表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倫理学:女王様の特別講義~眞栄田豪姫の灼熱講話録  作者: 和子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/26

1限目 後期の選択科目どうする?

 芦ノ湖の湖畔から、「心臓破りの坂」が始まる。

箱根の山肌を大胆に切り崩して創設された近未来的な学術機関、それが国立大学法人箱根外語大学だ。小田原から芦ノ湖へと続く、高低差およそ860メートルの過酷なコースは、日本人の最大の弱点「コミュ力不足」を、物理的な試練をもって克服させるという、異色の教育理念を体現している。世界に羽ばたく人材を輩出するため、この場所が選ばれた。

 この大学の学生たちは、皆、全国から集められた「優秀な頭脳」である。

キャンパスは、一見すると自由で国際的な雰囲気に満ちている。しかしその裏側では、多くの厳しく冷徹な講義が行われ、優秀な学生をもってしても大きな負荷となるプログラムが組まれていた。彼らが対峙する過酷さは、箱根の険しい地形だけではないのだ。


第一回 愚者の選別

 箱根大学、通称「箱大」の巨大な大講義室、1221講堂。席は学生で埋め尽くされ、後方には立ち見までいる。熱気と期待、そして微かな恐怖が入り混じった異様な空気の中、彼女は現れた。


眞栄田(まえだ) 豪姫(あき)、29歳。

挿絵(By みてみん)

 黒のタイトスカートスーツは、教壇に立つ姿を知的かつ厳格に際立たせ、教壇に立つその姿は、まるでこれから生贄を品定めする女王のようだった。


 豪姫は演台の前に立ち、ゆっくりと講堂内部を見渡す。その眼差しは、知識を探求する学生を見る目ではなく、価値のないゴミを分別する目だった。


 「あら、今年もよく集まったわね。餌を求める子犬たちなのかしら?」


 マイクを通した豪姫の声は、低く、冷たく、それでいて甘美な響きを持っていた。

「私の授業は『倫理学の広場』とでも呼んでちょうだい。無知で甘い夢を見ているあなた方を、真の地獄へ叩き落とし、あなた方の常識を打ち破り、真の知性を構築することが目的よ」


 学生たちは息を飲んだ。誰もが彼女の美貌と、その残酷な言葉のギャップに驚き、その後すぐに魅了されていた。


 彼女は、タブレットを講義に持ち込んでいた男子学生を指差した。その学生は慌ててそれを隠そうとする。

「あなた。講義の紹介文に『ノートやタブレットの持込禁止』と書いてあったわよね?なぜ持ってきているの?」


「すみません、その、メモを…」


「無駄ね。あなた方の低俗な脳みそに、私の言葉を刻み込むことなんて、最初から不可能なのよ。メモを取るふりをして安心したいだけの精神的な弱さよ」


 豪姫(あき)は、まるで汚物でも扱うかのようにそのタブレットを掴み上げ、床に落とした。筐体が壊れ液晶ガラスが砕け散る乾いた音が響く。


「講義中、思考の重圧に耐えかねて涙を流すかもね。ハンカチでも持ってくることを勧めるわ!」


 挑発的な言葉に、数人の男子学生が興奮して赤面し、女子学生たちからは密かな失笑が漏れた。


 豪姫(あき)は視線を一人の大人しそうな女子学生へ移した。

「そこのあなた、顔色が悪いわね。なんで私の授業を受けようと思ったの?私の評判は知っているはずでしょう?」


 女子学生は震えながら答える。 「…先生の、専門知識に憧れて…」


 豪姫(あき)はフンと鼻で笑った。 「憧れ?馬鹿馬鹿しい。私ぐらいの地位に就くには、並の努力では足りないわ。あなたは私がなぜ教授に就任できたか知っている?」


 学生たちは静まり返った。豪姫(あき)は、誰もが口にしない噂を、自らの口で言い放った。


「献身的な営業活動にきまってるでしょ?」


 再び、講義室に衝撃が走る。


「…そうよ。私の肉体と頭脳、すべてを駆使してこの地位を手に入れたの。あなたたちの言う"公正さ"や"真面目な努力"なんて、最初から存在しない幻想よ。この世界は、どれだけ残酷に、狡猾に、効率的に価値を搾取できるかで決まる」


 豪姫(あき)は冷たい笑みを浮かべ、最後に最も恐ろしい断罪を下した。


「さあ、第一回目の課題よ。今すぐ席を立ちなさい。そして、自らが救いようのないバカだと自覚した者は、そのまま出口へ向かいなさい。分別ゴミは最初から集めないのが、最も効率的な教育だわ」


 その言葉は、学生たちのプライドを粉々に砕くハンマーだった。しかし、不思議なことに、席を立った学生は一人もいなかった。彼らは皆、教授の言動は挑発的なパフォーマンスなのだろうと高を(くく)っていた。自分だけは優秀な学生として選別される、という傲慢な夢と、女王の視線から逃れたくないという屈服の衝動に支配されていた。箱大は難関大学のひとつであり、ここに入学したということは、全国の有名進学校出身者でしかもかなり上位に属する学生のはずであった。


 豪姫(あき)は満足そうに微笑んだ。

「素晴らしい。やはりあなたたちは、この刺激的な教育に魅力を感じる学生たちなのね。では、今日から地獄のレッスンを始めましょうか」



第二回 沈黙の調教

 豪姫が「今日から地獄のレッスンを始めましょうか」と宣告してから、すでに十分が経過していた。


 彼女は教壇の真ん中に立ったまま、微動だにしない。腕を組み、長いグレーの髪をポニーテールにまとめた首をわずかに傾けて、ただひたすらに、目の前の学生たちを観察している。その目は感情を一切映さず、まるで生きた標本を評価する科学者のようだった。


 沈黙は、鋭い刃物のように大講義室の空気を切り裂く。学生たちは最初、豪姫(あき)が何かを考えているのだと思った。しかし、五分、八分と時間が経過するにつれ、彼らの間に焦燥と不安、そして異様な期待が混ざり合ったざわめきが広がり始めた。


 最前列に陣取っていた、文学部では秀才と名高い男子学生は隣の女子学生に小声で囁いた。


「どうしたんだろう…教授のご機嫌をそこねたのか。もう10分も立ったまま。開始早々、誰か彼女の逆鱗に触れるようなことをしたのか?」


 隣の女子学生は、豪姫(あき)の完璧なスーツ姿と堂々とした立ち姿を、うっとりとした表情で見つめていた。


「違うわ、ご機嫌なんてものじゃない。あれは、私たちを待たせているのよ。私たちを、女王の権威に慣れさせているの」


「待たせている、だと?」


「ええ。教授を眺めるだけでも目が幸せ・・・・・・前列に陣取った価値があるというものだわ。でも…講義も進めてもらいたいわね。この緊張感で、心臓が持たない」


 ザワザワとしたさざ波のような囁きが、後方まで伝播していく。学生たちの目線は、恐怖と敬愛、そして豪姫の美貌に対する好奇心が混じり合い、彼女の存在感に集中していた。


 豪姫は、その視線の一つ一つを、冷たい陶器のような肌で受け止め、ようやく口を開いた。

「…あなた達」

 たったひとこと。それだけで、講義室のざわめきはピタリと止まった。学生たちは皆、背筋を伸ばし、彼女の次の言葉を待つ。


 豪姫はわずかに微笑んだ。その笑みは、天使のようでありながら、悪魔的な残酷さを秘めていた。

「たった十分で、もうそんなに焦るの?私の時間、私の存在が、あなた達の安っぽい時間感覚を破壊したことに、不満があるようね。なぜなら、あなた方は自分が主役であると、心のどこかで思い上がっているからよ」


 彼女はゆっくりと、演台から離れ、壇上の端へと歩み寄る。タイトスカートに包まれたその動きに、男子学生だけでなく、女子学生の数名までが固唾を飲む。


「いい?この講義室では、時間は私のためだけに存在するわ。そして、あなた達の存在は、私の教育における材料でしかない。私が見たいときに見る、聞きたいときに聞く。それ以外の時間は、ただひたすら、私の提示する論理と向き合っていればいいのよ」


 豪姫(あき)は再び演台へ戻り、人差し指でトントンと演台を叩いた。

「この十分の沈黙は、あなた方がどれほど、無意味な時間に耐えられない、脆い精神の持ち主であるかを計るための、最初のテストよ。そして結果は…全員不合格ね」

彼女はため息をついた。心底軽蔑している、という表情だ。


「まあいいわ。救いようのないバカでも、とりあえず座っているのなら、私にもやることはある。今日からあなた方に叩き込むのは、倫理学よ」


 豪姫(あき)は、まるで彼らの存在そのものを否定するかのように、冷酷に言葉を続けた。


「倫理学とは、あなた方の薄っぺらな道徳観を、根底から破壊するために存在するの。まず、あなた方に問うわ」


 豪姫(あき)は、教壇から降り、最前列の学生たちの間を、ゆっくりと歩き始めた。香水の上品な香りが、教室に広がる。


「あなた達の中で、『自分は善人だ』と思っている者は、挙手なさい」


 再び沈黙が訪れる。そして、今度は誰も手を上げようとしなかった。女王の瞳には、一切の虚偽も甘えも許されないことを、彼らは瞬時のうちに理解していたからだ。



第三回 熱された鉄筆で脆弱な脳に刻む

 豪姫(あき)教授は「善人の定義」に関する論理の公開処刑をするのか。または手を上げなかった学生への痛烈な皮肉を発するつもりなのだろうか。期待と不安が入り交じる中、彼女は続ける。

