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8/11

サンsuke

俺はサンsuke。

X-giTaNOさんに色々教わっている投資家の一人だ。


X-giTaNOさんとは、彼の主催するサロンで知り合った。

仮想通貨で莫大な富を築き、

毎日贅沢三昧。

そんな彼に憧れて、

彼の言動と行動を追いかけてきた。


今回の血液バブルには、

かなりの額を入れた。

X-giTaNOさんは資産の85%を投入したと言っていた。

しかも広告宣伝に3億ほどぶっこみ、動画配信者や記者にもかなり金を渡して、バブルを演出しているようで、稼ぐ気満々だ。


俺は親や親せきから金を借り、持っていたブランド物とか全部売り払って、金を用意した。

1380万円。

それが俺が用意できた額だ。


X-giTaNOさんの読みでは、少なくとも3倍。上手くいけば10倍になるらしい。

興奮する。

これから俺の人生がどうなるのか。


パーティに来ている連中も、俺と似たり寄ったりの者ばかりだった。

ぱっと見は成功者のように振る舞ってはいるが、

全てはハッタリ。

借金まみれの者も多かった。

でも皆、X-giTaNOさんなら大逆転させてくれると信じてついてきている。


薬をキメ、酒をあおり、

不安を吹き飛ばして、売りの号令を待っている。


X-giTaNOさんは、

まだ動く様子はない。


皆、ちらちらとX-giTaNOさんの様子をうかがう。

どの瞬間に手放すか。

それが勝負の決め手だからだ。


一人のモデルの女が、

「もうムリ」

と涙を流して、スマホを操作している。


X-giTaNOさんは笑っている。

そして傍らにあったフライドチキンを投げつけ、

「このチキン野郎」

と笑った。


モデルの女は、

うなだれていたが、売却が確定されたことに安心していた。


ハウスミュージックは、ノンストップで流れ続ける。

DJはX-giTaNOさんがスカウトし、専属で彼のパーティだけのために働いている。

外国人だが月に60万円ほど稼いでいるようだ。

本国に毎月送金しており、彼のお陰で弟3人が学校にいけるようになったそうだ。


X-giTaNOさんについていけば、

成功は約束されたようなものだ。

皆、本気でそう信じていた。


「えっ。ちょっと待って。スマホがクルクルなって動かないんだけど」

と芸能人の卵の女が叫んだ。


皆、急いでスマホを確認する。

俺のスマホも動いていない。

(こっちもだ)

(わたしも)

あちこちから声がする。


X-giTaNOさんは部下を呼びつける。

「今、調べさせてるから、ちょっと待って」

X-giTaNOさんは笑った。


しかしX-giTaNOさんの顔は少しこわばっていた。


俺は通信を切り替えるが、電波は通じない。

ヤバいかも。

俺はそう直感した。


ハウスミュージックは、皆の気もちを知ってか知らずか、さらにビートを強めた。


そしてそのビートのピークを迎えた時、

ナロウで、エモい曲調に切り替わる。

アッパーを決めた後のダウナー。

カクンと決まる。


「気持ちいい」

皆、音楽に酔いしれた。


X-giTaNOさんの部下がシャンパンを開ける。

そして皆、シャンパンを手に持った。


「じゃあ前祝いということで」

X-giTaNOさんは笑った。


(乾杯)


X-giTaNOさんに部下が近づき、耳打ちをする。


「回線が復帰したということで、そろそろ仕掛けますか」

X-giTaNOさんは笑った。


皆、スマホに手を伸ばす。


あれ……。

通知が来ている。

親からだ。

「血液市場バブルが崩壊したと聞いたが、お前関わってないだろうな」


俺は慌てて、

市場のアプリを起動する。

クルクルが回って起動できない。


(ちょっと待って、アプリ起動できないけど)

(俺もアプリ起動できない)

(俺もだ。アプリだけじゃない。WEB版もログインできない)

(SNSにバブルが崩壊したってニュース出てた)

(ニュースも見れないぞ。フェイクじゃねぇのか?)

(なんかフォロワーさんから、損したじゃねぇかってスゴイメッセージが届くんだけど)


皆、混乱している。


……


X-giTaNOは混乱していた。

トイレに向かい、どこかに電話をかけだす。


「おい実需があるんじゃなかったのか?」

電話口の誰かに言い寄る。


「実需はあるよ。たしかにね。でも……高過ぎる商品を買う連中は少ないよ。需要を歪めたのは君たちのほうじゃないかな。ふふふ」

そう言い、電話は切れた。


X-giTaNOは何度も電話をかけるが、

電話はもう通じない。


「おい、現金持ってここ出るぞ。皆には薬回しとけ。一番キマるやつだ。早くしろ」

X-giTaNOは部下に命じる。


X-giTaNOは服を着替え、自家用ヘリコプターへと向かう。

ボストンバッグに札束を乗せて、ヘリへ乗り込む。


「しまった。お守りをプールサイドに忘れてきた」

X-giTaNOは呟いた。


X-giTaNOには、大事にしていたお守りがあった。

馬の蹄鉄の形をしたネックレスだった。

彼が貧乏だったころ、露店で見つけて購入した。

たった3ドルのアクセサリー。

それがキッカケで彼は富豪になった。

いつも肌身離さずつけていたが、

ネックレスのチェーン部分が錆びたことに気が付き、

外していたのだった。

ディールが終われば、チェーン部分をプラチナに替える予定だった。


X-giTaNOは、

プールサイドに戻る。

何食わぬ顔をして、

プールサイドには、薬をガンガンに決めた信者たちがフラフラしている。

X-giTaNOは、排水溝近くに飛ばされた馬の蹄鉄の形をしたネックレスを見つける。

拾おうとし、四つん這いになるX-giTaNO。


「あぁ~X-giTaNOちゃん見っけ」

と後ろで声が聞こえる。


その瞬間、X-giTaNOの意識は消えた。

プールは真っ赤に染まり、

大音量でレコードの針が飛ぶ音だけが聞こえた。


プールサイドには、血のニオイを嗅ぎつけた野生の蝙蝠こうもりたちが集ってきて、彼らの血をペロペロと舐めていた。



「これで、俺の人生は変わるはずだったのに」

薄れゆく意識の中、サンsukeはそう呟いた。


日は遠くに沈み、昼間の世界は静寂に包まれる。

ただ大音量でレコードの針が飛ぶ音だけは聞こえ続けた。


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