俊との闘い
第三章 3
このマンションに越して来て1ヶ月が過ぎた。7月も中旬に近づいて、日に日に陽射しが強くなって行くのが分かる。季節は既に夏真っ盛りと言う感じだった。
世間では次々と新たな凶悪事件や凄惨な殺人事件が続発していて、ワイドショーは慌しく報道を重ねている。俊一の事件はもう古い記憶として忘れ去られているみたいだ。
近頃俊は太ってきた。そりゃ一日中家に篭もって食べてばかりいるので当然といえば当然だけれど、プヨプヨしてきた。
面白がって俊のふっくらした頬を指で突付いてみる。柔らかい。
これからは栄養のバランスも考えてあげなくちゃ……。
俊は自堕落な生活を続けている。外に出られないので仕方がないということもあるけれど、近頃は昼間ずっと寝ているらしく、夜は亜希子が寝てからもずっと板張りの部屋に篭もって起きているらしい。朝になって亜希子が起きるとまだ部屋でパソコンをしていたりする。
亜希子が会社に行くのを玄関口で送ってくれることもなくなってきた。板の間のドア越しに「それじゃ、行ってくるね」と声を掛けると「うん、行ってらっしゃい」と返事はしてくれるけど。
そして亜希子が仕事を終えて帰って来ると、俊は六畳間に敷かれた布団で寝ている。暑いからエアコンを一日中点けっ放しなのは仕方が無いけれど、電気代が一人暮らししていた時の二倍以上になってしまった。
この頃から些細なことで口喧嘩もする様になった。亜希子は一日会社で仕事をして、帰りに駅前で買い物をし、帰って来ては部屋の掃除や食事の用意等、家事一切をしなければならない。
俊は一日中涼しい家にいてすることも無いクセに、何も手伝ってくれない。
スナック菓子やジュースの空き缶は食べた場所に放りっぱなしで、きちんとゴミ箱へ入れることもしない。
ただでさえ仕事のストレスを溜めて帰って来たところへ、部屋の散らかし放題な有様を見るとついイライラが募ってしまうのだ。
溜まりかねて「少しくらい協力してくれたっていいでしょう」と言うと「僕だって手伝いたいけど、外へ行けないから買い物は出来ないし、ゴミ出しだって出来ない。アキコがベランダに出ちゃダメだって言うから洗濯だって出来ないじゃないか」と言い返されてしまう。
「それでも部屋の掃除とか、お風呂の掃除だって出来るじゃない!」と言うと、プイとふて腐れた様に板張りの部屋へ入ってしまう。
亜希子には「少しは私の身にもなってよ」という気持ちがあって、ついつい当たってしまうのだ。
それでもその後部屋から出てきた俊と夕ご飯を食べ、二言三言言葉を交わすうちに喧嘩のことは無かったことにして、時にはその後愛し合うことでチャラになった。
そんなことが繰り返されて、亜希子と俊の日々は過ぎて行った。
ちょっと喧嘩してもすぐ仲直りして……そんなことの繰り返しにも慣れて来てしまうと、もう喧嘩をした後白々しく仲直りすることにも嫌気が差して来たのか、俊は亜希子が仲直りしようとしても、浮かない顔をそのままにして、部屋へ入ってしまう様になった。
どんな男女にだって付き合っていれば、いや結婚したとしても、倦怠期という物はある。結婚していないカップルの場合はそれでダメになってしまったり、結婚している夫婦だって離婚してしまったりすることもあるけれど、そうした危機を乗り越えてこそ、本当の夫婦の絆が出来て来るという物じゃないか。
夫婦……無意識のうちに自分と俊とのことをその概念で考えていることに気付いて驚いた。
そうだ。夫婦なんだ。お互いに相手がいないと暮らして行けない俊と私とは最早夫婦も同然なのだから。このくらいの倦怠期なんて当たり前のことだし、頑張って乗り切って行かなくちゃ。
俊は家事にも掃除にも協力してくれないけれど、もう文句を言うのはやめよう。亜希子は黙って俊に尽くすことだけを心掛けようと思う。