「あらやだ、『自分は善人だ』と思っている人はいないの?ほんとに・・・ふふ」


 豪姫(あき)教授の問いかけに、誰も手を上げなかった。その沈黙を確認すると、彼女は再び、心底見下したような冷笑を浮かべた。

「ふふ…、賢い子たちね。馬鹿正直に手を上げるほど、自分の命は安くない。手を挙げた瞬間、私があなた達の『善』という幻想を、公開の場で木っ端微塵に粉砕すると、直感で察知したようね」


 彼女はゆっくりと教壇に戻り、一冊の分厚い専門書を、音を立てて床に落とした。その音が、学生たちの緊張感をさらに煽る。


「あなたたち、私の『倫理学』という専門に、何を期待して受講したのかしら?」


 豪姫(あき)教授は目を細め、講義室を睥睨(へいげい)する。


「『道徳の授業かと想ったのかしら?』それとも、優等生ぶって『民族・宗教観の違いによる倫理の国際比較論』でも学べるとでも?馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」


 彼女の言葉には、学生が抱くアカデミックな幻想に対する、純粋な軽蔑が込められていた。


「あなたたち、ムダなお金を払って、この箱大に、何を求めてきたのかしら。結局は、安全な場所で、安全な言葉を弄し、自分だけは傷つかずに卒業証書が欲しい、それだけでしょう?」


 彼女はスーツのジャケットの襟に指をかけ、一瞬、毅然としたポーズをとった。


「私の授業は、そんなヌルい場所ではないわ。いい?よく聞きなさい」


 豪姫(あき)教授は、まるで呪文を唱えるかのように、低い声で囁いた。


「―――これから講義を始めてあげる。耳と目を開けておけばいいのよ」


 そして、一転して声を張り上げる。その声には、知的な優越感と、冷徹な決意の色が混じっていた。

「あなたたちの頭蓋骨の中に大事にしまってある、その脆弱(ぜいじゃく)な脳に、私の言葉を、一本一本、熱された鉄筆で刻み込んであげるから。その熱さと痛みが、あなた方がこの授業で得られる、唯一の真実よ」


 豪姫(あき)教授は演台に置いてあったレーザーポインターを手に取り、それをまるで鞭のように宙で一振りした。

「倫理学は、善悪の分別ではない。それは、いかに論理的な思考を持つ人間を、そうでない人間から選別し、その能力を効率的に引き出すか、そのための学問よ。そして、あなた方のほとんどは…価値のない方に分類されるでしょうね」


 彼女は、最前列の学生の机上に、正確にレーザーの赤い光を当て、まるで論点を定めるかのようにゆっくりと動かした。


「さあ、最初の講義のテーマは、『愚者を救済する義務は存在するか』よ。救いようのないバカ、すなわち『分別ゴミ』として、あなたたちの存在を論理的に否定するところから始めましょう」


 豪姫(あき)教授は、演台に肘をつき、学生たちを見下ろした。彼女の瞳は、これからの調教に胸を躍らせる女王の光を帯びていた。



第四回 グリーン・フットボールと娯楽の脳

 豪姫(あき)教授は演台に肘をつき、赤いレーザーポインターを握りしめたまま、嘲笑を浮かべた。

「さあ、最初の講義のテーマは、『愚者を救済する義務は存在するか』よ。あなたたちの固まった思考を溶かすには、まず、この世界の最大級の『不合理な信仰』を解体するところから始めないとね」


 彼女は教壇の横にあるスクリーンに、巨大な地球のイラストを映し出した。そのイラストには、色とりどりのアイコンが散りばめられている。


「さてと、はじめましょうか。…あなた方もご存知の通り、どこかの大統領が、『SDGsは詐欺だ!』とか言っていたわよね」


彼女は鼻で笑った。


「詐欺じゃないわ。あれは、催眠術にかかったのよ。世界中の善良で、思考停止した人々を対象にした、最大級の集団催眠」


 彼女はレーザーポインターを振り上げ、教壇を歩きながら解説を続けた。その口調は、知的な冷たさと、世界に対する圧倒的な優越感に満ちていた。


「そもそもは、その国の元副大統領が、ビジネスとして展開したのよ。彼の2007年の著作、『不合理な現実』という、たいそう仰々しいタイトルの本を足がかりにして、世界に『環境保全ビジネス』という、新しい市場が生まれた」


 彼女は立ち止まり、学生たちを一人ずつ見つめた。

「あなたたちの倫理観は、このビジネスによって巧妙に捻じ曲げられた。地球が危機だ、と叫べば、そこに巨大な資本が流れ込む。これでその国は世界の富を独占する予定だったのよ。『人類を救う』という大義名分の下で、富を吸い上げるシステム。合理的で、実に美しい搾取の構造だわ」


 彼女は、あたかも目の前の学生たちがそのビジネスの犠牲者であるかのように、憐れむような視線を向けた。

「ところが、誤算があった。世界を支配しようとしたその国の国民は、恐ろしいほど視野が狭く、複雑な概念を理解できない人たちが大多数だったのよ。彼らは、他者を論理的に支配するための概念を理解できなかった」


 豪姫(あき)教授は、ふたたび演台に寄りかかった。

「彼らに『グリーン(緑)』と聞いてイメージできるのは、悲しいことにフットボールのグラウンドくらいのものよ。環境保全という、抽象的で複雑な概念を理解し、国際的なルールを厳守し、持続可能なシステムを運用する…そんな高度な知性が、彼らの表面的な思考には備わっていなかった。だから、この巨大なビジネスは、彼らの国ではグローバルな『おままごと』の域を出ていない」


 彼女は、レーザーポインターを地球のアイコンに当て、それを嘲笑うかのように何度も点滅させた。


「SDGsの17の目標?結構。あなたたちの人生の目標は、そのうちのたった一つを達成することよりも、ずっと低レベルで、救いようのないものよ。私の講義の中では、このグローバルな催眠術の構造を理解させ、あなたたちが搾取される側の『愚者』であるという現実を突きつけるわ。さあ、まずはこの催眠術が、いかにあなたたちの倫理観を汚染したかから見ていきましょうか」


 豪姫(あき)教授の講義は、倫理学ではなく、世界を支配する冷酷な論理と搾取の構図を暴く、女王による公開セミナーとなった。学生たちは、これまで信じてきた「善」の概念が根底から揺さぶられる感覚に、恐怖と同時に、抗いがたい興奮を覚えていた。



第五回 EU破滅史と狡猾な旧宗主国

 豪姫(あき)教授はスクリーンに映し出された地球のイメージを、EU加盟国の地図に切り替えた。色鮮やかな国境線が、彼女の冷徹な言葉の背景となる。

「…そして、この地球規模の催眠術である『環境保全ビジネス』を、もっとも大胆に、そして狡猾に強奪したのは、旧宗主国の協同組合、EUね」


 彼女は舌を打った。そこには、歴史に対する一種の呆れと、その図々しさに対する賛嘆が入り混じっていた。

「アメリカの表面的な思考を持つ人々が、『緑はフットボールグラウンド』とやっている間に、EUは行動した。なぜなら、彼らの強みは…(ええ、恐ろしくバカには違いないがそれゆえに)、気が遠くなるほどの『失敗例』を持っている、という点にあるからよ」


 豪姫(あき)教授は口角を上げた。その笑みは、歴史上の過ちを玩具にする残酷な子供のようだった。


「あなたたちは、EUのニュースといえば『統合』や『経済』の話しか聞かないでしょう?でも、彼らの本質は、壮大な失敗の博物館よ」


 彼女は再びレーザーポインターを鞭のように扱い、特定の地域を指した。

「日の沈まぬ帝国が、無敵艦隊を全滅させてしまって自国の覇権に自ら穴を開けたり、またある国は新大陸から持ち込んだスーパー野菜のジャガイモを大量栽培した挙句、疫病で壊滅させて国民を飢餓に追い込んだり…彼らの『EU破滅史』を書いたら、それこそ大長編になるわね」


 学生たちは、彼女の口から次々と飛び出す、教科書には載らない歴史の毒舌に、静かに聞き入っていた。彼女の講義は、もはや倫理学でも、歴史でもなく、世界の本質を暴くブラックコメディだった。

「彼らは、失敗を重ねるたびに『正義』や『高潔な理念』という新しい化粧を施して、その失敗を隠蔽し、新たな『ビジネス』に転換する術を、何世紀もかけて学んできたの」


 豪姫(あき)教授は教壇に立ち、挑発的な視線で学生たちを射抜いた。

「環境問題も、その一つよ。彼らは、自国の経済と資源の優位性を保つために、『地球のために』という甘い言葉で、世界中の国々を新しいルールで雁字搦(がんじがら)めにする。そして、善良なバカたちは、その『環境目標』を達成するために、自国の富と自由を献上するわけだ」


 彼女は肩をすくめた。

「じつに催眠術にかかりやすい連中なのよ、EUというのは。彼らの歴史は、失敗の無限ループと、それを隠蔽するための偉そうな理念の創作、それだけ。そして、その失敗のツケを払うのは、いつだって、あなたたちのような何も知らない愚か者たちよ」


 豪姫は、演台に静かに戻ると、レーザーポインターの電源を切った。講義室は再び、静寂と、彼女の香水の残り香に満たされた。

「さあ、愚者(ぐしゃ)たち。EUが展開するこの『環境覇権ビジネス』の中で、あなたたちがどのように『分別ゴミ』として扱われ、搾取される運命にあるのか。次のセクションで、あなたの将来が、どのようにこのシステムに組み込まれ、その代償を支払うことになるのか、具体的な数字で分析してあげましょう」



