vol.4 事件の結末
[Ⅰ]
銃口を向けられた女子高生は、そこで自分の誤った行動を理解し、青ざめた表情になる。
「姉ちゃん、マズいって……」
男子高校生が小さく呟いた。
立て籠もり犯は、今にもトリガーを引きそうな気配であった。
するとそこで総司が立ち上がり、慌てて割って入ったのである。
「ああ、待った、待った! 貴方も落ち着いて。この子は撃たないでやってくれ」
立て籠もり犯は総司を睨む。
「ああん、なんだテメェは」
「すいませんね。彼女、私に苛立っていただけなので、貴方ではないんですよ。許してやってください」
「はぁ? 何言ってんだ、オメェよぉ……」
「いやね、彼女の鞄がちょっと気になったものでね。私の所為なんですよ」
総司はこの状況を利用し、女子高生に近づいた。
そして今がチャンスとばかりに、女子高生の鞄を手に取ったのである。
それは紺色のナイロン製スクール鞄であった。
「あ、私の鞄!」
立て籠もり犯はそこで総司に銃口を向ける。
「テメェ、動くんじゃねぇ! 動くなと言っただろうが! さっきから何勝手な事してんだよ! ぶっ殺されてぇのか!」
鞄を手にした総司は、女子高生をチラッと見た後、立て籠もり犯に視線を向けた。
「すいませんねぇ。私、この鞄にちょっと興味が湧いたものでね。ありふれたスクール鞄ですが、すごく良いモノですよ。私もよくわかりませんが、得体の知れない凄みを感じますから」
「ア、アンタ……何、わけわかんないこと言ってんのよ……」
「え? ふ、普通の鞄だと思うけど……」
女子高生は引いていた。
連れの男子高校生も同様である。
だが、そんな空気を読まない総司を見るや、立て籠もり犯は血走った目で怒声を上げたのだ。
「はぁ!? ふ、ふざけんじゃねぇ! さっきから何してやがる! 勝手に喋ってんじゃねぇよ! 何が凄い鞄だ! 舐めてんのかテメェ!」
立て籠もり犯は女を羽交い絞めにしたまま、総司達に近づいてきた。
今にも殺しにかかりそうな剣幕だ。
その威圧的な犯人を見て、女子高生は怯えたように後ずさり、生唾をゴクリと飲み込んだ。
男子高校生も息を飲みながら、後ろに下がる。
だが、総司は平静を装ったままだった。
場慣れしているからだろう。
「いえいえ、とんでもない。全然、舐めてないですよ。すいませんね、こういう性分なんです。では、今後は言葉は慎みますよ。私は貴方に反抗するつもりもないですから。この通りです」
などと言いつつ、総司は所定の位置に鞄を放り、両手を挙げたのであった。
反抗しないという意志表示をしたのだろう。
「オメェ……本当にむかつくな。何、落ち着き払ってんだよ。殺したくなってきたじゃねぇか」
立て籠もり犯の目が座る。
総司は両手を上げながら、立て籠もり犯を見据えた。
(さて、これで準備はできた。まだ3つのマーキングは変化してない。ということは、あの法則が生きてるはずだ。さぁ……なにが起きる……)
総司はジッとその時を待った。
身震いする女性を羽交い絞めにしながら、立て籠もり犯は総司に銃口を向けて近づいてくる。
そして、立て籠もり犯が鞄の所に来たその時、ソレは始まったのである。
「お前、本当に気に入らねぇな、その態度。舐めくさりやがって、ぶっ殺してやる! カタギの分際で、俺を舐めんじゃねぇぞ! って、オワァァッ!」
立て籠もり犯が女子高生の鞄に足を乗せた直後、バランスを崩したのだ。
続いて立て籠もり犯は、鞄を蹴り上げるような形で、大きくよろけた。
その影響で鞄は大きく宙を舞う。
片や、立て籠もり犯は羽交い絞めの女性から手を放し、転ぶまいと女子高生達の席のテーブルに手を付いた。
だが、それでも体勢を立て直せない。
「わっとっととと」
立て籠もり犯はよろけながら、さらに前へと進み、なんと、総司が動かした椅子へと着席したのである。
時を同じくして、舞い上がった鞄が、カウンターテーブルから半分出たトレイへと落ちてきた。
そして、鞄がトレイの端に落ちた次の瞬間。
鞄の重みでトレイの端が沈み込み、反対側が跳ね上がり、その反動でウイスキーボトルが弾丸のように飛び出したのだ。
ウイスキーボトルは凄い速さで、立て籠もり犯の側頭部に命中した。
ゴッという鈍い音が店内に響く。
「ガッ……」
その直後、立て籠もり犯は意識を手放したのか、力が抜けたようにグッタリし、拳銃を床に落としたのであった。
辺りはシンと静まり返っていた。
しかし、総司だけが思わず、そこで小さく拍手したのである。
(おお……こうなるのか。いつもながら予測不可能な結末だな。そして……いつもどおりのピタゴラスイ〇チ的な流れだ。あの緩い音楽が聞こえてきそうだよ。しかし……一体どういう仕組みの世界なんだろ? この3つの物体が所定の位置にあり、その上で、立て籠もり犯が鞄を踏んだら、こうなる運命が決まっていたかのような結末じゃないか。全然関係なような事柄でも、条件揃えば、こういう未来が確定するってことだもんな。怖ッ。まぁいい、考えるのは後だ……)
総司は冷静にそう判断すると、犯人に近づいた。
椅子にぐったりと腰かける立て籠もり犯は、背もたれに頭を預け、白目を向きながら口から涎が垂れていた。
続いて総司は、床に落ちている拳銃を足で蹴り、犯人から離した。
それから犯人の頬を軽くひっぱたき、反応を見たのである。
しかし、立て籠もり犯はピクリとも動かなかった。
それを見て、総司は安堵の息を吐いた。
(ふぅ……こりゃ、完全にノックアウトしてるね。あのウイスキーボトルの強烈な一撃が綺麗に決まったからな。無理もない。まぁとはいえ、目を覚ますと悪いから、まずは警察かな……)
総司はそこで店員に振り返った。
「店員さん……犯人は完全に気を失ってるんで、外の警官を呼んでもらえますか? 早くしないと、またコイツ目を覚ますかもしれないから」
我に返った店員は、コクコクとぎこちなく頷いた。
「は、はは、はい……たた、ただいま、呼んで参ります」
店員は慌てて玄関に向かった。
その後、警官達が店内に入ってきた。
そして、総司を含めた店内の客は、暫し警察の聞き取りに協力する事となったのである。