でも、更に月日が経つと俊はずっと不機嫌に黙ったままになってしまい、ろくに口も開いてくれなくなってしまった。なので喧嘩にさえもなりようがない。
当然ながらセックスもしない。仕事が終わって帰って来た時、俊がまだ六畳間で寝ているので、そっと板張りの部屋に入ってパソコンを開いて見ると、ブックマークに沢山のアダルトサイトが登録されている。
それにヘンな出会い系サイトや登録制の裏ビデオサイト等にもアクセスしているらしかった。
心配になって電子メールを開いて見ると、ヤフー等のサイトを通して登録するフリーメールアドレスを取得して、出会い系サイトで知り合った何処の誰とも分からない相手とメールのやり取りをしている。
そのアドレスで登録したアダルトサイトから、閲覧した料金の請求メールも沢山来ている。そんなのは無視しても大丈夫だと思うけど、凄く不快な感情に襲われてしまう。嫉妬とは少し違う気がする。それよりは酷く情けない様な感情だった。
部屋に置かれたゴミ箱には沢山のティッシュの固まりが放り込まれている。
そのひとつを摘み上げて顔の近くに寄せてみると、やっぱり俊の匂いがする……。
パソコンを取り上げてしまおうか、とも考えたけど、思えば一日中一歩も外へ出られない俊にとって、インターネットだけが世間と繋がる唯一の窓口なのだから、それは出来ないと思う。
どんなに夢中になったって、インターネットなんて所詮バーチャルなのだから。例え相手が女であれ、見知らぬ者同士が何を語ろうとそれがリアルに展開することはない。
もし自分は母親を殺して逃亡中の高校生だなんてことをメールに書いたり掲示板に書き込んだりでもすれば、この場所が特定されてしまうことは前にしっかり言い含めておいたから、大丈夫だろうと思う。
その日も仕事で遅くなって疲れて帰って来て、電気を点けるとまだ俊が寝ており、部屋の中は食べ散らかしたお菓子の包みや食べかけのカップヌードルで散乱した状態だった。
「お母さん……」
ビクッとして見ると、俊が眠ったまま呟いている。
「お母さん……お母さん……」
あの夜経堂のアパートで魘されていた俊が暴れ出したことを思い出して、そっと近付いて声をかける。
「ただいま……俊。私だよ……」
薄く目を開けて亜希子を見た俊は、顔をしかめて起き上がると、何も言わずにトイレへ入って行く。
仕方なく部屋を片付けていると、戻って来た俊が折角畳んだ布団にまたドテッと倒れ掛かる。
「まだ寝るの? どうせずっと昼間寝てたんでしょ」と言うと「う~ん、寝過ぎで眠いんだよ……」と言う返事「もう、いい加減にしてよ」と俊の下から布団を引っ張り出すと「うるせんだよババア!」と俊が怒鳴った。
そのままドタドタと板張りの部屋へ入ってしまう。
散乱した部屋に残された亜希子は呆然としてしまい、その場にへたり込んでしまう。
俊の生活は荒んでいる。私は毎日仕事に行かなきゃならないから、規則正しい生活を送っているけれど、俊にはそれが無いから……毎日暇すぎる時間を持て余して、自堕落にも飽きて、一方ではまだお母さんのことにも意識を苛まれて、精神的におかしくなっているんじゃないだろうか。
この生活がこのまま何十年も続けられるとはとても思えなくなってしまった。日本人の平均寿命が80歳として、17歳の俊の人生はまだこの先60年もある。一生こんな生活を送って行ける訳はない……。
俊にはまだ将来があるのだ。このまま私と暮らしていたのでは、それをダメにしてしまう。
もしこのままの生活を続けて行って、時効というものが成立すれば、殺人の罪を問われることはなくなるだろう。以前は殺人事件の時効は15年だったけど、最近法律が変わって25年になったんだろうか。未成年の犯した罪でも時効の期間に変わりがないとしたら、25年の時効が成立した時には俊は42歳になっている。