第六回 11トンの電池と愚者の笑い

 豪姫(あき)教授は、EUの歴史に関する皮肉を終えると、再び演台に戻り、学生たちの反応を観察した。彼らの顔には、恐怖と興奮が複雑に混じり合っている。彼女の言葉は、まるで"鋭い論理の光"のように学生たちの思考の防衛線を解体し、真実を求める好奇心の扉を開き続けていた。


「…さて。EUが仕掛けたこの『環境覇権ビジネス』が、あなたたちの日常にどのような茶番をもたらしているか、具体的に見ていきましょうか」


 彼女はスクリーンに、ピカピカの電気自動車(EV)の画像を映し出した。

「環境ビジネスは電気自動車がいい例ね。あなたたちの薄っぺらな『エコ意識』を満たす、格好のオモチャよ。バッテリーの製造過程でどれだけの環境負荷がかかるか、充電のための電力源は本当にクリーンなのか…そんな面倒なことは考えない。排気ガスが出ない、という表層的な事実に思考を停止させる。実に単純で、美しい信仰の構図だわ」


 彼女は、軽蔑を(にじ)ませた口調で続ける。


「このEVに関しては賛否両論あるけれど、一つ、私が『すばらしいモビリティ』だと心底感嘆した乗り物があるの」


 学生たちは、豪姫(あき)教授が何を指すのか、期待に満ちた視線をスクリーンに集めた。


「CO2排出削減という、この環境ビジネスの最大の『大義名分』において、最も大きな影響を持つのは、実は乗用車ではなく、物流よ。そして、その物流の主役である大型トラックのEV化は、このビジネスの矛盾の結晶と言えるわ」


 豪姫はカチッと操作し、スクリーンを、巨大で無骨な電動トラックの写真に切り替えた。

「そして、ついに完成した。積載量20トンの大型Eトラックよ。もちろん、排ガスはゼロ。地球に優しい、素晴らしい未来の象徴ね」

挿絵(By みてみん)

 彼女はそこで言葉を切り、一呼吸置いて、最も重要な情報を放り込んだ。


「ただし。この20トントラック。その電池重量はなんと、11トン」


 次の瞬間、講堂に爆発的な笑いが広がった。

学生たちは、そのあまりにもバカげた数字に、堰を切ったように笑い出した。半分以上の積載量を電池そのものが占めてしまうという、論理の破綻。豪姫の講義における、最高の皮肉だった。


 「大マジメで11トンよ?(笑い声が静まるのを待って)…つまり、積載量の半分以上を、ただの重りに費やしているということ。地球を救うための乗り物が、その『重い電池』のために、さらに多くのエネルギーと、さらに多くの資源を無駄に使い、自らの効率を自ら殺している。これ以上のブラックジョークがあるかしら?」


 彼女は、笑い続ける学生たちを、冷たく見つめた。

「あなたたちの笑いは、『この矛盾に気づかなかった自分自身』に対する自嘲の笑いでもあるわ。あなたたちは、目的と手段が入れ替わった滑稽なシステムを、思考停止して受け入れていたのよ」


 彼女は、笑いが収まり静まり返った教壇で、鋭く断言した。

「Eトラックの究極の進化は、『電池を運ぶために電池を運ぶ』という、人類史上最も愚かな機関よ。環境ビジネスとは、このように、愚者の信仰心と、論理の破綻の上に成立しているの。そして、あなたたちは、そのシステムを支えるために、存在している分別ゴミよ」


 豪姫(あき)教授の言葉は、笑いの後の静寂の中に、深く、冷たく突き刺さった。



第七回 腹の皮がよじれる笑いと器用な思考

 豪姫は、Eトラックの「11トンの電池」という究極の皮肉に笑い崩れた学生たちを、冷たく見つめていた。笑いが収まり、大講義室に静寂が戻ると、彼女は満足そうに口角を上げた。

「いいわね!もっと笑ってもいいのよ…」

彼女の声は、先ほどの嘲笑とは違い、どこか甘い響きを持っていた。しかし、その内容はより残酷だった。

「なにしろ、その『電池を運ぶために電池を運ぶ』という滑稽なシステムを信仰している西洋の連中は、あなたたち、ハイブリッドやガソリン車に乗っている日本人たちを、腹の皮がよじれるほど笑っているのだから」


 学生たちの表情が凍り付いた。自分たちが笑っていた対象が、実は自分たちを笑い返しているという、恐ろしい逆転現象。


 「『未だに内燃機関などという、時代遅れの技術にしがみついている連中だ』とね。あまりに面白すぎて、笑いすぎて涙が止まらない。本当に。彼らにとって、日本人の『エコでない技術』は、哀れな喜劇なのよ」


 豪姫は、学生たちのプライドが音を立てて砕けるのを楽しんでいるかのように、残酷な言葉を重ねる。

「でも、彼らの狡猾さは、そこにあるのよ。彼らは、恐ろしく器用な思考ができる」


 彼女は、人差し指を立てて、その鋭い論理を提示した。

「あなたたち日本のアニメが世界で評価されているからって、日本人は『彼らから尊敬されている』と想っているでしょう?それは大間違いよ。彼らは、文化と国民性を『分けて』考えている。そういう器用な思考ができる連中なの」


 豪姫は、世界の現実を映す具体的な例を、淡々と挙げた。

「サッカーのメッシは尊敬するけど、アルゼンチンという国家に、わざわざ自分の財産を預けて投資する人はいない。そして、MLBの大谷翔平を賞賛しているけど、日本のプロ野球でキャリアの終盤を迎えたいと考えるメジャーリーガーは稀だわ。」


 彼女は、学生たちの間をゆっくりと歩きながら、結論を突きつけた。

「彼らにとって、他国の技術や文化は、素晴らしい『商品』でしかない。あなたたちの個々の才能や美点は認める。しかし、それは、『国民全体』や『国家』の価値とは、一切関係ないと、彼らは冷徹に分別しているのよ」


 豪姫は教壇に戻り、学生たちを見下ろした。

「つまり、あなたたちは、個々の才能は『最高級の逸品』かもしれないけど、国家という枠組みで見れば『非効率なシステム』に分類されているということ。彼らの『環境ビジネス』は、この二重基準を巧妙に利用して、あなたたちから、まだ残っている富を吸い上げようとしているのよ」


 もう笑ったり声を出したりする学生はいない。

「さあ、愚者たち。最初の課題よ。この冷酷な国際社会の構図の中で、『あなたたちの存在価値を、EUの論理で否定しなさい』。レポートのテーマは、『私はなぜ、分別ゴミではないのか』。提出期限は、来週、私がこの教壇に立つまでよ」


 豪姫は、挑戦的な笑みを残し、授業の終了を告げた。彼女の言葉は、学生たちの思考に、確かに熱された『鉄筆』で深く刻み込まれたのだった。



第八回 人類の自虐学と蒸発するメモリ

 豪姫は、最初のレポート課題「私はなぜ、分別ゴミではないのか」を学生たちに突きつけ、その反応を数秒間楽しんだ後、再び演台に寄りかかった。彼女は、学生たちが今、どれほど精神的に追い詰められているかを、肌で感じ取っていた。

「さあ、あなたたちの固まった思考が沸騰しそうね。国際社会の冷酷な構図だの、Eトラックの笑える矛盾だの、聞かされて、疲れたでしょう?」


 彼女は一息ついて、核心に戻った。

「ここでやっと、倫理学よ。この講義の根幹にある、あなた方が最も『高尚』だと誤解している学問について、少し掘り下げましょうか」


 豪姫は、まるで埃を払うかのように、倫理学という言葉を軽蔑的に口にした。

「倫理ってなにかしら?ご大層に倫理学なんていう学問分野があるのよ。私に言わせれば、ある意味『人類の自虐学』と言えるかもね」


 学生たちは、その大胆な定義に、息をのんだ。

「もちろん、そんな薄っぺらい側面だけのものではないけど…あなたたち、倫理学の古典を紐解いてごらんなさい?人類は、数千年にわたって、『どうすれば善く生きられるか』という問いを延々と繰り返している。そして、その度に、『いや、私は間違っていた』『この教えは破綻している』と、自らの過去の偉業や信念を否定し、批判し続けてきた」


 彼女は皮肉たっぷりに微笑んだ。

「つまり、人類の歴史とは、『我々は常に愚かであり、真の善には永遠に辿り着けない』ということを、延々と、学術的に証明し続ける行為よ。倫理学とは、『私たちはバカです』という告白の歴史、なわけね」


 その時、講堂の後方で、一人の男子学生がスマートフォンを構えているのが、豪姫の鋭い視界に入った。その学生は、豪姫の言葉と姿を一言一句逃すまいと、興奮した表情でカメラを向けていた。


 豪姫は、まるで獲物を定めたかのように、その学生にレーザーポインターの赤い光を向けた。

「…ほら、そこの気が(はや)っている男子。何をしているの?」


 男子学生は、全身を震わせ、スマホを慌ててポケットにねじ込もうとする。

「すみ、すみません…」


 「講義中は録音撮影禁止だからね。何度も言わせないで」


 豪姫は、容赦なく追撃した。

「貧弱な短期記憶ワーキングメモリ容量キャパだと、自室に帰るまでに、この私の至高の言葉も、()()()()も、ほとんど記憶から消えちゃうだろうからね。」


 学生たちの間で、微かな失笑が漏れた。教授の皮肉の鋭さが、あまりに的確で、残酷だったからだ。

「さあ、そんな無駄な行為をしている暇があるなら、いまのうちにトイレ休憩をあげるから、行ってらっしゃい。大事な『思い出の品』が入っているスマホも忘れずに持っていくのよ。私の講義は、水分も思考も、そしてあなたの甘い記憶も全てを搾り取るわ」


