グラバッド家の秘密
グラバッド子爵家の成り立ちには、秘密があった。
ローズナの先祖であるエドハルトはその当時、騎士爵を持つ平民あがりと呼ばれている立場だった。
本当は男爵家の嫡男だったが、誰もそれを知ることはなかったから。
それでも彼は、戦での功績で得た爵位を大切に思っていた。
◇◇◇
実母が幼い時に亡くなり、再婚した男爵とその後妻の生んだ子との生活は、エドハルトからたくさんの物を奪い続けた。
彼は男爵家の嫡男だったのに。
再婚前に彼が嫡男として受けてきた教育、実母亡き後支えてくれた乳母、使用人達からの奉仕等などが、彼の元から切り離された。
食事ですら、一人で部屋食べるように言われていた。
政略結婚で生まれたエドハルトより、美しくて従順な後妻達の方を男爵は大切にしたのだ。
後妻は平民だったが大きな商家の娘で、男爵家は資金援助で潤い、商家は貴族との繋がりで販路を拡大することが出来た。
エドハルトが蔑ろにされる理由は、十分に揃っていたのだ。
乳母はエドハルトが不憫で、いつも気にかけて優しくしていた。なかなか関われなくなって寂しかった最中、その愛情は一縷の希望だった。
けれど彼の義弟であるラウドは、それすらも許さなかった。幼いこともあっただろうが、ちやほやされて育てられた彼は乳母を奪われたように感じたのだ。
「兄上と仲良くするな。クビにするぞ!」
『クビにする』と言うのは、男爵の口癖だった。
傍にいるラウドも、それを覚えていたのだろう。
エドハルトは当時6歳であり、その言葉の意味が分かっていたので、自ら乳母と距離を取った。
まだ3歳で道理も分からない義弟の言葉でも、父がそれを聞けば現実になるから。
「坊ちゃま、すみません。本当に申し訳ありません。うっ、うっ」
「良いんだ、マーサ。貴女がこの邸にいるだけで、心強いのだから。気にしないで」
「お痛わしい。奥様が生きていれば……あぁ」
「っ………………」
男爵と後妻、義弟が仲良く出かけた後だけが、乳母や使用人達と話す機会を持てたエドハルト。
長く男爵家に仕える使用人達も、ずっと理不尽だと思っていたが、男爵には逆らえない。
農地は多い場所だが、農業の他に働き口は少ない領地。
男爵家の使用人は給金も良く、不作時にも生活に影響がない数少ない場所だ。
だが逆らえばこの地では生きられず、家族と共に移住を余儀なくされるだろう。
そのせいで表立って抗議することが出来ないことを、彼は知っていたのだ。
けれど彼は、自分と亡き母のことを大事にしてくれた記憶を忘れることはない。
男爵が不在になれば彼らは、自分の為に動き話もしてくれるのだから。
(何故父は自分を見てくれないのだろう、何故義母と義弟は仲良くしてくれないのだろう)と、涙で枕を濡らすことを何年も続けた。
変わらない日常に絶望することを諦めた時、少しずつ彼は強くなれたのだ。
彼付きの家庭教師は義弟を教えていたが、授業の進みは遅いようだ。
飽きたと言って中断することが、頻繁に見られたから。
その一方で家庭教師は、男爵には内緒でエドハルトにも同じ資料を渡し自己学習を促した。
「直接お教え出来ず残念で御座います。採点の方は執事のエッジに頼んでありますから」
「ありがとう。2人分のテキスト作りは大変だっただろう? 俺の分の給金は払われていないのに」
「いいえ、エドハルト様。これは正当なものです。
私の技術ではラウド様に何も教授できていないのです。
代わりの分の仕事ですから、お気になさらず」
「……たとえそうだとしても、感謝するよ。ありがとう」
奪われ続けた彼にも、協力者が複数存在していた。
表向きは孤独に見えていた彼は、謙虚でありながらも貪欲に学問を修得していく。
執事のエッジは、伯爵家の五男であるが優秀だった為、厚待遇で引き抜かれ男爵家の執事として勤めていた。
王宮文官の人間関係よりも楽かと思い、田舎の男爵家を仕事場に移したのだ。
エドハルトにはいつの日かその身分にあった働きが出来るようにと願い、貴族の礼儀作法を教えたエッジは彼を孫のように思っていた。
誰から見ても今のままなら、何れ彼は家を出されるだろう。