もしその時まで隠れていることが出来たとしても、母親を殺した殺人者という事実からは逃れられない。そんな俊のことを、世間が受け入れてくれる訳もない。
そもそもそんな年齢になってしまったら、人生をやり直すことは出来ないだろう。
それでなくても俊はずっとお母さんを殺した罪の意識から、潜在的に逃れることは出来ないのではないかと思う。自分では気付いていなくても、寝ている時に夢を見て魘される日々が一生続いて行くに違いない。
男の人生。それはこんな狭い部屋に閉じ篭もってないで、世間へ出て自分の実力を、存在を認められること、将来お父さんの様な医者になりたかったと言っていた。今ならまだその夢を叶えさせてあげることが出来るんじゃないだろうか。
隆夫のことだって、私は辛い思いをしたけれど、私を踏み台にして将来会社を背負って立つエリートとして活躍する様になった。それで私は隆夫にとって立派に役割を果たしてあげたと思ってる。
一緒にいたいという私のエゴの為に、俊をこんな狭い部屋に閉じ込めておいて良い訳はない。
私が甘やかしている為に、太って毎日ゴロゴロと引き篭もっているけれど、俊は一生懸命勉強して来ただけあって、物凄い知識を持っている。優秀な能力を持った人間に違いないんだ。
こんなこと考えたくは無かったけど、頭の中でいろいろに巡らせた考えは、もう逃れられない結論に向かって収束してしまっている。
それは心の中では最初から分かっていたことかもしれなかった。でも、私はそれを見ずにいた。楽しかったから、俊を求めていたから、ずっと一緒にいたいと願ってたから、私はそこから目を逸らしていたんだ。
やはり警察に出頭して罪を償わせて、社会復帰が出来る様にしてあげなければならない。
でももう少し……いやもうそんな悠長なことは言ってられないんだ。だって俊はもうダメになりかけているんだから。こうしているうちにも益々この生活に嵌まり込んで、抜け出すことが出来なくなってしまう。どんどん歳を取って、そのまま取り返しが付かなくなる。
俊はますます四畳半に閉じ篭もる様になった。自分の部屋にベッドが欲しいと言ったけど、そこまでするともう本当に別々の生活になってしまうから、それだけは嫌だと言って買ってあげなかった。
俊の頼みにノーと言ったのは殆ど初めてだった。俊は自分の思い通りに行かないことが理不尽で納得出来ないという様に、亜希子を罵った。また殴られたり蹴られたりするのかと思ったけど、そこまではしなかった。
私がいないと生きて行けないという引け目があるから、暴力を振るうのは止めてくれたのかもしれない。そう思うと余計に寂しさが募る。
土曜日に亜希子は仕事があるからと言って家を出て、暑い中汗を拭きながら電車に乗り、日比谷にある都立の大きな図書館を訪れた。
俊が警察に出頭したら、その後どうなるのかと思い、過去の未成年が起こした殺人事件について、裁判の判例等を調べてみようと思った。
最初は要領を得なくてウロウロしてしまったけど、係りの人に聞いたり備え付けのパソコンで検索したりして、法律の本や事件の記録等、午後までかかっていろいろな本を読んだ。
未成年が事件を起こして警察に逮捕された場合、それはどんなに凶悪な犯罪であっても最初は家庭裁判所へ送られる。
でもそれが殺人事件の様な凶悪犯罪であった場合、そこから大人の刑事事件と同じ様に検事局へ送検されて、大人の事件と同じ様に裁判を受ける。
そしてその結果如何によって少年院に送られるか、刑務所に送られるのかが決められる。
刑務所の場合には少年刑務所と言って、大人の囚人とは区別され、少年専用の部屋に入れられるらしい。
