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家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!《前編》  作者: 雲乃琳雨


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9/12

9、悪魔と虫

 今日は神学で、悪魔のことをやるので授業を受けに来た。令嬢たちも他に六人ぐらいいる。先生は神官だ。神学の授業はテキストが20まであって、「1、国と神のあらまし」とほかの9コマを取ればカリキュラムは達成となる。先生の話をほとんどの令嬢は聞いていないが、神官は寄付さえしてもらえればいいので注意することはない。

 先生の話では、


「この国には光魔法を使う聖女がいないことで、瘴気が出て魔獣が多いと言われています。聖女はもう百年近く現れていません。

 瘴気が多いと人々の心も悪に傾いて、悪魔に憑りつかれる者も増えます。逆にそのような状態だからこそ、聖女が存在しないのかもしれません」


 なるほど。この国はかなり危機的状況ということなのか?


「悪魔は人の負の心から生まれたと言われています。人は弱いもので、悪魔に囁かれると逆らうことができません。悪魔に魂を捕らえられると、そこから逃げ出すのは困難で、転生することができないそうです。悪魔は人の魂から負のエネルギーを受け取ると力が増します。

 悪魔につけ入られないように、日ごろから敬虔な心を持つことが肝心です」


 怖い……。



 午後、私はリネン室で洗濯物をたたみながら、悪魔のことを考えていた。


「悪魔ってなんだろう」

『呼んだか?』


 どこからともなく声がした。私は辺りを見回した。


『ここだ』


 横を見ると、机の上にクリーム色の芋虫がいた。取って来た覚えがない。最近イタズラはやめた。多分、洗濯物に付いてきたのだろう。芋虫はよく見ると気持ち悪い。

 芋虫を見ていると、赤くて細長い目が出てきた。目は体からはみ出ている。その目の下にも左右二つずつ裂けめができて、開くと赤い目のようだ。


「ぎゃー!!」


 私が叫ぶと、中年の修道女が開いたままのドアから声をかけてきた。


「どうしましたか?」

「何でもありません!」


 悪魔がいるとは言えない! 私は引きつりながらも笑顔を作った。この国で悪魔を崇拝すると、もれなく死刑だ。


「虫でもいたのかしら」

「はい!」


 そうです。修道女はフフフと笑うと行ってしまった。私は赤い目の芋虫を見る。


「あなた悪魔なの?」

『そうだ。私はこの国を管轄している、大悪魔のサルティーだ』

「大悪魔!」


 大悪魔は魔王の次に強い悪魔だ。何でここに。そして、


「なぜ芋虫に?」

「魔力温存のためだ」


 芋虫がすまして言う。悪魔って結構不自由よね。——そうだ! 聞いてみよう。


「聞きたいことがあるのですが」

『なんだ?』

「私に子デビルが憑いているみたいなんですが、今日もいますか?」

『いないな。私がいるから消えたんだろう』

「そうですか。誰が送っているか分かります?」


 芋虫は間を開けて、私を横目でちらりと見た。


『知りたいのか?』


 そう言われると知るのは怖いかもしれない。あ、でも、悪魔は嘘をつくと先生が言っていた。本当のことを言うわけないかも。あと、お願いすると、大事なものを支払わなくてはいけない。対価がいるのだ。

 ドアに黒い男が立っていた。伯爵だ。まずい……。でも、虫だから気がつかないか。


「悪魔の強い気配がすると思ったら……。お前、とうとう大悪魔を召喚したのか……」


 ダメだった。伯爵は蔑みの目で私を見下ろしていた。お茶を飲んだ時の仲の良さが嘘のようだ。


「違います。勝手に来たんです」

「悪魔は呼ばないと来ない」


 私の信用は枯葉のように軽い……。そういえばさっき、


『呼んだか?』


 って言ってた。いや、あれは呼んだうちに入らないでしょ。どうしよう。このままだと処刑される!?


「ただの芋虫ですよ。ちょっと気持ち悪いけど」

「虫だとは言ってない」


 ぐはっ、自分から言っちゃったよ。すると芋虫から、するすると煙のようなものが出て、悪魔の姿を形作った。上半身は裸で、引き締まってたくましい体をしている。胸から下は黒くぼやけて細くなっていた。癖のある短い髪は黒く、左右非対称の曲がった短い角が二本生えていた。土色の肌に、赤くて細い鋭い目。瞳は黒い。目の下の皮膚は虫と同じように二つずつ裂けていて、目のように赤くなっている。

 なんて恐ろしく、醜悪なの……。私は唖然とした。


『どうだ、私の本当の姿は。美しかろう』


 美しい? これが? ……悪魔の美的感覚は、恐ろしさにあるのかしら? それより姿を見せたら、ますますまずいじゃん。


『久しぶりだな。カイゼル』


 悪魔は腕を組むと伯爵に身を乗り出して挨拶した。二人は知り合い?


「知り合いなんですか?」

『そうだ、こいつは、私の宿敵だ』


 芋虫もいきり立っていた。伯爵が芋虫を摘まむと、悪魔の姿が消えた。


『何をする!』


 伯爵は芋虫を床に投げつけると、足で踏んだ。


『ぎゃ!』

「ぎゃー!」


 私も叫ぶ。その床を掃除するのは私なんですよ! 外に捨てたらいいじゃないですか。ひどい! こいつは、虫も処刑するなんてやっぱり悪魔よ! 伯爵は芋虫から足を上げた。潰れているのでモザイク処理しよう。うっ、うっ。私は掃除のことを考えて心で泣いた。


『お前はなんてことするんだ!』

「俺に潰されないものに憑りつくんだな」(今は黒い丸い靄になったな)


 私には見えないが、そこに向かって話していた。


『なら、この娘に憑りつくとしよう』


 私の中に何かが入って来た。


(目の色が変わった。憑りつかれたか……)


『お前は、あいつが憎いだろう。復讐するんだ』


 私の中で、別の声がする。ええ、私、伯爵が憎いわ。だって、私に虫の死骸を掃除させるんだもの。復讐するわ。


『そうだ。串刺しにしてやれ』


 串刺し? いいえ、三角巾を被らせ、スモックを着せて、床を掃除させるわ。


『お、お前……やることが小さすぎるぞ! そんなんじゃ、あいつは殺せない!』


 いいえ、これでいいのよ! いつもスカしてるんだから、三角巾とスモックがお似合いよ! さあ、やるわよ。

 私は伯爵を見た。伯爵は私を黙ってじっと見ている。……できない。こんな麗しい顔に三角巾を付けさせるなんて……はっ、まさか!


「あなた、私に魅了の魔法を使ったわね!」

(魅了の魔法? そんな魔法あったか?)「どうしてそう思った?」

「だってあなたのこと、麗しい顔だと思ったもの!」

「? 他には?」

「他には、……カッコよくて、背が高い?」

「ふん」(言われると、悪くないな。——黒い靄が外に出ている。悪魔が離れたな)


『おい、目を覚ませ! おかしなことを言っているぞ』


「その続きは、休憩室で一緒にお茶を飲みながらゆっくり聞こう」

「分かったわ!」

『おい、お前、そいつに騙されてるぞ!』


 伯爵は私の肩に手を回すと、リネン室を一緒に出た。

 バタンと、ドアが閉まった。


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