あとがき
この作品は「30分読破シリーズ」の本編を呼んでくださった方への感謝の気持ちとして執筆したものです。
物語の性質上、この『あとがき』にて作品内の裏話やネタバレを含んだテーマの核心に触れるため、本編の最終話までが未読の方は先に小説本編をお読みいただくことをおすすめします。
ネタバレを含む解説や僕自身の考察は、本文読了後にじっくり味わってもらえたら嬉しいです。
この物語は、大学生の主人公・海斗が「友人の代打」として参加したマッチングアプリのデートから始まります。
本来ならただの穴埋めで終わるはずが、ちょっとしたすれ違いから超有名アイドルであり財閥令嬢――という、現実にはありえないような展開で、一日限りのデートを共にすることになるのです。
現実でもマッチングアプリの浸透ぶりはすさまじく、デートをするかどうかは別として、一度はダウンロードした経験のある方も多いのではないでしょうか。僕が学生だったころは「インターネットで異性と出会う」という行為自体がまだまだ少数派で、むしろ隠している人が多かった時代でした。それが今では当たり前になり、ほんの十数年で時代は大きく変わったのだなと感じます。
さて、今回描きたかったテーマは「自分で選ぶ」ことです。
ヒロインの詩織こと如月レナには、親が決めた許嫁、常に背後に控える黒服の護衛、芸能事務所のスケジュール、そしてアイドルとしての世間からの評価……普通の人の何倍もの縛りがありました。そんな彼女が「逃げる」のか、「戦う」のか、あるいは「捨てる」のか、「選ぶ」のか――最終的に決めるのは彼女自身。観覧車の上でレナが選んだのは、“如月レナ”として生きるという道でした。
一方で主人公の海斗は、“巻き込まれ系主人公”として代打を務めながらも、最後までブレることなく、迷う彼女を支える役割を果たしました。結果的に彼はレナにとって「代打彼氏」以上の存在にはならなかったし、短い一日だけの物語では二人の関係が恋愛に発展することもありませんでした。それでも、ラストでレナから贈られた「最高の代打彼氏!」という五つ星の評価は、きっと海斗が思っている以上に大きな意味を持っていたのだと思います。
「30分読破シリーズ」は、30分ほどで流し読みできる分量、そして3話完結という枠の中で物語を完結させるルールを課しています。今回はその制約の中で、海斗が提示した“三つの選択肢”からレナが自らの進む道を選び、強く歩き出すまでを描いた――レナのための物語でした。いつか機会があれば、海斗自身の物語や、二人の“次のマッチング”を書いてみるのも面白いかもしれません。
もちろん本作はあくまでフィクションです。ほとんどの人はレナのように極端な選択肢を持ってはいないかもしれません。それでも、僕たちの日々もまた「小さな選択」の積み重ねの上にあります。振り返れば、選んできた無数の道が今の自分を形作っているはずです。
この作品を読み終えた皆さんが、次に自分の道をどう選び取るか。そのヒントや後押しの一部に、この物語がなれたら嬉しく思います。
他にもさまざまなテーマで30分読破シリーズを更新していますので、ぜひ、あわせて読んでみてください。きっとまた別の選択に出会えるはずです。