過去の判例からすると、余程極悪な犯行で、情状酌量の余地の無い犯行でも無い限り、少年院に送られて長くても1年くらいの入院期間で退院出来る。少年刑務所に送られたとしても成人よりは短い服役期間で釈放される。
でももし……と亜希子は思う。もし俊が説得を聞き入れて、警察に出頭して、何年かの罪の償いをして、晴れて出所して来たとしたら。もう私の元には戻って来ないだろう……私のことなんて思い出しもしないのではないか……。
俊が私を頼りにしてくれるのは、飽くまでも今は自分が逃亡者だから、私がいないと生きて行けないからだ。
俊が出所してくる頃には、きっと40歳を過ぎている私のことなんて、相手にしてくれるはずがない。
世間へ出れば若くて綺麗な女の子なんて沢山いる。そんなことを考えていると、また隆夫のことが脳裏を過ぎる。
でも、私には俊の人生を束縛してしまう権利なんか無いのだから……。やっと普通の考えが戻って来た。一体私は今まで、何を夢見ていたんだろう。
そして、そうなれば私だってもう罪から免れられない。私も一緒に出頭して、犯人隠匿の罪に問われるんだ。
私も逮捕されて刑務所に入らなければならないだろうか。週刊誌やワイドショーの格好のネタになるだろう。
そうなればお父さんやお母さんも、お姉ちゃんも世間の笑い者にされてしまう。私がしたことの責任はそれ程重大だったんだ。勿論会社も辞めなければならないだろう。
お父さんとお母さんはどんなに悲しむだろう……ちょうどバブルが弾けた後で、最悪の就職難だった頃に私は父親のコネがあったとはいえ、10倍以上の倍率を潜り抜けて今の会社に採用された。お父さんはそれを凄く喜んでくれた。
お母さんは私がいつまでも結婚しないのを心配して、顔を合わせる度に「誰かお付き合いしてる人はいないのかい」って言うけれど、でも、そんなことも全て消し飛んでしまうくらいの事態に、私は落ち込んでいるんだ。
そうする覚悟が私にはあるんだろうか。でも、何よりも俊にとって一番良いことを考えてあげなければならないのだから。
俊は隆夫を失って抜け殻の様になっていた私の人生に、また意味を与えてくれた天使なんだから、私のことなんてどうなったって……。
他に選択の余地は無い。だけど、今更警察に引き渡すくらいなら、何故私はあの時俊を匿ったりしたの? 嫌、後悔することはよそう。だってあんなに楽しかったじゃないか。ほんのひと時だったけど、後悔する事なんかない。
警察に出頭する。それを俊に話すことは、別れ話を切り出すのと同じだ。
でもその前に、俊との最後の思い出が欲しい。出来ればそれだけで一生生きて行ける様な。胸の内にずっと入れておくことの出来る様な思い出が。
何をすれば、何処へ行けば一番の思い出になるだろう……。
いろいろ考えてみたけれど、旅行に行きたいと思った。そんなに遠くでなくても良い、近場の温泉に一泊でも良い、出来れば貸切のお風呂があるところで、二人で広い湯船に浸かってみたい。
「ねぇ俊。たまには外へ出て旅行でもしてみたくない?」
夕食を食べながら、テレビを見ている俊にさり気なく話しかけてみる。
「え~そんなのいいよ、誰かに見つかったらヤバイもん」
「また引っ越した時みたいに変装してさ、電車に乗る時は寝た振りとかしてればいいじゃない」
「う~ん。でも……」
「温泉とか行かない? 私とは親戚だってことにすればさ、誰にも疑われないし大丈夫だから」
「だけどいいよ、そんなリスク背負ってまで行くことないよ」
「そう……」
危険だからやめておこうというよりは、私と旅行することには興味が無いという感じだった。
食事を終えるとさっさと板張りの部屋へ入ってしまう。
仕方なく台所でひとり後片付けをしていると、溜まらない寂しさに襲われてしまい、気が付くと俊の部屋のドアを叩いている。
