クレバーの意味
私は始祖。
華麗なるドラキュラ一族の初代にして、至高の存在。
600年の長き眠りから覚め。
子孫の高次という男に憑依した。
しかし、何なんだ。
この空間は。
黒と赤しかない。
まるでどこに何があるかわからない。
「私はドラキュラ一族の始祖。おい。お前たちは我の子孫か」
と私は尋ねた。
「私は喜羅羅と申します。あぁ始祖様にあらせられまひゅか」
と喜羅羅は頭を垂れた。
「姉ちゃん!始祖様の前で噛むな。私は天使でございます」
と天使も頭を垂れた。
「うむ。お前たちは子孫のようであるな。ところで、この身体は誰だ」
と私は言った。
「始祖様。俺は高次と言います」
と頭の中で声がする。
私は手を前に出し、二人の説明を止めた。
「なるほど。高次とやらの身体を借りておるのじゃな。まぁ良い。なにか答らえれそうな事があれば、お前も答えよ」
と私は言った。
「はっ!」
と頭の中で声がする。
「この身体は高次という男の者だとは聞いた。ところでこの屋敷はなぜこんなに見にくい」
と私は尋ねた。
「申し訳ございません。始祖様が”赤と黒……、それこそが我が一族を彩る色”とおっしゃったと聞き、全てを赤と黒で統一しております」
と喜羅羅は言った。
全てを統一。
こいつ何を言っている?
「ちょっと待て。本当に全てなのか?」
と私は尋ねた。
「申し訳ございません。どうしてもスマホの画面や、テレビ画面、お化粧などは、赤と黒だけに統一するのは困難で……」
と喜羅羅は頭を下げた。
「皮膚を黒くするのは。刺青などで可能ですが、始祖様は刺青を入れておられませんでしたので、肌には色を入れておりません」
と天使は言った。
「俺もデイトレードの画面は、他の色を入れないと判断できないので、仕方なく入れております」
と頭の中で声がする。
「申し訳ございません。醜いですよね」
と喜羅羅は涙をこらえる。
ちょっと待て。
なに?
私は”赤と黒……、それこそが我が一族を彩る色”
とは言ったが、使ってよい色は、赤と黒だけとは言ってないぞ。
うわ、面倒くさ……。
どうするの?
しかし私が言った手前。
なんとかせねばならないな。
「始祖様。ご命令を……」
と天使は言った。
「少し聞くが、我が子孫はお前たちだけか?」
と私は尋ねた。
「我々は枝別れした子孫でございます。直系あわせて、始祖様の子孫は世界に散らばっております」
と喜羅羅は言った。
「では、ここだけではなく。
全世界の子孫たちが、このような家で生活をしておると?」
と私は尋ねた。
「はい。そう聞いております」
と喜羅羅は答えた。
まいったな。
全世界の子孫が、
こういう感じの不便な家に住んでいるのか。
しかし、
どうする?
違うだろうと責める事はできる。
でもこいつらは真面目に私の言いつけを守っただけだ。
少しずつ修正していくしかないのか。
まぁいい。
まずは褒めてやろう。
「うむ。まぁ100点満点とは言えないが、ずいぶん努力したな。褒めてやろう」
と私は言った。
「ありがとうごじゃいます」
と喜羅羅は大粒の涙を流している。
「ありがとうございます」
と天使も涙ぐんでいる。
えっ。私ってこんなに影響力があるの?
うわ。
ヤバいな。
言葉に気を付けないと、面倒くさいことになってしまう。
「質問したいのだが、お前らはクレバーの意味が分からなかったな。学校などには行っていないのか?」
と私は尋ねた。
「始祖様の”昼は外出するべからず”との命令により、一族の者は昼間の学校には通えず、通信制の学校にしか通えません。その結果、就職先が自ずと自営業よりになってしまい、学力よりも手に職をつけるという感覚が強い個体が増え、我々のように学力が劣る個体が出てくるのです」
と喜羅羅は言った。
「姉ちゃんはキャバ嬢、俺はホスト、高次はデイトレーダーです」
と天使は言った。
「おいキャバ嬢、ホスト、デイトレーダーって何なんだ?」
私は頭の中で高次に尋ねた
「始祖様。キャバ嬢とホストというのは、酒を扱う飲食店で、お客さんの相手をする仕事です。デイトレーダーというのは、株という会社の所有する権利を売り買いする仕事です」
と声がした。
などほど、そういうことか。
つまり、会社勤めじゃなかったら、それほど学力も要求されない。
結果的に学業がおろそかになったという事か。
だから、クレバーの意味が分からなかったのか。
という事は、
これも私のせい?
子孫の為を思った行動が、
どんどん憂鬱になってきた。
「昼は外出するべからずとの命令を守ったのだな。よろしい。良い心掛けだ」
と私は言った。
「ありがとうございます」
と喜羅羅は安心した顔をしている。
「感謝いたします」
と天使は言った。
ちょっと待て。
「クレバーは賢いという意味だ」
と偉そうに言ったが、
一番アホなのは、私じゃないのか?
子孫の迷惑になるなんて気が付きもしないで。
うわ。
どうしよ。
まぁこいつらも生活できてるんだから、ちょっと様子を見ておこうか。
私はそう思った。
「じゃあ生活を観察しながら時折、出てくるから、そのつもりでな」
と私は言い、コントロールを戻してやった。
……
始祖様のコントロールから解除され、急に意識が鮮明に戻る。
「うわ。戻った」
と俺は言った。
「えっ高次なの。戻った。あっ圧迫感がない。高次だ!お帰り」
と喜羅羅は俺を抱きしめた。
「兄貴ビックリしたよ。あれが始祖様なんだね。圧迫感がハンパなかったよ」
と天使は言った。
「わかる。俺もコントロールできなかったから」
と俺は頭をかいた。
「それでどうする?」
と喜羅羅は尋ねた。
「一応報告はしておかなくっちゃな」
と天使は言った。
「しかし大役だな。こんな枝のうちに憑依したって、直系に疎まれるぞ」
と俺は嫌な予感しかしなかった。
「まぁでもあの始祖様の圧力感じたでしょ。あれなら直系でも、文句言えないって」
と喜羅羅は肩を叩いた。
「黙っておいたほうが良くない?」
と天使は腕を組んでいる。
「いや。なんとなくだけど、言っておくほうが、あとあとやりやすいと思う」
と俺は言った。
始祖様がそう言わしているのか、自分の勘なのかはわからなかったが、そういう実感があった。
「しかし……、どういうの?」
と喜羅羅は言った。