実母の生家である男爵家も代が代わり、エドハルトの父男爵と揉めることを嫌っていた。
資金力を付けた父男爵の方が、立場的に優位だから。
幼い時から彼は、「自分を守れるのは、自分だけだ」と甘えを捨てた。
それは周囲の優しい人達に、迷惑をかけない為でもあった。
◇◇◇
貴族家の嫡男であるのに、国の挙兵時に出兵を依頼されれば、エドハルトが真っ先に参加させられた。
男爵はエドハルトが自ら志願したと言うも、それが真実ではないことは一目瞭然だった。
男爵の愛する次男の代わりに、嫡男の彼が命の危険に晒されて、戦に追従するのだ。
エドハルトが亡くなれば、男爵家は息子が一人になる為、代理出兵が可能となる。
男爵達にしてみれば、エドハルトが行けば代理の兵に資金を割く必要もなく、もし亡くなってもラウドの爵位継承を脅かす者がいなくなる。
どちらに転んでも良いと思われたのだ。
◇◇◇
何年も従軍が続き、エドハルトは戦い続けた。
戦いの中で幾人かの戦友も出来た。
その中には、第四王子となるライルストンがいた。
彼の境遇も複雑であった。
側妃である実母アザレアの生家が、ほぼ没落していた伯爵家だったから、後ろ盾がないに等しい。
そもそも王妃の侍女として仕えていた彼女が、国王に目を付けられてなった側妃。
アザレアとて望んでいなかった。
持参金もなく結婚を諦め、仕事で生きていくつもりだったのだ。
それを知っている王妃は、家の力のない彼女が厳しい目に晒されることを恐れ反対した。
既に手籠めにされた後だが、側妃になるよりはマシであると思いアザレアも固辞したかった。
純潔を散らされたとしても嫁ぐ気のない彼女は、辛いけれど乗り越える気持ちでいたのだ。
だが国王は他にも2人の側妃がいるのに、アザレアを諦めなかった。
他の側妃達よりも10歳くらい若く、王宮の侍女として優秀で美しい顔を持つ、奥ゆかしい女性。
自国の裕福な侯爵令嬢と隣国の王女である側妃達は、政略で迎えたのに気の強い女傑だった。王妃とは戦友的な結び付きで国を支えて来たが、残念なことにアザレアが国王の初恋だったのだ。
結局国王は王妃の止めるのを聞かず、アザレアを側妃として入宮させ、他の側妃の嫉妬や憎悪を呼び起こした。
そして生まれたライルストンは、アザレアと共に側妃達の標的になった。
取り巻き達に暴言を言わせることから始まり、王子に暴力を振るう等、側妃達公認のそれはエスカレートし、常に怪我をしていたライルストン。
側妃達は生家の権力により国王に圧力をかけ、ライルストンを戦場や災害の救助、領地の開拓などに派遣させた。
当然国王は何度も止めて欲しいと懇願したが、側妃達はますます嫉妬を入れ雑ぜ、聞き入れることはなかった。
それどころか美しいアザレアに似たライルストンは、更なる嫉妬を向けられる始末だ。
そんな環境のライルストンはエドハルトと戦場で出会い、平民の兵士が多い中で同じように不遇で辛い立場を知り、貴族の振る舞いを知る彼に心を許していた。
多くの戦いでライルストンの功績を知る民は、ライルストンを英雄視していた。昔に占拠された領土を取り戻した彼は勲章を与えられ、右腕であるエドハルトも騎士爵を与えられた。
彼の死を願っていた側妃の狙いは逸れ、無視できないほど力を付けたことで、ライルストンはさらに敵視されていく。
「妖精の地ですか? それは禁忌な場所では?」
「あらっ、逃げるのかしら? 私直々の願いだと言うのに」
「そ、それは……でも…………」
「だって私、隣の国の出身ですが、そんな言い伝え聞いたこともないですし、きっと大丈夫ですわ。
もし戦ったとしても、英雄殿なら負けるはずがないもの」
国王と王妃が外遊中、隣国出身の第一側妃が陛下の命令だと言ってライルストンに書状を見せた。
それは妖精の住むと言われる大森林を、我が国の領土にするよう進軍書だった。
国王夫妻が不在中は、第一側妃が国王の代理となる。
実母アザレアを人質にされ、拒否権のないライルストンは、エドハルト達と兵士達を連れて大森林に足を踏み入れ、方向感覚を狂わされて森をさ迷った。
「あぁ、すまない。みんないるかい?」
