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あなたを救うために。
目が覚めると、わたしはベッドにいた。
普段敷くことのないシーツ、少し硬いマットと枕。微かな消毒液の匂い。それらで私は病院にいることを確信した。
わたしの傍らにはスーツを着た男の人が2人立っていた。どちらもわたしの父親ではない。2人のスーツはてろてろしていて安っぽかった。父はオーダーメイドの高級ブランドのスーツしか着なかった。2人がわたしに向かって何か口を動かしている。言葉として聞こえない。いや、言葉として耳から入ってきているが脳が言葉だと認めていない。きっと久々に意識がもどったからだろう。耳が機能していない。2人のうち1人がわたしに向かって手帳を見せた。金色のありきたりな模様。警察手帳だった。一気に血の巡りが速くなった。そのおかげで耳は急激に機能しはじめた。