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14.どうやって会うのさっ!

 おばちゃんの話しはとても興味深く、この国の魔法のことやら魔術師の立場とか扱い、なんてのを詳しく聞くことができた。


 人間、誰にでも得意分野があるように、頭の切れる者は文官や商人に、体力のある者は国の武官や建築関係など。さまざまな業種で人々が仕事に就いている。


 これは私がいた世界とも同じなので、生活環境は似たようなものだと認識できると思う。


 少し違う点があるとすれば、元の世界は科学が発達して、人間の生活を補助していたが、こちらの世界では機械文明は発達していない。その分、魔法が発達し、住人のほぼ全員が魔法を使えるようになっている、ということだ。

 いわゆる生活魔法というヤツが人々の暮らしを補助しているのだ。


 人々の中でも魔法を駆使する力『魔力』が強い者も当然のようにいて、十五歳から必ず入学する国立学校に在学中、特に魔力の強い者は専任の講師の先生について勉強することになるらしい。

 強い魔力は制御が必要で、その方法を学ぶためにも特別な勉強と訓練が課せられる、という話だ。


 本人が希望をすれば、国の魔術師団に入ることも可能だ。基本、魔力制御の訓練を受けた者が入団の条件になっているので、ひと握りの選ばれたエリートのみが入ることのできる場所になっているらしい。


「ねぇおばちゃん、魔法使いの集団があるなら、その中の最強って誰?」

「そりゃ師団長のラッセル様だろねぇ。ジーク・ラッセル様、別名『氷の魔術師』と呼ばれているお方さ」


 へえ、二つ名がつくほどの人なら強そうだもんね。早速会える方法を聞いてみよう。


「その師団長様に会うにはどうしたらいいのかなぁ?」

「あっはっはっ、お嬢ちゃんも師団長狙いかい? 絵姿だけで満足しておいた方が身の為さぁ」


 ラッセル、という名前を聞きつけた、近くのおじさんまでこっちに来て話に加わった。


「お? お嬢ちゃんまでラッセル様かい。女はみんな好きだよなぁ、花屋の姉ちゃんなんかキャーキャー言ってるぜ。あの方はカッコいいからなぁ」

「なんとしてでも会いたいんですけど……」

「そりゃ魔術師団に行くか、チラッと見るなら凱旋パレードだなあ。まあ魔術師団に行っても門前払い食らうだろうし。パレードにも顔出すかねぇ、なにせ人嫌いで有名な方だからさ」


 おじちゃんが私に話してくれたのを受けて、おばちゃんも頷きながら話を続ける。


「もともと愛想のいい方じゃなかったもんねぇ。アタシだって毎回パレード見てるけど、近頃めっきり見かけないよ。例の第二王子の婿入りの騒動あたりからだよね、急に人前に出なくなったのは」

「だなあ、だから会うなんてことは考えない方がいいぜ、お嬢ちゃん。なんなら花屋の姉ちゃんから絵姿見せてもらいな」


 ええっ、人嫌いって……私がなんとか面会に漕ぎつけても、会ってくれない可能性ありってことよねえ。これは問題山積みだわ。


 まず、どうやったら魔術師団の中に入ることができるか、だな。チラッと見るならパレードでもいいだろうけど、私の場合、絶対に会って話を聞いてもらわないとマズいパターンだからだ。


 次に、魔術師団に入りこんだ後、どうやったら師団長に会えるか、とかも考えなければならない。直接、師団長と顔を合わせて作業する何かの職を紹介してもらうとか、人嫌いでも会ってみたいと思わせる何らかの魅力が私にあればいいのだが……


 私のショボい知識だけじゃあダメだな、何も浮かばん。帰ってからハルとフィルに相談してみよう。

 三人揃えば文殊の知恵って言うじゃない?