「揃っております、ライルストン様。これは王命であり、貴方が謝罪する必要はございません」
「……それでもだ。みんなはいつも、激戦区ばかり担当させられているのに。
自国に戻ってもこの状態だなんて」
「それを王子が言うのですか? 貴方こそ、酷い扱いじゃないですか」
「そうですよ。それに森は食料の動物も豊富だし、まだ何も起きていない。
戦地よりマシですよ」
「だが……いつ危険が襲うか分からないんだぞ」
「それは分かってますよ。覚悟してここにいますから」
「ありがとう、みんな。僕は人に恵まれたな。
そうじゃなければ、とうに生き残っていないだろう」
「生き抜きましょう、ライルストン様。
今回は偵察と言うことで戻り、そろそろ戻って来られる国王夫妻に報告致しましょう。
彼の方ならこの地の重要性を認め、進軍を止めて下さるでしょう」
「そうだな。まずはこの状況を打破しよう!」
「「「「はい、ライルストン様!!!」」」」
この地に迷い、朝と夜を一月ほど過ごしている。
周囲に道はなく、全方向を森の草木で覆われ、方向感覚も機能していない。
月を目安に動いても変化のない状況は、神秘の力の関与を疑うしかない。
いつまで経っても変化のない日々が続き、少しずつ心が消耗していく兵士達に、ライルストンは焦りを見せた。
たとえ食事は出来ても果てのない徘徊は、生気を奪うだろう。
(このままでは体より気持ちで殺られる。
ここは取り引きを持ちかけるしかないだろう。
未知の妖精相手なら、どんな無理を強いられるか?
それでも…………。
みんなには生きていて欲しいんだ。
僕のせいで、巻き込まれたようなものだから)
覚悟を決めたライルストンは妖精を呼んだ。
「お願いだ、妖精殿。この地に入り込んだ償いはするので、森から出して欲しい。
お願いだ、頼む!!!」
何度か叫んだ後、彼らを迷宮に誘い込んだ門番役の妖精が姿を現した。
「フシシッ、助ける? 馬鹿なんじゃないの。
この地のことを知って踏み込んだなら、自業自得さ。
でもそうだね。
一人代表で悪い祝福を受ける覚悟があるなら、話くらいは聞いてあげようかな?
どうする?」
妖精の言葉に、ライルストンは即座に答えた。
土下座して頭を深く下げて。
「私の命で賄えるなら、是非に頼みたい。お願いします」
「へえ、内容を聞かなくて良いの? それともわたしを嘗めてるの?」
睥睨した空に浮かぶ妖精は、幼い子供のような姿に緑の羽が這えた愛らしい姿だった。
「僕は本気です。どうか、助けて下さい」
「キャハハ。偉そうな格好をして命乞い、ブザマね。
良いわ、じゃあ祝福をあげる。エイッ!」
「どいて下さい、ライルストン様!」
妖精が指を振り抜いた瞬間、その場のライルストンを突き飛ばしてエドハルトが祝福を受けた。
どんな内容かも知らないのに、主をただ守る為に。
「あぁ、そんな。エドハルト。死の祝福かもしれないのに、何でこんなこと。お前は馬鹿だぁ……あぁ、うっく」
「馬鹿は貴方だ。大将は生きて兵を家に送って下さいよ」
そんな2人に駆け寄り、嘆き悲しむ兵士達。
妖精の苛烈な制裁は、過去から物語として多く語られているからだ。
本来使い捨てにされるような、低い地位の兵士達だが、全員の命を大事にするライルストンは、いつも先陣を切り相手に挑んできた。
長い戦いの中で、彼は力も度胸も身に付けていたから。
そんな彼も、未熟な時は多くの人に守られて来た。
彼を庇って亡くなる者も、勿論多く存在していた。
だからこそ彼は努力を重ねて強くなり、たくさんの者の支持を受けていたのだ。
そんなやり取りがあった後、騒ぎを聞き付けた妖精王が現れたのだ。
発光した大きな人形は、小さな妖精に語りかけた。
「ポニーや。お前、何かやったでしょ?」
「わたしは森を守っただけよ。ちょっと祝福したけどさ」
「酷いでしょ、さすがに。私も黙ってられないな」
怒られる気配を感じ妖精は言い訳をした。
けれど妖精と人間達の思考を読んだ妖精王は、彼らの生きざまを見たことで泣いていた。
「か、可哀想に。どうせここに入ったって、何も出来ないのに。
邪悪な側妃に脅されたのか?
