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1.何が起きたっ!

「たっだいま〜、今日もお疲れちゃ〜ん……って誰も居ない部屋に向かって声出すのも虚しいよね〜」


 私、月宮紗羅(つきみやさら)は彼氏なし、男っ気なしで二十四年とかなりの月、生きて参りました!


 私の側にいた男といえば、お父さんか小学校のクラスの班行動で一緒になった子たちくらい? 名前すら浮かんでこん……

 中学からは女子校、女子大と進み就職に至っては小さなランジェリー会社の事務。


 はっきり言って、男の存在、いや気配すらないままの人生を爆進中だ。

 そんな私を癒やしてくれるのが、昨今流行りの乙女ゲーム……ではなく、お笑いのDVD鑑賞だな。


 そりゃちょい昔はゲームに向かってキャーキャー言ってみましたよ? キュンキュンするのは肌にもいいって話だったし? しかしなぁ、乙女ゲームのエロボイスで囁かれようが何しようが、実際に居ないモンは居ない。虚しいだけやん……


 と考え直してひたすら笑いを求める毎日になっている。一日ひと笑い、これが今の私のささやかなる楽しみですかな。


 べっ、別にっ、枯れてるワケじゃないからねっ!

 ちょい、男子関係から遠ざかってる……が年齢分だってだけだし……


 それでももうすぐ二十五歳、おひとり様を気取るかどうかの分かれ目歳? お肌の曲がり角?


 そろそろ結婚という言葉が頭をよぎる。田舎の両親からも、大丈夫なのか、という煩わしい電話が頻繁にかかってくる年頃なのだ。


 でも合コンやら婚活サイトに登録なんて勇気もなければ免疫もなし。

 今は仕事でガッツリお金稼ぐべし、と自分にいい訳しながら今日もテレビに向かってる。


 別に人生を諦めてるワケじゃないのよ。

 常に新しい自分、新しい出会いを望んでるんだけどね、毎日の生活に忙殺されて出会いとかがちょっと遠のいているのは確かだな。


 新しいことを始めるって、すごいエネルギーがいると思うんだ。誰だってキッカケがあれば、自分自身を動かす力が出てくると思う。

 まあ、キッカケを第三者に委ねてる段階で、自分を変えるっていうことをやめて日々の流れに甘えてるってのもあるかもしれないけどさ。


 ひとしきり笑ったあとにお風呂に入り、髪の毛をタオルドライしながら鏡に自分の顔を映す。お肌の手入れのルーティンを順番にこなし、あと少し、というところでつけっ放しのテレビから、ドラマか何かの声が耳に届いた。


『お願い、見逃して。私たちはただ静かに二人でいたいだけなの』

『無理だな。隣国との協定により誰かが向こうに行かなければならないのだ。第三王子が使いものにならなくなった今、第二王子(ブランドール)様が代わりとなるのは仕方ないことだ』

『彼以外に誰か適任者は……』


 おんやぁ、修羅場ってる? 恋人が誰かの身代わりになるみたい?


『だから無理だと言っている。本来であれば属国扱いにされるところを、王子が第一皇女の婿になることで同盟国のままにしてもらえるのだ。向こうにしてみれば、かなりの譲歩だ』

『アンタは私たちを祝福してくれんじゃなかったのか?』

『状況が変われば立場も変わる。今のお前は王子の邪魔にしかならない。諦めろ』


 なーるほど。立場弱い国の王子が政略結婚のために隣国にドナドナされちゃうってことか。

 うーむ、お国のために身売りって、昔の物語の中だからサラッと流せるけど、当人や恋人なら切ないよねぇ。


『アンタには私の辛さがわからないの? 第三王子が事故に遭ったというならば、あの人も事故で亡くなったことにでもしてくれればいいでしょう』

『手遅れだ。既にお前のことは終わらせて、婚姻の準備を始めている。王子は乗り気だぞ』


 あらら……実は女の子は一途だけど王子様はそれ程でもってな感じ? お気の毒サマ、お嬢さんには新しい恋がお似合いよ的な?