 その男子学生は、恥辱に顔を真っ赤にしながら、立ち上がって逃げるように講堂から出て行った。


 彼女は、その扉が閉まる音を聞いてから、再び学生たちに視線を戻した。

「いい?無駄な()()に時間を費やしている暇はないの。あなた方の貧弱なメモリに、私の言葉を叩き込むには、余計なノイズは不要よ。さあ、次は、あなた方が一番好きなテーマ、『幸福』について、この自虐学で解体してあげましょう」



第九回 閉ざされた引き出しの幸福

 豪姫は教壇の縁に腰かけ、その完璧な肢体を優雅に見せつけたまま、次のテーマを宣告した。

「さあ、次は、あなた方が一番好きなテーマ、『幸福』について、この自虐学で解体してあげましょう」


 彼女の瞳は、遠い過去か、あるいは人類の愚かさの根源を覗き込むように、冷たい光を帯びていた。

「幸福…この幻想につられて人間は走る、走る。まるで、永遠に手の届かない、蜃気楼のようなゴールを目指すマラソンランナーのようね」


 彼女は静かに語り続ける。その声は、講義室に漂う緊張感を、さらに深く、哲学的な沈黙へと変えていった。

「おそらく脳内のホルモンに、この名前がつくものがあるのでしょうけど。この『幸福』は、誰もが自分の内部に持っているはず、と信じている、閉ざされた引き出しのようなものよ」


 彼女は、手のひらを下向けにして、見えない鍵を探すような仕草をした。

「人間は、その鍵が見つけられない。だから、自分の引き出しにしまってあるものを見つけ出すために、必死に回りに聞いて回るの」


 豪姫は、まるで演劇のように、懇願するような声色で囁いた。

「『すみません、わたしの『幸福』はどこにあるのでしょうか?』ってね。友人、家族、恋人、金、名誉、そして私のような教授にまで、その鍵の在処を求めてへつらう」


 学生たちは、自分自身の行動を投影されたかのように、静かに息を飲んだ。


 「さんざん捜して、さんざん足掻(あが)いて、ついに『これだ』というものが、目の前に現れると…人間の内部では、閉ざされた引き出しの鍵が、カシャンと開く。そして、どっと、甘美な幸せホルモンが満ちあふれる。それが、あなた方が『幸福』と呼ぶ、一瞬の、生理的な酩酊(めいてい)よ」


 だが、彼女の詩情的な描写は、すぐに冷酷な現実へと引き戻される。

「そして、引き出しは音もなく閉じて、また鍵がかかる。幸福は、あなたの手の内から、ただの過去の記憶として、すぐに隔離される」


 豪姫(あき)教授は、教壇の上に両手を置き、その視線は、講堂の最前列の一組のカップルに向けられた。

「悪いけど、よくある状況のモデルになってね。―――目の前には、ついさっき『愛してます』『私も』と、永遠の幸福を語り合ったはずの異性がいる。互いの存在が、あなたの幸福の鍵だったはずなのに」


 彼女は、彼らの顔が困惑と疑問に曇るのを見て、満足したように微笑んだ。

「その引き出しは、再び閉じている。あなたが求める次の幸福の鍵は、もう目の前の異性ではない。だから、あなたは考えるのよ。『なんでこの人?なんで、この瞬間、私の鍵は再び失われたの?』と」


 彼女は首を振り、結論を下した。

「答えは返ってこないわ。なぜなら、『幸福』とは、人類を繁殖と労働に駆り立てるための、一瞬の報酬にすぎず、その本質は、論理的な関係性を持たない、極めて動物的な現象だからよ。あなた方が追い求めているのは、哲学ではなく、脳内の電気信号と化学反応よ」


 彼女は、学生たちの魂の奥深くに、この冷たい真実を植え付けた。

「倫理学とは、この『幸福』という一瞬の報酬が切れた瞬間に、あなたが『なぜ生きていなければならないのか』を問う、残酷な学問よ。さあ、あなたたちの愛と幸福が、いかに薄っぺらな化学反応であるか、次の話の中で、その『薄っぺらさ』を、私の論理によって徹底的に分解して見せてあげるわ。あなた達の思考が崩壊せずにいられるかしら?」



第十回 絶望の世界と開かない引き出しの鍵

 豪姫(あき)教授は、学生たちが幸福の定義に打ちのめされ、静まり返っているのを見渡した。彼女は、彼らの内面が動揺していることを感じ取り、さらに深部に切り込む。

「『幸福』が、脳内の化学反応であると理解すれば、次の結論は必然ね」

 

 彼女は、演台の上に置かれた水を一口含み、冷たい視線で学生たちを射抜いた。

「ご存知のように、幸福感を人工的に得られる『化学的な物質』はあります。」

その言葉は、まるで教室に氷塊を投げ入れたかのように、学生たちの間に緊張を走らせた。

 続けてチョークで黒板に、「違法薬物、ダメ。絶対。」という、警視庁広報でお馴染みのコピーをカツカツと書き上げ、その黒板を上にせり上げる。それから、講堂をぐるりと見回して、かわいらしい声を作り、次の言葉を発する。

「あなた達、これやったら人間どころか、生ゴミにも戻れないわよ?」


 笑顔で話す彼女は、まるで彼らの心の中の自制心を代弁するかのようであったが、すぐにその表情は冷徹な教授に戻った。


 「その『化学物質』のために、世界中で莫大なお金が動いています。違法薬物産業、精神安定剤、抗うつ剤…これらはすべて、人類の『幸福の引き出しの鍵を開ける』ための、巨大なビジネスよ。あなたたちの倫理観が許すか許さないかは、この際どうでもいい」


 彼女は、その現象の背後にある、論理的かつ絶望的な理由を突きつけた。

「だって、()()()()()()世界で、化学物質に頼らなければ、幸福の引き出しの鍵が開かないじゃない!」

豪姫は、両手を広げ、世界に対する痛烈な皮肉を込めて言った。

「人間は、努力、愛、成功…といった『正当な手段』では、もう自分の内部にあるはずの幸福にアクセスできない。世界はあまりに複雑で、理不尽で、愚かで、あなたの引き出しの鍵は、強固に閉ざされているのよ」


 彼女は、静かに結論を提示した。

「みんな、自分の中に持っているはずの『幸福』を取り出すためだけに、莫大なお金を払おうとしているのよ。それは、真面目に仕事をして、地位や名誉を得ようとすることと、本質的に何ら変わらない。ただ、手段が合法か、非合法か、という違いでしかない」


 豪姫(あき)教授は、まるで彼らが今すぐにも違法な手段に手を出すかのように、冷酷に問いかけた。

「さあ、あなたたちの『分別ゴミ』のような人生を、合法的な手段(努力、愛、労働)で彩ろうとするのか。それとも、効率的で確実な手段(違法な化学物質)で、一瞬の安息を得ようとするのか。この選択こそが、あなたたちの倫理観を試す、最もシンプルなトロッコ問題よ(これだけで講義90分できるので、倫理学の教授達が愛用しているテーマなの)」


 彼女は満足そうに微笑んだ。学生たちの心は、違法な快楽の誘惑と、社会的倫理の板挟みになり、深く揺さぶられていた。豪姫の講義は、彼らが安全だと思っていた「善悪の境界線」を、完全に破壊したのだった。



第十一回 生ゴミの誘惑

 豪姫(あき)教授は、幸福が脳内の化学反応であり、その確信的な鍵を"薬物"が握っているという絶望的な真実を突きつけ、学生たちの反応を待った。講義室は、薬物というタブーな言葉と、豪姫の冷酷な論理が作り出した異様な熱気に包まれていた。


 彼女は、口元に手を当て、楽しげに笑った。

「大丈夫?ついてきてる?」


 その問いかけは、気遣いではなく、精神的な優位性を確認する女王の台詞だった。

「私の講義はね、途中で離脱するのを許さないわよ。最後に、あなたたちの常識を完全に突き崩してあげるんだから、逃げ出すんじゃないわよ。」

豪姫は、彼らの目の奥に潜む抵抗の火種を見透かしたように、冷たく断言した。

「どうしたって、アンタたちは生ゴミなんだから。最後まで分解されて、私が望む論理の肥料になって頂戴」


 学生たちは、その容赦のない言葉に、背筋が凍る思いがした。

「生ゴミ」。それは、個性や才能、未来といった甘い幻想を完全に否定し、彼らの存在をただの廃棄物として定義する、究極の侮蔑の言葉だった。


 しかし、不思議なことに、誰も席を立たなかった。

恐怖は深いが、その深淵の底には、抗いがたい魅了が渦巻いていた。彼らは感じていた。この講義を最後まで聞いたら、自分がこれまで生きてきた「常識」や「倫理」という名の膜が破れ、元の人間に戻れないような気がした。


 それは、一種の宗教的な儀式にも似ていた。自らの愚かさを徹底的に暴かれ、断罪されることで、新しい自分に生まれ変われるのではないか、という歪んだ希望。あるいは、これほどの美しさと知性を兼ね備えた女王に「生ゴミ」と罵られることに、倒錯的な快感を覚えているのかもしれない。


