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其の1

 以前の私は、幽霊とか心霊現象とか、オカルト的なことは一切信じていませんでした。

 それは実際に自分の目で見たことも無いと言うのが大きな理由であり、絶対に有り得ない事実だと信じていました。あの恐ろしい体験をするまでは……


 ある日、私が在籍する女子高で一つの事件が起きました。ある生徒が忽然と姿を消し、行方不明となったのです。

 その生徒は友人達数名と学校からの帰宅途中に姿を消したらしいのです。彼女の友人らも、気が付いたら居なくなっていたので、途中で黙って家に帰ったものと思い、大して気にもしていなかったのです。

勿論、ただの家出という線も捨てられず、

警察には一応捜索願いを出したらしいのですが、今のところ公の事件にはなっていません。 校内ではその噂に尾ひれが付き、『神隠し』や『都市伝説のアヤコさん』に結び付けて考える人もあり、不謹慎にもオカルト的な話題として連日盛り上がっていました。


休み時間の教室で、私の斜め前方の席から話し声が聞こえてきました。別に聞き耳を立てていた訳ではないのですが、席が近いので自然と耳に入ってしまうのです。

「ねぇ、都市伝説の『交差点のアヤコさん』って知っているでしょ?」

「聞いたことあるよ。横断歩道の交差点でアヤコさんを見かけると、あっちの世界に連れて行かれるという話でしょ?」

「そう、ソレ! で、例の行方不明の子の話なんだけど、彼女が消えたのも交差点らしいのよ」

「えぇ――!! それって、あの生徒が消えたのはアヤコさんに連れていかれたという事?」

「かもしれない――と言う話よ。彼女の友達は、横断歩道の手前までは彼女が居ることを確認していたんだって。けど、横断歩道を渡り終えた時には彼女の姿は無かった……」

「じゃ、やっぱり……」

 今一番耳にする話題。けれど、私的にも少し興味をそそる内容であり、はしたないと思いつつも私は耳をそばだてて聞いていました。

なのに教室中に響く大きな声――誰かが私の名前を叫んだのです。

「明日奈おねぇさま――!!」

 私は机の上にうつ伏した。

勢い良くこちらに向かって走って来たのは、一つ年下の後輩で佐々木鈴音ささき・すずね小森美夏こもり・みかの二人でした。

 私の名前は桜井明日奈さくらい・あすな。二人とは中学の時も同じ学校で、何処かに出掛けるにも行動を共にした親しい間柄であり、鈴音に至っては家が隣近所で幼い頃からの付き合いなのです。

「鈴音……学校では、その『おねぇさま』と言う呼び方やめてって言っているでしょ!!」

「え~、何でですかぁ? 鈴音は昔からおねぇさまの事を『明日奈おねぇさま』と呼び続けてますけど?」

「恥ずかしいのよ! 何度もそう言っているでしょ!? 少しは周囲の視線を気にする私の事も察してよ……」

「えー、鈴音わかんなーい……」

「分かんない? ホントーに分からんのか!?」

 私は両手の指で鈴音の頬を摘み左右に広げた。

「お、おねぇひゃま……周りの視線が……」

「あ……」

 鈴音の言葉を受け、周囲の冷たい視線を感じ、私は彼女の頬を摘む指を離した。つい、我を忘れて周りが見えなくなるのが私の欠点かもしれない。

「まー、まー、桜井先輩。鈴音の言動がおかしいのは、いつもの事じゃないですか」

 彼女の名前は小森美夏こもり・みか――鈴音と良く気が合うらしく、いつも行動を伴にしている。

「あー、美夏ちゃん酷い!! それじゃ、私が変な子みたいじゃん!」

「あれっ? もしかして、自覚無かった……かな?」

「もう! 美夏ちゃんの意地悪っ!!」

「アハハッ、ごめん、ごめん!」

「……ところで、二人とも私に用事があって来たんじゃないの?」

 私は二人に冷たい視線を向けた。

「そうそう、ソレなんですけどね!」

 美夏ちゃんが、急に目を輝かせながら話し始めた。

「鈴音ったら、都市伝説にある『交差点のアヤコさん』を知らなかったんですよ! 信じられますか?」

「もう! 私が怖い話しが苦手なこと知っているくせに!!」

 揶揄する美夏の態度に、鈴音は不服な顔をして言った。

「それでですね、桜井先輩もこの話しを知っているかを確認する為に、こうして二人でやって来たと言う訳なんです」

 満面の笑みの美夏ちゃん。私は呆れて溜息を一つ漏らした。

「何かと思えば、そんな事だったのね……」

「で、どうなんです? 先輩、知ってましたか?」

「うーん、最近良く耳にするけど、私も詳しくは知らないかなぁ……」

「えー、そうですかぁ? さすがの桜井先輩も都市伝説には詳しくなかったかぁー。ここはやっぱり私が話しをするべきですかねぇー、ウン、ウン……」

 怪談好きの美夏ちゃんが話しをしたくてウズウズしている。ここに来たのも、恐らく、これが一番の目的なのであろう。

「えー、怪談なんかよりも、もっと楽しい話しをしようよー……」

 嫌がる鈴音を敢えて無視して、美夏ちゃんは怪談を始めた。

「アヤコさんが現れる場所は決まって交差点なんです、それも人通りの多い大きな交差点――そして彼女が現れるには条件が一つあります。それは『誰からも目視されないこと』。普通、大勢の人が居れば誰かしらの視界に入るものなんですけど、いくつかの偶然が重なり、誰からも認識されなくなった時、彼女は現れます――」

