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旅の恥はかき捨て

とても下らないです。初めての投稿なので甘く見てください。

 


 人生って何が起こるか分からない。

ずっと真面目に生きてきた。色んなものを我慢して生きてきた。多くの感情を抑圧して生きてきた。飽き飽きしていた。ずっとつまらなさを感じていた。疲れもした。

だからある日現れた神様に、他の世界行ってみない?と言われて頷いたのだ。

神様は実に私に都合がいい様にしてくれた。

 行き先の世界の言葉は通じるし文字も読める、戸籍管理もいい加減で人が急に増えたところで誰も疑問を持たない様なところらしい。魔法は無いが呪術はある。ただ私には使えないと言われた。帰りたくなったら此方の世界を飛び出した時間にこの姿のまま戻してくれるそうだ。もしあちらに永住したくなったら、此方の世界の私の痕跡を綺麗さっぱり消してくれると約束してくれた。

 平凡な私に突然現れた数奇な出来事に胸を高鳴らせた。


 「ユミちゃーん、これ運んでちょうだーい」

女将さんに呼ばれて倉庫に入ると大きな木箱が三つ置かれていた。

此方に来てすぐ字の読み書きが出来ると言うことで生地屋さんに住み込みで雇ってもらえた。女将さんもご主人ももうご年配で力仕事は私の分担だ。

 「承知したでござる」

そしてこれが新しい世界にテンションを上げすぎた結果である。

せっかく新しい世界に来たのだから今までに出来なかったようなおふざけがしたかった。ここには誰も知っている人なんていないし、好きなようにしていいんだと思ったら解放感がすごかった。『ごわす』と悩んだのだが、定番の『ござる』を選んだ。

郷里の言葉だと言えば皆納得してくれた。正直最近は慣れてしまってマンネリ気味である。何か新しいことしたいな。

「ユミちゃん、今日お客さん少ないし午後からお休みしていいわよ」

「よろしいのでござるか女将殿」

「いいわよ、ユミちゃんまだ若いんだもの。遊びたいわよね」

「かたじけない、もし忙しくなったらすぐに呼びもどして下され、すぐに戻って参る故」

「ええ、その時は宜しくね」

女将さんはゆったりとしている。その分ご主人は商売人らしく締まっている。お客さんはおかみさんの方がのんびり出来ていいし、商売相手は旦那さんがしっかりしていてやりやすいようだ。適材適所で良いバランスが取れている。

「ユミ、外に出んならちょっと菓子買ってきてくれ。明日客に出すからよ」

「何がよろしいか」

「そうだな、南区の菓子屋あるだろ。あそこで饅頭を十ばかり頼むよ。ほら金だ」

「承った」

渡された巾着を握り懐に入れる。

 この世界は中華風だ。中国とは違うけれど、建物と人の服装が良く古い中国に似ている。この国がこうなだけで、他の国に行ったらまた違うのかもしれない。


 午前最後のお客さんを送り出すと、制服から普段着に着替えて財布を掴んで出かける。この世界で同年齢の友達も出来たが今は皆仕事なので一人ぷらぷらする。

 適当に近所を冷やかして歩いていると馬が突っ込んできた。身構えると、ギリギリのところで馬は前足を上げウィリーを決め嘶いた。少し荒れた馬が落ち着くと一人男が慣れた様子で降りる。

「危ないであろう」

「ぶつからなかったじゃねぇか」

「馬がもう一歩進んでいたら私は踏みつぶされて死んでいたでござる。事故ということもある、気をつけられよ」

「ピンピンしてるだろ、問題ない」

「もし次同じようなことをすれば私は貴様と二度と話さないでござる」

「へーへー、気を付けますよ」

この誠意のかけらもない男は此方に来て早々知り合った。近域を回る行商人をしていて、時々手に入った珍しい布を店に卸してくれる。ただどうも年下をからかうのが好きらしく、店に寄っては面白くもないちょっかいを掛けてくるのだ。

「まあ今日も面白いもん仕入れてきたから機嫌直せよ」

男、シュンレンは馬の荷からゴソゴソと何か取り出した。

「何でござるか」

シュンレンは黒い小さな陶器を私の目の前に差し出すと、木の栓を抜いた。たちまち花の香りが鼻腔を擽った。

「わあ!何これ何これ」

「良い香りだろ。花を栽培している村があるんだがそこで手に入れた」

「こんな甘い香り、久しぶりでござる」

「これで身体を洗うらしい」

まさかのボディーソープか!!固形石鹸はあるが泡立ちが悪いし、洗うためだけの物なのでこんなにいい香りしない。はぁ、いいなこれ。高いんだろうけど。

「お前も女なんだな。今凄い顔してるぞ」

指摘されて顔を引き締める。こういった物は大体高価で庶民には出回らない。お洒落な物は上級貴族の専有物なのだ。

「気に入ったか」

「べ、別に珍しかっただけでござる」

欲しがったら駄目だ、そんなお金はない。この世界にこんな素敵な物があると知ってしまったので若干生きづらくなったがいずれ忘れる。忘れろー忘れろー、贅沢は敵だ。

「ふーん、欲しいって言うなら譲ってやってもよかったんだがな」

私の財布の中身を知っての事か。

「・・・因みに幾らでござるか」

「幾らだと思う?」

知るか!!

