勇者召喚。魔方陣の中にいたのはワシ(王)だった
王 「暇潰しに勇者召喚でもしよう」
宰相「Σ( ̄ロ ̄lll)」
王 「準備ヨロシク!」
宰相「( TДT)」
ここは城の北東にある塔の最下層。そこに床一面に幾何学模様の魔方陣が描かれている。
その魔方陣を描くのに使われたインクには魔物から取れる魔石を砕いて混ぜてあり、今も薄紫の光を放っている。
「準備ができました」
神秘的な光景を見ていたワシに側で跪く兵士が声をかけてくる。それに頷き、ワシはこの最下層に響き渡るように声をあげる。
「勇者召喚を始めろ!」
「「はっ!」」
魔方陣を囲むようにローブを着た魔術師達が杖を掲げる。その中の一人、ローブに宝石を幾つも着けた男が呪文を唱え始めた。
「ド〇タコスったらドンタ〇ス! ハイ!」
「「ドン〇コスったら〇ンタコス!」」
いつも思うのだが『ドンタコ〇』ってなんだよ! そして踊り狂うなよ! そう思っていると魔方陣が放つ光が強くなってくる。
「「ドォォォンタァァァコォォォス!」」
喉が張り裂けんばかりの絶叫と同時に目を眩ますほどの光が辺りをこの最下層に広がる。
「勇者が召喚されたぞ!」
眩しさに目を閉じていたワシの耳にその声が届いた。ワシは歓喜を圧し殺して威厳を保つようにして目を開ける。
目を開けると目の前にこの国の宰相と兵士がバカ面さげてこっちを見ている。
「「…………」」
「…………」
ワシと宰相達は無言で見つめあった。暫くして宰相はポンと手を打つと、ワシに頭を下げた。
「召喚に応じてよくいらっしゃいました。勇者様」
「何で!?」
睨み付けるワシから目をそらして、
「今からこの国の王に会ってもらいます……」
「この国の王はワシよ! 宰相! 目を合わせろよ!」
「王の間に案内しなさい」
目をそらしたまま、宰相は隣にいる兵士に声をかける。『オレ?』ってふうに自分を指差す兵士とみんなが視線を合わせないようにして撤収する。
「……あの、行きましょうか?」
いろいろと諦めた兵士はそう言ってワシの前を歩く。道は知ってるからいいんだよ! そう言ってずんずん進んでいくワシの前に出て案内しようとする兵士。それを無視して前に出ると案内しようと前に……。
「ぜえぜえぜえぜえ……」
「勇者様、体力がありませんね」
王の間の前でひっくり返っているワシを勝ち誇ったようにして見下ろす兵士。前、歩かせろよ! 案内ですって前に出ようとしやがって最後には走ってここまで来ちゃったじゃないか!
「勇者様を連れてきました!」
「準備中です。暫くお待ちください」
王の間の前で立っている兵士が言った。中からドタバタ音がするが何してんの?
「入るからどけ!」
「勇者様、暫くお待ちください」
「退けよ! ワシは王様よ!」
「いえいえ、お戯れを……」
「おいこら! 目を見て言えよ!」
ワシを見ないようにして通せんぼする兵士。どうしてこうなった! くそっ、泣きそうだよ。
「……勇者様、準備が整いました。勇者様?」
床でゼイゼイいっているワシに中から出てきた兵士が声をかけてくる。くそ! 何でぶちギレて払い腰かけられなきゃならんの!? しつこく中入ろうとしたけどこれはないだろ!
「くそ、腰痛めた……」
王の間に入ると左右に礼儀用の豪華な槍を抱える兵士達が並び、奥に玉座とその横にに宰相始め国の重鎮達が立ってる。
「何で玉座にクマったちゃんが座らされてんだよ!」
ワシの抱き枕にして愚痴を聞いてくれるヌイグルミ。どうして寝室からそれ持ってきてんの!?
「この方がこの国の王。デブッテ・ンジャネエヨ様です」
それワシ! それクマったちゃん!
「王よ、勇者にお言葉を……」
しゃべれるわけねえだろ。それヌイグルミだぞ。ん? 玉座の後ろから誰かが顔を出した。あれは忘年会の時に宰相の声真似した兵士じゃねえか!
「勇者よ、よくぞ召喚に応じてくれたブヒ。この国のた……めに世界の為に……(この字何読むんですか?)魔王を倒す旅に出てくれ……ブヒ」
「ワシ、そんなしゃべり方せんだろうが! 何で語尾がブヒなの? お前らから見たワシのイメージってそうなの!?」
宰相! モノマネ兵士によくやったって親指立てんな!
「……コホン。えー、勇者には旅立つための資金と武器を用意しました」
目の前に持ってこられた宝箱2つ。その中には、
「5ゴールドとひのきの棒です」
「ばっかじゃねえの!」
「これは王様が決めたことですので……」
決めたよ! そりゃ決めたけどさ、ここはそういう流れはないんじゃないの?
「ワシ、王。勇者違う」
目をそらすな!
「ここは、ほら、あるだろ? 聖剣とかそっち寄越せ」
宰相は兵士に声をかけて持ってこさせた。そうだよ聖剣だよ。この国の王にふさわしい聖剣だよ!
「フギィィィッ! 持ち上がらねえ!」
「それはそうですよ。勇者レベル1ですから」
はぁ? レベル1って? ステータス……ホントだ1になってる。
「そうじゃねえよ! ワシ、王様よ! 王妃呼んできてよ! それで証明されるだろ!」
宰相が呼びに行った。なんかため息ついてたけど、これで勝てる! 宰相はワシの代わりに書類仕事を押し付けてやる!
「王妃様がお越しになりました」
「おお、王妃よ! ……何でお母様までいるの?」
申し訳なさそうに立っている公爵の娘で幼馴染みの王妃とその横にたってこっちを見ているワシの母親である元王妃。
「お母様! どうにかしてくれ! ワシ、勇者違う王様!」
「デブッテ、私最近、相談されたんですよ」
何? 王妃が恥ずかしそうにしてる?
「夜の運動の時に貴方が重いって」
「おい、ババア!」
王妃が顔隠して耳まで真っ赤になっちゃってるけど、このババアにそんなの相談したらこうなるってわかってるだろうが! 年取るついでに恥を捨ててきた人間だぞ!
「ちょうどいいので、勇者活動でダイエットしてきなさい」
「ワシ、王様! ワシが居なくちゃ国が回らないでしょ!」
「執務室の汗拭き係を他に回せるので政務は回ります」
汗拭き係っていたな書類仕事をしてる時に床拭いてる奴。そいつら文官だったの? そいつらの仕事が滞ってたの?
「いや、それでもお母様……」
「大丈夫です。王妃と一緒に仕事はしときますから勇者ダイエット頑張ってください」
「宰相ぉぉぉぉっ!」
こうしてワシは朝から城を蹴り出され、夕方に転位魔法使いに迎えに来てもらうという勇者ダイエットを頑張ることとなった。
「ワシ、国王!」