☆美穂の趣味★
部屋の中に入ってまず目の前にいたのは実だった。
『よう。』
と、軽く手を挙げて言う。
『よう。じゃぁない。何してんだよ。こんなところで。』
実に駆け寄り言う。
『松田が朝早くに来て、パズルと一緒に連れられてきた。』
笑いながら言う実。
『笑い事じゃないと思うが………。』
と、言いつつ、美穂の優しさに気付く鏡太だった。
鏡太の病み上がりの身体に対し気を遣いつつ、完成させたいパズルをする作業の場を作ってくれたのだった。
しかし、朝からかなりの時間作業を続けていたが一向に進まなかった………。
かなり難しく、今日中に完成させるには鏡太と実の二人では限界がだった。
美穂は邪魔しないように隣の部屋で過ごしていた。
『これは無理だな。』
鏡太が言うと。
『ここまでで、アトは大悟に託すか?』
真剣な表情でとんでもない事を言っている実。
『おい……。しょうがないから美穂にも頼むか……。アトが恐いけど……。』
決心をし、美穂を呼びに行く事にした鏡太。
しかし、タイミングよく美穂が部屋に入ってきた。
『完成した?』
『まだ。で、完成しそうにないから美穂にも協力してもらおうと思って……。』
鏡太が言う。
『協力してもいいけど……私の行きたいところに連れて行ってね。』
満面の笑を浮かべて言う。
『分かった。美穂の好きなところに連れて行くよ。』
ため息混じりに答える。
『約束よ。』
と、パズルに近寄ると完成した時の絵を見ていた。
そして、ピースを手に取ると、物凄い勢いで組み立て行く。
その姿を無言のまま見守る鏡太と実。
しばらくすると、美穂の手が止まりパズルは完成した。
『松田………。凄いな……。』
目の前で何が起こったのか把握できず、ただ、パズルが完成した事実だけが把握できた実。
『私、パズルはいつも趣味でしているからこの程度のレベルは簡単なの。』
鏡太とのデートも待っているのでいつも以上に作業するスピードは速かった。
『そうなのか……。ともかく、ありがとう。』
実がお礼を言う。
そして、簡単なラッピングを始める。
『じゃぁ、鏡太。今からデートしましょう。』
『いや、今日はもうダメだ。日も落ちてるし……。』
丁寧に断る鏡太。
『なら、明日ね。』
少し悲しそうな顔をして、渋々言う美穂。
『明日だけはダメだ。次の土曜日にしてくれ。』
土下座をして言う鏡太。
『どうして?』
『明日がアイツの誕生日だから。』
なだめるように優しく言う鏡太。
『分かった。』
最後は笑顔で答えた美穂だった。
『ありがとう。』
こうしてパズルは無事に誕生日に間に合った。