でもどうしよう。
妖精の祝福はかけた者にしか解けないし、これはかけた者も解けない系の酷い祝福だ。
妖精が死ねば解けるけど、私はポニーにそれを出来ないし。
君達はここから出すから、祝福のことは諦めて。
せめてものアフターフォローはするから」
妖精王と呼ばれる大きな妖精は、あっさりと彼らを妖精の地から弾き出した。
「あ、戻った。出られたんだ、良かった」
「あぁ、良かった。けれど、エドハルトは……」
「俺なら良いんだ。みんなが生きて帰れた。
それが嬉しいんだ」
「ああ、そうだな。まずは生還を祝おう!」
「国王に報告したら、僕の奢りで飲もう!」
「「「賛成です! 待ってます!!!」」」
不安な気持ちを振り払い、言いたいことも飲み込んで兵士達は帰路に就く。
ライルストンとエドハルトだけが、着替えをした後城に赴いた。
「国王はお戻りだ。すまないが共に報告に向かおう。
国の魔導師に、出来ることがあれば良いんだが……」
ライルストンは、悲し気な顔でエドハルトに頭を下げたが、エドハルトはそれを止めた。
「ライルストン様をお守り出来たのは、俺の誉れになります。
だから謝るより、誉めて下さい」
「……ありがとう、エドハルト。君が友で良かった、っ、うっ」
2人の友情はさらに強まり、そして近い別れに目頭が熱くなる。
妖精の悪い祝福は2人にだけ、脳内に詳細が伝わった。
エドハルトは20歳で死亡する。
その(直系でなくても)子孫で魔力が一番大きい者は、16歳で対象者と自覚し、20歳で命を落とす。
◇◇◇
2人は城にあがり、謁見の間で国王夫妻に詳細を伝えた。
妖精の地は人間に敵う術がなく、進攻は無理であり、エドハルトがライルストンを庇い悪い祝福を受けたこと。
精霊王は、解けない祝福だと言ったこと等を。
国王は無駄な犠牲を出した、隣国出身の側妃を呼び出し糾弾した。
「酷いですわ、国王。私は領土を広げる方が良いと思って、英雄を送り出したのに」
国王にすら謝罪しない側妃の前に、精霊王が現れた。
「ほう。お前が国王にも言わずに、我が領地を奪おうと命令したのか?
じゃあ、偉いお前にも妖精の祝福を与えねばな。
お前の国は妖精のことを、知らないと言ったそうだね。
じゃあ忘れないように、隣国の王の血を引く男児全ての命を奪おう。今すぐに。
これで絶対に忘れないでしょ。
じゃあね」
それだけを告げ、忽然と姿を消した精霊王。
その直後、侍女が謁見の間に現れ、国王夫妻に何かを告げた。
夫妻は顔を青くして、糾弾された側妃に伝えた。
「側妃の息子、ルーベンスが息を引き取った。
すぐに会いに行くとしよう」
「ま、まさか……そんな、嘘よ!」
周囲を気にせず走り出す側妃を追う為、謁見は一先ず中止となった。
城内ではその死に毒殺も疑われ、騒然となる日が続いたのだ。
側妃は自らの発言で、愛する息子を亡くした。
王妃の息子を追い落とし、愛息を王位に就けようという野心も潰えた。
「わ、私のせいで、ルーベンスが死んだの、嘘、嫌、イヤよ………………。
なんでこの子が、関係ないじゃない、私が罰を受けるべきなのに……ああぁ、こんなのウソよぉおおおお!!!」
彼女の罪はこれだけでは済まない。
生国の国王の血を引く男児も、全滅したのだから。
この恐ろしい事実は到底彼の国に伝えられず、側妃は泣き喚いて衰弱し、寝たきりとなる。
生家が侯爵家の側妃にもそれは伝えられ、数々の祝福の話を恐れ、静かに過ごすようになった。
王妃の生んだ王子が王太子となり、ライルストンは側近として力を尽くした。
元侯爵令嬢の側妃の王子は、他国に婿入りして両国の親善を繋いだ。
◇◇◇
その後。
悪い祝福からライルストンを庇ったことで、エドハルトは国王より子爵位を賜り、手厚い扱いを受けて20歳を迎えた。
いつも戦場で死ぬことを覚悟した彼だったが、その後に戦争はなく(国王が戦争を回避し)、ライルストンや戦友達と最期まで仲良く過ごし、幸せだと言って。
「私の人生で、一番穏やかな時間、でした。みんな、ありがとう、な」
「なんで……お前が死ななきゃならないんだよ、うっ、くそっ、くそっ!」
「泣かないで、笑って送ってよ。楽し、かった、な………………」
