどなあ。やっぱり楽はできないってことね、次の手を考えないと。
よし、頭を切り替えよう。
「じゃあさ、普段、団の中ににる人たちは身の回りのお世話とかどうしてるかわかる? よく身分の高い人なんかだと、侍女とかいっぱいいるじゃん。あれになるとかどうかな?」
「確かにいいアイディアだと思うんだけどさ……うん、いいんだけどさ……」
ハルが私をみながら、非常に言い辛そうに口元を隠してモゴモゴとしている。何のことかわからない私は、ちょっとイラっとしながらハルを問い詰めた。
「ハル、遠慮しないで意見を言って。ハルはもう少し積極性を出すべきだわ」
「じゃあ言うけどさ。ええとね、サーラってば昼はネコじゃない? 基本的に侍女の仕事は朝早くから夕方までなワケ。だからネコのまま採用面接って無理でしょ? もうひとつ、夜だけの仕事ってのもあるけど……そのー、ベッドの中に入るってのが大半だから……」
忘れてた。仕事に就くってことは、その前に面談するもんね。
喋るネコだから採用って、どこの変人かって話になるのか。
確かに夜専用のお仕事は、ピンク色な気配が漂う内容だってのは想像つくけど……やってやれないことはないっ!
「じゃあ、夜のお仕事面接受けるようにするわっ!」
それを聞いたハルとフィルは、お互いに何とも言えないような顔を見合わせ、ヒジでお互いを小突きあう。
「何よ、言いたいことがあるならキチンと言ってくれないとわからないわ。フィル、言ってみて」
私は強制的にフィルを指名して、一体何が問題なのかを言わせるようにした。
「はいっ! サーラでは夜の採用はかなり望み薄だと思われますっ!」
ギュッと目を瞑って、勢いよく言いきったフィルだったが、恐る恐る私を見て、その瞬間、また慌てたように「ごめんなさい、ごめんなさい」と必死になって謝ってくる。
意味がわからず、首を傾げると、フィルの言葉をフォローするようにハルが詳しく説明してくれた。
「あのね、夜の相手に選ばれるってことは、それなりの魅力的なボディが必要なワケで……サーラの体型を見るに……面接担当者からは……たぶん採用されないと思うんだ」
ネコのまま正座に似た後ろ脚座りをしていた私は、衝撃のあまり、そのままの状態で、うーん、と言う言葉と共に後ろにひっくり返ってしまった。
固まった状態で天井を見ながら、呆然とつぶやく。
「私……体型……ショボい……不採用……」
「あ、いや。俺はサーラは充分魅力的だと思ってるよ? ただ世間の皆さんに受け入れられる体型か、と問われると、これまた難しい問題で」
恨めしそうに首だけ巡らし、ハルを見ると、両手を広げて身振り手振りで必死にフォローしてくれてる。隣にいたフィルも、無言のままコクコクと頷き、同意を示している。
「そ、それに」とフィルが焦ったように言葉を繋ぐ。
「夜の相手なんてサーラには向いてないと思う。もっと他にも方法があると思うから、一緒に考えようよ?」
「そ、そうだよ。とりあえず、月が出たら変身して、魔術師団にダメもとで行ってみようよ。俺たち、もうすぐ月末試験だからさ、いい成績取って外出許可もらえるように頑張る。そうしたら俺たちも一緒に、サーラのことを考えてくれる魔術師も探せると思うからさ」
ハルにもフォローされ、ムムム、と唸っていると、頭を撫でられ、ついでにギュッと抱きしめられる。
そうしたちょっとしたご機嫌とりで満足してしまい、気を取り直してもう一度頭を切り替えることにした。
「わかったわ、明日にでも師団に掛け合ってみる。今日はなんだか疲れたからもう寝る」
その言葉を受けて、あからさまにホッとした表情で二人がガシッと手を繋ぐのが見えた。