 彼らは、この美しくも恐ろしい教授の講義に、すでにトリコとなっていた。


 豪姫(あき)教授は、彼らの服従の視線を確認すると、満足げに微笑んだ。

「素晴らしいわ。あなたたちは、私が仕掛けた『真実という名の毒』を、喜んで飲み干そうとしている。それが、あなたたちの『分別ゴミ』としての、唯一の存在意義よ」


 彼女は再び演台に寄りかかり、次の論理の刃を研ぎ澄ますように、静かに言葉を続けた。

「では、あなたがたが最も恐れるものに、メスを入れましょう。『愛』。あなたたちが、この絶望の世界で、唯一の救いだと信じている、あの滑稽な幻想についてよ」



第十二回 新たな獲物たち

 箱根大学大講義室。眞栄田(まえだ)豪姫(あき)教授が倫理学を駆使して「生ゴミ」を再定義して学生たちを戦慄と陶酔の渦に叩き込する中、三人の新入生が硬い椅子に座り、それぞれ異なる心情でその異様な空間に馴染もうとしていた。


 古葉 玲央(こば れお、18歳、日本語学科)は、最前列からやや離れた場所で、身を乗り出して豪姫(あき)を見つめていた。隣には、彼が誘った節津 京香(せっつ きょうか、19歳、英文科)がいる。


 「いやー、想像以上だな、豪姫(あき)教授」玲央(れお)京香(きょうか)に小声で囁いた。彼の瞳は、恐怖よりも好奇心で輝いている。名物教授の噂は聞いていたが、ここまでのサディズムと美貌の結合は、彼の感性を刺激した。


 京香(きょうか)は、ぴしっと背筋を伸ばし、耳を赤くしていた。彼女は大学に入ってから参加した落語研究会で、玲央(れお)と気が合い付き合い始めたが、まだ手も握らせていない、お堅い面を持っていた。

「…玲央(れお)くん、これ、一般教養だよね? なんか、宗教の儀式みたいだよ。あの『生ゴミ』って…」


 京香(きょうか)は、教授の美しさに目を奪われつつも、その言葉の毒性に怯えていた。そもそも、大学に入ったら彼氏くらい必要という、軽い動機で付き合い始めた彼女にとって、この授業はあまりに重すぎた。


 その前の席には、堂島 剛(どうじま たけし 19才、同じ落語研究会所属)が座っている。彼はガチの落語オタクで、落語を演じることはできないが、知識量で右に出る者はいないと自負している男だ。同じ落語研究会に属する地味な風貌の剛は、教科選択に悩んでおり、玲央(れお)は(いざというときの代返要員にしようと)誘いをかけた。

「倫理学とってみようかな、オマエもどう?」と言われて、特に考えもせず「面白そう」という理由で来ていた。


 「いやあ、実際面白えな。この教授の語り口、完全に『地獄の噺家』だ。マクラから引き込まれる。あの『Eトラック11トンの電池』のオチは秀逸だ」(たけし)は静かに興奮し、小さく頷いた。彼は、目の前の豪姫(あき)の言葉を、古典落語の解体術と同じ視点で分析していた。


 豪姫(あき)は、そんな三人の異なる視線を、一瞬で捉えた。彼女は、学生たちの内面を読み取ることに長けている。特に、玲央(れお)の好戦的な好奇心と、京香(きょうか)の純粋な恐れは、彼女にとって格好の獲物に見えた。

「では、あなたがたが最も恐れるものに、メスを入れましょう。『愛』。あなたたちが、この絶望の世界で、唯一の救いだと信じている、あの滑稽な幻想についてよ」


 豪姫(あき)は、愛というテーマを切り出し、再び演台に寄りかかった。

「愛?それは、閉ざされた幸福の引き出しの鍵を開けるのを、他人に押し付けようとする、社会的な契約に過ぎないわ」


 彼女の視線が、不意に玲央(れお)京香(きょうか)のカップルに向けられた。

「あなたたち、そこの男女。愛し合っているのかしら?それとも、ただの『大学生だもの、彼氏ぐらいいないとね』という、世間の規範に従った怠惰な契約かしら?」

京香は、顔を真っ赤にして(うつむ)いた。玲央は一瞬ひるんだが、すぐに教授を見返した。


 豪姫(あき)は、彼らの反応を楽しむかのように、さらに追撃する。

「その『愛』とやらが、本当に永遠の幸福をもたらすと信じて、この世界は『愛』という"一瞬の報酬"に頼る必要があるようね。でも一瞬の幻想が開かせたあなたたちの『愛』は、せいぜい、種を保存するための遺伝子の戦略、あるいは、経済的に弱い個体が共同生活をするための、合理的な協定でしかないわ」


 そして、豪姫(あき)は、まるで寄席の演者が観客に語りかけるかのように、堂島(どうじま)(たけし)の方を向いて言った。それは、彼が恋愛という「相互不利益な契約」を交わす相手がいない、孤独な論理構造を持っていることを、豪姫(あき)が看破したからだ。

「そこのキミ!あなたは私の講義で聞きかじった話を使って『愛の滑稽さ』を笑うことができるかもしれない。でも、あなた自身の『孤独な遺伝子』の悲鳴は、消せないわよ」


 (たけし)は、一瞬たじろいだが、すぐににやりと笑った。

(この教授、本質を突いてやがる)


 豪姫(あき)は、学生たちの内部の動揺を完璧に掌握し、次の「愛の公開処刑」へと舵を切ろうとしていた。



第十三回 佳境と「豪姫ちゃんねる」

 豪姫(あき)は、新入生である玲央(れお)京香(きょうか)の動揺、そして落語オタクの(たけし)の興奮をひとしきり楽しんだ後、「愛」という幻想をさらに論破しようとしていた。


 「…あなたたちの『愛』は、社会的な体裁と遺伝子の戦略でしかない」

彼女はそこで言葉を切り、ふと、何かを思い出したように表情を緩めた。その微笑みは、一瞬だけ、教壇上の女王ではなく、ごく普通の、しかし極めて魅力的な女性の顔を覗かせた。


 「さてと、今日の講義もそろそろ時間ね。あなたたちの固まった思考が、もう限界を超えそうだから、ちょっと休憩させてあげるわ」


 学生たちは、その「休憩」という言葉に安堵したが、その直後の豪姫(あき)の言葉に、再び意識を集中させた。

「後期一般教養の『倫理学』だけど・・・」豪姫(あき)は、まるでどうでもいいことのように手を振った。

「専門書とか、ウイキペディアとかでさーっと見といて。それで単位が取れるなら、好きにすればいい」


 彼女は、一般教養という建前と、自分の講義の本質的な隔たりを、あっさりと認めた。彼女の授業は、既存の学問とは別次元にあることを、学生たちに再認識させたのだ。

「まあいちおう、専門課程ではないから、あなた達が在学中に私のありがたい講義をうけることができるのはこのコマだけなのよ。ここを逃したら、二度と私に直接罵倒(ばとう)してもらう機会はないわ」


 その言葉には、学生たちへの「チャンスは二度とない」という、強烈な誘惑が込められていた。この一回きりの「生ゴミ」としての経験を、見逃すな、と。


 そして、彼女は教壇の中央、演台に手を突き、最高の笑顔で、しかし冷たいビジネスの目を光らせた。

「あとは、大学院に進んで、私のゼミの奴隷になるか、あるいは…」

彼女は、まるで人気アイドルがカメラに向かってウインクするように、茶目っ気たっぷりに続けた。

「私のYoutubeチャンネルだけね―――『豪姫(あき)ちゃんねる』。現在、登録者数3,012人。皆さん、ぜひ登録よろしく」


 講堂に、戸惑いと、わずかな笑いが起きた。あの冷酷無比な女王様が、まさか、こんな形で「営業」をかけてくるとは、誰も予想していなかったからだ。


「え、登録者数、思ったより少ないんだ」と、玲央(れお)が素直な感想を漏らした。


 (たけし)は即座に反応した。「豪姫(あき)教授がYouTuber…!タイトルはなんだ?『生ゴミ論理学』か?早速チャンネル登録しないと、これは落語の研究も捗る!」


 京香(きょうか)は、「教授…なのに…?」と、大学教授という職業のイメージが、目の前で崩れ去るのに呆然としていた。


 豪姫(あき)は、そんな学生たちの反応を一切気にせず、学生たちには持ち込み禁止にしたスマートフォンを自分は取り出して、優雅にフリックした。

「いい?そこでブツブツ言っている、おバカさんたち。私のチャンネルは、あなたの薄っぺらな『常識』という皮を剥ぎ取る、最高のツールよ。大学の講義より、よっぽど真実に溢れているわ」


 彼女は、美しく整った唇で、冷酷な講義の締めくくりを告げた。

「では、今日の課題はレポート『私はなぜ、分別ゴミではないのか』。忘れないように。そして…私の『愛』の論理的解体は、次回の講義で。その間に、あなたたちの『愛の引き出し』が、腐ってしまわないことを祈っているわ。では発言タイム。なにか聞きたいことはないかしら?」


 女王は、学生たちの混乱と興奮を置き去りにして、タイトスカートを翻し、教壇に講師の体で立ち、餌食となる学生が飛び出してこないかと待っている。残された学生たちの頭の中では、「生ゴミ」「愛」「倫理学」「豪姫ちゃんねる」という、無数のキーワードが錯綜していた。