 美夏ちゃんの話の内容はこうであった。

 それは、とある県の中学校に通う少女の話、彼女は少し変わった性格で、自分から友達の輪に入るようなことはしませんでした。

 その為か、仲の良い友達もおらず、遊ぶときも仲間はずれにされる事がたびたびありました。

 ある日、彼女が学校からの帰宅の途中、国道の大きな交差点で赤信号のため立ち止まりました。

 やがて、信号は青に変わり彼女は歩き始めます。

 周囲の人達も先を急ぐように歩き始めました。その時、彼女はある事に気が付きます。

 道路の反対側からこっちに渡って来る人達の中に、彼女を見詰める少女が居ることに。

 歳は彼女と同じくらい、不思議と思える程少女の存在感は大きく、周りの大人達が霞むほどでした。

 彼女は歩みを止めてしまいます。なぜだか分からないけど、先を進むことが怖いのです。

 こちらに近付いて来る少女――目は前髪に隠れて見えなかったが、口元で笑みを浮かべていることが分かります。

 その不気味な笑みを浮かべる少女に恐怖を覚え、彼女は引き返して逃げようとしたが、体が動きません。金縛りで体が動かないのです。

 この時、彼女は悟りました。目の前の少女は生きている人間ではなく、このままでは自分の身も危険だということが分かったのです。

 だが、全ては遅すぎたのです。

 少女は既に彼女の目の前――不気味な笑みを浮かべる少女は、そっと手を伸ばし彼女の肩に触れる。

 その直後、二人の姿は消え、周囲の大人達も誰も彼女達に気が付きません。

 そう、彼女は少女の霊により異界へと引きずり込まれたのです。

「――それ以降、彼女の姿を見た者はなく、未だに行方不明ということです……」

 美夏ちゃんの怪談が終わった。

思わず話しに引き込まれる程、語りが上手い。私は怪談好きという彼女の意外な一面を見たような気がした。

「おねぇさま怖い……」

 怪談の途中、私の横でギュッと腕を掴んで離さなかった鈴音が声を絞り出すように言った。彼女は本当にこの手の話が駄目なのだ。

「いやぁ……鈴音の場合、本当に話し甲斐があるなぁー」

「もう!! 美夏ちゃんの馬鹿!」

 けれど、この話を聞いて、私は少し疑問を感じた。

「ん? でも、この話少し矛盾しない?」

「……えっ?」

「彼女が交差点の中で、人知れず幽霊と出会い連れていかれたなら、誰が現場を見ていたと言うの? 幽霊と出会ったかどうかなんて誰も知ることが出来ない筈よね!」

「あっ!! えーと…………」

私がビシッと指摘すると、美夏ちゃんは一瞬シマッタという顔をして、目を宙に泳がせた。

「ははははっ……桜井先輩、都市伝説に深いツッコミは無しですよ……」

 笑ってごまかしたな……けれど、納得いかない事は一つじゃないのよね。私は矢継ぎ早に次の疑問を投げかけた。

「それと、もう一つ!」

「えっ!? まだ何かあるんですか?」

「この話のタイトルになっている『アヤコさん』て何処から来ているの? 幽霊の名前だという事は想像できるんだけど……」

「ああ、それはですね――」

 彼女が話しを続けようとすると、休み時間の終了を知らせるチャイムの音が響いた。

『キーン・コーン・カーン・コーン……』

「あっ……教室に戻らないと! 桜井先輩、残念だけど話の続きは、また今度ですね」

「そうね。二人とも早く自分達の教室に戻った方がいいよ」

「おねぇさま、悲しまないでください! 次の休み時間になったら鈴音は直ぐにでも飛んできます。しばしの別れです……あっ、そうだ、今日のお昼のお弁当のおかずが上手く作れたんですよ! 後でおねぇさまに――」

「えーい、早く行かんか!!」

 手を握りなかなか離れようとしない鈴音を私は冷たく突き放すことにした。

「……都市伝説か」

 人と人が交わす他愛ない話が広がってゆく噂話。都市伝説とは信憑性の無いもの、恐怖を楽しむ為の作り話――それまでの私はそう信じていました。

 ですが、実際に体験してみて分かったのです。世の中には信じられないような怪奇現象が存在することを……

 それは、その日の放課後の事でした――


 自宅への帰り道の途中、私は横断歩道の道の真ん中で佇んでいる鈴音を見かけたのです。多くの人が行き交う中で彼女を見つけたのは本当に偶然でした。

 彼女は一人きりで何かを見詰めるように立ち止まっている――私は道の真ん中で危ないなぁと思い彼女に声を掛けたのです。

「鈴音―!! ボーッとして何やっているの? そんな所に居たら危ないでしょうが!?」

 すると彼女はゆっくりとこちらに振り返り、私を見つけると震える声でこう話したのです。

「明日奈おねぇさま……私……アヤコさんを見たかもしれない……」

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