「ねぇ俊。話があるんだけど、ねぇ、俊、開けるよ」
返事が無いのでガラガラと引き戸のドアを開けると、俊はヘッドホンをしてテレビに向かったまま、こちらを見ようともしない。
近づいてヘッドホンを取ると、驚いて亜希子の方を振り返り「え? 何?」と素っ頓狂な声を出す。外れたヘッドホンからは大音量でゲームの音が流れている。
「話があるんだけど、ちょっといい?」
亜希子がいつになく真剣な表情をしているので「何だよもう」と言いながら亜希子の方へ向き直る。
「何?」
「うん。俊さ、ここへ来てからもう1ヶ月以上経つけど、部屋から出たのは明け方に一度海を見に行った時だけだよね、後はずっとこの部屋に閉じ篭もって。最近は私がいる時もご飯の時以外は出て来ないし、私ともあんまり話もしないじゃない」
「……」
「このままずーっと部屋の中に閉じ篭もってるだけってのも嫌じゃない?」
「ううん、どうして?」
「外に出てみたいと思わない?」
「思わない」
「どうして? 外の人たちと顔を合わせるのが怖いから?」
「そりゃだって、誰かに見つかったらヤバイもん……」
「でも、引越しの時は一日中新宿にいても全然平気だったって言ってたじゃない」
「そうだけど……」
「やっぱり誰かに見つかって、警察に捕まって刑務所に入れられるのは嫌?」
「……うん」
「でもねぇ俊。私思うのよ、俊はこのままではいけないって」
「えっ? それってどういうこと?」
「このままずっと、こんな閉じ篭もってるだけの人生を過ごしてはいけないと思うの」
「えっ?」
「それにこのままじゃ私ももう、俊とは暮らして行けないよ」
「嘘、何でそんなこと言うの」
途端に俊は表情を変えて、亜希子を咎める様な目をして来る。
「そんなこと言わないでよ、僕がどうなってもいいって言うの」
「私ね、図書館に行っていろいろ勉強して来たのよ。殺人事件を起こした場合はどんな理由があっても10年から20年くらいの懲役刑になるんだけど、俊はまだ未成年でしょう。だから少年院に入るか、もし刑務所に入ったとしても少年専用のところへ入れられてね、服役するっていうより更生して社会復帰出来る様に教育して貰うのが目的なのよ。俊がお母さんを刺してしまったことをちゃんと反省して、罪を償うっていう態度を見せれば、きっと少年院に入って、早ければ1年くらいで出て来れるんじゃないかと思うのよ。ねぇ、たった1年なんだよ。1年間我慢すれば、外へも自由に出られるし、私とも好きなところへ行ける様になるんだよ」
一生懸命に話す亜希子の言葉を、神妙な顔をして聞いている。
「そりゃ1年も俊と会えなくなるのは寂しいけど、でもそうすればお父さんみたいな医者になるっていう夢も諦めずに済むんだよ。俊は若いんだから、少年院や刑務所を出てからでも、頑張れば絶対実現出来ると思うのよ。ねぇ俊。私も一緒に行ってあげるから、ねっ、よく考えてよ」
「そんなの嫌だ……」
「だけどね俊……」
「ずっとアキコが匿ってくれるって約束したじゃないか!」
顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべて訴える。
「アキコが守ってくれるって約束したじゃないか! いやだよ、行きたくないよ俺、そんなこと言わないでよ、ねぇ俺のこと追い出すなんて言わないでようお願いだから~」
亜希子の身体に縋り付くと声を上げて泣き出してしまう。
「追い出すなんて言わないでよう。追い出さないでよう……うう……」
「追い出すなんて、違うよ、そうじゃないのよ、ねぇ俊……」
まだ無理なんだろうか。もう少し時間を掛けなければダメなんだろうか。でももうそんなことを言っていたら……。
亜希子はただ俊を抱き、心配無いという様に頭を撫ぜてやることしか出来なかった。