第十四回 傲慢な採点基準:家畜と生ゴミ

 後方の席から質問の声が上がる。学生たちはざわめきながらも、重要なポイントであると感じ取り、一斉に耳を澄ませる。豪姫は再び冷徹な女王の顔に戻った。


 豪姫(あき)は演台の前に立ち、まず、この講義の最も重要な現実――成績評価――について、明確に、そして残酷に説明を始めた。


「さて、あなたたちの安っぽい動機付けについて、先にケリをつけておきましょう。この一般教養のコマで、あなた方が追い求めているもの。それは、最終的に私のサインが入った『単位』という紙切れね」


 彼女は、ボールペンをカチカチと鳴らしながら、その基準を淡々と読み上げる。

「成績は、最後に提出してもらうミニ論文で判断するわ。評価は、A(優)、B(良)、C(可)、D(不可)よ。ここまでは、どこの講義でも同じ」


 そして、彼女は顔を上げ、挑戦的に微笑んだ。ここからが、眞栄田(まえだ) 豪姫(あき)教授の「倫理学(の広場)」の真髄だった。

「D、つまり『不可』は、未提出の場合だけなのだけれど、意外と多いのよ。私という『絶世の美女』を見に来ただけで満足し、論文を書くという苦痛な作業から逃げる、卑しい学生もいるからね」


 玲央(れお)京香(きょうか)に顔を寄せた。「見に来ただけ、か。半分は俺たちのことか…」京香(きょうか)は顔を強張らせたまま、頷くことしかできない。


 「さて、そして肝心なのは、A、B、Cの定義よ」

豪姫は、その分類基準を、まるで生物の進化の段階を説明するかのように、冷酷に提示した。

「ハッキリ言って、A、Bは滅多にいないわ。なぜなら、半年の講義だけで、あなたたちの固まった思考が、そこまで進化することは不可能だからよ」


 彼女は、演台を指でトントンと叩き、それぞれの等級に、新たな、そして極めて侮辱的な名前を与えた。

「いい?この講義における、Aの定義は『動物』よ。思考を完全に捨て、ただ本能と反射だけで、私の提示する論理と真実を体現できた者。論理を超越した行動力と、愚者を搾取する本能を持った『捕食者』ね」


 学生たちに、かすかなざわめきが走った。最高の成績が「動物」という名の侮蔑だったからだ。

「そして、Bは『家畜』。私の言葉と論理を理解し、その支配を受け入れ、言われた通りの働きを遂行できる者。上質な資源を提供する、従順で優秀な『最高級の逸品』よ」


 その分類に、(たけし)は顎に手を当てて唸った。

「家畜が『B(良)』で、優秀な従属者が最高でも動物で『A(優)』であるという、この論理の倒錯…面白い」


 そして、豪姫は、最低評価である「C(可)」に、最も冷酷な定義を与えた。

「最後に、Cは『生ゴミ』。私の言葉を聞き、多少は知性的なフリをしてみたものの、結局は自分の愚かさ、安っぽい感情、そして社会的な幻想から逃れられなかった、最も救いようのない凡人よ」


 ほとんどの学生の希望を潰した後、続けた言葉は、

「半年の講義じゃなかなか成長できないわね。あなたたちは、Cという名の『生ゴミ』であることを、まず自覚しなさい。その上で、どうにかしてDにならないよう、ゴミ箱の(フタ)に引っかかっていなさい」


 豪姫(あき)は、まるで学生たちの存在そのものが迷惑であるかのように、大きなため息をついた。

「この採点基準が嫌なら、今すぐ席を立ちなさい。ただし、生ゴミは、分別しても最終的にはゴミよ。逃げたところで、あなたたちの本質は変わらない」


 彼女の傲慢な評価は、学生たちの闘争心と屈辱感を極限まで高めた。単位を取ることは、単なる学業の証明ではなく、この女王から「生ゴミ」以上の価値を勝ち取るための、個人的な闘いとなっていた。



第十五回 生ゴミ未満の退場と野獣宣言

 豪姫(あき)が傲慢な採点基準、すなわち「Aは動物、Bは家畜、Cは生ゴミ」という定義を突きつけた瞬間、大講義室の空気は一変した。数名の学生は怒りで顔を真っ赤にし、数名はプライドを粉々に砕かれたショックで青ざめた。


 そして、ついに堪忍袋の緒が切れた学生たちが、一斉に席を立ち始めた。

「あーばかばかしい、時間の無駄だ!」

「おれはついていけんわ。こんな講義、絶対単位いらん!」

「何様だ、この教授!」


 口々に捨て台詞を残し、ぞろぞろと出口へ向かう学生たちの姿は、まるで女王の城から逃げ出す敗残兵のようだった。彼らは、彼らは、自分の固まった思考に熱された鉄筆を入れられる前に、逃げ出すことを選択した『不可』の志願者たちだ。


 豪姫(あき)は、その混乱を前にしても、微動だにしなかった。彼女は、口元に手を当てて、けたけたと甲高い声で笑った。


「ひやかしは帰れ、帰れ!生ゴミ(C)にもなれない社会の汚染物質たちよ~」


 その笑い声は、講堂全体に響き渡り、去っていく者たちへの決定的な断罪となった。残った学生たちは、その光景に恐怖しつつも、自分たちが「選ばれた」という優越感に似た奇妙な陶酔を覚えていた。


 彼女は、出口が静まり返ったのを確認し、残った学生たちの方に向き直った。

「素晴らしいわ。あなたたちは、自分の『生ゴミ』としての本質を自覚し、それでも私の声を聞くことを選んだ」


 彼女の声には、冷たい承認が込められていた。

「残念ながら、君たちのほとんどは家畜(B)か生ゴミ(C、肥料)にしかならないのよ。社会という巨大な構造の中で、力を持つものに搾取されるだけの、従順な存在としてね」


 その時、最前列近くに座っていた古葉(こば) 玲央(れお)が、突然ガタンと大きな音を立てて立ち上がった。京香は慌てて彼の袖を掴むが、玲央(れお)は振り切った。

「眞栄田教授!」玲央の声は、緊張で上ずっていたが、その勢いはあった。


 彼は、隣にいる京香(きょうか)の前で、この美しく恐ろしい女王に臆さない威勢のいいところを見せたかっただけだ。勢いに任せた、まさに向こう見ずな男の行動だった。

「僕は野獣になりますよ!」


 「動物(A)」のさらに上、抑圧されない存在としての「野獣」という言葉は、豪姫の関心を強く引いた。

豪姫(あき)は、ゆっくりと玲央に視線を向け、その瞳の奥に潜む若者の見栄と焦りを見抜いた。

「あら、野獣。面白いわね。家畜にも生ゴミにも満足できない、新しい種類の被験体かしら?」


 彼女は、玲央(れお)を指差すと、教壇から恐ろしいほど甘い宣告を下した。

「いいね、君。今日から、君を私の講義におけるモルモットにして差し上げるわ」


 野獣を宣言した玲央(れお)に無慈悲な「実験動物」の裁定だ。

「今後の倫理学の講義は、君をモデルケースにして進めるから、毎回必ず出席するといいわよ。だって、そうしないと…君がいないとき、どんな言葉で罵倒され、どんな運命を断罪されているか、わからないわよ」

彼女の言葉は、出席を強制するものではなく、「出席しない恐怖」を植え付ける、極上の心理的調教だった。


 講堂で、押し殺したような笑いが漏れた。玲央は、自分の虚勢が、教授によって「モルモット」という屈辱的な役割に変換されてしまったことを悟った。

彼は、顔には出さず、両手を広げて肩をすくめる、という、精一杯の強がりを見せてから、重々しく席に着いた。彼の挑戦は、女王の掌の上で、完璧な喜劇として昇華されてしまったのだ。


 「では、モルモット君も着席したところで。次回のテーマは、モルモット君とその彼女さんの『愛』の解体から始めましょうか」豪姫は微笑んだ。



第十六回 愛の寓話とイメ貧のモルモット

 古葉(こば)玲央(れお)が「野獣になります!」と宣言した直後、「モルモット」として正式に任命され席に戻ったとき、隣の京香(きょうか)はすでに沸点に達していた。


 「わたしたち、付き合い始めたばかりで、愛とかそんなんじゃないから!」

京香(きょうか)は、玲央(れお)の耳元に、怒りと恥ずかしさが入り混じった熱い小声を吹きかけた。教授の視線が集中する中、公開の場で自分たちの関係を「愛」として解体されることに、耐えられなかったのだ。


 玲央(れお)は、その切羽詰まった声に動揺し、すぐに小声で返した。

「え、愛、無いのかよ?おい、ちょっと待て!俺は野獣になるって言ったのに、愛がないと話が進まないだろ!」


 憤懣やるかたない京香(きょうか)はぷいとそっぽを向いて、

「話のために愛を作るんじゃないわよ!玲央(れお)くん、デリカシーもへったくれもない!」


 二人が必死で取り込み中、豪姫(あき)は、そんな小さな修羅場など、眼中にないかのように、涼しい顔で演台に寄りかかっていた。

「はい、そこのモルモットとその付属品」


 彼女は、二人の小競り合いを遮るように、しかし、至って穏やかな口調で、冷徹な論理を続けた。

「あなたたちの『恋愛未満の騒音』は、いったん停止なさい。これは、あなたたちの個人的な情事の報告会ではないわ」


 豪姫(あき)は、京香(きょうか)の「愛とかそんなんじゃない」という言葉を、完璧に聞き取っていたはずだが、それを完全に無視した。

「これから話す寓話の、論理モデルの配役よ。いちいち『付き合ってない』『愛じゃない』と喚くイメ貧(想像力に乏しい)の君たちに、現実の複雑な感情を論理的に説明したって、理解できないでしょう?」