おい、それをやるなら、私が寝てからやってくれよ。考えることすら情け無くなってきて、ガクンと肩を落としながら丸まって意識を閉ざした。
次の日の夕方。そろそろ日が傾いてき始める時間。
私はハルに「行ってくるよ」と宣言して今日の戦場へと向かった。
王都ルシールの西側、学校とは反対側に位置する魔術師団は、先日足を運んだ街とはまた違った雰囲気を醸し出している。
閉ざされた空間、というか、よそ者を受け付けない、『関係者以外お断り』の空気感が建物全体を覆っているような、そんな感じがする。
ネコの姿のまま一度その建物を見上げ、ゴクリと息を飲んでから、今来た道を少しだけ引き返した。
怖じ気付いたわけではない。水鏡を利用して、人間の姿に戻るためだ。
「ここなら誰も気がつかないわよね」
キョロキョロとあたりを見回してから小さく呟いて、前もって見つけておいた水たまりにネコの自分を映して変身した。
「あのー、ちょっとお尋ねしますが……師団長様はいらっしゃいますか?」
「ぅお? 姉ちゃん、師団長は女にゃ興味ないぜ。媚び売りに来ても無駄無駄。それより俺なんかどうだい? あと少しで交代時間だからなぁ、ウヒヒ……」
「いや、コイツより俺の方が何倍も満足させてやれるぞ? 一緒に愉しもうぜぇ」
下卑た嗤いをする門番たちの喋り方に、身震いするが、ここで引いたら女が廃る。
両手を胸の前で組んで、上目遣いに二人を見遣る。
「お二人の魅力は申し分ないと思うんです……だけど、今日はどうしても師団長様にお会いしたいんです。もし会えるようにしてもらったら……お礼はたっぷりと……」
門番同士で何やら目配せしたと思ったら、 入り口からちょっと入った奥の部屋へ通された。少し待つように言われたので、ソファに座り、これからどう話しを持っていくかを考えた。
とりあえず潜入は成功した。あとはハルの時と同じように、私の今の状況を説明して協力してもらうしかない。最強の魔術師なら、異世界へ私を飛ばすことだってできるはずだ。
魔術師はエリートだって言うからには、出来ないことがあると、逆にプライドを刺激して、意地でもやってやろうという気になるかもしれないじゃない。
おだてて持ち上げて、最強の魔術師をその気にさせれば、たぶんやってくれるはず。
私は両手を強く握って、必ず交渉を成功させる、と心に誓い、自分を奮い立たせた。
すぐに先ほどの門番の一人が「お茶でも飲んで待っててくれ」と済まなそうな顔をして気遣ってくれたので、ありがたくそのお茶をいただいて時間を潰すことにした。
ふう、と大きく深呼吸をしたと思ったら、急に視界がグニャリと歪む。
咄嗟のことなので、ソファの縁に体を倒れこませ、このめまいから逃れるように体を伸ばす。
なんだろう、緊張しすぎて疲れたのかな。
おでこと目元を手で覆って頭を休めようとしたら、いつの間に来たのだろう、目の前には門番二人がニヤニヤしながら私を覗いている。
「すみません、ちょっと疲れがでたようで、
少し休めば治ると……」
「やっぱりすぐ効くねえ、この薬。最初はお前に譲るから早く済ませろ」
「わかった、そう焦るなよ。全く女なら誰でもいいんだな、お前」
「そんなこと言って、お前だって最初は譲らねえとか、どんだけだよ」
私を無視した会話を続けながら、ギラギラした視線だけは私を捉えて離さない。
ヤバい、命の危険はまだないが、貞操の危険が迫ってるぞ、私。
どうする、月宮沙羅。初めての男がこれじゃ、日本帰っても未練しか残らない。てか、ここで死んだ方がマシかも……
最初だ、と宣言した男が私に覆い被さってくる。抵抗したいのだが痺れたように重くなった体がいうことをきいてくれない。マズい、絶対的ピンチだ。
……誰か……助けて……