あー、焦らしやがって!どうせ手が届かないんだから聞くんじゃなかった。

「いつも構いすぎて拗ねさせてるからな、やるよ」

「・・・へ?」

「これ使って少しは女らしくなるんだな」

手にぽとりと陶器が落とされそれを慌てて掴む。

「・・・本当に良いんでござるか」

「いらないのか」

「いる!」

でもこれ絶対めっちゃ高いよ。政府の采配で必需品は安いけど趣向品は高価だ。

「えっと、有難く頂戴する。かたじけない」

「大切に使えよ」

「承知」

これで身体が洗えるのか。お風呂の時間が天国だな、今から楽しみだ。

「ところである街でお前と同郷じゃないかって男と会ったぞ。確か東の方出身って言ってたよな」

「ん、そうでござる。だがかなり秘境な上、人間は極端に少ない。多分違う場所でござる」

「確かにお前みたいな訛りは無いが、お前の話したら一回会ってみたいって言ってたから今度連れてくな」

絶対違うのに。だって東って言ったってこの世界とは違うところの東なのだから。無駄足踏ませるのは大変申し訳ないな。



 数ヵ月後、殆どそんな話を忘れたころに彼らはやって来た。シュンレイが連れてきたのは確かに私と相違ない日本人の様な容姿をしていた。

「初めまして。無理を言って彼に付いてきてしまいました。ご迷惑ではないですか」

彼は大変礼儀正しい青年だった。

「お初にお目にかかる。迷惑など滅相もない。お会いできて光栄にござる」

ヒクリと彼の口元が引き攣ったのを見た。やはり同郷ではないと悟ったのだろう。

「えっと、よろしければお名前を教えて頂けませんか」

「名はユミ、氏は此方の店で御厄介になっているのでシをお借りしている。シ ユミでござる」

「ぶふぉっ」

目の前の青年が盛大に噴き出した。

「ひっ、ひっ、ひっ」

痙攣している。

「お前、大丈夫か?」

「だ、ひっ、ちょっどまっで、ひーっ、ヤバイ、ツボに入った、腹がいてー!あははははっはははは!はー、ヤバイ思い出すだけで顔が、顔が」

あ、これヤバいなって分かった。

「おい落ち着けよ。急に笑い出すなんてユミに失礼だろうが」

「うんっ、ふ、ごめん、ほんとっ、ごめん。でも、笑いがさぁ。ふぅ」

シュンレイが青年の背中をさするとだいぶ落ち着いたらしい。何度か深呼吸をすると申し訳なさそうに眉を下げた。

「いやぁ、本当にごめんね。本当に話通りだったから。俺、笹部宗治。君と同じ日本から来ました」

・・・ああ、マジだ。同郷だ。

「シュンレイから変な口調の女の子がいるって話を聞いてまさかとは思ったけど、本当にいるとは。ぶふっ」

穴掘って埋まりたい。

深く埋まりたい。

何でこの世界に来たのは私だけだと思ってたんだろう。何で普通にしなかったんだろう。

「ねぇねぇ、なんでござるなの?何で侍なの?何でそんなことになってるの?女の子だから生まれた時代が違うとかじゃないよね。何で何で?」

勘弁してください。まじ止めて下さい。

「めちゃくちゃ面白かったよ。俺もそうしようかなー、かっこよくなるかな」

「おい、お前なんの話してるんだよ。何がそんなに面白かったんだ」

「えー、ああ、ちょっとね。彼女とは通じてるから良いんだよ」

「説明しろ」

「ちょ、首しめんな」

下向いてて分からないけど、シュンレイが笹部さんの首を締めているらしい。

あーござるが方言じゃなくてただ単に私が楽しくて言ってただけなんて知れたらどうしよう。本当は凄く普通に喋れるんだって分かったら、怒られないかな。怒られるよね。

テンションハイというか、やりたい放題だったから気付かなかったけど私ずっとこっちの人騙してたんだ。すごい罪悪感。

「ただ単に彼女の言葉遣いが古めかしいってだけだよ。多分地元じゃいい所の御嬢さんだったんじゃないの。あんまりしつこいと嫌われるぞ」

「うるせえよ」

「あーでもユミさん、もうそろそろこっちの言葉に慣れた方がいいんじゃない?主に俺の呼吸器官のために」

「あ、はい。そうですね」

こ、この人いい人だ。結構しつこいなと思ったけど、いい人だ。

さりげなく私が言葉を治しやすいようにしてくれた。

「はぁ?ユミはこの言葉遣いが可愛いんじゃねえか」

・・・ござるが?

「いや、それはない。それはない」

大事なことな(ry

「可愛いだろうが、方言」

本気か?

信じられないセンスにシュンレイを見ると、顔を赤くさせていた。

どうやら突っ込みを間違えた。正気か?と言うべきだった。

コホンと笹部さんが咳払いをするとシュンレイの肩を叩いた。

「ユミさんならこっちの言葉を覚えてもかわいいから。ていうか、今の内に矯正しとかないともしもの時がヤバイ。緊急時に言葉が的確でないと被害拡大の恐れがある」

「・・・」

「あーその、私頑張ってこっちの言葉覚えるでござるから、シュンレイも協力してほしいでござる」

ござると言うたびに笹部さんがニヤリとするのを目にするたび恥ずかしくなる。

でも急に慣れたらおかしいだろうから、暫くこのままだな。

「おう、俺にドンドン聞けよ。ずっとは無理だけど、ここにいる間だったら幾らでも教えてやるよ」

頼もしいお言葉を頂いたけど、シュンレイ本当にごめん。嘘はこれっきりにするよ。

「ユミちゃんナイス」

笹部さんからサムズアップを頂きこの場は終息した。


その後、結局この世界に定住することになった。

笹部さんと出会ってホームシックになったり、シュンレイに連れられて近くの村を回ったり、店に来るお客さんに求婚されたり色々あったけど、結局笹部さんと日本の話で盛り上がっていたところに鬼の形相のシュンレイが乗り込んできて、嫉妬の勢いでプロポーズされ、外堀を埋められていたらしく返事をする前に婚礼していた。

こっちの世界に来ても結局平凡な毎日だけれど、幸せだからいいかなって思う。


主人公の言葉使いは適当です

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