 そして、彼女は、まるで児童に絵本を読み聞かせるかのような、わざとらしい朗らかさで、講義を続行した。

「それでは、私はこれから、あなたたち二人を登場人物にした寓話で説明したほうがいいでしょ?―――えー、ここに、『将来、遺伝子を共有する可能性を持つ』という、極めて合理的な契約の入り口に立っている『付き合っている男女』がいます」


 「ちょっと待って!遺伝子って…」と玲央が思わず言いかけたが、豪姫(あき)はそれを手で制した。

「この二人、男性モルモットは、女性(付属品)に対し、『愛してる』と囁きます。これは、『私はあなたの遺伝子を我が物とし、あなたを守る義務を負う』という、労働集約型契約のサインだわ」


 京香(きょうか)は、あまりにも非浪漫的な「愛」の定義に、口をあんぐり開けてしまった。「労働集約型契約」などという言葉は、落語研究会で聞いたどんな滑稽なオチよりも、彼女の感性を破壊した。


 豪姫(あき)は、二人の反応を見ても、おかまいなしに話を続ける。

「一方、女性は『私もよ』と答える。これは、『あなたの資源と地位を、私の繁殖活動の成功のために利用する』という、資源配分型の承諾よ。シンプルで美しい搾取の構造ね」


 そして、豪姫(あき)は、落語オタクの(たけし)の方を一瞥した。

「そこの、見た目がどうも地味な男子クン、聞こえた?これが、あなたたちの愛の正体。人間の愛は、『資源と遺伝子をめぐる、互恵関係の契約』なのよ。最終回はいつも、『結局、誰も得をしない』という、絶望的なものだけれど」


 (たけし)は、持ち込んだノートに「資源配分型の承諾…」とメモを取りながら、小さく吹き出した。玲央(れお)は、京香(きょうか)に「な、なにか言えよ!」と目で訴えたが、京香(きょうか)はすでに顔が真っ赤になりすぎて、声も出ない状態だった。


 豪姫(あき)は、満面の笑みで、次の論理のナイフを研ぎ澄ませた。

「さあ、モルモット君。あなたの『愛してる』のコストを、具体的に計算してもらいましょうか。あなたの将来の年収と、彼女への貢ぎ物の市場価値、全てよ」



第十七回 相互不利益のロマンスと80億の愚行

 豪姫(あき)は、玲央(れお)京香(きょうか)のカップルをモデルにした「愛の寓話」を「労働集約型契約」と「資源配分型の承諾」として定義し、その二人の小さな修羅場を尻目に講義を進めていた。

「…資源配分型の承諾よ。シンプルで美しい搾取の構造ね」


 彼女は演台の隅に寄りかかり、遠い歴史を見つめるかのように視線を彷徨わせた。

「そして、太古より、これでとんでもない相互不利益・Lose-Lose・もしくはゼロサムな契約が結ばれてきたのよ。本来なら、個人にとって最適ではない、極めて不合理な選択を、人間は『愛』の名のもとに実行してきた」


 豪姫(あき)は、この不合理性こそが人類の歴史だと断言した。

「一方が資源を一方的に提供しすぎたり、互いの自由を束縛しすぎたり、あるいは、その契約の結果、社会的な地位を失ったり。論理的に考えれば、即座に破棄すべき不健全な契約ばかりよ。それがなければ人類80億にもならなかったのだけれどね」


 この一言が、講堂に重く響いた。「愛」という不合理な衝動こそが、人類という種の存続を可能にした、最大級の「愚行」であるという逆説。

豪姫(あき)は、歴史上の政略結婚のような合理的なケースを対比させ、現代の「純粋な愛」の空虚さを際立たせた。


 彼女は話を展開する。

「政略結婚とか、将来子供に面倒みてもらうためとか、別の利益目的があれば、まだいいのだけれどね。その目的がハッキリしていれば、それはビジネスとして評価できるわ。しかし、あなたたち愚か者が追求するのは、その合理的動機を欠いた、最も危険な契約よ」


 彼女は、玲央(れお)京香(きょうか)のカップルを再び指差した。

「あなたたちの愛には、なんの合理的根拠もない。同じサークルで気が合った?そんなものは、互いの退屈しのぎという、一瞬の暇潰しに対する合意でしかないわ。」


 豪姫(あき)は、教壇中央に立った。その視線は再び甘美な毒を帯びた。

「にもかかわらず、あなたたちは、その瞬間は『愛』なのよ。その体内で爆発する幸せホルモンの酩酊を、永遠に続く真実だと信じてしまう。そして、その不合理な衝動こそが、あなたたちを『生ゴミ』から『資源』へと転化させる、最も危険なエネルギー源となるの」


 「さあ、モルモット君」豪姫(あき)玲央(れお)を見た。

「君は、その相互不利益な契約を、このお嬢さんと結ぶことで、将来どれだけの損失を被るのか。そして、その損失に見合うだけの『愚かな幸福』を、どう定量化するのか。計算してみて。君の野獣としての最初の仕事よ」


 玲央(れお)は、京香(きょうか)の手前、意地でも教授に屈するわけにはいかなかったが、その計算の出発点すら見つけられず、脂汗をかいていた。京香(きょうか)は、自分の「愛」が、人類80億の歴史的な愚行の一例として扱われていることに、絶望的な気分になっていた。



第十八回 野獣の抱擁と倫理の沈黙

 豪姫(あき)が「愛」を相互不利益な契約と断じ、玲央(れお)にその金銭的損失を計算するよう迫った、その張り詰めた瞬間だった。


 後方から、勢い込んだ声が響いた。

堂島 剛は、片手でハンカチを握りしめ、まるで落語のクライマックスに突入したかのような尋常ではないパッションで、手を挙げていた。

「教授!」


 豪姫(あき)は、その勢いに目を細めた。


 「人間も動物も、"愛"は本能に書き込まれた行動ではないのでしょうか?―――理性で制御できるものではないです!」

(たけし)は、落語の知識だけでなく、哲学的な知識もそれなりに持っているオタク特有の熱量で、豪姫(あき)の論理の根幹に触れようとした。


 彼女は、玲央(れお)への詰問を中断し、(たけし)を正面から見据えた。彼女の顔に、久々に真剣な興味の色が浮かんだ。

「いいねえ、君は一番野獣に近い思考かも。本能のパドックから、ようやく抜け出したわね」


 彼女は演台を回り込み、ハイヒールを鳴らしながら、ゆっくりと(たけし)の元へ歩み寄った。(たけし)は前列の端に座っていたため、彼女はすぐにそこに到達した。

そして、次の瞬間、驚くべき行動に出た。


 豪姫(あき)は、堂島(どうじま)(たけし)を起立させ、発言の熱量を帯びた彼の体を、両腕で力強く引き寄せた。


 「はうっ!」


 剛は、突然のことで悲鳴のような声を上げ、直に教授の体温を感じることができる状態のまま、その頬は教授の頬に当てられ、堂島の脳内は人生初の感謝祭となった。彼女の香りがずかずかと鼻腔(びこう)に上がりこんでくる。そんな礼儀知らずの来客にも丁寧にお辞儀をして『ようこそボクへ・・・』とご挨拶する自分のイメージができた。


 講堂にどよめきが広がる。それは、驚き、羨望、そして何よりも、この倫理学の講義で起きている大胆不敵な光景に対する衝撃だった。


 豪姫(あき)は、(たけし)を抱きしめたまま、残りの学生たちを見渡した。彼女の顔には、挑戦的な笑みが浮かんでいる。

「倫理学でなんという破廉恥な行動だと思った諸君は、言葉にして説明してごらん?」


 彼女の瞳は、学生たちを一人ずつ射抜いた。

「ただし、女性差別や、薄っぺらな道徳の言葉は使わずにね。これは、単に私が、優れた論理と本能を評価し、感動したという事を、態度で示したにすぎないのだけれどね!」


学生たちは、誰も言葉を発することができなかった。「倫理的に不適切」という感情はあっても、それを「女性差別な言葉を使わずに」論理的に説明することは、彼らの生ゴミの思考には不可能だった。この大胆な行動は、倫理学の講義が、いかに感情的な制約と常識に縛られているかを証明する、究極の公開実験となった。


《古葉と節津の視点》


 その間、すっかりカヤの外に置かれた古葉 玲央(れお)と節津 京香(きょうか)は、呆然としていた。


 玲央は、自分が「野獣」になると宣言したにも関わらず、その最高の栄誉である「教授の抱擁」を、目の前にいた落語オタクに奪われたことに、激しい屈辱と羨望を感じていた。


 「俺が野獣だって言ったのに…!なんで(たけし)なんだよ…!」玲央(れお)は、悔しさで声を震わせた。


 京香は、顔を赤くしたり青くしたりしながら、目の前の光景を信じられないといった様子だった。彼女の中で、大学教授のイメージ、倫理学のイメージ、そして何よりも、「まだ手も握らせていない」彼氏よりも、落語オタクの(たけし)の方が教授に抱擁されるという現実が、彼女の知る世界の秩序を完全に崩壊させた。


 豪姫(あき)教授の抱擁は、堂島(どうじま)の論理を認めたと同時に、玲央(れお)の「野獣宣言」を完全に無価値化する、女王の最高の調教でもあった。



第十九回 本能のミッションとスポットライトの愛

 豪姫は、堂島(たけし)を抱擁し、講堂に倫理的な衝撃を与えた後、剛の頭を軽くポンと叩いた。その仕草には、教師というよりも、優秀なペットを褒める飼い主のような傲慢な優しさがあった。