『……そんなことない。アタシが一番だって言ってたもの。ずっと大事にしてくれるって言ってたもの……』

『ブランドール様は、もうお前に興味などない、終わった話だと言っていた』

『うそ、信じないわっ』

『これ以上邪魔するなら、お前を排除しろとの命令だ』

『そ……んな……』


 恋なんて片方が冷めると早いのよね。まあ、私も漫画やドラマで見た経験しかないけどね。

 女の子も早く目を覚ましなさいって、アンタだけ縋ってても哀しいだけだから。


『アンタにアタシの本気をみせてやるっ。力づくでもあの人をもらうわっ!』

『ふむ、やはり排除しなければならいか……』


 男が呟くと同時に女も何やら呟いて、二人の手から光が飛び出す。


 バーン、と光の激突。女はギリギリと歯を食いしばっているし、男は半目になって、それを受け止めてる様な素振りだ。


 おっ? 二人とも魔法使い設定か。おお、魔力の拮抗だぁ。演出、ナイスな感じだし……あ、女の力の方が強いじゃん。

 と思ったら、バーン、と男が月に向かってその光を()らすように直撃を避けた。


 ギュイーンという効果音付きで光が月へと向かって消えていく。


「へぇ、男の魔法使いの方が一枚上手なんかなぁ」


 思わず口にだして感想を述べていた。なんかこの必死さに惹かれるモノがあるみたい。心なしかドキドキするこの不思議な感覚に、完全にテレビに魅入(はま)ってしまってる。


 女が男に対して魔力を当てたらしい。

 男が仰け反り気味になったが、すぐさま体勢を整えて女に向かって魔力放出。

 女が「ギャッ」と言いながら後方へ吹っ飛んだ。


「うっわ、ひでぇな。女相手に手加減なしかい。でも排除とかいってたし、ここは倒す方向だよね」


 女が場に戻ってきたけど、両目から血をながしてるみたい……結構グロい……


『よくもやってくれたわね。まあいいわ。私はさっきの魔術で、アンタからほぼ全ての感情を抜き取ったから。これ以降、アンタはなんのために生きているか、って自問自答を繰り返して生き長らえな。一生恋なんてしないだろうね』


 ふん、と男が鼻を鳴らし、女に宣言をする。


『油断したが、当たっても私には何の意味もない魔術だったな。感情などというものはしょせん魔術修練の邪魔になるだけだろう。先ほどお前には、目潰しと同時に寿命を促進させる魔術を織り込んだ。日に日に年を重ねていけば諦めもつくであろう』


『くっ……ならば、これを喰らえっ! 今奪ったその感情分の魔力でお前自身を消してやるっ!』


 バーン、と男に魔法を投げつけた。が、また月へと受け流してその魔法を回避したようだった。


『あいにくと、私の方が力量あるからな。先程当たったモノ以外は全て回避できる自信がある。これ以上は無駄だ、魔女よ、素直に国の方針に従え』

『くぅぅぅ……ああっ……あ……』


 あらあら残念。魔女さん、ここで自分の負けを甘受するワケね。後はテレビ的には魔女が年老いて死ぬ瞬間を流す感じかな。その後は……もう見なくても予想つくよね。魔女を倒した魔法使いの最強伝説が生まれ、カメラが王子へとパーン。フラワーシャワーの結婚式で締めかな。


 ふむふむ、男の魔法使いさんにかけた魔女さんの魔法? が陳腐だったけど、まあそこそこ楽しめたんじゃない?


 さてと、仕上げのパックして……


 と鏡を見直した瞬間、そこに映っていた月がブワッと白く発光し、目が眩んだ私はびっくりしてキツく目を閉じた。


 ドンッ……衝撃音とともに体がビリビリと痺れ、空中にふわっと浮き上がる。

 幽体離脱かい、っと恐る恐る目を開けたら、今度は真っ暗になって急降下するような感覚になる。


「んっ、ノォォォーーーーーーーーっ!!」


 絶叫とともに頭のシェイキングに耐えられなくなって、そのまま意識を失ってしまったようだった。

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