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2 狸

 周囲から孤立して、兄から目を背けて、心が落ち着く本の世界に閉じこもる毎日。

 その日々はあることをきっかけに一転する。

 いつもの帰り道、ふと視線をあげると目の前の横断歩道を狸が渡っていた。


「狸……?」


 珍しい、このあたりに狸は滅多に出ないのに。しかもあの狸、頭に桜の花をつけている。なんともお洒落な狸だ。

 あまりの物珍しさにその狸に目を奪われる。そのせいで、狸に猛スピードで近づくトラックに気付くのに遅れた。


「危ない!」


 私と狸との距離はざっと20メートルほど。走ればすぐ追いつく距離だ。

しかし、私よりもトラックの方が狸に近かった。


 跳ね飛ばされる狸。宙を舞い、すぐそこの公園の茂みへとポトリと落ちた。トラックはそのままいってしまう。


「た、狸が……!」


 慌てて公園の方へ走り寄り、狸の落下地点のあたりを探りだした。狸は直ぐに見つかった。横になりながら目を開けてキョロキョロしている。様子を見る限り無事でありそうだ。血が流れていないことだけは確認できる。


「そうだ、病院に……!」


 近くの動物病院に電話をかけようとスマホを取り出すと、ミシミシと音を立てて割れた。


「こ、こんな時に限って……!」


 全くもって役に立たない力だ。動物病院に電話できないのなら、直接連れて行くしかない。カバンの金具を破壊して口を開けて「ここに入れる?」と聞くと、狸はパッと起き上がってカバンの中に頭を突っ込んだ。


「よし、このまま触らずにいそいで病院に……!」


 カバンごと破壊しては中の狸も無事ではすまないので、最大限心を落ち着かせて早歩きで動物病院に向かった。




「えー、無傷ですね。この狸、毛皮が鋼で出来てるみたいですねぇ。」

「む、無傷……。あんな猛スピードのトラックにはねられて……?」

「普通命を落とすと思うのですがね、不思議ですねぇ。」


 安心したが、不審にも思う。そんなこと、ありえるのか?人間ですら危うい状況なのに、平然としている狸。犬のように尻尾を振りながら私の膝に乗り上げようとチャカチャカ歩いてきては、医者に診察台に引き戻されている。 


「健康そのものなので、今日のところはこれで帰って大丈夫です。もしまたこの子に何かあったら連れてきてあげてくださいね」

「は、はい。ありがとうございました。」


 診察室を出て、狸を小脇に抱えて会計を終わらせる。今は心が落ち着いているので狸を抱え上げても平気だ。狸がモチモチと動くので狸を拾った公園まで行っておろした。


「君は無事らしいから、もう帰っていいよ。家族の元におかえり。」

「……くー、きゅー」

「な、なに……?」


 狸は一つ鳴くと、私の足をよじ登ろうとモチモチの身体を押し付けてきた。


「私の家には連れて行ってあげられないよ。それに私と一緒にいるのは危ないし。」

「ぎーーーッ」

「わっ。肩までよじ登ってきた!そんなことされても連れていけないって。」


 モチモチは頭の上に乗っかってしまい、引っペがそうと四方八方に引っ張っても取れそうにない。この狸、耐久力だけでなく筋力もある。このままでは私の頭皮がとれてしまいそうなので、諦めて降りるまでそっとしておくことにした。


「ふふ……。」 


 どこからか、澄んだ笑い声が聞こえてきた気がした。



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