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翌日。
朝である。
「おっはよー!」
カーテンの隙間から射し込む朝日と、いやでも起きてしまう河上さんの声で私は目覚めた。
起きてすぐに机へ向かうが、参考書やノートが散らかっていないことに気づく。そういえば、昨日は早く寝たのであった。
思えば今日はなんだか気持ちよく起きれた気がする。
「おはよ、河上さん」
さて、と私は朝ご飯の支度を始めた。
ここ最近は河上さんの希望もあって、米と味噌汁。私もお米が好きだから、それはそれでいい。
手際よく作り、テーブルへ並べた。
そういえば、私は今日は学校だった。
今までは冬休みだったから、気にはしなかったが、学校に行っている間、河上さんはどうすればいいんだろう。
高校に連れていくわけにもいかないのだ。
「どうした? 小春」
私の様子を伺ってか、河上さんが話しかけてきた。
「河上さん、私、今日から学校なの」
「学校……あぁ、寺子屋だね。それがどうしたの?」
「私が居ない間、河上さん……大丈夫?」
心配する私とは逆に、河上さんは任せろ、というような表情だった。
「安心して! じっと待ってるよ」
「よかった。じゃあ、学校行ってくるね」
河上さんの言葉を信じ、私は安心して学校へ向かった。
しかし、やはりというか、問題は起こった。
それは下校してきたときのこと。
ぞろぞろと下校する生徒に私も混じり、家について、部屋に入った時だ。
「……何? これ」
目の前には信じたくない光景があった。
壁に、でかでかと書かれた[誠]という字。
「どう? これいいでしょ、小春」
どう、と言われても……。
河上さんはすごい輝いた笑顔でこっちを見ているけど、私はどんな反応をすればいいのだろう。
これ、絶対に大家さんに怒られると思う。ここは、やはり
「河上さん、何……これ?」
訊くのが一番だとおもう。
「僕の好きな言葉! 土方さんが言ってた言葉だよ」
「土方さん……?」
「新選組の土方歳三。僕、土方さんの部隊に所属しててさ、土方さん、いつも[誠]って言っててね、それで……」
ぺらぺら語り出す河上さんを無視して、私は壁に書かれた[誠]を見た。
たしかに、新選組の土方歳三は[誠]の旗を掲げてたというけれど……。
あらためて、河上さんは幕末の人なんだ、と思えた。
けれど――――――――――――
「それをどうしてここに書くのよ!!」
「小春にも好きになってもらいたかったから」
即答された。
河上さんはまったく壁に書いたことを気にしてないではないか。とてもニコニコしながら、私を見ていた。
もうここまでてなると、だんだん呆れてきてしまう。
「どうして、壁……ッ!?」
「一番見やすいから」
「…………ッ!」
「………………もしかして、ダメだった?」
ようやく、河上さんは自分のしたことの重大さがわかったみたい。
でも、私はもう問いただす気分ではなかった。もう諦めよう。
「……気にしてないよ。けど、もうやめてね」
「ごめん、小春」
しゅん、と河上さんは縮こまる。
そんな姿をされると、小動物にしか見えない……。いやでも許さなきゃいけないではないか。
「大丈夫だよ」
もう、私が折れるしかない。
どうでしたでしょうか
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