彼はみんなに見守られながら、瞳を閉じた。
短い人生に幕を降ろしたのだ。
「あぁ、エドハルト。ぼ、僕の親友、もっと、生きてて欲しかったよ。うわあぁ、やだよぉ、死ぬなあぁ、あぁ、うっ、うっ」
「クズッ、良い顔してる」
「ああ、笑ってるな」
「酒でも呑みながら、笑って送ってやりましょう。その方がきっと、うっ、ぐずっずっ、喜びますよ、ライルストン様ぁ」
「そ、うだね。賑やかな方が、喜ぶだろう。献杯もたくさん用意しよう!」
「「「「はい! 酒の準備は俺達にお任せ下さい!!!」」」」
「ぐずっ、頼むよみんな。…………ありがとうな」
大切な友を失った彼らは、悲しみを抱えながらエドハルトを見送ったのだ。
エドハルトを蔑ろにしてきた父男爵は、国王から悪い祝福のことを聞いても、碌にエドハルトを見舞うこともなく子爵位だけを後妻の息子の子供に継がせた。
エドハルトは強度の防御魔法を保有しており、その生命力を得た妖精は、
見返りとして彼らの領地が潤うように、良い祝福も授けた。あくまでもこれは後付けだったが。
ラウド夫妻の長男が子爵位を継ぎ、次男が男爵を継ぐが、長男の娘が強い魔力を持って生まれてしまった。
ラウドは初孫となるビオラをとても愛していたが、悪い祝福のせいで20歳で命を落とした。
「なんでこの子が、ロックでもハンナでも良かったのに……。どうしてだ…………」
ラウドは言葉に出して顰蹙を買ったが、ラウドの父である前男爵も同じ思いだった。
この時初めて、エドハルトを残して逝った先妻の気持ちを知れた気がした前男爵。
そしていくら子爵位を得たとしても、代が変わるごとに子供が死ぬ絶望も知ることになった彼ら。
大人になった時の魔力量が基準なので、誰に出るかは16歳になるまで分からない為、愛していない者に子を生ませても代わりにはならない。
まるで自分がエドハルトに行ったことに、復讐されているような気分になる。
まさにエドハルトは、ラウドの代わりだったから。
◇◇◇
およそ100年後。
子爵家の様子を見て、あまりにも憐れだと思った妖精王は、一つグラバッド子爵に提案をした。
『悪い祝福を持つ者を心から愛する者が現れた時、悪い祝福を代わりにその者が変わることが出来るようにした。
代わりの者は、20歳の誕生日に亡くなることになるだろう』
代わりの者は血縁者は無効で、年齢も20歳前の若者が対象。
その為いくら愛していても、家族は代わりになれない。
そして、近くにいる者でなくてはならない。
それを知っていても、愛することは止められず多くの者が身代わりになった過去がある。
これを見た妖精達も、代を渡る祝福はさすがにダメだと思ったらしい。
今はよっぽどでないと、使われていない。
現在悪い祝福が終わったグラバット家は、幸福として余剰分を返済されているそうだ。
ちょっとずれた身代わりの方法を付け足し、結構な力を使った妖精王は、暫く様子を見てから眠りに就き、やっと最近起きたばかりだ。
ローズナが可愛くて健気なことでベタ惚れし、伴侶になりたいとの思いで接近中の妖精王。
子持ちで離婚歴ありの平民のローズナに、全能の妖精王のアタックは刺激が強い。
けれど割りと夢見がちなので、(一時的に)妖精王が婿入りするなら可能性はありだ。
妖精王は全てを知ってなお、ローズナが良いなと思っている。
それでもエルンスト(4歳)は懐いているので、そんな未来もあるかも知れない。
「アクロテさん、今日も牛乳ですか? いつもありがとうございます」
「い、いや、今日はエルンスト君と遊ぼうと思って、馬を連れて来たんだ。どうかな?」
「乗りたいです。ありがとう、アクロテさん。
約束を覚えてくれてたんだね」
ウインクして話を合わせるエルンストは、母親の再婚を応援していた。
彼もアクロテ(精霊王)のことが大好きなのだ。
「ああ、勿論だ。山まで走るぞ。前に乗れ!」
「分かったよ、アクロテさん」
2人かけで乗馬をする彼らは、周囲からはすっかり親子のようだと認められている。
ローズナは、ラウドの孫ビオラの生まれ代わりだ。
若くして亡くなった彼女は、今度はたくさんの幸せをその手に掴んでいる。