Do you speak English
「はぁい。どちら様?」
と喜羅羅はドアを開く。
「よせ、開けるな」
と天使は叫ぶ。
「Do you speak English?」
とドアの前の男は言った。
「うわ。ほんと何言ってるかわからないね」
と喜羅羅は振り返る。
「まじで、これはお手上げだわ」
と天使は肩を落とす。
「こんな時に兄貴でもいれば……」
と俺は呟いた。
「羅刹ならもうすぐ着くわよ」
と喜羅羅は言った。
「まじか。羅刹兄貴なら、ヘビーメタルバンドのボーカルやってるし、外国語の歌うたっているから、話通じるだろ」
と天使はソファーに倒れ込む。
「よかった。これで助かるわ」
と俺は言った。
(Hey BOY&GIRL)
「羅刹の声だ」
と喜羅羅は言った。
部屋に羅刹が入ってきた。
「ひさしぶり。羅刹兄貴。ツアー中じゃなかったの?」
と天使は言った。
「緊急事態だからな。休みの間に来た。まぁまた戻るさ」
と羅刹は答えた。
「羅刹は外国語話せるよね?」
と喜羅羅は尋ねた。
「そらそうだ。なんかblood rain, daemon spiritとか難しい外国語使ってるもん」
と天使は言った。
「この人の言ってる言葉わかる?」
と俺は言った。
「Do you speak English?」
とドアの前の男は言った。
「……難しいな。これは多分あれだ。方言がきつくて聞き取れないやつだ。
俺はな、海外のツアーで方言がきつい時は、このアプリを使ってる」
と羅刹はそう言い、何かのアプリを起動した。
「もう一度言ってくれ」
と羅刹はスマホに向かって言った。
(Please say it again.)
スマホは言葉を発した。
「Do you speak English?」
とドアの前の男は言った。
(あなたは英語が話せますか?)
スマホは言葉を発した。
「この人は、あなたは英語が話せますか?って聞いてるんだね。
すごい羅刹。天才」
と喜羅羅は言った。
「羅刹兄貴、ガチ天才」
と天使は言った。
「いやぁ。それほどでも」
と羅刹は照れている。
「ちょっと待てよ。こいつ、あなたは英語が話せますか?って聞いてて、俺らが答えてないんだから、英語が話せないってわからなかったのか。アホなんじゃねぇの」
と俺は言った。
「本当だ。困ってるんだから、わからないのはわかるよな。絶対アホだ」
と天使は答えた。
「まぁいいじゃないか。言葉が通じない事もある」
と羅刹は笑った。
騒ぎが聞こえたのか、各部屋から代表者が応接室に集まってくる。
各自それぞれの言語で会話を始め、収拾がつかなくなった。
「うわ。どうしよ。うじゃうじゃ湧いてきた」
と喜羅羅は言った。
「同族を虫みたいに言うなよ」
と天使は言った。
「なんで誰も通訳連れてきてねぇんだよ」
と俺は叫ぶ。
(とぅんくーーー)
再び胸が痛くなった。
始祖様だ。
「うぉー!!!!トルネード!!!!」
と俺は叫んだ。
「どうしたの。高次?トルネードってなに?」
と喜羅羅は俺の肩を触る。
「姉ちゃん。トルネードっていうのは、野球の投げ方だよ」
と天使は笑った。
ダメだ。体の制御が効かない。
「馬鹿者が……。ひれ伏せ!!!子孫達よ」
と俺は意思に反して口が開く。
「高次……、どうしたのーーー。
あぁ、身体の制御が効かない。
これは始祖様」
と喜羅羅は言い、俺の目前にひざまずく。
「俺の身体の制御も効かない」
と天使は言い、俺の目前にひざまずく。
「我は始祖。汝らの先祖であり、偉大な指導者なり」
と俺は叫んだ。
麻痺毒に侵されたように、
また身体のコントロールが効かなくなっていく。
……
私は始祖。
華麗なるドラキュラ一族の初代にして、至高の存在。
600年の長き眠りから覚め、
子孫の高次という男に憑依した。
私の目の前にはたくさんの者が膝まずいている。
「私はドラキュラ一族の始祖。おい。お前たちは我の子孫か」
と私は尋ねた。
「先日は御見苦しいところを。喜羅羅です」
と喜羅羅は頭を垂れた。
「天使にございます」
と天使も頭を垂れた。
「羅刹にございます」
と羅刹も頭を垂れた。
その他の者も、それぞれ名乗りをあげた。
「うむ。お前たちは子孫のようであるな。ところで、私の言葉は皆理解できるのか?」
と私は尋ねた。
皆一様にうなづく。
「始祖様のお言葉は直接頭の中に流れ込んでまいります」
と天使も答えた。
なるほど、念話のようなものか。
「お前たちの言葉も、言語はわからないが、直接頭の中に流れ込んでくる。すこし情報も共有しているようだ」
と私は言った。
一同ざわつく。
心を読まれるのが怖いのか、
動揺している者もいるようだ。
「始祖様、よろしいでしょうか」
と男が言った。
「お前は何と言ったかな」
と私は尋ねた。
「……私は始祖様直系の子孫にして、世界的血液メーカーDZ社のCEO、ドボルザークにございます」
とドボルザークは言った。
「それで何だ」
と私は尋ねた。
「献上したき品がございます。持ってこい」
とドボルザークは部下に命じた。
ドボルザークは、黒色の容器に入った何かを差し出した。
「これは何だ」
と私は尋ねた。
「最高級の高貴なる血にございます」
とドボルザークは頭を下げた。
なに?
これが血だと。
「血は人から吸うもの。これが血だと申すのか?」
と私は尋ねた。
「始祖様がご存命であられたころは血液の保存が困難でしたが、今は技術が上がり、血液はある程度の期間保存できるようになっております。これは当社で選りすぐりました、最高級の高貴なる血にございます」
とドボルザークは頭を下げた。
なるほど、そういうことか。
「わかった。では飲んでみよう」
と私は牙を出す。
「偉大なる始祖様。牙は使わずとも、このストローでお吸いになれます」
とドボルザークはストローというものを差し出した。
これでどう飲めというのか?
「始祖ちゃん。私がやってあげる」
と喜羅羅はそう言い、ストローを準備した。
しかし、さっき始祖ちゃんと呼ばれなかったか?
「始祖ちゃん。このストローをちゅーって吸うの。人間から血を吸う時みたいにね」
と喜羅羅は笑った。
やっぱり、始祖ちゃんと呼ばれたよな。
まぁいいか。悪い気はしない。
私はちゅーっと吸う。
あぁ、血だ。
たしかに血だ。
しかし味が微妙だな。
私は顔をしかめた。




