過去とデコトラ
「おっす!高次いるか?」
大きな声に私は目を覚ました。
四角というか、三角というか、なにか特殊な髪形をした男が目の前にいる。
こいつは誰なのだ。
「なんだ。運天か。ビックリするじゃねぇか」
と高次は言った。
なんだコイツも私の子孫なのか。
赤いふちのサングラスに黒のつなぎ姿。
服に何か文字のようなものが書かれている。
刺繍か?
Bloody Lain
どういう意味だ。
「なぁ高次、あのBloody Lainとはどういう意味だ」
と私は尋ねた。
「運天。その英語どういう意味だって、始祖様が」
と高次は言った。
「さすがだな。始祖様。センスが良い。これはな、日本語で血の雨って意味だよ。これは俺のデコトラとお揃いだ。俺のトラック見てみるか。ちょっと待ってくれ、照明つけるからな」
と運天は言った。
真っ暗な駐車場に突然大きな車が浮かび上がる。
(どきん……)
何か記憶が蘇る。
頭が痛い。
「ねぇ羅刹のバンドでも血の雨って意味の曲あったじゃん。あれってBloody Lainだっけ?」
と喜羅羅は言った。
「違うな。Bloody Rainだ。雨はRainだ。Lainじゃない。ほらこの翻訳アプリもそう言ってる」
と羅刹は言った。
「おいおい。Bloody Lainってどういう意味なんだ」
と運天は目を細める。
「知らねぇよ。人の名前かなんかじゃねぇのか?血のレインさんみたいな」
と高次は笑った。
「しかしな。この刺繍、俺の10着のつなぎ全部に入っていてな。デコトラの塗装もかなり金がかかってるんだ」
と運天は頭をかく。
「おいくら万円」
と喜羅羅は興味深そうに尋ねる。
「86万くらいかな」
と運天は渋い顔をした。
「それより、トラックの仕事は?今日はどうした」
と高次は笑った。
……
(ぴーぽーぴーぽーぴーぽー)
頭の中にサイレンの音が鳴る。
これはなんだ。
私の記憶か?
(ねぇパパ死なないで。パパ。一人にしちゃ嫌だよ)
何か懐かしい声がする。
(残念な最後だったね)
(娘はどうなるのでしょうか)
(だいじょぶ。保険金で保障されるから、安らかに新しい人生を送りなよ)
頭を何かが支配する。
ふと気が付くと、
私は真っ暗闇の中にいた。
「ひさしぶりだね。800年くらいぶりか」
と何かが言った。
真っ暗闇で何も見えない。
「誰だ」
と私は尋ねた。
「君は神の声も忘れたのかい」
と何かが言った。
「神?」
と私は言った。
「そうさ。800年前、君はトラックの事故で亡くなり、この世界に転生してきた。その時に力を与えたのが誰か忘れたのかい。いいよ。血に思い出させてあげる」
と何かが言った。
身体に激痛が走る。
この痛みは……。
そうだ。
これはトラックにはねられ、全身を強く打った時の痛み。
なんだ。
これは……。
無数の槍に突き刺された痛み。
あれは我が領土を侵略した傀儡王の欲望に歪んだ顔。
そうか……。
私はすべてを思い出した。
「蝙蝠の神よ。おひさしゅうございます」
と私は言った。
蝙蝠の神の輪郭が見える。
蝙蝠の形をしながら、高貴な存在であることがはっきりとわかる。
「ひさしぶりだな」
と蝙蝠の神は笑った。
「たしか、神々の裁判により、廃神となられたのでは?」
と私は尋ねた。
「そうよ。そうだった。しかし時間がたってな。神として戻ることができたのだ」
と蝙蝠の神は答えた。
「それは良かった。私が過分な能力を頂いたばかりに、神の座を追放され……」
と私は口ごもった。
「皆まで言うではない。お前とて、能力のほとんどを奪われた挙句、殺されたではないか」
と蝙蝠の神は退屈そうに笑った。
「はい。まさかあの男に殺されるとは」
と私は言った。
「ふふふ。お前はモテたからなぁ。男の嫉妬心とは怖いものだ」
と蝙蝠の神は笑った。
「それで、今回はどのような件で、私も降臨してから間もなく、神の役に立てることなど少ないと思いますが」
と私は尋ねた。
「要件などない。ただお前が降臨したと知って、会いに来たくなっただけなのじゃよ。
じゃあな」
と蝙蝠の神はそう言い消えた。
……
「今日はここに来るから、仕事は休みだ」
と運天は笑った。
「ねぇ運天も来たんだし、始祖ちゃんは出てこないの」
と喜羅羅は言った。
「始祖様、従弟が来たんですけど、話してやってもらえますか」
と高次は尋ねた。
「わかった。出よう」
と私は言った。
……
俺は高次の従弟、怒羅鬼運天デコトラの運転手だ。
今日は高次に始祖様が降臨されたと聞いて、仕事を休んでやってきた。
昨日の夜、行きつけの散髪屋でリーゼントを作り直した。
始祖様に気に入ってもらえれば最高だ。
つなぎも、一番上等のつなぎを着た。
ポイントは赤の文字部分に、スパンコールを混ぜているところだ。
そしてパンツも赤の勝負パンツ。
気合は十分だ。
そして今、始祖様が高次に降臨されようとしている。
緊張する。
「お前が運天か」
と始祖様は言った。
一瞬で空気が張り詰める。
自然と膝まずいてしまう。
「お初にお目にかかります。運天でございます」
と俺は言った。
圧が強すぎて、目を合わせることができない。
蛇に睨まれた蛙という言葉を聞いたことがあるが、
たぶんこんな感じだろう。
身動きが取れない。
瞬きさえ許されない感じだ。
「Bloody Lain つまらぬ事を聞いてしまったな。気分を害しただろう」
と始祖様は言った。
「滅相もございません。恐悦至極にございます」
と俺は答えた。
「そうか。あの名はどうする?」
と始祖様は言った。
「混乱しております。間違ったのは事実ですが、この間違いがきっかけで始祖様とお話が出来ております。いうなれば幸運の勘違いとでも、言えるかもしれません」
と俺は言った。
自分でも何を言っているのかわからない。
「ふふふふふ。それは面白いな。幸運の勘違いか。まぁそれもよかろう。では運天。お前はこれからLainと名のるが良い」
と始祖様は言った。
「ありがたき幸せ。これから私はLainと名のります」
と俺は頭を下げた。
なんて事だ。
始祖様に名前をつけて頂けるなんて、なんて幸せだ。