 なんかいいアイディアが浮かぶかも。


 そうと決まったら、早速寮に戻ろうかな。

 おっとその前に、保険を少しかけておくか。


「おばちゃん、おじちゃん、一番強い人はわかったわ。じゃあ二番目はだあれ?」

「二番目はサランディア様さ。もっとも、第二王子との婚約が破談になってから田舎に引っ込んだって話だったよなあ。あン人は美人だった、ボン、キュッ、ボーンってな。王家ゆかりの令嬢だから血筋は確かだし、魔力もかなり強いって話しだったしな。学校や師団に入る前から既に魔力を操れたって話も聞こえたよ。前途洋々だったのにな、ホントもったいねぇ」


 おじちゃんはニヤニヤしながら、体型を両手で表現して、嬉しそうに説明してくれる。

 それをみたおばちゃんは、呆れたようにおじちゃんの頭をパコンと叩く。


 サランディアさん……いい人だったよね。それなりの魔法使い? 魔術師? だと思ってたけど、学校いく前から魔力操れるってすごくね?

 にしても、おばあちゃんで婚約者? 半世紀をかけた恋、みたいな感じかな。いや、違うな。確か二十歳って言ってたような……それとも同じ名前で全然別人か? んー、わからん。


 パズルのボードとピースはあるのに、バラバラで、何をどこに嵌めればいいのか、全く手がつけられないような感覚だ。


「お前さんも美人にゃ鼻の下伸びるねぇ。今はサランディア様よりも、現副師団長のコークス様だろ。サランディア様は王家に逆らった、とかで魔女扱いされちまってるしね。コークス様はサランディア様に次ぐ魔力の持ち主だって噂だし、こっちも美形だよ」


 ん? コークス?

 どっかで聞いたような……ああ、フィルって確かコークスだったよね。知り合いかな、もし知り合いなら紹介してもらうのもいいね。


 よしよし、今日はかなりの収穫があったぞ。

 あとは今日の情報をまとめて、問題点を二人に相談して、早いうちに魔術師に会える算段をつけるってことで。


 意外とトントン拍子で日本に帰れちゃうかも。

 ちょっと希望が見えてきたことで、気持ちも前向きになれたような気がする。

 やっぱり、漠然と帰れないかも、という不安を抱えて生きるのと、帰れる可能性があるかも、と思いながら生きるのでは、モチベーションの差がかなりある。


 このファンタジー世界も面白いかもしれないと感じるのだが、別世界から飛ばされてきた私には、所詮自分が生きる場所はここには無いのだ、と頭の隅で考えてしまうのだ。


 田舎の両親、小さな頃から知っている隣のおばさんや近所のお兄ちゃん。東京の大学や会社に就職してからできた友達や先輩社員。そんなに懇意にはしていなかったが、やはり私を知ってくれてる人たちがいる、あの世界に戻りたい、と本能が訴えている。


 還るーーそれが自然な流れなのだ。


 時間もそろそろ日暮れに片手がかかる時間になってきた。

 話しを聞いたおばちゃんとおじちゃんに、丁寧に挨拶し、街の出入り口に向かった。


 一向に迎えにこない私のことを心配して、迎えが来るまで店で預かる、とまで申し出てくれたのだが、時間切れでネコに戻るのを目撃されても、気味悪がられるだけだと思い、丁重に断って店を後にした。


 街を出て、少し脇にある木の陰でネコに戻った。そのまま何も考えずにひたすら走り、寮の部屋にいるハルの隣にストンと座り、ふう、と大きな息を吐いた。


「お帰り」と優しく頭を撫でてくれるハルを見上げながら、にっこりと笑い返す。


 この場所もまた私の帰る場所になってきてる。仮初(かりそ)めとは言え、ハルの手の中は暖かいいし、優しく包んでくれている、という安心感がある。


 今はまだ、この手の平で満足しておこう。

 異世界から来た異物の私を、嫌うことなく包んでくれる、この手の平に感謝。


 ゆったりとした眠気の波に身を委ね「ただいま、そしてありがとう」と何度も繰り返した。


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