 「やる気、出たでしょ!」と言い残して、彼女は悠然と教壇に戻った。


 (たけし)は、顔を真っ赤にしたまま、呆然としていた。彼の体はまだ、タイトスーツ越しの教授の体温の衝撃を覚えており、その幸福な屈辱感に、完全に思考が停止していた。


 豪姫(あき)は、再び教壇の前に立ち、学生たちの視線を集めた。彼らの目は、恐怖、羨望、そして論理的な説明を求める混乱に満ちていたが、誰も豪姫(あき)のハグを「破廉恥」だと論理的に断罪することはできなかった。


 「そうよ。あれが、あなた方の言う『倫理』よ。感情や常識で『不適切』だと騒ぐだけで、その行動の背景にある本能や論理を説明できない。あなたたちの倫理は、『感情の奴隷』でしかないわ」


 豪姫は、(たけし)の言葉を受け継ぎ、講義のテーマをさらに深めた。

「本能に書き込まれたミッション、それは種の保存と繁栄のための行動のひとつ。そして、その最も強力な行動原理こそが、『つがい』となる事よ」


 彼女の言葉は、まるで厳格な自然科学の講義のようだった。

「いや、このテーマは普遍的すぎて、文学部に席を置くあなた達は、詩篇であれ小説であれ、これからどれほど読んでいくのかわからない題材よね。あなたたちが文学を学ぶ理由は、突き詰めれば、この『つがい』が起こす、非合理で美しいドラマを追体験していくことなのよ」


 彼女は、文学部の学生たちの夢と現実を、一瞬で接続し、そして嘲笑した。

「戦争小説や、歴史小説でも、男女の愛に関するエピソードが少しでも入っていると、ほっこりするわねえ。あなたたち、他人の不幸な歴史を読むのも好きなくせに、愛の場面になると、途端に『純粋な希望』を見出そうとする。醜悪な偽善だわ」


 彼女は、手のひらを広げ、その普遍性を強調した。

「他人事であっても、"愛"がからめばいきなりスポットライトがあてられる。なぜなら、それが人類80億を突き動かす、最も強力な『錯覚』だからよ。この錯覚がなければ、誰も兵士にならず、誰も家を建てず、誰も子供を産まず、人類はとっくに滅びていた」


 豪姫(あき)は、玲央(れお)京香(きょうか)のカップルを指し示し、彼らの「愛」が、この巨大な普遍性の枠組みの中で、いかにちっぽけで、しかし必須の部品であるかを宣告した。


 「さあ、モルモット君とその付属品。あなたたちの『愛』という名のちっぽけな錯覚が、いかにしてこの『種の保存』という巨大な機械の歯車となるのか。次回、その機能と限界を、私が徹底的に分解してあげましょう」



第二十回 実践学としての倫理と生ゴミの運命

 豪姫(あき)は、愛が人類を突き動かす「錯覚」であり、その不合理性こそが種の繁栄につながったと論じた後、講義の核心へと学生たちを導いた。

「いい?あなたたちが熱狂する『愛』。それは、お互いが莫大な損失を出す非合理な結びつきよ」


 彼女は、静かに、しかし有無を言わせぬ断定的な口調で語る。

「家を買い、子供を育て、キャリアを犠牲にし、自由を束縛し合う。全ては論理的に考えれば、個人にとってマイナスでしかない。もしかしたら、その衝動は、幸せホルモンや、本能行動に触発されたものかもしれない。実際、先ほどモルモット君の友人にハグをした時も、彼の中にホルモンの洪水が起きたでしょう」


 豪姫(あき)は、(たけし)の方を一瞥したが、彼はまだその幸福な衝撃から完全に立ち直れていない様子だった。

「だけど、その解明は生物学、生理学の話。私の領域ではない」


 彼女は、自身の専門分野を、既存の学問から峻別し、その実用性を強調した。

「私があなたたちに叩き込んでいるのは、倫理学よ。倫理学は、哲学の空論ではない。これは実践学なの」


 彼女は、演台の上に置いてあった、分厚い講義資料の束を叩いた。

「生物学が『愛はホルモンである』と証明したとして、あなたたちの明日が変わるかしら?変わらないわ。なぜなら、明日もあなたたちは、その『ホルモン』に突き動かされ、非合理な契約を結ぼうとするからよ」


 彼女の瞳に、鋭い光が宿った。

「倫理学は、その不合理な衝動を、いかに自分にとって、そして自分と同じ『動物(A)』や『家畜(B)』にとって、最も有利な形で利用するかを学ぶための、戦略よ。愛の衝動から逃れられないなら、せめて、その損失を最小限にし、最大の利益を勝ち取ること」


 そして、豪姫(あき)は、容赦ない最終警告を学生たちに突きつけた。

「いい?倫理学を知らずに明日から生きるということは、あなたたちが、その衝動によって誰かに搾取され、無駄に消費されることを意味するわ。あなたたちが、この社会の資源配分ゲームのルールを知らないということなのよ」


 彼女は、最後の言葉を、ゆっくりと、しかし最も重い形で吐き出した。

「つまり、倫理学を知らずに明日から生きるということは、人間に生まれて生ゴミ(C)以上にはなれないということなのよ」


 講義室の学生たちは、皆、背筋を伸ばし、この美しくも恐ろしい女王の言葉を、自分の人生の真実として受け止めた。彼らは、明日から「生ゴミ」として生きるのか、それとも「倫理」という名の武器を手に取るのか、選択を迫られていた。


 「では、次回の講義までに、モルモット君とその付属品は、愛の契約による相互不利益のリストを作成しなさい。単位が欲しいなら、ね」

豪姫(あき)は、そう言い残し、教壇を後にした。残されたのは、倫理学という名の、人生の契約書を突きつけられた学生たちだけだった。



第二十一回 モルモットの契約と生ゴミの傷跡

 眞栄田豪姫教授の「倫理学」特別講義が終わり、学生たちが重い足取りで講堂から出ていく中、古葉玲央、節津京香、そして堂島剛の三人は、講堂を出て隅で立ち尽くしていた。彼らの間に流れる空気は、もはや恋人同士の甘いものでも、友人同士の気楽なものでもなかった。


 玲央は、顔を引きつらせながら、諦めと義務感がない混ぜになった表情で言った。

「ああ、もうこれは出るしかないな…」


 彼の中で、教授の言葉以上に恐ろしいのは、大学内での「体裁」だった。

「『古葉と節津のネタで講義盛り上がっていたぜ』って、人から聞くのいやだもんな。俺はモルモットになったんだ。最後まで逃げ出すわけにはいかない」


 しかし、隣の京香は、顔を真っ青にして強く拒絶した。彼女にとって、あの講義は公開の場で心を剥ぎ取られた、決定的なトラウマとなっていた。

「古葉くんだけ受けなさいよ。わたしは出ない、ていうか、私たち別れましょ?」


 玲央は、予想外の別れ話に、愕然としてうろたえた。

「ちょ、ちょっと待て!まだ付き合い始めたばかりじゃないか?これから楽しい学生時代の思い出を二人で作っていこうよ!」


 京香は首を激しく横に振った。その瞳には、すでに涙が滲んでいる。

「まだ傷が浅いうちに別れるの!思い出より、トラウマができたわ!このトラウマのせいで、もう落語研究会にも行けないかもしれないのに…」


 彼女にとって「愛」が「資源配分」や「損失」として論破されたことは、耐え難い屈辱だった。


 その喧騒を、堂島 剛は静かに聞いていた。教授の抱擁という「野獣の洗礼」を受けた彼は、完全に賢者モードに突入していた。ハンカチを握りしめたまま、キリッとした表情で、剛は二人の関係に論理的な助言を与えた。

「待ってください、節津さん。別れたところで、節津さんの傷は消えない。むしろ、その『愛の契約』が破綻したという事実は、教授の論理の正しさの証明として、さらに大きな傷となる」


 剛は、豪姫教授の思考回路を完全にトレースしていた。

「むしろ、ここは戦術を切り替えるべきだ。堂々と講義に出て、教授の講義の題材となった方が得策というものだ!」


 玲央と京香は、剛の冷静な論理に唖然とした。

「協力すれば、教授が私たち二人の関係を論理的に解体する過程を、間近で観察できる。つまり、講義の理解も深まり、教授からも好印象を得て、ミニ論文もB以上を狙えるかもしれないよ」


 剛にとって、豪姫教授の論理を最前線で学ぶことは、最高の学問的機会であり、そのための「教材費」として、玲央と京香の恋愛が使われるのは、極めて合理的な判断だった。


 玲央は、剛の提案に目を見開いた。

「…モルモットとしての俺と、教材としての京香が、単位という『利益』を勝ち取るための『共同戦線』ってことか?」


 京香は、まだ納得できない様子で、訴えた。

「でも、先生に私たちのこと、好き放題言われるんだよ!?家畜になるってこと!?」


 剛は自信に満ちた表情で言った。

「家畜(B)は『優秀な従属者』だ。生ゴミ(C)になるより、遥かにいい。それに、教授の講義の題材に選ばれるなんて、光栄なことだと思わなきゃ。これは、君たちの存在価値を、教授に認めさせる絶好のチャンスなんだ!」


 豪姫教授の講義は、こうして、玲央の意地、京香のトラウマからの逃避、そして剛の功利的な賢者思考が絡み合った、極めて不健全な継続契約へと導かれたのだった。

ーー終わりーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